第52話 斧と魔法で共闘する僕たち

 ロックはバムートの胴体を足場にして大きく飛び上がり、青白く輝くミスリルの斧をバムートの頭部に振り下ろした。ロックの死角からの一撃はバムートの頭部をとらえたように見えたが、バムートは頭部を捻って回避した。


 ロックの攻撃は頭部を外したものの、頭についている羽の部分に命中し、バムートの青く輝く羽を切り落とした。バムートは痛みで冷静さをなくしたのか、頭を激しく振り暴れまわっている。


 ロックは冷静に再びバムートの体を蹴って飛び上がり再び攻撃を仕掛けるが今度は大きく頭を振ったバムートの攻撃が直撃し大きく跳ね飛ばされた。


「ロックさん!」


「大丈夫だ! それより早く陸に上がれ!」


 水面に叩きつけられたロックだったが、よほど頑丈なのかほとんどダメージはないようだ。また、大きく飛ばされたことが幸いし、ロックはバムートから距離を取ることができた。


 ロックがバムートを引き付けてくれたおかげで何とか僕は陸地に上がることができたが、僕が陸地に上がったころにはバムートは多少冷静さを取り戻したようでこちらをにらみつけるように見ている。


 バムートはこちらをにらみつけるだけで攻撃してくる様子はない。この機に一気に決めてしまおうと、バムートに向かって土魔法を何発も放つが全て避けられてしまう。バムートは僕の魔法を全て避けた後、口を大きく開けた。


(魔障壁だ! ブレスが来るぞ!)


 咄嗟に目の前に魔障壁を展開した。その瞬間凄まじい圧力が魔障壁に係るのを感じた。魔障壁がどんどん削られていくため破壊されないように魔障壁を注ぎ込む。とんでもない量の水の塊が長い時間僕を襲う。


(なんとか耐えきったようだな……水を吐き出しているだけのように見えるが威力が凄まじいな……あれは間違いなく魔力を使っているぞ……)


 ブレスを吐いたことで多少消耗したのか、バムートは水面下に頭部を隠した。だが、完全に沈んでいったわけではなく、次の攻撃機会を待つように浅いところを漂っている。ロックはバムートがブレスを吐いている隙になんとか陸まで上がったようだ。


(バムートの鱗は固すぎる! 次にブレスを吐こうとした瞬間に口の中に極大の土魔法を食らわせるぞ!)


 しばらくするとバムートは再び湖面に頭部を出し、口を大きく開いた。


 だが、バムートがブレスを吐き出すより、準備を終えていた僕の方が魔法の発動は早かった。バムートの口に向かい巨大な岩石を放つ。バムートの口からブレスが吐き出されていたが、岩石がそれを押し戻しバムートの口内を突き破った。


 バムートの首筋には大穴が開き血があふれ出ているがまだ倒れない。なんとか水面下に逃げようとしているが体が言うことを聞かないのか、胴体を水面に打ち付け暴れまわっている。


「よし! 任せろ!」


 ロックはそういうと強く地面を蹴り上げバムートに向かって飛び上がった。下手したら十メートル以上跳躍しているかもしれない……


 ロックの青白く輝くミスリルの斧が今度こそ間違いなくバムートの右目を捉えた。


「よし! 右目は貰った!」


 ロックの斧は確かにバムートの右目に突き刺さったが致命傷を与えるまでは至っていないようだ。


(蛇系はタフだな……右目の死角から土魔法を食らわせてやれ!)


「ロックさん! 魔法で攻撃します! 一旦離脱してください!」


「分かった!」


 ロックはそういうとバムートの頭を蹴り上げ大きく宙に舞った。


 ロックが離れたのを確認して、バムート目がけて極大の土魔法をお見舞いする。


 さすがのバムートも死角からの攻撃は避けることができなかったようで、土魔法が命中したバムートの首周辺は吹き飛ばされ、頭と胴体は辛うじて繋がっている状態だ。


「やったか!?」


「いや! まだだ!」


 確かに致命傷を与えたと思ったがバムートはまだ動きを止めない。


 大きく宙を舞っていたロックは暴れるバムートの背中に着地し再び飛び上がり、斧を大きく振りかぶった。


 ロックの攻撃で、辛うじてつながっていたバムートの首は吹き飛ばされてしまった。


「今度こそやりましたね……しかし、デモンのとき以上に苦戦しましたよ……ロックさんに良いとこ持っていかれちゃいましたし……」

 乱れた息を整えながらロックのもとに向かう。


「悪いな! 前回のデモン戦のときは全く活躍できなかったからな! しかしAランク相当の魔獣だったんじゃないか!? よく倒せたもんだ! 今回も俺だけだったら間違いなくやられていたぞ!」


「ただ静かに暮らしていただけなのに殺しちゃって悪かったですね……」


「負けるやつが悪いんだ! 人間も静かに暮らしていても魔獣に襲われて死ぬこともあるだろ!? 気にするな! それより早く素材を回収するぞ!」


 動かなくなったバムートを陸に上げて解体する。

「うーん……余裕がなかったので仕方ないですが、かなり状態が悪いですね……臓器が潰れていないのがせめてもの救いですが傷だらけで売値はかなり下がりそうですね」


「まあ、素材のことを気にかけられるほど余裕がなかったから仕方ないな! 状態は悪いが新種なら冒険者ギルドがそれなりの値段で買い取ってくれるだろ!」


バムートの体を全部持って帰るのは無理そうなのでお金になりそうで腐りやすそうな臓器を中心に持っていくことにした。残りは商隊を雇って後で運んでもらうことにしよう。


「しかし見れば見るほどドラゴンにそっくりだな! ブレスも吐くし鱗も固いし、こいつ実は魚じゃなくてドラゴンじゃないのか!?」

「そうかもしれませんね。そのあたりを正式に決めるのはどの組織になるのですか?」


「新種を発見した場合は冒険者ギルドから聞き取り調査があってそのうえで正式な名前や分類が決定されることになる!」


 冒険者ギルドの決定次第では神魚バムートではなく、神龍バムートになる可能性もあるということか……


「ところでロックさん、少しだけバムートを食べてみませんか? 多分新鮮なうちの方が美味しいと思うんですが……」


 「食ってみないのはやまやまだが、食ったのがばれると調査員にうるさく言われるからな! もしばれたら調査書に、新種を見つけたにも関わらず我慢できずに食べてしまった冒険者のチェイスとロックと書かれることになるぞ!」


「う……それは避けたいですね……」


 食べたい気持ちを抑えて、持てるだけの素材を持って地下世界を後にした。

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