第56話 国立学園入試を受ける僕

 夏も真っ盛りとなり連日暑い日が続いている。フレイス共和国はイースフィルより北方にあるがとにかく暑い。


(いよいよ入学試験だな。真夏に入学試験を行うのは俺としてはちょっと違和感があるが……収穫前のこの時期が一番都合がいいんだろうな)


(どこの国でも入学試験は夏だと思うけどね……士官試験も夏だし。それより全然勉強してないけど大丈夫かな!? ちょっと緊張してきたんだけど……)


(魔法試験の方で落ちることは絶対ないから大丈夫だろ。筆記は全く対策していないし、どんな問題が出るかもさっぱりだがな!)


 試験対策をする時間は優に五十日以上あったが、購入した屋敷の改装や狩りが忙しく、結局何の対策もしないまま試験本番を迎えてしまった。


 今、試験の受付のためにシエルと一緒に並んでいるところだが、明らかに千人以上の人たちが集まっている。


「やっぱり受験者すごく多いよね……ちょっと緊張してきたよ……チェイス君は余裕があるね……」


「僕も緊張してるんだけどな……午前が筆記で午後からが実技だよね……これだけ受験者数がいて一日で終わるのかな?」


「武術の方は今日だけじゃ終わらないと思うけど、魔法の実技は受ける人が少ないから今日だけで終わると思うよ」


 シエルと話しているうちに受付の順番が回ってきたようだ。受付では事前に提出していた書類と照合をされ、番号札を渡された。番号札ごとに分かれて筆記試験を受けるようだ。シエルとは受ける教室が違ったため一旦分かれることになった。


 僕の番号がある教室は五十人程が受験するようで、既に席の半分は埋まっていた。ヒュムが八割程で残りがエルフやホビットが半々といったところだろうか、この教室にもドワーフはいないようだ。


 僕の番号がある席に座り開始を待つが、周りが一所懸命最後の追い込みをしている中、僕だけぼーっと座って待っているのは非常に居心地が悪かった。







 一時間程して筆記試験が始まったが、試験問題を見て唖然としてしまった。


(なんだこの問題は……下手したら幼児レベルの問題じゃないのか? いや、後半の問題はなかなかのレベルか?)


 試験問題は簡単な文章の読解と四則計算が大半を占めており、後半にちょっと複雑な図形の面積を求める問題があるだけであった。

 試験時間は二時間であったが三十分足らずで見直しまで終わってしまった。


(俺も確認したが満点間違いなしだな。十二才のテストと考えるとこんなもんなのか?)


 試験が終わるまで退出できないため、試験終了を待って退出したが、退出の時には受験生たちの悲痛な声が聞こえてくる。やはり一般的な十二才にとってはかなり難しい試験だったようだ。


 シエルと一緒に昼食をとったあと、魔法の実技試験会場に向かったが人数はかなり少ないようだ。少ないと言っても百人程度はいるようなので国立学園受験者の多さはとんでもないものだと思う。


 既に試験が始まっているようで、受験者は設置してある十個の的に向かって魔法を放っている。どうやら試験内容はエイジア王国と同じようだ。エイジア王国の士官学校では的に魔法が届けば合格だったと思う。


(思っていたとおり魔法使いのレベルは低いな……的まで魔法が届くレベルが全体の一割ってところか……まともに魔法の発動すらしていないのも結構いるな……あいつら何で魔法の試験を受けているんだ? )


(全く使えない剣よりは発動するかもしれない魔法の方が期待できるからじゃない? 剣の方がレベルは圧倒的に高いだろうしね)


(的まで魔法が届いてどや顔しているやつらがトップレベルだからな……魔法の発動ができるだけでもそれなりに加点されるのかもしれんな……しかし、あいつらが学園で学んでどの程度のレベルになるのか……お、次はシエルの番みたいだぞ)


 国立学園の実技試験に治癒魔法の項目はないため試験は攻撃魔法を使う必要がある。シエルの攻撃魔法は見たことがないが治癒魔法が使えるのだからそれなりのレベルでは使えるはずだ。


 シエルが的に右手を向け詠唱を始めた。詠唱が進むにつれて魔力が炎に変わったようでシエルの前に一つの火球が現れたのが見えた。運動エネルギーを与えられた火球は的の一つを破壊した。シエルは続けて魔法を使い、最終的には10個中8個の的を破壊したようだ。


(まあまあだな。治癒魔法で鍛えているだけあって魔力はそれなりにあるし他の奴に比べて魔力制御もできている。あれなら合格間違いなしだな)


 発動スピードも威力も魔獣相手に戦えるレベルではないが、人間相手であればそれなりにやれるレベルの魔法だと思う。


 しばらく待ってようやく僕の番がやってきた。どの魔法を使うか悩むところだ。


(現時点で目立ちすぎる必要はないからほどほどにしとけよ。あと、無詠唱魔法がどのくらいレアなのか分からんから一応詠唱するふりをしておけ)


 オッ・サンの指示通り、詠唱しているふりをしながら体の周りに十個の火球を浮かべて的に向かって飛ばす。


 火球は一つも外れることなく的に命中し、全ての的を激しく燃やし尽くした。


 昔は十個中二個を外したことを考えると僕の魔法の腕もかなり成長しているようだ。それでもやっぱり炎魔法の調整は難しい。


「なんだよあいつの魔法……魔法騎士団レベルじゃないか?」


「的だけじゃなくて的の支えの金属棒まで燃やし尽くしたぞ……人間業じゃねえ……」


 やはり威力調整を間違ってしまったようで、周りの受験生たちがざわついてしまっている。結局僕が使った試験場は使用が出来なくなってしまったようなので、その列に並んでいた受験生たちは移動を余儀なくされたようだ。


 受験生や試験官たちの冷たい視線を浴びながら試験場を後にすることになった。


「チェイス君やりすぎだよ! 試験官の人が『試験場を破壊する受験者なんて初めてだ……』って真っ青になってたよ」


 僕の試験の様子をシエルも見ていたようで、帰り道はシエルからお説教されながら帰ることになった。


(やはりこの調子じゃシエルの尻に敷かれそうだな……)

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