第57話 ハーレムを作りたいわけではない僕

「あードキドキする……落ちてたらどうしよう……」


 僕とシエルは国立学園の合格発表を見に学園に向かっているところだ。


 試験から十日、シエルは受験の合否が気になって何をするにも手がつかない様子であった。シエルの魔法のレベルからしたら間違いなく受かっていると思うが、本人としては不安で仕方ないのだろう。


 国立学園に到着したとき、合格者が張り出される掲示板の前には数えきれないくらいの人が集まっていた。受験者本人と思われる子どもも多いのだが、その両親と思われる年齢の人たちもかなりの数集まっている。


 合格発表の時間になり職員が掲示板に張ってある垂れ幕をはがした瞬間あちこちから歓声が聞こえた。


「私の名前あったよ!! チェイス君は……主席合格っていうか満点合格じゃない!? すごい!!」


 掲示板には成績上位者から順に名前と点数が載っているようで、僕が200点で一番上に、シエルが三番目に点数185点で載っている。合格最低点は150点のようだ。

「シエルも心配していた割に三席で合格じゃないか! これで一緒に通えるね。合格者は入学式の日に来ればいいだけみたいだし……そういえばシエルの家にお世話になりっぱなしで新居の準備何も進めていなかったし入学までには準備しなきゃ」


 シエルの家の居心地があまりに良すぎて先延ばしにしていたが新居の準備も進めなければならない。改装工事はもう完了していたが、生活に必要なものが何もない状況なのである程度の準備をしなければまだ住むことはできない状況なのだ。


「私の家から学園に通えばいいのに……」


「もう何十日もお世話になっているからさすがにね。僕の内にはいつでも遊びにきてもらっていいから」


「毎日ごはん作りに行くからね! 今から買い物にいくなら私も一緒に見に行くよ」


「日用品に食糧にいっぱい買わなきゃだから大変だよ?」


「チェイス君の好きなものを覚えときたいし一緒に行くよ」


 結局二人で買い物に行くことになった。最近二人だけで一緒に出掛けることも少なかったから、たまにはいいかもしれない。


(いくつか欲しい物があるから買ってもらっていいか? 樽にツボに大豆に塩にでかい鍋も欲しいな)


(ちょっと多すぎ! 集めるの面倒だからライスに頼もうよ)


 ライスはエイジア王国から一緒に旅してきた商人見習いだ。今は自分の店を持っているので商人と言っても問題はないかもしれない。


(それがいいな! 多少割高でも運んでもらった方が楽だしな。それなら他にも適当に穀物と酒も買っておいてくれ)


(何をする気か知らないけどあんまり面倒なのは嫌だよ?)





 ライスの店に向かっている途中、以前家を買った不動産屋の前であの胡散臭そうな不動産屋と小さな女の子が揉めているのが見えた。女の子はまだ十才前後くらいだろうか、僕やシエルより少し年下に見える。細い体に肩まである黒い髪、そして誰もが見惚れてしまうような美しい顔をしている。顔の造形の綺麗さならシエル以上かもしれない。


「どうして僕に家を貸してくれないんだ! お金はあるって言っているだろう?」


「何度も言っているでしょう! ホビットとエルフには貸せないことになっているのですよ!」


(おっ、僕っこロリか! まだ幼いが将来美人になりそうだな。将来のハーレムの一員になるかもしれんから声をかけとくぞ)


(別にハーレムを作りたいわけじゃないんだけど……)


「こんにちは。お久しぶりです。どうかしましたか?」


「ああ先日の! ええっと、チェイス様でしたね! この子が部屋を借りたいと言うのですが、ヒュムの保証人がいないとホビットには部屋を貸せないので困っているのですよ」


「ヒュムには普通に貸しているのにおかしいだろ! せっかく学園に合格したのに住む場所がなければどうしようもないじゃないか!」


「君も学園に合格したの? おっとごめん。僕はチェイスでこっちがシエル。僕たちも学園に通う予定なんだ」


「チェイスって……主席の! 僕はクリス。同じ学校に通うことになるよしみで、君からもこの不動産屋にお願いしてくれないか?」


「えっと、なんでホビットやエルフには保証人がいるのですか?」


「昔からの慣習でして……今でこそホビットやエルフもオルレアンに増えてきましたが、昔は自治区から逃げてきた犯罪者まがいの者ばかりでしたので念のためにヒュムの保証人を取ることが慣習になっているのですよ。私が慣習を破ってしまうと同業から何と言われるか分かりませんので例外は作れません!」


(別に差別ってわけでもなさそうだし慣習なら仕方ないのかもな……例外を作ってしまうと後々面倒だし)


(でも部屋が借りられないんじゃ困るよね……)


「僕じゃ保証人になれませんか? 今日初めて会いましたけど同じ学校に通う仲間みたいなものですし」


「チェイス様はまだ洗礼式前でしたよね? 洗礼式後であれば保証人になっていただけますが現状は無理ですね」


 何かにつけて洗礼式の壁が高い気がする……ちなみに洗礼式は年が明けたころにその年十二才になる子どもの分がまとめて行われることになっている。それはまだ数か月先の話だ。


「それなら僕の家に余っている部屋がいくつかあるからそこに住む? 部屋と家具はあるから、雨風くらいは凌げるし。家賃はいくらでもいいよ」


「もしお願いできるならそうさせてもらいたいが……いいのか?」


「チェイス君ちょっと! 女の子を一緒に住ませるの!? それはちょっとどうかと思うよ!」


 小声でシエルが抗議してくる。


「だって住む場所がないんじゃかわいそうでしょ?」


「うーん……だったら私も一緒に住む! まだ部屋は余っているから大丈夫でしょ?」


「メルビルさんとメリッサさんが許してくれるならいいけど……」


「お父さんとお母さんには私から話すから大丈夫だよ! じゃあ決定ね!」


「結局住ませてもらえるのか? いや、何か揉めるようだったら別の手段を探すが……」


「大丈夫だよ! 私も一緒に住みたかったからちょうどよかったかも! 私はシエル、これからよろしくね」


(ふっふっふ……ハーレムに向かって一歩前進だな……)


(だからハーレムなんて作らないって!!)

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