第84話 再会を果たした僕

 オリジンに帰った僕を迎えてくれたのは3人の美女だった。いや、正確には二人の少女と一人の少年だ。


「チェイス君久しぶり! 大きくなったね! 雰囲気もなんか変わったんじゃない?」


 一番に僕を迎えてくれたのは婚約者のシエルだ。一年半程会わなかっただけだがすごく成長しているような気がする。まだまだ幼さの残る顔ではあるが多少大人びたような気がするし、身長も伸びている。しかし一番変化したのは胸だろう。服の上からでも分かるそのふくらみはすでに少女のものではなく一人前の大人のサイズ、いやそれ以上になっている。


「久しぶり。シエルは綺麗になったね。最初見た時ちょっと分からなかったよ。クリスもエリーも久しぶり。二人も綺麗になったね」


 エリーはうれしそうにしているがクリスは苦笑いしている。さすがに男から綺麗になったと言われてもうれしくないようだ。エリーは以前のガリガリの姿が嘘のように肉付きも良くなって女の子らしい姿になった。クリスは髪も伸びてますます女の子のような姿になっている。


「言っておくけど僕にそっちの気はないぞ。本当は髪も切りたいんだが、エリーが早くチェイスのところに行きたいってうるさくてね。学園の講義や試験が忙しくって髪を切る暇もなかったよ」


「ご主人様お久しぶりです。エリーは言われたとおりお仕事頑張りましたよ。作った味噌も持ってきたので後で見てくださいね」


「それは楽しみだね。三人ともいつこっちに来たの?」


「一昨日来たんだけど、チェイス君は樹海の中に開拓に言っているって聞いたから宿に泊まって待っていたの。エイブラムさんって人が全部手配してくれたんだよ」


 気軽にエイブラムさんと言っているがその人は元王族で現公爵家の次男のお方だ……後でお礼を言っておかなければ……


 まだ昼過ぎくらいの時間であったがゆっくりと三人の話を聞きたかったため、その日やろうとしていた仕事は全部取りやめることにした。エイブラムとの話はまた明日でいいだろう。


「そういえばしばらく家を空けていたから家に何にもないんだよね。商業ギルドで買い物して行っていいかな」


 まだまだオリジンには店が少ないため、魔獣肉などを買おうと思えば商業ギルドに行くのが一番手っ取り早いのだ。ほとんどの人は知り合いなので安く売ってくれるのもありがたい。


「お、チェイスじゃねえか。女連れとは珍しいな。しかも三人も連れているとは……お前も隅におけねえな!」


 狩りの帰りなのか商業ギルドにはアーロンギルド長とその補佐のリラがいた。この二人暇さえあれば狩りばかりしているようだが冒険者ギルドの運営は大丈夫なのだろうか……


「婚約者のシエルと友人のクリスとエリーミアです。今日からオリジンに住むことになりますのでよろしくお願いします」


 三人とも頭を下げて挨拶をした。


「あなたがチェイスの婚約者か……そうか……よろしく頼む」


 リラはシエルに話しかけながらシエルの身体と自分の身体を交互に見比べている。リラが何を考えているかは理解できたが励ますわけにもいかなかったので無視することにした。


「リラ、お前の負けだ。まあ、女は身体がすべてじゃないから気にするな」


 アーロンが変わりにリラを励ましているが逆効果のような気がする。


「ところで、狩りに行ってきたなら魔獣も取れたのでしょ? 僕も今樹海から戻ったところで食材が何もないから売ってくださいよ」


「ヴォーパルが何匹か捕れたからやるよ。今解体しているところだが十キロもあればいいだろ?」


 ヴォーパルとはうさぎの魔獣で、かわいらしい姿をしているがとても凶暴な肉食獣なのだ。肉は柔らかくとてもおいしい。


「ありがとうございます。では遠慮なく頂きます」


 ヴォーパルの肉を貰って家に戻った。


「今から料理するからゆっくりしといてよ」


「ご主人様、食事の準備は私がしますからご主人様こそゆっくりして下さい」


「じゃあお願いするね。ならエリーには悪いけど料理ができるまでお酒でも飲んでおこうか」


 冷蔵庫からエールを取り出し魔法で炭酸を入れる。最近冷えたエールに炭酸を入れて飲むのがマイブームなのだ。


「チェイス君、お酒飲むようになったんだ」


 そういえばオリジンに来てからお酒を飲むようになった。夜に一人で家にいるのも暇だし、付き合いで飲みに行くことも多いので自然と毎日酒を飲むようになってしまった。


「付き合いも多いからね。僕のエールは炭酸入りで絶品だよ。さあ、どうぞ」


 みんなのコップにエールを注いだ。


「普通のエールよりおいしいけど私はちょっとエールは苦手かな」


「僕もシエルと同意見だな」


 シエルもクリスもあまりエールは好きじゃないようだ。こんなこともあろうかとオリジンではお酒の研究もしていたのだ


「じゃあ甘いのにしとく? ちょっと待っててね」


魔法で作った氷に絞った果実に蒸留酒を加えて混ぜ、仕上げに魔法で炭酸を入れる。オッ・サンに教えてもらったカクテルという種類のお酒だ。


「リンゴのお酒だよ。甘くて飲みやすいから飲みすぎには注意してね」


「これは美味しいね!」


「ほんとチェイスはいろいろ考えるよね。これも売る予定なの?」


「オリジン名物にしようかなと思って。大量生産は大変そうだから方法を考え中なんだ。エリーの分も置いておくからね」


「ありがとうございます。もう少しでできますのでお待ちください」


 エリーは味噌煮込みを作っているようで、部屋中に味噌の匂いが漂ってきた。


「僕も一品作ろうかな。こっちに来てから揚げ物にこっちゃって」


 食卓にはエリーの作ったヴォーパル肉の味噌煮込みと、僕との作ったヴォーパル肉のから揚げ、ポテトフライが並んだ。


「エリーは料理が上手になったね。味噌も風味がよくなったっていうか、美味しくなったような気がするし、頑張ったんだね」


 エリーは照れ臭そうにしている。


(オッ・サン、この味噌の出来はどう?)


(お、おう、うまいんじゃないか?)


 やはりここ最近オッ・サンの口数が少ないしちょっとおかしい気がする。


「チェイス君が作ったから揚げとポテトフライも美味しいね。チェイス君はこっちでは毎日料理しているの?」


「半分くらいは外で食べて半分くらいは自炊しているかな。さっき会ったアーロンさんやリラさんもだし、シエルたちがお世話になったエイブラム様も暇なのかよくうちにご飯食べに来るんだよ」


「楽しそうにしているみたいで安心したよ。オルレアンではずっとエリーがご飯を作ってくれていたけど私も料理の勉強しなくっちゃ……」


 その後は互いの近況報告をしながら時間を過ごした。シエルは無事に治癒魔法士の資格を取れたようでいつでも治癒魔法院を開業できるらしいし、クリスとライスに任せている魔道具の販売も順調だそうだ。エリーは魔法の才能があるらしく、風と火の魔法はすでに中級レベルまで使えるようになったみたいだ。


「そうだ、クリスには魔道具作りを手伝っても欲しいんだ。明日から樹海に一緒にいってもらっていいかな?」


「そのために来たんだから構わないよ。僕もだいぶ魔道具作りの腕を上げたからね。楽しみにしといてよ」


「私とエリーはこっちで住む場所の準備をしておこうかな。エイブラムさんに相談すればいいかな?」


「エイブラム様ね。一応あの人公爵家次男だから」


「そうなんだ……気を付けよう……賃貸はなさそうだし家はどうしようか?」


「いずれはきちんとした家を建てようと思うけど、まだ開拓途中だし、簡易住宅を建てるしかないかな。土地は確保してもらっているからエイブラム様に見せて貰うといいよ。寝るだけならちょっと狭いけどここの家が使えるし当面は我慢だね」





 いつの間にか夜も更けてきていたので今日はこれでお開きにすることにした。


(チェイスちょっと外に出ないか?)


(別にいいけど……)


 オッ・サンからの誘いで外に出ることにした。昼はかなり蒸し暑いオリジンであるが、夜はそれなりに涼しくなる。今日も心地よい風が吹いていて気持ちが良い。


(それでどうしたの? 最近ちょっとおかしかったけど、また何か考え事?)


 昔からそうであったがオッ・サンは考え事をするときはいつも黙ってしまう癖がある。小さいころ無詠唱魔法の理論を組み立てた時もそうだった。


(ちょっと困ったことがあってな。世界樹の根から魔力を吸ったときから魔力を感じられなくなってしまったんだ。感じられなくなっただけで見ることはできるんだが……、魔力を感じられないせいで探査魔法も使えなくなった)


(それはちょっと困ったね……オッ・サンの探査魔法が使えないと冒険中かなり危険だよね……)


(まあ、そうだな……ところでチェイスは世界樹の根から魔力を吸った以降何か変わったことはないか? 肌にまとわりつく空気が変わったというかなんというか……)


(ずっともやもやしたものが体にまとわりつく感じがするんだよね。感覚が共有されているのにオッ・サンは感じないの?)


(そうか……やはり、理由は分からんが俺の魔力を感じる能力がチェイスに移ってしまったようだな。その肌に触れるもやもやが魔力の感触だ。魔力濃度が低い場所ではほとんど何も感じないが、魔力濃度が高い場所程そのモヤモヤの感触が強くなる)


(これが魔力の感触なんだ……そういえば穴の中では特に変な感じがしたんだよね)


(とにかく、チェイスが魔力を感じられるようになったなら探査魔法も使えるはずだ。俺が探査魔法を使えなくなったことは仕方ないとしても、探査魔法が使えるか使えないかでは全然違うからな。明日から少しずつ練習していくぞ)


(魔力を感じる力と一緒に俺の能力がチェイスに移ったような気がするし、探査魔法もすぐに使えるようになる気がする。なんとなくだがな……)


 オッ・サンが寂しそうにつぶやいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る