第131話 金策を考える僕

(しかしルタは一体どのような体の構造をしていたんだろうな? 煙のように現れるし、血は流さないし、頭が吹き飛ばされてもしゃべり続ける……どう考えても人間じゃないよな。体の真ん中に魔力の塊のようなものが見えたし、どちらかというとデモンに近い生き物な気がするんだよな)


(ルタはいつも突然現れたり消えたりするもんね。ただの魔法じゃ説明がつかないよね。最後に『大事な人形だった』と言っていたのも気になるし)


(もしかしたら高性能なアンドロイドを操っていた可能性もあるな。ルタのギフト『魔獣の王』なら、人形も操れるかもしれんからな)


 ルタのギフト『魔獣の王』は魔獣を自由に操ることができる特殊な魔法、『ギフト』である。


(もしあれが本当に人形だったとして、他にも何体も同じような人形があるならルタを倒すのはかなり難しいよね)


(そうだな……だが、『大事な人形』と言っていたんだ、そこまで数はないだろう。今回使用していたものは確実に破壊したはずだしな。もし、人形の心臓部にあった魔力の塊がルタだとしたら、もう倒してしまった可能性もあるからな)


(うーん……多分それはなさそうだよね。あのルタがそんな簡単に仕留められるとは思わないし)





「あ、町が見えてきたよ! まだ結構距離があると思うけど……大きな町だね」


 オッ・サンと話している間に目的地であるオークニアに到着したようだ。


「壁がおっきい! 建物もいっぱい!」


 ルーナはイースフィル以外の町を見たことがないのだろう。僕も初めて来た町がオークニアだったが、どこまでも伸びる城壁には圧倒されたものだ。


 エイジア王国ノストルダム領最大の都市オークニア。定住している領民は数万人程度であるが、オークを刈る冒険者やそれを運ぶ商人の滞在が多く、領民と併せて10万人近い人間が常に滞在しており、商業施設や宿泊施設が発展している町だ。


「オーク狩りがしたいけど今回はできそうにないね……子供の時に来たときは春だったけど脂が乗った冬のオークも美味しそう……」


 オーク狩りの最盛期は冬だ。冬は脂が乗っているという理由もあるが、狩ったオークの肉を長距離運送するためには寒い時期でないと難しいのが大きな理由だ。


「狩りの話は置いといても、雪解けまで百日以上あるし何をして過ごすか迷うね。表立って活動できないけどずっと宿に閉じこもっているのも怪しいしね」


「エイジア王国の内乱の状況を探りたいところだけど、まずは金銭面のことを考えないといけないよね。冒険者ギルドが使えればお金が引き出せるけど、どう考えても冒険者証を出した瞬間に捕まっちゃうからね……」


 残りの金貨は五枚、四人がまともな宿で暮らした場合三十日持つかどうかで、冬を越すためには多少なりとも稼ぐ必要がある。


「身分証なしで働くのはちょっと難しいよね……狩りにしろ、治療魔法にしろ、無許可でやりすぎちゃうと目立っちゃうしね……」


(ゴブリンラーメンとかなら売れそうな気もするし、蒸留酒を作って酒場に売る手もあるかな……どっちがいいと思う?)


(飲食店は開店までにそれなりの費用が掛かるし、酒の販売は既得権益とぶつかるんじゃないか? ギルドともめると厄介だぞ)


(初期費用を抑えるなら魔法でものを作って販売するのがいいよね……更にどこもやっていないことになると……だめだ! 難しすぎる!)


 あれこれ考えているうちに検問所までたどり着いてしまった。


「そういえば私たち身分証がないけど町の中に入れるのかな?」


「保証金を払えば大丈夫だよ。一人銀貨三枚だったかな? 多分王都でのこともここまでは伝わっていないと思うし大丈夫だとは思うけど……」


 何か問題を起こしたり犯罪歴がばれたりしたら当然没収されるが何も問題がなければ銀貨二枚は戻ってくる。


 検問は問題なく通過することができた。全領地に指名手配されている可能性はあるが、顔までは割れていないのだろう。


「綺麗……」


 検問所を抜けると真っ白な花でできたアーチが出迎えてくれた。白花のアーチの隙間からは光が漏れあふれ、まるで天国への道のような光景に見える。


「そういえば純白祭の時期でしたね。ノストルダム領でも祝うのですね……」


「純白祭って初めて聞いたけど……」


「ユグド教の神ユグド様を祝うお祭りですよ。イースフィルではあまりなじみがありませんでしたからすっかり忘れていました……生死を司るユグド様は純白の女神とも呼ばれています。純白祭では秋が終わり死んだ大地の復活と新たな生命の誕生を祈る祭りでもあります。年頃の男女にとっては恋のお祭りでもあるのですよ」


 リリーは懐かしそうに町を眺めている。


「恋のお祭り?」


「ええ、白花は春に種を植え、冬に咲く花です。冬になり死んだ大地でも咲き続ける花、永遠の愛を相手に誓う花でもあるのです。男性たちは意中の女性に思いを告げるために春先から一生懸命この花を育てるんですよ」


 リリーは楽しそうに説明してくれた。


「リリーも貰ったことがあるの?」


「ええ、八才のときと九才のときに幼馴染から貰いましたよ。家に飾って楽しませていただきました」


「それは……付き合ったってことなの?」


「返事はしていませんよ。あちらをご覧ください。二人の男女がアーチに白花を挿しているでしょう? 女性がお付き合いを承諾する場合は、男性の手を取って一緒に白花をユグド様に捧げに行くんです。私はまだ幼かったですし、お花だけ貰って返事はしませんでした」


 リリーの返事を聞いてちょっと安心してしまった。


(これだ! この祭りを使って一儲けするぞ! 祭りの期間は行商人たちが入り混じっているしそんなに目立つこともないだろうしここしかない!)


(何か閃いたの!? いつもは面倒くさいだけだけど、今はオッ・サンの閃きだけが頼りだよ!)


(それは褒めているのか? 貶しているのか!? まあいい。以前ルアンナにダイヤモンドのネックレスを作って渡しただろ? あれを作って売るぞ!)


(ネックレスを? お祭りとなんか関係あるの?)


(ネックレスではなくて作るのはダイヤだ。俺の遠い記憶では贈り物の定番は花と宝石だったんだ。この世界では恐らく宝石を送り合う文化はないだろうからそれを広めるんだ! きれいな石だからな……女が見たら一発で気に入るぞ!)


(うーん……全くイメージがわかないけど……とりあえずやってみようか)


(光り輝くダイヤは何より女を魅了するからな。告白には白花とダイヤモンドと宣伝すれば売れる気がする! 以前より難しいカット方法になるが……ダイヤはいくらでも作れるんだ、さっさと宿を取って実験するぞ!)


「リリーお祭りはどのくらいの間続くの?」


「雪解けの時期まで続きます。今の時期は復活祭、年明けごろに降臨祭、雪解けの時期が感謝祭と長く続きます」


「思いを告げるのはどの時期が多いの?」


「白花が最も綺麗に開花するのは降臨祭の時期ですので、降臨祭が多いと思いますよ。自分の育てている花が育った時期に告白することが多いので人それぞれですけどね」


(まだ時間はあるしどうにかなりそうだな。早速材料を買って生産に取り掛かるぞ!)


(とりあえず一キロくらい炭があればいいかな?)


 早速炭を買い、宿に向かった。


(ダイヤ自体はすぐに作れるが問題は研磨とカットだな。こればかりは試行錯誤しながら一番輝く方法を見つけるしかないな)


(ルアンナに前送ったダイヤと一緒じゃダメなの?)


(あれはカットは簡単だが、輝きがいまいちだからな。もっと複雑にカットしたダイヤは何倍も輝くんだ)


 僕としては大体で良いと思うがオッ・サンは一度こだわりだすと止めることはできないため、抗うことは難しい……


 結局オッ・サンが満足するダイヤモンドを完成させるのに十日以上の時間がかかってしまった……

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