少女と夏
惟風
少女
顔を上げて僕の姿を認めると、立ち並ぶ木々の陰にいた彼女は、明らかに嬉しそうな表情をした。まるで花が開くように。そして、ゆっくりと姿勢良く立ち上がる。僕はぎくりとして立ち止まった。見つかってしまったという焦りは、彼女に伝わっただろうか。
傾き始めた午後の日差しが、生い
白いワンピースから覗く首筋が、じっとりと汗ばんでいるのが見える。サンダルを履いた
昨日で十四になったばかりの、大人とも子供とも言えない未成熟な魂がそこにあった。
青の濃い空には入道雲が遠く静かに構え、耳をつんざくような夏の虫の鳴き声がそこかしこから降り注いでいる。ふと、風が止んだ。そのせいで、より一層、音が大きく聴こえる。
少女というのは
どうしてこんなにも
無垢な残酷さを
それは彼女だけの特権であるのか
思春期特有の
さも潔白で、誠実で、
寄るな。
こっちに、来るな。
拒絶の言葉は口に出してみると情けないほどにか細く、震えているのが自分でもわかる。知らぬうちに、僕は
しかし軽やかに、確実に、彼女は僕の
意に介さない表情で、彼女は
怒りさえこみ上げてくるのに、それなのに、僕は彼女の細く、形の良い指から目が離せなくなる。それどころか、じっと注視している。
僕は弱々しく
嫌だ、止めてくれと懇願する。
だが彼女は、僕を見て無邪気に笑っているだけだ。首を動かして却下の意志さえ示す。長い
逃げたとて無駄であることを、僕は既に知っている。だがこのままでは。強すぎる陽光がじくじくと僕の肌を焼いている。
僕の悲痛な願いを無視して、少女はおもむろに両手を開いてついにその“罪”を見せつけた。
果たして、黒い塊が
ミ゛ーーーン゛ミ゛ミ゛ッ゛ミ゛ミ゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ン゛ミ゛ッ
「おまっ、おまえええええ! マジやめろって言ってんだろうが!」
死にかけた蝉から逃げ惑いながら叫ぶ僕の声が、公園中に響き渡った。
「
彼女はそんな僕をニコニコしながら見つめている。
夏休みに祖父の家に泊まりに来るといつも、五歳下の従妹にこうやってイタズラされるのだ。
蝉どころか蜘蛛もムカデも蛇も平気な彼女にからかわれ続ける夏は、まだ始まったばかりだ。
少女と夏 惟風 @ifuw
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