第65話 レベルアップした僕
(そろそろチェイスもレベルアップの必要性があると思うのだがどうだ?)
オッ・サンの話はいつも唐突である。オッ・サンの知っている物語では、魔獣を倒すと経験値を得て能力が上がる、つまりレベルアップするらしいが、この世界ではそのような仕組みはない。
(頭の中がファンタジーのオッ・サンに一応言っておくけど、この世界ではいくら魔獣を倒してもレベルは上がらないよ)
(そんなこと分かっとるわ! 何も自身の能力を上げるだけがレベルアップじゃないぞ! 新魔法の開発や装備を整えるのも立派なレベルアップだ)
(また新魔法の開発がしたいの? それとも装備? 鎧とかは重いからつけるのは嫌だな……)
(今回やりたいのは弾の開発だ。昔、実験したきりになっていたからな。そろそろ本格的に開発を始めようと思う。ルタ対策としてもそうだが、以前倒した神魚バムート、ブルースネークドラゴンのような強い魔獣対策も必要だからな)
確かにブルースネークドラゴン討伐はかなり危ない勝負であった。僕の土魔法で倒せない敵が今後も現れる可能性もあるし、魔法の威力の向上は必要かもしれない。
(弾の開発か……僕だけじゃ難しそうだからクリスに頼んでみる?)
(クリスは魔道具が専門だからな……いろいろ詳しいかもしれんし、とりあえずはクリスに相談してみるか)
そのような経緯でクリスに相談を持ち掛けてみた。
「魔法で放つ弾の開発か……専門じゃないけど面白そうだからやってみようか! ただ、実際に作るのは僕じゃ無理だから図面を引いて、後は鍛冶屋に作ってもらうことになるけどね。弾の形とかはもう決まっているの?」
「助かるよ! 弾の形は悩んでいるんだよね……丸い球がいいのか、先っぽが尖った弾がいいのか……色々と考えているけどよく分からないんだよね」
「とりあえず両方作って実験してみる? 大体の形ならチェイスの魔法で作れるんじゃないの?」
言われて見れば材料さえあれば弾は作れるかもしれない。
クリスから鉄を少し貰っていくつか弾を作ってみた。
「じゃあ早速庭で実験してみようか。的は……丸太を地面に埋め込もうか。威力は抑えて放ってよ!?」
(実験は条件を一緒にしてやらないと意味がないから、使う魔力の量は一定に保てよ)
威力を抑えて、さらに一定の強さで……意外と難しい注文である。まずは丸い弾と先が尖った弾を一つずつ的に向かって放った。威力を抑えたおかげで周囲への被害はなかったようだ……
「丸い弾は貫通しなかったけど、尖った弾は貫通したね。尖った弾の方が威力が高いってことかな?」
僕の言葉に、クリスは頭を傾げながら弾の着弾点をマジマジと見ている。
「多分威力だけなら丸い弾の方が上だと思うよ。丸太に空いた穴が、お腹に空いた穴だとしたらどっちが痛そう?」
丸い弾の方はぐちゃぐちゃにひび割れている。もしこれが魔獣だとしたら辺り一面に血や贓物が飛び散っているだろう……対して尖った弾の方は綺麗に穴が空いているだけだ。
「うーん、丸い弾の方が痛そうかも……」
「急所を打ち抜くなら尖った弾の方がいいかもしれないけど、ダメージを与えるなら丸い弾の方がいいかもね。後、二つの弾で放ちやすさの違いはある?」
「そこまでは変わらないけど、運動エネルギーを与える方向を考えなくていい分、丸い弾の方が討ちやすいかも」
「分かった。なら次は素材を替えて実験してみようか。今は鉄を使ったから後は銅と鉛かな?」
銅と鉛でも同じように弾を作って実験してみたが、いずれも鉄ほどの貫通力はなかった。
「銅や鉛だと的に当たった瞬間潰れちゃって威力が分散しちゃうみたいだね……大体のことは分かったから図面を引いて鍛冶屋に依頼してみるよ。出来上がりを楽しみにしておいてね」
実験が終わるとクリスは嬉嬉としながら工房に入っていった。
(専門じゃなくてもあれだけ楽しそうにしているとは……余程モノ作りが好きなんだな……)
(嫌々されるよりは楽しそうにしてくれる方がいいじゃない。本当に腕のいい職人……いや、友達を見つけたよ)
数日後、クリスが鍛冶屋で作ってもらった試作品を持ってきた。
「試作品でそれぞれ五つずつ作ってもらったから実験してみようよ。一つは鉛を材料にした丸い弾「鉛丸弾」(えんがんだん)、もう一つが鉄を材料にした尖った弾「鉄尖弾」(てっせんだん)。とりあえず分かりやすいように適当な名前を付けてみたけど、正式な名前は完成後にでも考えてよ。今回はある程度威力を込めて打ちたいから平原で実験しようか」
そのままの名前だが、オッ・サンのセンスに比べたら断然いい名前だ。
(俺なら、もっとかっこいい名前を付けるんだが……まあとりあえず試作品だしその名前でいいか)
早速平原に出て魔獣相手に実験をしてみることにした。早速ゴブリンがいたので実験台になってもらうことにした。まずは、鉛丸弾をゴブリンに向かって放つ。
鉛丸弾はゴブリンの胸部に当たり粉々に吹き飛ばしてしまった。普通に土魔法を使うより威力はあるし、魔力消費も少なくて済む気がする。
続いて鉄尖弾を使用する。鉄尖弾はゴブリンの腹部を軽々と貫いたが致命傷には至っていないのか、こちらに向かってくる。
仕方ないので通常の土魔法で頭部を破壊し完全に動きを止めた。
「鉛丸弾は予想以上の使い心地だったけど、鉄尖弾は別の意味で予想外だったね……」
「僕としては予想どおりだったよ! 鉛丸弾はとにかく弱い魔獣を一掃したいときに使って、鉄尖弾は固い魔獣を貫くのを目的に使うと差別化できると思うよ」
(鉄尖弾は問題ないんだが、鉛丸弾はちょっとな……弱い魔獣を一掃するために重い弾を何十個も持ち歩きたくはないし……ちょっと考えがあるからクリスに提案してくれよ)
オッ・サンが僕に構想を伝えてくれた。
「鉛丸弾なんだけど、もうちょっと大きさを小さくすることはできる? それを容器に詰めてまとめて打ち出したいんだけど」
オッ・サンが作りたいのは散弾というもので、容器に詰め込んだ弾をまとめて放つことで広域に攻撃ができる弾らしい。
「できるとは思うけどイメージが湧かないから詳しい仕組みを聞かせてもらってもいいかな? チェイスのことだから、普通じゃ思いつかないような仕組みの気がするし……」
クリスに詳しいイメージを伝えたところすぐに図面を書き上げてくれ、すぐに試作品の製造を依頼してくれた。
「普通の弾丸と違って構造が複雑だから少し時間がかかるみたいだけど……学園の狩り演習までには作れるよう依頼しておいたよ。鉄尖弾も言われたとおりサイズと重量を増加するよう依頼しておいたから。演習訓練で実験できるといいね」
数日後に届いた弾は理想どおりの出来だった。オッ・サンにより鉄製の尖った弾は『ライフリング弾』、鉛製の散弾は『ショットガン』と命名された。
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