第91話 新たな居住者を迎え入れる僕

 僕はイースフィール領を出てからの話をルアンナに聞かせることにした。

 

 シエルと婚約したこと、学園に通い始め卒業したこと、魔吸鬼を倒したこと、エリック樹海の開拓を始めたこと、魔金属の製造に成功したことなど、話し始めればきりがない。フレイス共和国に来て数年で良くここまでやったものだと自分で思ってしまった。


「相変わらず考えることもやることもぶっ飛んでるな。他国に来て数年たたずにそこまでやるとはな。ここの開拓も始まって一年くらいだろう? よくここまで開拓を進められたな」


「僕も開拓に従事しっぱなしでしたし、お金を積んで優秀な魔法使いをかなりの数呼びましたからね。おかげで金貨千万枚以上の借金がまだ残っているんですよ」


「国家予算規模の借金じゃないか。さすがとしか言いようがないな。まあ、楽しそうにやっているようで良かったよ。これでも心配してやって来たんだぞ。まあ詳しい話はまた後でな。そんな話より女の話をもっと聞きたいぞ! そこのエルフ……いや、エリー子爵だったか? そいつもチェイス君の女なのか?」


 貴族にたいして何と失礼な人なのだろうか。当のエリーは恥ずかしそうにしているだけで怒る気配はないのでいいのだが……


「エリーは妹というか子供みたいなものですよ。僕の婚約者もそうですけど、女の人は恋愛の話が好きですよね」


「良い話にしろ、悪い話にしろ、人の噂話程面白いものはないからな。エリー子爵はチェイス君が言うようには思ってなさそうだがな……」


 エリーは顔を赤くして照れてはいるが……恋愛耐性のないエリーも変なことを言われて困ってしまっているのだろう。


「エリーも困ってしまっているからこの話はおしまいです。エリーも遠慮しないで色々はっきりと言ってもいいんだよ?」


「私は……ご主人様のことを好きです」


 エリーが顔を真っ赤にしながら言う。ルアンナに話を合わせて無理をしなくてもいいのに……


「ほら、私の言う通りだろ? まあチェイス君が終わりと言うからこの話は終わるが……それよりエリー子爵はエルフの自治領出身か?」


「物心ついたころは奴隷商で生活していましたので生まれは分かりませんが……」


「そうか……少し……気になることがある。明日少し二人で話さないか?」


 珍しくルアンナが真剣な表情をしている。


「はい、私は構いませんが、ご主人様よろしいですか?」


「僕は別にいいけど……ルアンナ先生、変なことをエリーに教えないでくださいよ?」


 ルアンナの行動は予想がつかないため、親代わりの僕としては非常に不安だ。


「チェイス君は私のことを何だと思っているんだ? 悪いようにはせんから安心しろ。それより次は他の女の話を聞かせろ! どこまで進んだんだ?」


 真面目な表情から一転してルアンナは下種な笑いを浮かべながらバカなことを聞いてくる。その後はエリーも交えてバカな話をしているとシエルとクリスが帰ってきた。


「ただいま。お客様?」


「おかえり。こちらは僕の魔法の師匠のルアンナ先生。わざわざ僕を訪ねて来てくれたんだ」


「ルアンナ・ドラゴニアだ。しかし三人と同棲とは……美女に巨乳にロリ系か……ハーレムでも作る気か?」


 恐らく美女がクリス、巨乳がシエル、ロリ系がエリーのことだろう。


 発想がオッ・サンと全く一緒である……


(まあ、優秀な者同士発想が似てくるのは仕方のないことだな)


(変人同士の間違いじゃないの?)


「ええっと、こちらがシエルでさっき話した僕の婚約者です。こちらは同居人で魔道具職人のクリスで男性です」


 ルアンナは訝しげにクリスを眺めている。


「まあ、人の趣味はいろいろだからな……弟子の性癖が多彩になったことは私として喜ぶべきかどうか……まあいい、立ち話もなんだからとりあえず飲むぞ!」


 シエルとクリスも座らされ強制的に飲みに参加させられてしまった。シエル、クリス、エリーの三人は僕やルアンナ程はお酒が強くないため早々に酔いつぶれてそれぞれの部屋に戻って行った。






「アル君、いや、チェイス君も酒を飲むようになったんだな。舐めるようにしか飲めなかった昔が懐かしいぞ。やっと二人になったし、いろいろと話すことがあるだろう?」


「そうですね。僕がルタに殺されたことは知っていますよね?」


「ああ、モーリスから聞いたよ。モーリスのやつ王都の私の家までチェイス君を殺した犯人を捜しに来たぞ。チェイス君は生きているかもしれないと言ったら喜んでイースフィルに戻って行ったがな。まあ念のため魔道具の杖を渡しておいてよかったよ」


「やっぱり先生からもらった杖のおかげだったのですね。生き返った後魔石が割れていたからもしかしたらと思ったのですが……とにかく助かりました、ありがとうございました。僕が生きていることを父様も知っているならリリーも知っていますよね。ちょっと安心しました」


「昔の仲間から貰った二つとない貴重な魔道具だったが渡しておいてよかったよ。モーリスにはチェイス君を見つけたら手紙を書くと言ったがどうする? 伝えても大丈夫か?」


(まだ充分な体制が整っていないし手紙は危険かもな……)


(こっちに呼ぶか会いに行った方がいいかもね。それかルアンナに直接伝えて貰うかだね)


「まだルタとやり合う充分な体制が整っていないので手紙はご遠慮ください。先生が伝えに行ってもらえるとありがたいですが……」


「伝えに行ってやりたいところだが、私もやりたいことがあってな。当面はこの町で暮らさせてもらおうと思っている」


「ええ!? ここに住むんですか!?」


「なんでそんなに嫌そうなんだ! 私が近くにいるんだ、こんなに安心できることはないだろう!?」


「それはそうですけど……先生が近くにいると思いつきでとんでもないことをやらされそうな気がして……」


「チェイス君には言われたくないぞ! とにかく住むのは決定だ。チェイス君の力で土地だけどうにかしてくれ。もちろん金は払うぞ。あと建物は勝手に建てるから気にするな」


「結構人気があって土地を手に入れるのも大変なんですよ……」


「チェイス君に魔法を教えるのはタダだっただろう? 本来なら金貨百枚以上は貰っているところだぞ。とりあえず百メートル四方程度の土地で構わんから頼んだ。」


 確かにそう考えれば土地を融通してやるくらいは安い話かもしれないが……


「分かりました。でも百メートル四方の土地となるとまだ販売を開始していないところしか空きがありませんので……町の端の方にしか準備ができないと思いますけど大丈夫ですか?」


「場所はどこでもいいから気にするな。前の屋敷もスラム街に建てていたし問題はない」


 ユートピアの町にまた一人移住者が増えることになった。

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