第2話

 知らない言葉も、興味だけを示す目線も、知らない言語を話す大きな背の男も、楽しげに話し、抱き合う胸の盛り上がった女も皆、怖かった。

 この国では私は1人で、1人では日本に戻れなかった。自由じゃなかった。

 知らない言葉も飛び出たような大きな目も、大きな動作も怖くて全てに目を背けた。

 最初は慣れない土地だからと、父も愛人なのか奥さんか分からない人も笑っていた。

 春にイタリアに来て、秋になるくらいには私は存在しないもののように接された。

 それから冬に弟ができた。父も母も海を固めたような透き通る青い目の弟を溺愛していた。

 暑いイタリアでも、冬は寒い。寒いから暖炉に当たりたいのに何となく、父の妻に嫌がられた。

 仕方なく行きついた図書館で、私はノエミという眼鏡をかけた鼻のてっぺんにそばかすのある女の人にイタリア語を習った。ノエミは図書館で働く始終笑顔の女性だった。ノエミは私にどう教えていいか考えあぐねた時、ショートカットの端っこをくるくると弄りながらペンを机にトントンと軽くノックしていた。

 イタリアはそんなにいい所ではなくて、お気に入りだった鏡やポーチは盗まれるし、買い物に行って言葉につまってもイタリア語の出来ないイタリア人だとバカにされた。

 全てが嫌だった。

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マイリトルシシリヰ ねなしぐさ はな娘 @87ko

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