第83話 世界樹に触れた僕

 開拓を始めて一年の月日が流れた。開拓基地には冒険者ギルドや商業ギルドが完成し、酒場や宿泊所、商店などもでき、徐々に賑わいが出てきている。開拓基地周辺では既に千人以上が生活をしており、施設でも人口でも故郷のイースフィルを完全に超えてしまった。


「最初はどうなることかと思ったが開拓も順調に進んできたな。食料自給も問題なさそうだし、後は借金の金貨三千万枚をどうやって返済するかだけだな」


 優秀な冒険者や魔法使いを惜しげもなく集めたおかげで開拓はかなりのスピードで進行したが、相当な費用も発生してしまった。


「ええ、エイブラム様のおかげですね。第二区画までは造成も完了しましたし、そろそろ土地の販売を始めましょう。三つ目の農村にもそろそろ開拓農民が来るでしょう?」


 開拓基地を第一区画として、その外側が第二区画だ。既に第三区画までは外壁で囲っており土地の造成ができ次第販売を開始する予定だ。また、都市区画の外にも外壁で囲った農村を作っている。こちらも既に第二農村までは開拓農民が移民しており、順次農村も増やしていく予定だ。


「第三農村は来月中には開拓農民が来る予定だ。第二区画もそうだな……そろそろ販売しても大丈夫だろう。第二区画が全部売れれば借金半分は返せるかもな。販売に着手する前に町の名前を決める必要があるがどうする?」


「ずっと考えていたんですけど『オリジン』って名前はどうですか? 古語で始まりの場所って意味らしいですけど」


「悪くないんじゃないか? では、今日からこの町の名前はオリジンだ。農村の名前は……それぞれの農村の長に決めさせるか。あと販売前に都市計画の確認をしておこう。第一区画が国や町の施設やギルドが集まる公共区域、第二区画中心部が商業区域、外側が工業区域、今整備を進めている第三区域が住宅区域で良かったな?」


「それで大丈夫です。町の運営組織も作らないといけませんよね……エイブラム様が初代の町長になって町を治めてもらうわけにはいきませんか?」


「構わんぞ。もとよりそのつもりだ。今までどおり俺が中心となって開拓の指揮を取ろう。販売についても任せておけ。一等地は俺が買わせてもらうがな。そのくらいは報酬変わりに融通を聞かせても大丈夫だろう?」


「ええ、今までの働きを考えると安いぐらいですよ。僕の土地も確保しておいてください」


「分かった。では早速販売の準備を進めよう」


 エイブラムは早速準備を始めるようで部屋を出て行った。


(今回の販売がうまくいけば人口も一万を超えるだろうな。そろそろ爵位の話も出てくると思うがどうする? これだけの規模の領地だといきなり子爵くらいになるんじゃないか?)


(そのことについては僕もいろいろと考えたんだけど、エリーを貴族にするのはどうかな?)


 エリーは僕が奴隷として買ったエルフの女の子で今はフレイス共和国の首都オルレアンで生活をしている。


(チェイスが頼めばエリーは嫌とは言わんだろうが……フレイス共和国の議会が何と言うかだな)


(そのあたりは少しお金を握らせれば大丈夫じゃないかな?)


(チェイスも悪くなったな……確かシエルとクリスの学園卒業もそろそろだったよな?)


(夏前には単位を取り終わるらしいし、卒業次第こっちに来てくれるみたいだね。それまでには世界樹の根も発見しとかないとね)


 世界樹の根がある場所までの道は既に整備が終わっている。エイブラムからは何の役に立つのだと怒られたがなんとか押し切ることができた。穴はかなりの深さまで掘っているが未だに根は現れない。


(こっちはエイブラムに任せて俺たちは穴掘りに行くか)


 開拓は一段落したが僕の穴掘り生活はなかなか終わらないようだ。





 それからの僕の生活は穴掘りが中心となっていた。


地面を掘っては土を搬出し、壁が崩れないように補強する。そんな作業を繰り返すこと数か月、ようやく目的のものが目の前に現れた。


(これが世界樹の根? 思っていたのと違って、なんか金属っぽいね)


(とんでもない魔力が通っているし間違いないだろうが、本当に金属っぽい質感だな)


 ようやく現れた世界樹の根はつやつやとした金属質の質感で、黄色い光を放っていた。世界樹に触れてみるが、やはり触感も磨かれた金属のようだ。根は熱を持っており少し熱く感じる。


(触っても何も起こらないんだな……ちょっと魔力を吸い出してみるか……魔法で魔力を吸い出せるか?)


(やってみるけど大丈夫かな……)


 世界樹の根に流れる魔力を吸い出すイメージで魔法を使う。








 あたりを見渡すと何もない光の空間が広がっている。確か……世界樹の根から魔力を吸い出していたはずだけど……


(オッ・サン、ここどこか分かる? 突然別の場所に来ちゃったみたいだけど……)


 オッ・サンに話しかけるが何の反応もない。再び辺りを見渡すがオッ・サンの姿自体が見えない……


「誰かいますか?」


 大声を出すがコダマも返ってこない。


 周囲にはぼんやりとした光が見えるだけで他には何も見えず何も聞こえない空間であるが、なぜか周りには沢山の気配を感じる。


 人なのか、魔獣なのか、それとも他の何かなのかは分からないが、そこには多くのナニカが存在しているような、そんな不思議な感覚だ。


 そして、その不思議なナニカが少しずつ僕の中に入り込んでくるのを感じる。それはとっても心地よい、そしてまるで自分が神になったような万能感を感じる……


そうか……僕は……


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(チェイス! どうした!? 大丈夫か!?)


「はぁはぁ……」


(すっごい頭が痛い……何かあったような気がするけど何も思い出せないや……どのくらい気を失っていたの?)


 僕は穴の中で倒れており、オッ・サンにずっと呼びかけられていたようだ。


(分からん。チェイスが根から魔力を吸い取るまでは見ていたんだが、チェイスが倒れるところは見ていないんだ。気が付いたらチェイスが倒れていたから声をかけたんだが……)


(直接魔力を吸い取るのは危険みたいだからやめておいた方がいいのかもね。それよりなんかこの穴の中すごく気持ち悪いから早く外に出よう)


(そうだな……しかし外に出るのも一苦労だな。とりあえず目標は達成したし、久しぶりにオリジンに戻るか)


掘った穴の側面を螺旋階段のように加工して出入りができるようにしているが上まで登るのにもとんでもない時間がかかる。

(穴の外はまだマシだね。なんか穴の中はぐにゃぐにゃしたような変な感じだったよ)


(………………おっ、そうか、気分が良くなったなら良かったな)


 少しオッ・サンの様子がおかしいような気がする。


(改めて見るとすごい深さだね……よくこんなに掘れたもんだよ……周りの土もすごいことになっているよ)


(周りの土も片付けんといかんし、雨対策もしないといかんし、まだいろいろと面倒だな……とりあえず雨が入らないように土魔法で蓋だけしといてくれ)


 掘った穴の上に魔法で作った大きな土の蓋を置いたが、あまりにも巨大な蓋のため強度に不安がある……


(そろそろ行き来が面倒になってきたし、次はこの周辺を開拓しなくちゃね。冒険者を連れてきて周囲の魔獣を狩って、建設ギルドの人たちに工房とか家とか作ろうよ)


(またエイブラムに予算のことでいろいろ言われそうだな……)

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