第82話 ドラゴンスレイヤー僕
「第一回ドラゴン討伐会議を始めます」
レッドドラゴン討伐のためにアーロンギルド長、リラ補佐、逃げ足のガゼルを呼んで会議を開くことになった。
「では、早速僕から作戦案について話させていただきます。レッドドラゴンの巣には二十七匹の龍がいますが、できる限り素材を回収できるように討伐したいと思います。そのためにはまずはレッドドラゴンを巣から引っ張り出す必要がありますので、ナンバーワン冒険者の『逃げ足のガゼルさん』に活躍してもらいます」
「『俊足のガゼル』だ! まあ、俺が活躍する作戦ってのは悪くない。どういった作戦だ?」
作戦内容を伝えたところガゼルが青くなった。
作戦自体は非常に単純なもので、巣穴近くでガゼルが大声を出して暴れ、レッドドラゴンを予め準備しておいた討伐場所まで引きずりだし、そこでレッドドラゴンを叩くといった作戦だ。ガゼルが青くなる理由はどこにもないはずだ。
巣穴から次々とドラゴンが出てくる可能性がある巣の近くでは危険が伴うため、ガゼルを使い討伐場所まで引きずり出すことにしたのだ。
討伐場所まで引き釣り出せば僕の雷魔法で痺れさせ、綺麗に止めを刺すことができる。今回の作戦で一番重要なのは誰がドラゴンを巣の外に引きずり出すかといったことだ。
決して僕を置いて一人で逃げたガゼルへの復讐のためにこのような作戦を立てたわけではない。
「その作戦かなり危険じゃないか? 主に俺が……」
「かなり危険な作戦ですが、ナンバーワン冒険者のガゼルさんなら大丈夫でしょう! 危ない場合は僕とリラさんが魔法でサポートをしますので! もしかしたら死ぬかもしれませんけど……」
ガゼルの顔がさらに青くなったような気がした。
「チェイスを敵に回したガゼルが悪いな……諦めて頑張るんだな。まあ、死にはしないだろう。多分」
アーロンが笑顔でガゼルに話しかける。
「念のために聞いておくが断ったらどうなるんだ……?」
「心配ない。魔王チェイスとは呼ばれているがチェイスは優しい。せいぜい噂どおりになるだけだ」
リラもアーロンもガゼルをからかって楽しんでいるようだが、からかわれているガゼルは今にも倒れそうなくらい真っ青になっている。
「ではガゼルさんの合意も得られましたので作戦どおりやりたいと思います。ガゼルさんがおとり役、僕とリラさんがガゼルさんのサポートを行います。ガゼルさんがうまくドラゴンを引きずり出せたら僕が雷魔法でドラゴンを気絶させてアーロンギルド長含む他の冒険者がとどめをさして解体する流れでいきます。取り分は僕が六、アーロンさん、リラさん、ガゼルさんがそれぞれ一、残りをこの作戦に参加する冒険者の取り分でいいですかね?」
「ああ、それで問題ない。良かったなガゼル。これで俺もお前も大金持ちだ」
ガゼルからは返事がない。死人のようにうなだれている。
「では三日後が出発ですのでそれまでに準備を整えておいてくださいね。僕は準備がありますので先に出ておきますので現地で合流しましょう」
雷魔法は障害物が多い場所では操作が難しく使いづらいという欠点がある。そのため僕だけ目的地に先に出発して障害物となりそうな木を撤去することにしたのだ。
ドラゴンの巣からあまり近すぎると作業の途中で気づかれる可能性もあるため、巣から数キロほどの距離がある場所を討伐地点とした。つまりガゼルはこの距離をドラゴンを背に走らなければならないということだ。
なるべく大きな音を立てないように木の伐採を進め、半径三百メートルほどの範囲を更地にして、討伐隊を待つことにした。
「待たせたな。運搬もあるから連れて来られるだけの冒険者を連れて来たぞ。準備は大丈夫そうだな、早速始めるか」
ほとんど危険なくドラゴン討伐に参加でき、大金が手に入るということで開拓基地にいる冒険者のほとんどが参加したようだ。
「じゃあ、ガゼルさんドラゴンの巣のほうまでお願いします。しばらくしたら僕が魔法を巣の方向に向けて打ち上げますので、それを合図にこちらにドラゴンを誘導してください」
「おう! 俺に任せておけ! しっかり逃げ切ってやるぜ!」
どうやらガゼルも吹っ切れたようだ。まだ膝が震えているような気がするが、ナンバーワン冒険者のガゼルなら問題なく役割をこなしてくれるだろう。
ガゼルが出発してしばらくたった後、巣の方に向けて火と光の混合魔法を飛ばした。魔法は、巣があるあたりの上空で激しく火花と大きな音を出してはじけた。作戦開始だ。
ガゼルはものの数分で討伐場所まで戻ってきた。後ろからは怒り狂ったレッドドラゴンがブレスを吐きながら追ってきているがガゼルは全てかわしている。さすがは逃げ足のガゼルだ。
少なくとも十匹以上のレッドドラゴンがガゼルを追いかけてきている。空一面、ドラゴンだらけの光景はなかなか見られるものではない。
「リラさん魔障壁でガゼルさんの援護をお願いします。作戦どおりガゼルさんが退避したら雷魔法を打ちこみます」
リラのサポートもあってかガゼルは無事目標地点まで到達し無事に退避できたようだ。
既に僕とレッドドラゴンの距離は数百メートルほどになっている。先頭のレッドドラゴンを充分に引き付けて雷弾を放つ。先頭のレッドドラゴンは全身を痙攣させ地に落ちたが、その後ろからもどんどんレッドドラゴンが迫っている。
迫りくるレッドドラゴンに順番に雷弾を当て撃ち落としていく。数分もするころにはあたり一面痺れて動けないレッドドラゴンで埋め尽くされていた。
アーロンを中心に冒険者たちがレッドドラゴンに止めを刺そうとしているが、アーロン以外では文字通りドラゴンの鱗に刃が立たないらしく、アーロンが止めを刺して、その血を他の冒険者が回収しているようだ。
ドラゴンの血には滋養強壮作用があり飲めばどんなに疲労していてもたちどころに元気になるらしい。不能薬としても人気があるらしく貴族の間ではドラゴンの血はかなりの高値で取引されている。
レッドドラゴンは解体して開拓基地に持ち帰る予定であったが、アーロンの剣でも解体が難しい様子だったので、僕が魔法で解体をして冒険者たちに運んでもらうことにした。解体したドラゴンの肉や皮、内臓は次々に箱に入れられ運ばれていく。
さすがに冷蔵庫を運んでくる余裕はなかったので、今回は腐敗防止のためにユークリットバジルの葉を使っている。ユークリットバジルの葉はかなり高価であるが、敷き詰めることで肉の腐敗を遅らせる効果があり、冷蔵庫なしでも何十日も保存ができるようになる。
「とりあえず出てきたレッドドラゴンの解体までは全部終わりましたね。二十三匹も引き連れてくるとはさすが逃げ足のガゼルさんですね」
「ああ、もうなんとでも呼んでくれ! 俺は今日から逃げ足のガゼルだ! ドラゴン二十三匹から逃げ切った冒険者なんて俺くらいだろう! 他の冒険者に思いっきり自慢してやるからな!」
「じゃあ残りのレッドドラゴンの討伐を行いましょうか。せっかくの機会なので全部倒しちゃいましょう」
巣穴に籠っていた残り四匹のレッドドラゴンも討伐して今回の作戦は無事終了した。巣穴に居たのは老いて動けなくなったり、ケガをしているレッドドラゴンであったために、心情的に少し倒しづらかったが全て討伐することにした。
レッドドラゴンたちからしてみれば大虐殺であり、たまったものではないと思うがこれも弱肉強食と諦めてもらおう。
今回の討伐で二十七匹分のレッドドラゴンを狩ることができた。開拓基地にはどこから情報を聞きつけたのか大量の商人が集まっており、ほとんどの素材を売却した。今回の売値は金貨五万枚というとんでもない値段となった。
僕の取り分が金貨三万枚、アーロン、リラ、ガゼルが五千枚ずつ、他の冒険者が一人二十五枚ずつの取り分となった。ちなみに金貨二十五枚あれば一年は遊んで暮らせるほどの金額である。
開拓基地に戻った夜はレッドドラゴン一体分を食べることにした。レッドドラゴン一匹から何百キロもの肉が取れるため、今回の作戦に参加した冒険者だけでなく、商業ギルドや建設ギルドにも声をかけたところ、皆酒を持って集まってきた。考えてみればここに来てからは働き詰めで宴会など開いたこともないので良い機会だったのかもしれない。
「これがドラゴン肉か……生きているうちに食えるとは思わなかったぞ」
ガゼルがしみじみとドラゴン肉を見ながらしゃべる。最も危険な目に合ったガゼルだからこそドラゴン肉に対して感慨深いものがあるのだろう。
「チェイス! おかげで大儲けだ! 今日はとことん飲むぞ!」
大金が手に入ったアーロンも嬉しそうに酒を飲んでいる。
「まったく……運営資金が切迫しているというのに……レッドドラゴン一体でいくらになると思っているんだ……」
エイブラムはぶつぶつと文句を言いながらも次々とドラゴン肉を食べている。
宴会は日が暮れる前から始めたが、皆初めて食べるドラゴン肉の刺激と大量の酒で次々につぶれて行き、真夜中になるころには起きているのは僕だけになってしまった。
夜風を浴びながら一人飲んでいると酒を持ったリラがやってきた。
「まだ起きていたのか。隣に座っていいか?」
「どうぞ。リラさんもまだ起きていたんですね。やっぱり魔法使いはお酒が強いって話は本当なんですね」
リラが僕の隣に腰掛けた。いつもより妙に距離が近い気がする……
「魔力量が高いほどお酒に強くなるらしい。だが酔わないわけではない」
「僕も酔っぱらっているとは思うんですけどいくらでも飲めちゃうんですよね。リラさんは酔っていますか?」
「かなり酔っている」
リラは自分のコップのお酒を一口飲んで再び話し始めた。
「チェイスのおかげで沢山稼がせてもらった。これでいつでも冒険者を引退できる」
「引退する予定なんですか?」
「すぐにはしないが、開拓が落ち着くころには引退しようと思う。残りの人生は自分のために生きたいと思う」
「いいですね。僕も開拓が落ち着いたらゆっくりすごしたいですね」
少しの沈黙のあとリラが話し始めた。
「私はチェイスと残りの人生を過ごしたいと思っている。開拓が終わったら一緒に暮らさないか?」
リラが僕の膝に手を当ててきた。ドラゴン肉で興奮しているところにこの刺激は少しまずい気がする……
何も返事ができないままでいるとリラが立ち上がった。
「チェイスは魔法の腕はすごいがまだまだ子供。ホビットの寿命は長い。返事は待っているからいつか聞かせて。別に二番目でも三番目でもいいと思っている」
リラはそういうと部屋に戻っていった。
(意気地なし)
オッ・サンの茶化しを無視してコップに残っていた酒を飲みほした。
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