第85話 ミスリルを製造する僕

 世界樹の根までは僕とクリス、アーロンギルド長と補佐のリサで向かうことにした。オッ・サンの探査魔法が使えない以上、魔獣への備えはいつもより念入りにした方がいい。


 掘った穴の中を光魔法で照らし、四人で入る。クリスと穴の中に潜った。アーロンとリラには周囲の警戒をしてもらっている。


「これが世界樹の根か……すごい魔力が流れているね……」


 クリスには世界樹の根に流れる魔力が見えるらしい。僕には全然見えないが……


「世界樹の魔力を使って魔道具を動かしたいと思っているんだけど、どうにかなりそうかな?」


「多分大丈夫だと思うけど……多分とんでもない費用がかかるよ。チェイスが何をしたいかを詳しく聞かせてもらっていいかい? それによって設備も変わってくるからね。とりあえず今できるだけ調査してオリジンに戻ったら見積もりを作ってみるよ」


「まずは資金が全然足りないから魔金属の製造をしようと思っているんだ。大量の魔力さえあれば魔金でも魔銀でも作り放題のはずだからね。以前僕の魔法だけで魔銀、ミスリルを作った時は三十日くらいかかったかな……」


「魔金属の製造か……それができればたしかに大儲けができるね。分かった、どのくらいの魔力をどのくらいの時間与えれば魔金属化するかのデータも欲しいし、当時ミスリルを作った時の話を詳しく教えてくれ」


 当時の話をクリスに伝える。クリスの聞き取り調査が終わった後は、世界樹の根の調査や穴の調査を行いオリジンに戻ることになった。







「とりあえず見積もりができたから見てもらっていいかな? A案が最高の設備を作った場合でB案が最低限の設備を作った場合の見積もりだよ」


A案が金貨四千五百万枚、B案でも金貨百万枚……


「一応説明しとくね。世界樹の根が穴の底にあるから、穴の底から地上まで魔力を流すケーブルを設置しないといけないんだけど、A案は魔力伝達能力が最高の魔金を使用した場合でB案は銅線を使用した場合の予算になっているよ。銅を使えばかなり安くなるけどそれでも何万トンも必要だからね……銅自体はそこまで高くないけど輸送費がとんでもない値段になるんだよね」


「この金額になると僕一人じゃ判断できないから一緒にエイブラム様のところに行ってもらっていいかな? 魔金属の製造のこともまだ話していなかったから説明しなきゃ……気が重いけど」


 二人でエイブラムのもとへと向かった。


「話とはなんだ? また金のことか?」


「実はその通りなんですが……あ、先に紹介しときます。こちらが僕の友人で魔道具師職人のクリスです」


 クリスを紹介した後に魔金属製造のことについてエイブラムに説明した。


「非常に面白そうだし金になりそうな話ではあるが初期投資がかかりすぎるな……そもそもA案は魔金をそれだけの量集めるのは不可能だからまず実行できんぞ」


 言われてみれば魔金を何万キロも集めるのは物理的に不可能だ……


「魔金の製造可能量はB案で三十日で千キロ程度……全部魔金を製造したとして金貨二十万枚、ミスリルだと金貨四万枚か……収支としてはどうにかなりそうだし、しかも魔力を使えば他の物品製造にも活用が出来そうだな……」


 エイブラムはいろいろと計算しながら悩んでいるようだ。


「よし、分かった。金は親父に頼んで国から融資してもらうように頼んでみる。できる限り早く実行したいからもう発注をかけてくれ。それとだ、普通の金属を魔金属化させることができるなら、ケーブルに使う銅線もそのうち魔金属化して魔力伝達量が増えるんじゃないか?」


 クリスがハッとした顔をした。


「言われてみれば……それを計算に入れていませんでした……おそらく一年もせずに魔金属化するはずですので、その場合魔力伝達量はさらに数倍に上がると思います」


「余剰が出れば生産量を増やすなり他にもいろいろ活用できそうだな。とにかく金のことは任せておけ! 必ず引っ張ってくる」


 他のことも頼もしいが資金集めについてはエイブラムの右に出る者はいないだろう。エイブラムは早速席を立ち部屋を出て行った。


「さすが公爵家次男……理解力も頭の切れも半端ないね」


「とんでもなくできる人だし、あの人に任せておけば資金は大丈夫そうだね。こっちも準備にかかろうか」





 翌日から早速準備に取り掛かった。まずはオリジンから世界樹の根がある場所までの道の舗装と世界樹の根周辺の開拓だ。建設ギルドや冒険者ギルドにも協力を仰ぎ、周囲の魔獣狩り、道の舗装、開拓、外壁作りと急ピッチで行っていく。道を舗装したおかげでバイコーン馬車であればオリジンから穴まで半日程度で到着できるようになったため開拓の速度はさらに早くなった。


 エイブラムの働きもあり国からの融資も無事決定し、百日たらずで魔金属工場は完成させることができた。


「エイブラム様は優秀だけど人使い粗すぎだよ……ここ最近、僕一日三時間くらいしか寝れていないよ……」


「僕もちょうど魔力が回復したくらいの時間に起こされてずっと作業をさせられたからへとへとだよ……とりあえず魔金属工場の起動を確認したらゆっくりしよう……」


 魔金属工場はクリスの作った魔法陣に魔力を流し起動する仕組みになっている。世界樹から吸い上げた大量の魔力を圧縮して金属に与えることで魔金属を製造できる。今の設備だと三十日で魔金百キロ、魔銀九百キロが製造できる計算だ。


 魔金の方が希少なため高く売れるのだが、魔金は魔法使いの杖の芯に使ったり魔道具の素材として使うくらいしか使用方法がないため大量に作っても余る可能性がある。


 その点、魔銀は武器に防具にいろいろ使い道があるためどれだけの量を作っても売れ残る心配はまずないので魔銀の生産を多くしているのだ。


「じゃあ起動するからドアを閉めて。魔力の充填を開始するよ。……うん、ここまでは問題なし。次は魔力の圧縮をしながらさらに魔力を充填して………………」


 魔道具に関しては全ての管理をクリスに任せている。今のところ順調に進んでいるようだ。


「うん。正常に起動したみたい。あとは魔道具を起動したままで様子を見ようか」


「ふう、良かった。万が一にも失敗したら夜逃げしないといけないところだったよ」


「まだまだ綱渡りだけどね。この工場の借金が金貨百万枚だし返済には二年はかかる計算になるね……魔金属工場周辺の開拓にもだいぶお金がかかったんじゃないの?」


「工場の建設以上の費用が掛かっちゃったよ……オリジンの第二区画の販売が順調に進んだからだいぶ借金も減ったのにまた増えて、結局借金が金貨千五百万枚以上あるからね。次に販売を開始する第三区画の販売で減らせればいいけど……」


「世界樹の根から引っ張っているケーブルが魔金属化すれば使える魔力量には余裕がでるし、次の商売を考えないといけないね。何か次の計画はあるの?」


「魔金属の合金づくりとか肥料作りとかいろいろ構想はあるんだけど、すぐすぐお金になりそうなものじゃないんだよね」


「……見方を変えれば新兵器の開発に兵糧の確保か。やっぱり魔王様としては、領地確保のあとは世界征服でも企んでいるの?」


「そんなわけないでしょ! バカなこと言っていないでもう帰るよ。エリーに何か美味しい物を作ってもらおうよ」


「そうだね。久しぶりにエリーの作ったハンバーグが食べたいな」

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