第5話 絶対防衛圏展開

 ユイが驚きの表情を浮かべたまま、声も出せずにいると、その皮膚の色がせ、全身が灰色に変色し……石像のように動かなくなった。


……そして……『ゴドッ』と音を立てて……その場に倒れ込んだ。


「ユ! ユイ!」揺り動かすが、全身が『石化』している!


「な……な……!?」


 ……全く状況を飲み込めずにいる俺に佐奈ちゃんは不敵な笑みで……


「わたしが『コマイ先生』を尊敬している事を何処かで嗅ぎつけた貴方あなたたちは、それを餌にわたしから『すめらぎ宇宙軍』の情報を訊き出そうとしたんでしょ!」


「違うよ! 実は、俺たちは『落合さん』……違った『コマイ先生』の友だちなんだ!」


「嘘! 貴方あなたもこうしてやる!」


 佐奈ちゃんが、俺にもさっきの音を向けた。


 ……が!


 俺は普通の人間だ。 変化が起きる訳がない。


 俺が平然としているのに慌てた佐奈ちゃんが、スマホと俺を交互に見比べ、泣きそうな顔を浮かべた。


 泣きたいのはこっちだよ〜! ユイを戻してやってくれ〜!


 ……!


 佐奈ちゃんは、舌打ちをしながら……


「くそっ! てめぇ『衛鬼兵』じゃねえな……そう言えば、奴らは『異世界』では臨時司令官を選ぶ……って話を聴いたことがある。 ……てめぇは、ここでの臨時司令官だな……?」……と言った。 


 これは、明らかに佐奈ちゃんではない。


 俺は「お、お前、まさか『斬鬼軍』?」と言い終わる前に……『佐奈ちゃん』は糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ち、そこには、岩とサボテンが合体したような、異様な生物が姿を現した。 ……そして、戦いの素人である俺にも判る『殺気』をみなぎらせ、その殺気は、当然俺に向けられている。


 えっ?



 ……なんで……こんな事に……。



 

 ……一度、整理しよう。


 俺とユイは、大家さんの孫『矢主やぬし佐奈さな』ちゃんが、片想いの同級生との恋愛を叶える夢を、俺達の友人『落合真子』さんこと、Web小説家『コマイ アチオ先生』の作品……『宇宙を放浪する無敵軍団【すめらぎ宇宙軍】が、少女の片想いを叶えるべく、本当の戦争を始める』というストーリーと重ね合わせている事を知り、本人に会いに来たんだ。


 ……そもそも、佐奈ちゃんが『コマイ先生』のファンである……と言う情報は、どこから……?


 ……!


 『情報参謀』だ! 今回の作戦は、あのヒョロ長の一言から始まったんだった!


 ……まさか……ヒョロ長の……裏切り……?


 ユイはこんな事になっちゃったし、気が付けば周りは岩サボテンだらけ! 更に、ここは佐奈ちゃんの部屋と違い、だだっ広い荒野になっていて、波状攻撃にはうってつけのロケーションだ!


 ……これって所謂いわゆる絶対絶命のピンチなのでは!?


 その時『司令徽章』から、聞き慣れたヒョロ長の声がした。


「総司令閣下! 聴知出来ますか?」


「聴こえてますが……こっちはとんでもない事になってますよ……」


「大体の状況は、こちらも把握しております!」


 ……良かった……いつものように『衛鬼兵団』が何とかしてくれそうだ……。


 ……少し安心したのも束の間、情報参謀が続ける……「しかし、想定外だったのは、斬鬼軍が、我ら『衛鬼兵団』のみに致命的な打撃を与える兵器を開発した事でした!」


 ……致命的……!? じ、じゃあ、ユイは……?


 「あ、前総司令閣下に関しては、ご安心下さい。 前総司令閣下は、間一髪で細胞をケイ素に変換したので、命に別状は御座いません。 そこにいる斬鬼兵を殲滅したあかつきには、即座に復活なされるでしょう」


 そうか、なら、ずは一安心♥


 ……って、おい! こいつらはどうするんだ!?


「恐れながら、閣下に具申致します。 我々は、奴らの超兵器がある以上、参戦出来ません……。 只今対抗策を模索中でございます。 ……総司令閣下には、お手数をお掛け致しますが、その場に居る斬鬼兵およそ百体の処分をお願いしたく存じます!」


 ええええええええええ!?


 こ、このヘイボンな俺に何が出来ると言うのか!


「ご安心下さい。 総司令閣下には、『司令徽章』があります! 『司令徽章』に『フォーメーション “コード・絶対防衛A・D”、発動アクション』とおおせられよ!」


 ……以前、戦国時代にタイムトリップした時に、情報参謀に命じた時の記憶が、ふと蘇った。(本作、第3章『初陣』第5話『出撃ソーティ』をご参照下さい。)あの時も、誤解とは言え、細河様への怒りに打ち震えていた。


 ……今もそうだ。


 石になって倒れているユイ……。


 奴らに利用され、取り憑かれて、遂には投げ捨てられたかのように崩れ落ちた佐奈ちゃん……。


 斬鬼軍……こいつら……絶対に許さない。


……俺は……ヘイボンなサラリーマンだが、一つだけ他のサラリーマンと違う所がある……。


 俺は、無敗の軍『衛鬼兵団』の司令官……たいら 盆人はちひとだ!


 ユイ! 佐奈ちゃん! 安心しろ! 直ぐに助けるからな!


 そして衛鬼兵……無骨だけどお人好しなこいつを倒そうとする奴らは、この俺が許さない!


……俺は全身全霊の怒りを、この一言に込めて叫んだ!


「フォーメーション “コード・絶対防衛A・D”、発動アクション!」

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『恋愛は戦争』って言うけど、俺の片思いが本当の戦争に発展するとは思っていなかった! コンロード @com-load

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