第49話 神魚の噂を追う僕
ここ最近うだるような暑い日が近づいている。オルレアンはイースフィルより北方にあるため、夏は過ごしやすいと思っていたが予想外だ。
(湿度が低いのがせめてもの救いだが、それにしても暑いな。夏に限ってはイースフィルの方が過ごしやすそうだ)
(これだけ暑いと泳ぎにでも行きたくなるよね。近くに川や池はないのかな? )
(どうせ暇だし冒険者ギルドに水辺の依頼がないか見に行くぞ。水中の魔獣相手に戦ったことはないからいい経験になるかもしれん)
冒険者ギルドに向かう途中の酒場は朝から大盛況の様子だ。この暑さの中、昼から狩りに行こうとは思わないのだろう。
冒険者ギルドで依頼を見るが、普通の狩りの依頼は山のようにあるのに水辺近くの依頼は出ていない。諦めて通常の依頼でも受けようと思っているところに山賊のような大男が近づいてきた。背中には青く輝くミスリル製の斧を背負っている。
「ようチェイス! 今から狩りか!?」
いつもの野太い大声で、山賊のような大男、ロックが話しかけてきた。
「あまりに暑いので水辺の依頼がないか探していたのですが、ないようなので普通の依頼を受けようと思っているところです」
「それなら面白い話があるぞ! 西にある山脈近くの洞窟に地底湖があるらしいんだがそこに狩りに行かないか!? 地底湖はあくまで噂だがな!」
「なんか冒険者っぽくて面白そうですね! 地底湖にはどんな魔獣がいるんですか?」
「うわさでは神魚バムートというバカでかい魚がいるらしい。ただ洞窟の中は迷路のように入り組んでいて地底湖までたどり着くのも難しいらしいがチェイスなら魔法でどうにかできるだろ?」
魔法はそこまで万能ではない気がするが……
(オッ・サンの探査魔法で地底湖への道は分かる? )
(すべてを把握するのは無理だが、ある程度なら分かると思うぞ)
「魔法でどうにかできるかは分かりませんが行ってみますか! その洞窟はオルレアンから近いのですか?」
「近くの町までバイコーン馬車が出ているし、二日もあれば着くだろ! あまり馬車には乗りたくはないがな!」
「じゃあ早速行きますか! 久しぶりの冒険なんでわくわくしますね! 洞窟の中に宝箱とかないかな……」
「もしかしたらあるかもしれんな! 出発前に受付にいろいろ聞いてみるぞ!」
受付嬢のミアに聞きに行くと心底面倒くさそうな顔で対応された。
「西の洞窟……パディラックの洞窟ですね……財宝があるという話は聞いたことがありませんが……地底湖も噂があるだけですよ。本当に男の人って宝物とか冒険とかが好きですよね」
バカにしたような目つきで見てくるミアの顔がちょっとむかつく。
「宝探しは男のロマンだからな! なんかないのか!? 盗賊団のアジトが近くにあるとか、伝説の剣が眠っている伝承があるとか!」
「オルレアン西側ですと隠れ教の伝承が有名ですが……」
ミアは少し考える仕草を見せた後に答えた。
「隠れ教ですか? 初めて聞きましたがどういったものなのですか?」
「邪神信仰については聞いたことがありますか? 数百年前はイリス教、ユグド教、そして邪神信仰のプオール教の3つが大陸の三大宗教と言われていたようです。ある時期から各国がプオール教を邪神信仰と認定して弾圧したために今ではその信仰は残ってはいませんが……そのプオール教の隠れ里がオルレアン西側にあったようですので、もしかしたらパディラックの洞窟にも何かあるかもしれませんね」
「面白い話になってきましたね! そういえば以前冒険した森で全身が金や銀でできた邪神の像を見つけたことがありますし、ここにも同じようなものがあるかもしれませんね!」
「それは本当か!? なかなか期待できる話じゃないか! ちなみにパディラックの洞窟の地底湖にいるという神魚バムートについては何か依頼が出ていたりしないのか!?」
「神魚バムートですか……それも伝説上の生き物ですし、見つけられたら大発見ですが……特段依頼は出ていなかったと思いますよ」
「存在が確認されているわけじゃないのですね……特徴などの言い伝えはあるのですか?」
「いくつか説はありますが、蛇のように長い体は青白く光っていて頭部に短い羽のようなものが生えていてといった話をよく聞きますね。あと体はかなり大きくて長いようですね。あくまで噂話の世界ですけどね」
(うーん……もしかしたらドラゴン系の魔獣かもしれんが蛇の魔獣かもしれんな……)
(大きさ的にかなり強そうだよね。水の中での戦いだと勝つのは難しいかも……)
水中戦の経験はないため、水中の魔獣相手に戦うのはかなり厳しい戦いになりそうだ。そもそも僕は泳いだ経験がないので水の中でまともに動けるのかの不安も残る。
「わくわくしてきたな! 早速向かうぞ! 今日は近くの町までバイコーン馬車で向かって明日の朝から徒歩で洞窟に向かうぞ! 宝が見つかったら飲みに誘ってやるから楽しみに待っていてくれよ!」
「ええ、お宝とバムートの発見の報告楽しみにしていますね。では、気を付けて行かれてください」
ミアはにっこりと笑顔で見送ってくれたが口調は淡々としたものだった。絶対に無駄骨に終わると思っているのだろう。
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