裏切り者は夜に笑う

『ねー朔夜さん、ほんとにそう思うっすかぁ?』

 シャワーを済ませて、僕はアブデラが仕掛けた盗聴器の音声を聞いていた。

「全く。また法を使ったんですって?どうする気です、彼女に全部ばれたら」

 コーヒーを作る友人は、いつも以上に不機嫌だ。

「平気だ。口止めはしておいたし、秘密を破るような人じゃない。――それとも、記憶でも消しておこうか?」

「そういたします。やれやれ、向こう見ずな主を持つと苦労する」

 差し出されたコーヒーは僕の好み通り、砂糖2つ入りの薄めだ。

『だったら調べるべきだろう。何かあってからでは遅いぞ』

 僕はベッドで足を組みながら、借りてきた宗教学の本を広げる。

 今日は図書館へ行く時間などまるでなかったのだ、少しでも本を読んでおかなくては。

 アブデラは相変わらず、部屋の整理をしながら小言を言っていた。

『ちなみに朔夜さんは?なんか仮説とかあるんすか?』

 世界は真実よりなっている。

 この腐った島の狂信者は活字を通して、今日も僕にそんな綺麗事をわめきたてる。

『私はこう思っているんだ。実は――』


『奴は穂積黎ではないんじゃないか、とな』


 振り返ったアブデラが、何か言いたげに睨みつけてくる。

 どうして。面白いじゃないか。

 そう言う代わりに、僕は笑って見せた。

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世界は嘘であふれてる 雪代 @Yukishiro_0707

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