第66話 クラスメイトと仲良くなりたい僕

「チェイスのおかげで大儲けだよぉ! やっぱりチェイスに付いて来て間違いはなかっただぁ」


 冷蔵庫とクーラーの改良は無事に終わり、販売を開始した。製造販売はライスに任せて、売上の二割を僕とクリスで半分ずつ分ける契約にしている。


 冷蔵庫を金貨五枚、クーラーを金貨十枚とかなりの高値で販売しているが、販売からわずか数十日でかなりの台数を売り上げていて、優秀な収入源となっている。


 値段が高いせいか、購入者は貴族や一部の商人に限られているが、そのうち一般人にも広がっていくであろうし、そうなればより新鮮な食材を手軽にたべられるようになるだろう。


「ライスさんの販売が上手だからですよ。今は毎月百台程の売上でしたっけ?」


「ああ、そのくらいだなぁ。もっと製造できれば販売台数も伸ばせると思うがぁ、今の生産体制だとこのあたりが限界だなぁ。特許の期間は開発から三年だからぁ、あまり生産工房を増やしすぎるのも考えものだからなぁ」


 新しい技術や商品を開発した場合は、商業ギルドに登録することで特許を取得することができる。特許の期間は三年でその間は生産を独占できる。


「バランスは難しいところですよね。そのあたりはライスさんの采配に任せます。特許が切れても設計図なしでは簡単に再現できないでしょうしね」


「それはそうかもなぁ。一番利益が出るように頑張るからぁ任せといてくれぇ。ところで、味噌の製造はどうなってるんだぁ?」


「エリーに任せていますが、いきなり良い菌を発見できたみたいで、今は菌の培養をしながら試作品を作っているところです。味噌の試作品がありますので少し味見してみます? まだ熟成期間中なので出来上がってはいませんが、雰囲気くらいは楽しめると思いますよ」


 ライスがいくら頑張っても失敗ばかりであったがエリーが始めたところ一発で有用な菌の発見ができたのだ。ライスがダメだったというよりはエリーの運が良かったのかもしれない。


「是非味見させてくれだぁ! うまければ是非ライス商会で取り扱わせてほしいだよぉ」


 味噌スープに肉の味噌煮込みを作りライスに味見をしてもらった。


「この味噌煮込みはたまらないだなぁ! こりゃ絶対売れるだよぉ! だがぁ、この味噌スープは生臭くてちょっと苦手だなぁ」


 ライスも僕と同じ感想のようだ。味噌煮込みは本当においしいのだが、オッ・サンが特におすすめの味噌スープはあまり美味しいとは思えないのだ。


(やっぱり味噌スープは不評だね。なんかスープの生臭みが受け付けないんだよね)


(結構うまいと思うんだがな……確かに慣れていないと出汁の臭みはきついのかもな。そもそも魚の干物だけで取った出汁だから出来がイマイチなのは仕方ないか)


「まだ満足のいく出来上がりにはなっていないのでもう少し試作してみてからうまくいったら商品化したいと思いますのでよろしくお願いしますね。あ、もう学園に行く時間なので先に失礼しますね」




 今日は十日に一回のクラスメイトが全員集まる日だ。担任から事務連絡があって、その後はどの単位が取りやすいだの、どの講義が楽だと言った情報交換をしたり、雑談を行うだけの時間であるが、クラスメイトと交流を深めるには良い時間だ。


 ただ、悪魔殺しだの、貴族をも恐れない魔王様など変な噂が広まっており、皆、僕のことを怖がっているのか、僕に話しかけてくる者が他にいないのが少しさびしいが……


 僕とは違ってシエルやクリスはいつもクラスの中心にいて、皆と仲良くしているのが余計にさびしく感じる。


(他の生徒もあんなに怖がらなくてもいいのにな……ボッチは辛いがあと少しの辛抱だから頑張れ!)


(もっと他の人とも話したいんだけど僕が話しかけると空気が凍っちゃうんだよね)


 シエルとクリスは二人ともクラスメイトに次々と話しかけられて忙しくしているようだ。たまにこっちの方を申し訳なさそうに見てくるのが余計にみじめに思えてしまう。


 そうこうしているうちに担任の先生がやってきた。


「みんなそろっているか? 適当に席に付け! 今日の事務連絡は明日の狩り演習の班構成のことだけだ。一回しか言わないからよく聞けよ」


 狩り演習は学園と騎士団との合同演習でオルレンス周辺の魔獣を間引くために定期的に行っている。


 合同演習と言っても騎士団に随行するだけで単位が貰え、運よく活躍できれば追加単位まで貰える美味しい授業なのだ。


 担任の先生の説明では五人からなる騎士団の班に学園の生徒三人が随行して付いて行くことになる。


 残念なことにシエルとクリスと同じ班になることはできなかった。生徒のレベルのバランスを考慮して班を組んでいるとのことなので仕方ないが、話したことのないクラスメイト二人と班を組むとはちょっと気まずい狩りになりそうだ。


「食料等の準備は不要だが、普段使っている武器と防具だけは装備してくるように。明日は朝一の鐘で西門に集合だから遅れないように気をつけろよ。事務連絡は以上だ」


 それだけ言うと担任の先生は教室を出て行った。


「チェイス君、私たちがいなくても大丈夫? 他の子とうまくやれる?」


「かわいそうだけど、僕たちは一緒に行けないから頑張ってね」


 僕のことを心配したシエルとクリスが話しかけてきた。オッ・サンといい、僕のことをボッチと思っているようだ……間違っていないだけに反論が難しい。


「子どもじゃないんだから大丈夫だよ。ちゃんと仲良くなる方法も考えているしね」


「それならいいけど……チェイス君と一緒なのはモニカとビリーか……二人にはよろしく伝えとくから頑張ってね」


 僕のことを子どものように心配するシエルにそれ以上何も言えなかった。

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