第53話 新種の発見者になった僕たち

 洞窟を出た僕とロックは近くの町に戻り、商隊を組織した後に再び洞窟に戻った。やはり地底世界に肉食獣はいないのか、バムートの遺体はそのままの姿で横たわっていた。


 同行した冒険者ギルドの職員は間違いなく新種だとバムートの姿を紙に模写していた。これから素材と共に鑑定にかけ、名前や種族名を決定するとのことだ。素材の売却は鑑定が終わるまでは禁止され、鑑定後にまとめて冒険者ギルドが買い取るとのことだ。やっぱり肉を食べておけばよかったと激しく後悔してしまった。





「チェイス! こないだの魔獣の名前が決まったぞ! ブルースネークドラゴンでドラゴン種の新種として登録するらしいぞ!」


「毎回思いますけど名前の付け方にセンスがないですよね。もっとかっこいい名前はなかったのですかね」


「魔獣の名前付けにはルールがあるんだ! まずは魔獣の特徴的な部分が先頭でそのあとに種族名が付く。今回はスネークドラゴンは一種だけで他と区別する必要がないからブルースネークドラゴンという単純な名前になったがスネークドラゴン種が増えればブルーウイングスネークドラゴンなど名前が変わる可能性もあるぞ! 冒険者はバカばかりだから単純な名前じゃないと覚えられないからな!」


(確かに……冒険者が魔獣を簡単に識別できることが重要だからな。カッコよさよりわかりやすさを優先して名前が付けられているのか……)


「売却金額も決まったのですか?」


「そのあたりの話は冒険者ギルドであるらしいから一緒に聞きに行くぞ!」


 ロックと一緒に冒険者ギルドに入ると微妙な表情をした受付嬢のミアが出迎えてくれた。


「おう! 宝物は見つからなかったが、バムートは狩ったぞ! 約束どおり飲みにいくか!」


「本当に見つけるとは思いませんでしたが……分かりました! 約束ですので行きましょう! でもロックさんたちのおごりですからね!」


「よっしゃ! じゃあ話が終わった後に行くぞ! めちゃくちゃいい店に連れていってやるから期待しておけよ!」


 ミアは僕とロックを応接室に通すと部屋を後にした。


 その後すぐに壮年の男性二人が応接室に入ってきた。


「お前たちが噂の冒険者か! ロックとチェイスだったな? 私はオルレアン冒険者ギルド長のメイソンだ。先日のデモン討伐に続き、新種のドラゴンの発見とは大変すばらしい! 優秀な冒険者が所属してくれて当ギルドとしても嬉しい限りだ」


 メイソンは手を差し出して握手を求めてきたためそれに応じた。


「おっとすまない。査定結果を伝えなければならなかったな。結果については研究員のゼルタから話をする」


 ギルド長の横についていたのが研究員のゼルタのようだ。色白で長髪、無精ひげを生やしている。いかにも研究熱心で他の事には興味がないといった感じに見える。


「ゼルタだ。早速だが説明させてもらうよ。今回新たに発見されたブルースネークドラゴンだが、近年稀にみる研究素材だったよ。今までのドラゴン種とは全く違った姿で鑑定には難儀したけど、間違いなくドラゴン種だね。鱗にも魔力を宿していたようだし、筋肉の繊維構造を詳しく見てみると……」


「おい! 査定の詳細はどうでもいいから金額と買い取りの話だけにしてくれ!」


 僕はブルースネークドラゴンの研究結果にも興味があるが、ロックは全く興味がないらしく早く買い取り金額知りたいようだ。


「ここからが面白い話なのに……仕方ないな……買い取り金額は金貨二千枚でどうだい? 新種だし、もっと綺麗な状態なら買取価格も上がったのだけど、傷や火傷の跡がひどくてね。血もほとんど残っていなかったし、この金額で検討してくれないかな?」


 確かに頭はぐちゃぐちゃだし、雷を頭上から落としたことであちこちが焼けただれていてお世辞にも綺麗な姿とは言えなかったので仕方ないのかもしれない。


「本来なら倍は欲しいところだが仕方ないな! その代わりと言ってはなんだが、冒険者ランクを上げてくれないか!?」


「冒険者ギルドも財政的にそこまで余裕があるわけじゃないから助かる。ロックがD級でチェイスがE級だったな? デモン討伐の功績もあるし、ロックはB級、チェイスはC級に昇格させよう。ただB級に上げるためには上の許可がいるから少し待て。功績を考えれば間違いなく昇格するだろうがな」


 一気に二階級も上がってしまった……これで冒険者ギルド証の色が黒色になる。冒険者ランクが上がれば上がるほどカッコいい色になるためそれがとてもうれしい。






 ギルド長たちの話が終わった後、早速ロックが受付嬢のミアを誘って飲みに行くことになった。ロックはよほど気合を入れているのか、オルレアンでも最高級の店に行くことになった。


「ええっと、本当にいいのですか? このお店の一食で私の一カ月分の給料くらい簡単に飛んで行くぐらい高いですよ……」


「いいんだよ! 嬢ちゃんの情報のおかげで今回は金貨千枚の儲けになったからな! 遠慮なく食え! 今日は俺が出すからチェイスも遠慮なく食っていいぞ!」


 今回の報酬金貨二千枚はロックと半分に分けることにした。


「では遠慮なく頂きます!」


「おう! 食え食え! とりあえずこの一番高い料理を十人前と一番高い酒を樽で持ってきてくれ!」


 ロックの遠慮なしの注文に周りの客はドン引きしているが、ミアはうっとりとした表情でロックを見ている気がする。


 この店はグリフォン肉の料理を売りにしているらしい。ロックが頼んだグリフォン肉のステーキや串焼き、グリフォンの卵のオムレツなどが山のように運ばれてきた。グリフォンの卵一つでいくらの値段になるのか恐ろしい限りだ。


「とりあえず乾杯! 今回もチェイスのおかげで楽しい冒険になったぞ! 良いところはチェイスにほとんど持っていかれたのが残念だがな!」


「ええー! バムートに止めを刺すっていう一番美味しいところを持って行ったのにそんなこと言っちゃいます?」


「はっはっは! そうだな! しかし、あれはかなり気持ち良かったぞ! これがあるから冒険者は止められないんだ! まあ、それもこれもチェイスのおかげだな!」


 ロックはバムートに止めを刺した瞬間を思い出したのか大笑いしながらジョッキの酒を飲み干した。


「二人とも本当にお強いのですね。バムートは伝説だけだと思っていましたけど実在するだけじゃなく、まさか倒しちゃうなんて夢にも思いませんでしたよ」


「何もなければ噂にはならんからな! 地底湖やバムートの噂は、噂と言うには具体的すぎるほどの情報があったから俺は絶対本当だと確信していたぞ!」


「ロックさんて見た目は筋肉バカに見えますけど、情報収集や分析とかなんでもできますよね。罠にも詳しかったですし」


「冒険者はなんでもできんと早死にするからな! 俺はこう見えても元エイジア王国王都の騎士団長だぞ! 基本的な技術は習得済みだ!」


 なんと意外な過去……この山賊のような男が騎士団長にはとても見えないのだが……


「その過去は意外過ぎるでしょ! なんで辞めちゃったのですか?」


「面白くなかったからだ! 俺より強い奴や喧嘩を売ってくるようなやつはいなかったし、自由もなかったからな! 後任にぴったりの奴が見つかったから辞めることにしたんだ。騎士団長を辞めて数年になるがやはり自由な冒険者が一番だな!」


「元騎士団長となるとロックさんいくつなのですか!?」


「もうすぐ三十五才だ! 若く見えるだろ!?」


「いえ、四十才くらいだと思っていました。騎士団長って結構若い年でなれるのですね」


「ああ!? この顔はどこからどう見ても三十代だろ! まあ、俺は特別強かったからな! ちなみにだが俺の後任は十才くらいのガキに任せてきた! チェイス程じゃないがなかなかに才能があるやつだった」


「ええ…よくそんな人事が認められましたね。当時十才ってことは僕と同い年くらいですかね」


「大体同じくらいの年齢だと思うぞ。まあ、騎士団長はこいつに任せると言って出てきただけだから、その後どうなったかは分からんがな!」


 何とも自由で豪快で自分勝手な人である。確かにロックには騎士団長ではなく冒険者の方が似合っていると思う。


 ふと、ミアの方を見ると何か一人でブツブツと言っている。


「……元騎士団長の実力があって、超お金持ち……そこまで年上でもないし……」


 うん。もしかしたらこの二人うまくいくかもしれない。ミアは20代前半くらいだろうか、結婚するにしてもそこまで年の差があるわけでもない。


 その後はミアがロックのことを必死で持ち上げたおかげでロックは終始ご機嫌で飲めたようだ。かなり打算的な女性のような気もするが、冒険者ギルドの受付嬢はこんなものなのだろうか……


 二時間程飲んだところで店を出ることにしたが、ロックとミアは二人で二次会に行くらしい。ミアはロックに腕を絡めている。


 僕は久しぶりにシエルに会いたくなったのでシエルにの家に戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る