第27話 ギルド長の尋問を受ける僕

 エバに招かれるままに冒険者ギルドに向かった。相変わらず昼の時間帯は冒険者ギルドには誰もいないようだ。エバが案内したのは五階のギルド長室だ。


「ギルド長が今回の件を聞いたうえで裁定を下すとのことですので正直にお答えください。私も一緒に入りますがいいですね?」


 エバも一緒に入ってくれるとのことでちょっと安心してしまった。


(アル、なんか安心しているようだが、エバはアルの発言に嘘がないか監視する役だと思うぞ。名前だけは間違えないように気を付けろよ。出身は孤児でルアンナに拾われたという設定にしとけ。あとは適当にルアンナが話を合わせてくれるだろ、多分)


 ルアンナがどこまで話を合わせられるか不安はあるが、イースフィル家の長男だとは口が裂けても言えない……そしてルアンナが話を併せてくれるかどうかも怪しいものだ。


「失礼します。容疑者のチェイスを連れて来ました」


「入っていいぞ」


 中から入室を許可する声が聞こえたため、エバがドアを開け、僕たちは中に入った。ギルド長室というくらいだから豪華な部屋をイメージしていたが、執務用の机と椅子、本棚があるだけの質素な部屋だった。


 来客用の椅子は用意されておらず、部屋唯一の椅子に座っているのは、大柄な中年の男性、間違いなくこの男がギルド長だろう。


 エバに促され、僕たちは男の前にまで進んだ。


「オークニアギルド長のレイバンだ。まずは冒険者ランクと名前を言え」


 レイバンは机の上に乗せた両手を組み、こちらをにらみつけながら低い声で言い放った。ルアンナはダルそうに左手を腰に当てて斜めに立っている。非常に心証が悪くなりそうな態度だ。


「Eランク冒険者のチェイスです」


「Dランクのルアンナ・ドラゴニアだ」


「二人の関係はなんだ? 私が呼んだのはチェイスだけだが? ここから先は全てチェイスが答えろ。ルアンナの発言は私が認めた時だけだ」


「ルアンナ先生は私の師匠で魔獣の狩り方について教えてもらっています」


 まだ嘘はついていないと思う。


「師弟ということならルアンナの付き添いを認めよう。さて、私が聞きたいことは分かるかね?」


 ギルド長は僕の目を見ながら問いかけてきた。


「タッドを殺したことだと思いますが……やはり殺したのはまずかったでしょうか?」


「はあ……君には常識がないのか? 殺してはダメに決まっているだろう」

 ギルド長は右手で眉間を押さえ、ため息を吐きだした。


「まあいい。目撃者の証言からタッドに非があったのは分かっているし、冒険者同士の争いにそこまで首を突っ込むつもりはない。だが、Eランクの優秀な冒険者を亡くしたのは我がギルドとしても痛手だ。他の冒険者の手前、なんらかの罰を与える必要はある」


(タッドが優秀な冒険者ってのは言い過ぎな気もするが、ギルド長の言うことはもっともだな……)


「具体的にはどのような罰ですか? できれば罰金くらいで勘弁して欲しいのですが……」


 何年も檻の中で過ごしたり、むち打ちの刑などは遠慮願いたいものだが……


「本来であれば、冒険者の資格停止か除名程度は覚悟してもらいたいところだが、私も優秀な若い冒険者の芽を摘みたくはない。そこで取引をしないか?」


 ルアンナが大きくため息を吐いた。面倒なことを押し付けられることを理解したのだろう。


「一応取引の内容をお聞きしますが……」


 ギルド長が初めて笑顔を見せて内容を離し始めた。


「オークニアの町の西方に山岳地帯がある。最近そこにある魔獣が巣を作っている。今のところ問題はないのだが、麓の村まで下りてくるといろいろと面倒でな。できれば今のうちに討伐したいと考えているんだが、うちのギルドの冒険者では力不足なのでお前らに依頼をしたいと思っている」


「もうしゃべってもいいだろ? その魔獣はなんだ? 冒険者ギルドの手にあまるレベルならCランク以上だろ?」


 ルアンナがギルド長をにらみつけるように話す。


「ああ、すまない、喋ってもらって構わない。目撃者の話によるとグリフォンだと思われる。それが十匹程度いるらしい。オークニアのギルドにはほぼ剣士しかおらんから、空を飛べる魔獣に対抗できる冒険者が少ないんだ」


「チェイス、帰るぞ。グリフォン中匹など手間がかかりすぎる。侯都の魔法騎士団にでも依頼するんだな」


「待て待て待て! チェイスはまだ若く才能もあるんだ、除名はさすがにまずいだろ?」


「冒険者ギルドに登録したのは身分証が欲しかっただけだし別に商業ギルドでも構わん。そもそもチェイスくらいの実力があれば王直属の魔法騎士団にでも簡単に入れる。冒険者ごときに固執する意味はない」


 ギルド長はルアンナの反撃に言葉を返せずに黙り込んでしまった。僕としては冒険者として生きる道を消したくはないので除名は阻止したいのだが……


「分かった……今回の騒動については不問とし、改めて討伐の依頼をするから受けてもらえないか?」


「最初から素直にそう言っておけ。討伐報酬は一匹当たり金貨十枚、素材は全部ギルドに売却するが運搬解体等は無料でやってもらう。当然売却金はこちらが頂く。その条件で良ければ引き受けよう」


「それはさすがにふっかけすぎだ! 討伐報酬は規定通りの金貨五枚、運搬解体手数料は一割を貰う!」


「最初から素直に依頼しておけばその条件でも聞いたかもしれんが、私は試されるのも嫌いだが、無駄な時間を使うことが一番嫌いなんだ。この条件以外では受けんから、無理なら他を当たれ。もっとも王国中を探しても私たち二人以上の冒険者は見つからんと思うがな」


 ギルド長は目をつぶり、右手で眉間を押さえ考えて込んでしまった。困ったときに眉間に手を当てるのが癖なのだろう?


「その条件で依頼するから早急に頼む。オークニアの冒険者では太刀打ちできんし、魔法騎士団は現在侯都を離れていて依頼することが出来んからな」


「夏の間にユールシアとの貿易ができないとノストルダム領にとっては大打撃だからな」


 ルアンナがあざけるように言い放つ。


「分かっていたのか……既に商隊が一週間以上麓の村から動けない状況で、ユールシアからの商隊もいくつか犠牲になっている。一刻も早く討伐をお願いしたい」


 明日の朝出発なのでそれまでに準備をして欲しいと前金の金貨一枚を渡された。グリフォン討伐にはギルド長とE級冒険者二名が同行するとのことだ。ギルド長からの依頼を受けて、冒険者ギルドを後にした。


「先生、ユールシアってなんですか?」


「なんだ、そんなことも知らんのか? 一般常識がなさすぎるぞ。ユールシア連邦はエイジア王国西方に位置する連邦国家だ。エイジア王国とユールシアの間には山脈があって行き来はかなり難しい。ノストルダム領西方の山脈は比較的なだらかなので、貿易はほとんどノストルダム領が独占している。その貿易が行えないのではノストルダム領主は頭が痛いだろうな」


 ちなみにノストルダム侯爵領の侯都が今いる町のオークニアで、僕たちの領地イースフィルもノストルダム侯爵領に所属している。


(そういえば王国の外のことは全く聞いたことがなかったな。貿易をするくらいだからユールシアとは仲が悪いわけではないんだろうな。しかし、ノストルダムの状況が分かっていて報酬を吊り上げるとはルアンナもやり手だな)


(こっちも悪いところがあるから手伝って上げてもいいかなと思ったけど、ルアンナはしっかりしてるよね。普段は適当なのにお酒とお金のことになると一生懸命というか……)


「そういえばグリフォンという魔獣は強いんですか? 討伐報酬が金貨五枚ですから相当ランクが高い魔獣みたいですけど」


「グリフォンはCランクで縄張りに入った生き物は全部エサにしてしまうくらい好戦的な魔獣だ。空を飛ぶし、風魔法を使えるから剣士では勝ち目がない。動きも相当早いからレベルの高い魔法使いじゃないと討伐は厳しいな。まあ、私とアル君なら討伐だけなら何の問題もない。グリフォンは素材が高く売れるからいかに傷つけずに仕留めるかの方が重要だ」


「Cランクの魔獣なんて物語の中でしか聞いたことがないんですけど……本当に二人で大丈夫なんですか?」

「Bランクになると死ぬ可能性が出てくるが、Cランクまでならよっぽどヘマをしない限りは大丈夫だ。もちろん一撃食らえば死ぬから油断はするなよ」


 それは大丈夫とは言わないと思います…… 


(身体強化も防御力までは上げてくれないし、どんな優秀な剣士でも魔法使いでも、下級の魔獣の一撃で簡単に死ぬからな。今後のことを考えると早めに魔鱗を完成させた方がいいかもな)


 魔鱗は未だに右手首まで発動するのがやっとの状況で完成までにはまだまだ時間がかかりそうだ。


 明日に備えて色々と準備をしたかったが、結局ルアンナは前金で貰った金貨一枚を持って酒場に消えて行ってしまった。



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