第97話 世界一の要塞都市を作りたい?僕
ドワーフという種族を見ているとヒュムという種族との違いをまざまざと感じてしまう。頭脳、力、魔力、器用さ、体格、顔の美醜、病気への耐性、治癒能力、寿命と上げればきりがないが、何をとってもヒュムが勝てるものはないように思える。まさに神に愛された種族と言っても過言ではない。
では、なぜそんなドワーフが大陸の覇権を取れないのか、それは繁殖能力に原因がある。エルフもホビットもそうであるが、ドワーフもきわめて繁殖能力が低く、生涯で2~3人の子供を産むのがせいぜいなのだ。また、ヒュムと交わった場合は必ずヒュムの子が生まれることも人口が増えにくい原因である。
また、ドワーフについては別の問題もある。ドワーフの燃費はヒュムに比べて格段に悪く、一日に必要な食物の量はヒュムの二倍以上になるのだ。農耕技術が発達してきた今ではそれほどの問題はないが、当たり前のように飢饉が起こっていた時代はかなりの数のドワーフが飢えて死んでいたそうだ。
(それにしてもドワーフたちの知識と技術はすごいな。ヒュムの百年、いや二百年は先を行っているんじゃないか? 今のヒュムの知識レベルだと理解するだけでも相当な年数がかかりそうだ)
(化学や物理についてオッ・サンからいろいろ教わっている僕でも付いて行けないところが多いし、それをドワーフたち全員が基礎知識って感じで習得しているのがすごいよね)
(寿命がヒュムの倍以上あることや基礎能力が高いことも要因だろうが、教育体制がきちんと整っているんだろうな。次の世代のことを考えるとユートピアの教育体制も考える必要があるな)
ドワーフの集落の開発を現在行っているが、建物や工房の構造一つとってもヒュムのものとは大違いであり、知識と技術力の違いを見せつけられる毎日である。
今はガルとギルの工房の建設作業に立ち会っているところだ。
「建物の素材はコンクリートですよね? 骨組みに鉄筋を使っているんですか?」
「ああ、コンクリートと鉄筋の組み合わせで恐ろしく強度を高めることができるからな。ヒュムは費用がかさむからと鉄筋を使いたがらないが、鉄筋を使えば何百年と持つ建物でも作れるし、やろうと思えば何十階建の建物でも作れるからな。費用対効果は大きいんだが……」
建設を担当しているのはアラン・スミス。ガルやギルにも負けないくらいの大柄な男で、優秀な魔法使いでもある。設計から建設まで一人でこなせるだけの技術があり、無詠唱魔法を使った建設のレベルはかなりのものだ。
ちなみに無詠唱魔法はヒュムではかなりレアな能力であるが、ドワーフやエルフ、ホビットには比較的使える者も多い。
「ドワーフの集落の建設が一段落したら子爵邸の設計もお願いしてよろしいですか? 土地だけは確保しているのですがまだ全然建設が進んでいないんですよ」
「馬鹿でかい土地があるのは見せてもらったが、あそこに建てるとなると城みたいな屋敷が建っちまう気がするが……どんな屋敷にしたいんだ?」
「万が一の際は防衛拠点にもなると思いますので頑強な施設にしたいですね。軍事的にも重要な場所ですので、そのあたりも考慮して、見栄えより設備を充実した建物が理想ですね」
「軍事拠点としての開発か……周辺の土地の開発も今からみたいだが併せて設計をしてもいいのか?」
「ええ、お願いします。第一区画には行政施設やギルド施設を中心に商業地区も少しは配置をしようとは考えていますので併せてお願いします。第一区画については今ある建物は全部壊してしまっても大丈夫なのでアランさんの好きなように設計してください」
「それは腕がなるな。こっちの仕事が終わり次第着手するから任せておいてくれ」
「ええ、どんな施設が必要かはエイブラム町長と打ち合わせをお願いします。図面が出来たらエリーミア子爵とエイブラム町長に見せてください。二人の許可が下りれば開発を始められますので」
アランに任せておけば良い町を作ってくれそうだ。
アランのもとを後にして、ガルとギルのところへ向かった。ガルとギルはクリスに説明を受けながら魔金属工場を見学している。
「魔金属工場はどうですか?」
「本当に製造しているとは驚きですね。世界樹から魔力を引っ張ってくるなど思いもしなかったですよ。クリスさんが私の実験のために小さな魔金属工房を一つ作っていただけるということですので、当面の間はそこを使って実験をしたいと思います。究極の金属を作るという私の目標に大きく近づきそうでワクワクしていますよ」
錬金術師のギルが不敵な笑みを浮かべている。楽しみで楽しみで仕方がないのだろう。
「しかしこれだけ魔力が自由に使えるとなるとできることの幅が広がるな。高出力の金属炉を作りたいんだが、俺にも世界樹の魔力を使わせてもらっていいか?」
「まだ少しは余力があるので大丈夫ですよ。でもこれからのことを考えると、魔力線を増やした方がいいかもしれませんね。クリス、魔力線は増やせそう?」
「予算さえあれば問題ないよ。ユートピア領の借金も順調に返済できているし、今後も考えて今のうちに設備投資しちゃう?」
「じゃあとりあえず今の三倍程度に魔力回路を増やしてみようか。ミスリルの需要もまだまだあるし、多分無駄にはならないよね?」
「まだフレイス共和国の需要も充分に満たせていない状況だし、作れば作るだけ売れるから大丈夫。じゃあ予算についてはエイブラム様に相談してみるよ。あと相談なんだけど、魔力線をオリジンまで引くことはできるかな? 防衛のための魔道具とかいろいろやってみたいことがあるんだけど。あとできれば一般家庭にも魔力線を引きこんで魔石なしでも魔道具が使えるようにしたいんだ」
「オリジンまでは結構な距離があるからね……だいぶロスは出ると思うけど不可能じゃないかな……どのくらいの魔力を供給できればいいの?」
「うーん、構想している魔道具の説明を後でするからそれで計算してもらってもいいかな?」
「分かった。ただ、魔力線は地中を通すことになると思うから土木工事はチェイスに任せるよ?」
最近土木工事ばかりしているような気がするが、そのうちこっちが本業になってしまうかもしれない。
(人材がそろってきたおかげでどんどん開発が進んでいくね。もう僕は土木工事だけしていれば充分じゃないかな)
(その土木工事の需要が一番多いからな。原材料の確保にしろ、城壁の建設にしろ、当面は土木作業と建設作業ばかりだろうな。特に城壁の作成には膨大な材料と作業が必要になるからまた忙しくなるぞ)
(やっと落ち着いてきたから狩りにでも行こうと思ったのに……僕がゆっくりできるのはいつになるんだか……)
(オリジンの開発が三年、その他のユートピア領の開発に五十年ってところかな。老後にはゆっくりできるだろう)
(……ある程度落ち着いたところで引退しよう)
それからしばらくして血相を変えたエイブラムが僕のところにやってきた。
「チェイス! なんだこの事業計画書は! 城壁の芯に魔鉄を使うなど聞いたことがないぞ! 子爵邸もだ! 旧フレイス王国の王城よりでかいぞ! それに数々の軍事設備といいお前はフレイス共和国に喧嘩でも売るつもりか!?」
「第一区画の建設計画はアランさんに任せていたのでまだ見ていないのですが……ちょっと見せてもらってもいいですか?」
エイブラムからアランが作った事業計画書を見せてもらったが確かにひどい。完成予想図だけを見ればとても美しく素晴らしい出来きであるが、あちらこちらに配置されている軍事設備は下手な要塞以上、いや下手したら世界一の要塞レベルなのかもしれない……
「まあ、守りも堅くなるしいいじゃないですか? 魔鉄はユートピア領で生産できますし、魔金属の販売も好調ですので資金的にも問題はないでしょ?」
「そういう問題ではない! とにかくこんなものを完成させてしまったら親父や他の貴族に何て言われるか分かったもんじゃないぞ!」
「ドラゴンも出ますし、他の地域に比べて守りは固くしておいた方がいいと思うんですよね。議会や他の貴族から何か言われた時は町長のエイブラム様の力で抑え込んでください」
「はあ……本当にお前は……ただでさえ魔金属の製造販売の独占で目を付けられていると言うのに……本当にどうなっても知らんぞ」
エイブラムも渋々納得したというよりは諦めたようだ。まだエイブラムには話していないが、世界樹から引き込んだ魔力を使い、オリジン全体を魔障壁で囲む計画や、大規模攻撃魔法を発動できる魔導砲の配備計画もあるのだが、これらについては子爵邸が完成した後にエイブラムに相談することにしよう。
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