第92話 すごい魔金属を作りたい僕
(これも失敗か……金属の知識がない俺たちには無理なのかもな……)
さすがのオッ・サンも詳細な金属の知識までは持ち合わせていないようだ。
(何を混ぜたらどうなるか全部手さぐりで一つ一つ試さないといけないから時間がかかって仕方ないよね。混ぜる量で全然違った結果になるし……)
今僕たちが取り組んでいるのは魔金属の合金の作成だ。そもそも魔金属は他の金属と混じらないため、合金を作れない性質がある。しかし、完成したミスリルや魔金を見ていると、若干ではあるが硬度や粘性などの金属性質が違うことが分かった。
このことからオッ・サンが立てた仮説が、魔金属を混ぜて合金を作ることはできないが、合金を魔金属化させることで、魔金属の合金ができるのではないかといったものだ。
実際に試してみると、見事に魔金属の合金が完成したが、性能の高い魔金属を作ることに難航しているのだ。
(これじゃ時間がいくらあっても足りないし、諦めて代わりに実験してくれる人を探そうよ)
(それなりに金属の知識があるやつじゃないと難しいからな……俺のイメージでは金属加工といえばドワーフだな)
(ドワーフと言えば自由国家テイニーだよね……ユグド教国が近くてちょっと怖いけど遠征してみる?)
そのような流れで自由国家テイニーへ行くことが決定したのだ。
遠征にはルアンナのドラゴンを使わせてもらうことにしたので、必然的にルアンナも付いてくることになる。移動時間が何倍も短縮できるのは大きいのでとても助かるがルアンナがついてくることで何か問題が起きないかは心配だ。
ルアンナのペット、グリーンドレイクドラゴンは音速に近い速さで飛ぶことができるため数千キロ離れた場所にある自由国家テイニーまで一日かからずに到着することができる。陸路で行くと何十日かかるか分からないほどの距離なのでありがたい限りである。
「どの建物も高いですね。オルレアンより都会じゃないですか」
「この大陸で最も栄えている都市だから当たり前だろ。ドワーフの技術の高さは他の種族と比べるのもおこがましいほどだからな」
自由国家テイニーの首都バランは、空まで届くのではないのかという程高いコンクリート造りのビルが乱立していた。灰色だらけの都市の光景は美しいものではないが、効率性と利便性の高さを感じる。この町を作ったドワーフの性格が少し分かったような気がした。
町を歩く人々にはやはりドワーフが多く、半分以上はドワーフのようだ。赤黒い肌にがっしりとした体で身長もヒュムに比べて高いようだ。角や牙がないだけでオーガに近いような気がする。
(ドワーフと言えば小さくて筋肉質で見た目はいまいちなイメージだったが全然違うな。背は高いし美形が多いし、これで技術力もあって頭がいいとなるとヒュムじゃ太刀打ちできそうもないな)
(人数が少ないのがせめてもの救いだよね。これで繁殖力が強くて人数が多ければヒュムの居場所はなかったよね)
ドワーフ含め、エルフやホビットなどの亜人種は同種族間でしか繁殖ができず、ヒュムと交わった場合は必ずヒュムが生まれるという特徴がある。
「やはり商業都市は素晴らしいな。見ろ! 世界中の酒や食べ物が集まってきているぞ! シードルにラムに北方のワインも楽しみだな。とりあえずあそこの店に入るぞ!」
やはり連れて来たのは間違いだったのかもしれない……情報収集も重要なのでとりあえずはルアンナにしたがって酒場に入った。
「とりあえずラム酒をジョッキで二つ頼む。あとは適当につまみに魚介類を持って来てくれ」
(魚介もあるのか。刺身は無理だろうが、焼き魚やエビなんか食いたいな)
(僕はあんまり魚好きじゃないけどね)
(微妙な出来の干物しか食ったことがないからだろ。新鮮な魚介は本当にうまいぞ)
ジョッキに入れられた透明な液体が運ばれてきた。これがラム酒というらしい。
「ちょっと魔法で冷やしてもらっていいか? 凍らない程度に頼む」
僕のラム酒も冷やし口を付けてみる。
「このお酒すごく強いですね。朝から飲むものではないような……」
「かなりくるな。だがそれがいい! 香りも素晴らしいし良い酒に出会えた。ドワーフも酒好きだし、土産に良い酒を選ばんといかんからな」
(やはりドワーフと言えば酒か。仲良くなれそうな気がするぜ)
酒の味はともかくとして、つまみに出てきたアヒージョという魚介類の油煮込みはとても美味しかった。
結局酒場では飲み食いをしただけで何の情報も得ないまま店を後にした。支払いは経費で落とせとのことで僕が支払うことになってしまった……
「探しているのは鍛冶職人というよりは錬金術師だったな? どこをどう探せば全く分からんし、とりあえず鍛冶ギルドに向かってみるか? 錬金術師は少なすぎて錬金術ギルドはあるのかどうかも分からんからな」
「合金づくりは錬金術師の仕事なのですかね? 優秀な鍛冶職人にもできれば来てもらいたいですし、とりあえず鍛冶ギルドに行ってみましょうか」
周りより一層高いビルが立ち並ぶ区域があり、そこに各種ギルドが集まっているようだ。鍛冶ギルドは一階が展示場兼販売所になっており、剣や槍、盾に鎧などが並べられている。
「ギルドに並べられるだけあってかなりレベルの高い武具だな。あの細身のミスリルの剣などかなりレベルが高そうだぞ」
「剣のことはよくわかりませんが、なんとなく切れそうな気がしますね。作者がガル・スミスってなっていますね」
(普通のミスリルの剣より刃が薄いしかなり切れると思うぞ。これで耐久性も高いならかなりのもんだがな)
鍛冶ギルド一階の受付の女性に鍛冶職人のことを聞いてみることにした。
「すみません。このガル・スミスって方にお会いすることはできますか?」
「ガル様ですか?首都バランの北方に一族で住んでいらっしゃいますがなかなか人とお会いすることはないと聞いています。スミス一族は大変優秀な職人の集まりなのですが、職人気質というか、物づくり以外にあまり興味がないようでして……」
「スミス一族には鍛冶職人以外にも職人がいるんですか?」
「一族の長は鍛冶師で他にも薬師や建築士に錬金術師など多くの職人がいらっしゃいます」
「錬金術師もいるのですね。先生、せっかくですのでそこに行ってみましょうよ」
「そうだな。しかしその前に土産の酒を見繕わないと……ドワーフはとにかく強い酒が好きだからな」
ルアンナの頭の中には既に酒のことしかなさそうである。鍛冶ギルドを出て、ドワーフへの土産を見繕うために酒場に向かった。
「ドワーフへの土産にお勧めの酒を教えてくれ」
早速ルアンナが店員にお勧めを聞いている。店員もドワーフのようだ。
「ドワーフは火酒というアルコール度数の高い酒を好んで飲んでいますが普段から飲んでいるものは土産になりませんからね……お客さんと同じようにドワーフへの土産に良い酒を教えてくれと皆さん来られるんですが、正直お酒はあまりお勧めしませんね」
(普通の酒がダメなら魔法でアルコールを分離して蒸留酒を作ってしまうか? 普通の火酒とは違うものを作りたいからな……火酒の特徴を聞いてもらっていいか?)
「火酒はどんな酒なのか教えてもらっていいですか? 度数とか材料とか……」
「火酒はアルコール度数60%以上の蒸留酒の総称ですので色んな種類があるのですが一般的には麦が原料のお酒が多いですね」
「一番アルコール度数が高いものでどのくらいあるんですか?」
「市販されているものでは、『フェニックス』というお酒が度数七十二パーセントで一番ですね。度数が高いだけあって値段も高いのが難点です」
(火酒は俺の世界ではウィスキーと呼ばれる種類の酒が多いみたいだな。ワインを蒸留してブランデーって種類の蒸留酒を作るか。白ワインを樽一杯買ってもらっていいか。あとは蒸留した酒を入れるための小樽も一つ頼む)
(白ワインは高いんだけどね……まあいっか)
「蒸留酒を作ろうと思いますので白ワインを樽一杯貰っていいですか? 一番安いので大丈夫です」
「チェイス君が作るのか?」
「やったことはありませんが抽出魔法を使えば作れると思いますけど。とりあえずやってみましょう。風味の問題もあると思うので店員のお姉さんも試飲に協力してもらってもよろしいですか?」
「それは喜んで! すぐにワイン樽を持ってきますね。」
試飲できることがよほどうれしいのか、店員は急いで酒樽を担いで持ってきた。さすがドワーフというべきか女性でもすごい力だ。
(とりあえず度数80%と90%くらいを意識して作ってみるか。だいたいでいいぞ)
抽出魔法を使い、店員が持ってきた酒樽からアルコールを抽出する。抽出したワインは透き通った黄色と茶色の中間のような色の液体となった。液体からは少し甘い匂いが漂ってくる。
(綺麗な琥珀色だな。濃縮されたブドウの香りというか、この芳醇な香りは最高だな。欲を言えば樽詰めして樽の香りも移したいところだがそこは仕方ないな。とりあえずちょっと試飲してみるぞ)
コップに注ぎ分け3人で試飲する。
「さすがにちょっとアルコールがきついが、悪くはないな。他の蒸留酒に比べても匂いが素晴らしい」
「この喉を焼くような度数の高さといい、香りといい、他の火酒とは比べものになりませんよ! こんなお酒を飲めるとは……酒屋をしていてよかったです!」
特に酒屋のお姉さんには好評のようだが、ちょっとアルコール度数が強すぎて僕には良さが分からない。香り自体は好きなのだが……
(さすがにちょっときついな……炭酸水で割って飲んでみるか?)
水を貰い魔法で炭酸水を作って、割って飲んでみるとかなりいける味になった。これならばヒュム相手にも売れるかもしれない。
「これならお土産になりますかね? 80%と90%のお酒どっちが美味しかったですか?」
「断然90%の方ですね! アルコール度数は高ければ高いほど美味しいですよ」
僕にはよくわからない感覚であるが、ドワーフにとってはとにかくアルコール度数が高いほどいいのだろう。90%の酒を小樽一杯作成しお土産にすることにした。
「あの……白ワインの代金は結構ですので、私にも一樽分作っていただいてもよろしいですか?」
店員のお姉さんが大きな体をもじもじさせながらお願いして来るのがかわいかったので、小樽一樽分作ってあげることにした。白ワインの料金もかからないし良いことだらけだ。
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