第58話 色々と取り組み始める僕
シエルはメルビルとメリッサに僕と一緒に住むことの許しを貰いに一旦家に戻ったため、新居には僕とクリスの二人で向かった。
「おお! 思っていた以上に大きくて綺麗だね! 何より工房が広いのがいいね!」
クリスに屋敷を案内したら、いたく気に入ったようで、子犬のようにはしゃいでいる。
「気に入ってくれたならよかったよ。荷物の整理をしながらでいいから魔道具についていろいろと聞きたいことがあるから教えてもらっていいかな? 何もわからないから基本から教えて欲しいんだけど」
「魔道具のことならいくらでも話せるよ! そうだな……まずは魔道具が魔法陣を使用したものと使用していないものがあるのは知っているかい? 魔法陣を使った魔道具は複雑なこともできるけど消費する魔力量が多くなるんだ。魔法陣を使わない魔道具は単純なことしかできないが消費する魔力が少なくてすむ。一般家庭で使う魔導コンロや魔導光は魔法陣を使わない省魔力型が多いかな」
(なるほどなるほど。魔法陣は魔力消費が大きいか……なら新商品は一般家庭で使うことを想定しているし魔法陣を使わないタイプがいいな)
「魔法陣を使うタイプの魔道具はなんとなくイメージできるんだけど、魔法陣を使わない魔道具はどうやって魔力を熱や光に変えているの?」
「金属に魔力を流せば熱になるし、魔力が詰まった魔石にさらに魔力を流せば光になるよ。そんな感じで魔石と鉄線などを組み合わせて魔道具を作るんだ。作り事態は単純だから割と誰でも作れるんだよ」
(ものを冷やす魔道具があるかも聞いてくれ!)
「あと聞きたいんだけど、ものを冷やす魔道具はあるの?」
オッ・サンが作りたい商品というのが食材を冷やす機会と部屋を冷やす機械らしく、オッ・サン的に快適な生活を送るためにはかかせないものとのことだ。
「魔法陣を使えば簡単に作れるよ。燃費はかなり悪いけどね。魔法陣を使わなくても使えるけど、冷気を生み出す冷魔石はひとつ金貨十枚以上するから実用性はないかな」
(やはり冷蔵庫やクーラーは一般普及していないようだな! これはかなりのビジネスチャンスになるぞ!)
「実は作りたい商品ってのが物を冷やす魔道具なんだけど、僕の考える仕組みで作れるかどうか知りたいから教えてもらっていい?」
その後一時間ほどかけてオッ・サンの通訳となりながら、冷蔵庫とクーラーの冷やす仕組みをクリスに伝えた。細かい仕組みは僕にはよく理解できなかったが、ようは圧縮した気体を冷やして元の体積に戻すと温度が下がるため、その原理を利用して冷たい空気を作るとのことらしい。
「よくそんな仕組み思いつくな……さすが主席学年主席だね。チェイスの言ったとおりの原理でものを冷やせるなら魔道具は作れると思うよ。かなり複雑だから試作品を作るのに時間がかかりそうだけどね。でも面白そうだから早速取り掛かってみるよ」
クリスとの話が終わったころにちょうどライスがやってきた。予想よりずいぶん早い到着だ。
「おおぃ! 荷物はどこに置けばいいんだぁ?」
こちらもすぐに作業に取り掛かりたいとのオッ・サンの意向で荷物は一階の工房に運んでもらった。
(長年の夢だった調味料づくりに取り掛かりたいと思う! 俺の記憶では醤油と味噌というものだが……しかしこればかりは大きく運が絡むから最悪実現ができないかもしれん! まずは大豆を発酵させるための麹、菌づくりから始めようと思う)
(味噌と醤油か……オッ・サンの話ではかなりおいしそうな食べ物だから期待しちゃうなぁ)
(この国の住民の口に合うかどうかも分からないから、そこらへんも運が絡むんだよな……まあいい、早速作業を開始するぞ! 作業は全部ライスにやってもらうからしっかり教えてくれ)
オッ・サンの手法は小さな樽に大豆を煮潰したものを入れ放置し、うまく発酵したものから菌を取出しそれを培養して増やすというものだ。大豆を上手に発酵させる菌を見つけるまで混ぜ物を変えたりして試行錯誤を繰り返すそうだ。
「………………という作業を有用な菌が見つかるまで繰り返してもらいたいのですがいいですか?」
「成功するかどうかぁ分からないのが不安だなぁ……確実に成功するなら無報酬でも頑張れるがぁ、成功するかどうかわからんなら少し賃金を出してくれんかぁ?」
「じゃあ、作業一日につき銀貨一枚どうですか? 作業はこの家の工房を使ってもらって構いませんので」
正直銀貨一枚はかなりの報酬額だが、やる気を出して作業してもらうためにはこのくらい払っても構わないだろう。
「さすがチェイスだぁ! それだけもらえるなら気合入れて作業するだよぉ! 早速取り掛かるだぁ!」
ライスはやる気を出して作業に取り掛かり始めた。あとはうまく行くことを願うだけだ。
(あとはクリスとライスがうまくやってくれるのを待つだけだな。余裕のあるうちに今後の話をしておきたいがちょっといいか? )
(今後の話? イースフィルには戻りたいとも思うけど、こっちで幸せに暮らせるならそれも悪くないなって思ってきてたけど……)
(それも悪くはないが、ルタの行動を考えると不安があってな……ルアンナの話では、ユグド教国の繁栄のために他の国の国力を落としているってことだったが、そうなれば将来的にはユールシア連邦にもルタの手が伸びてくる可能性があると思ってな。むしろユールシア連邦はイリス教を信仰しているから、ユグド教国の力が増大した場合は真っ先に攻撃される危険もあるからな)
(せっかく安心して暮らせるってなっても戦争になったら本も子もないしね。オッ・サン的になにか計画はあるの? )
(ああ。普通に暮らしながらもユールシアの国力増強に力を入れて行きたいと思う。具体的には経済力と軍事力の強化だな。プランはいくつか考えているが、当面の間はこの国でのチェイスの知名度を上げていきたい。ユールシアの辺境にあるこの国でいくら知名度を上げてもルタには伝わらないだろうからな。あとは今後膨大な資金が必要になる可能性が高いから資金集めも併せて行って行くぞ。今開発している冷蔵庫やクーラー、味噌醤油もうまく使えば資金集めや知名度上昇に使えるかもしれんし、とにかく今はやれることを一つずつ進めて行くぞ)
(知名度上昇と資金集めか……資金集めはいいけど、できれば静かに暮らしたいから知名度上昇はしたくないな……)
(そんなんじゃハーレムを作ろう大作戦は成立しないぞ! まあ、どうしても目立ちたくないなら傀儡を立てて裏から操る方法もあるけどな。とにかくまずは学園で目立つために歴代最速での卒業を目指すぞ!)
(ハーレムを作る気はないけど、なるべくその方向で頑張るよ……モーリスが生きているうちにイースフィルに帰れるかな……)
(やることをやっていけばきっと帰れるさ)
僕が婚約したことを知ったら、王立学園への入学が決まったことを知ったら、モーリスやリリーはどんな顔をするだろうか。久しぶりにイースフィルの家族のことを考えて少し寂しくなってしまった。
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