第96話 エリーにときめく僕
商業都市から戻ってしばらく経ったころにドワーフたちが馬車二十台以上を連ねてやって来るとの報告があり見張り台からリューガ草原の方を見ると、列の先頭にはガルさんとギルさんの兄弟がいるのが見えたため、すぐに迎え入れの準備を始めた。
「ガルさん、ギルさん、お久しぶりです。ユートピアに、オリジンの町にようこそ。長旅でお疲れでしょうが皆さんの居住区はまだ先ですので今日はオリジンの町で泊まって明日向かいますか?」
「出迎え感謝するぞ。もうすぐ日も暮れるしそうさせてもらえると助かる。ところで火酒はあるのか?」
「ええ、オリジンにもたっぷり準備させていただいています。予定通り三十五人ですね? 迎賓館を使えますので案内しますね。一棟丸ごと貸し切りにしますので部屋の割り振りはガルさんとギルさんにお任せしていいですか?」
「そのくらいなら任せておけ。皆家族だし十部屋もあれば充分足りる」
「では馬車は敷地内に適当に停めておいてください。係の者が責任を持って預かりますので。迎賓館に入ってすぐ正面がロビーになっていまして、右側が宿泊所になっています。浴場もありますのでまずは旅の汗を流されてください。ロビー左側が大広間になっていますので準備ができましたらお越しください。お食事とお酒の準備をしておきます」
「何から何まですまんな。何日も酒が飲めていないから早く飲みたくてたまらん。さっさと風呂に入って来るから頼んだぞ」
迎賓館は貴族などの重要人物を迎え入れるために建てたもので、貴族本人からその従者まで百人以上が泊まれる建物になっている。敷地も広くとってあるので馬車の二十台や三十台程度は軽く収容できる。現在、第一区画に唯一建っている正式な建物だ。
ドワーフたちを迎え入れるたえに、リンゴ、ブドウ、麦などの酒から造った火酒を準備していた。どれもアルコール度数90%以上で、ヒュムが飲んだらコップ一杯で酔いつぶれてしまうほどの度数だ。後はつまみに魔獣肉のベーコンや串焼き、各種揚げ物を出す予定で宴会の準備はばっちりだ。
突然のドワーフたちの到着ではあったものの、歓迎のために領主のエリーやオリジン町長のエイブラム、冒険者ギルド長のアーロン、その他各ギルド長にも声をかけている。皆宴会好きなので喜んで参加してくれるだろう。
宴会場には続々とドワーフたちが集まってきている。皆早く酒が飲みたくて仕方がないのだろう。あまり待たせても仕方がないので、エリーに歓迎のあいさつを述べてもらった後にドワーフたちの歓迎会を始めることにした。
エイブラムの指導のおかげかエリーの挨拶は堂々としたものであり、立派な貴族に見えた。エリーも成長しているようだ。
「いきなりの到着だったのに歓迎会まで開いてもらって悪いな。火酒もたくさんあるが、どれもうまくて最高だ」
「特にこのリンゴの火酒の味が素晴らしいですね。これだけでユートピアまで来てよかったと思いますよ」
ガルとギルの二人はお酒の味にご満悦のようだ。ドワーフたちは皆料理にはほとんど手を付けずに酒を飲み続けている。せっかく準備した料理も食べて欲しいところではあるが、ドワーフにとって料理など二の次なのだろう。
これだけ飲んで倒れないとは、どのような体の構造をしているのか非常に気にはなるが、楽しんでくれているようなので良しとしよう。
(よくあんなお酒をストレートで飲めるよね……あんなの飲んだら胃が痛くなっちゃうよ)
(俺も酒は好きだが、さすがにあれは理解ができんな。大して酔っぱらうわけでもないのにドワーフは何が楽しくて酒を飲んでいるんだろうな……)
各ギルド長たちも酒を飲みながらドワーフたちと話している。商売の種を探している者もいれば、職人同士語り合っているものもいる。エリーはエイブラムと一緒に各人を回り挨拶をしているようだ。傍から見たら本当に貴族のようだ。いや、本当の貴族ではあるのだが……
結局宴会は深夜まで続き、ドワーフたちと僕以外はべろべろに酔っぱらって帰って行った。ドワーフたちも好きなだけ飲んでさすがに満足したようだ。
エリーもさすがに疲れたらしく、椅子に座りながら眠ってしまっている。挨拶のたびに飲んでいたのでさすがに酔っぱらってしまったのだろう。
「ではエイブラムさん、エリーは連れて帰ります。今日はありがとうございました」
「おう、お疲れだったな。チェイスも色々と大変だとは思うが、エリーミアも最近は毎日忙しく頑張っているぞ。たまには甘えさせてやれ」
恐らくエイブラムのせいで忙しいのだとは思うが、これもエイブラムの優しさだと思ってうなずき、エリーを抱き上げて迎賓館の外に出た。
「ご主人様……ごめんなさい」
意識はあるようだが目は開けられないようだ。あまり飲んでなかったように見えたがだいぶ酔っぱらっているのかもしれない。
「エイブラム様もたまにはエリーを甘えさせろって言ってたし、今日くらい気にしなくていいよ」
エリーは僕の首に両手を絡め甘えてくる。
「ご主人様……」
エリーの声に顔を傾けたところ、唇を奪われてしまった。エリーは「えへへ」と笑って再び眠りについてしまったようだ。
ずっとエリーのことを子どもだと思っていたが、いつの間にかエリーが大人になっていることに、そして思っていた以上の美人に成長していることに気が付いた。僕の胸元で静かに寝息を立てながら眠っているエリーの顔を見てちょっとドキッとしてしまった。
(またシエルにばれても知らないぞ)
(別に何もやましいことはないよ……)
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