10.平穏

ノエル様と魔獣を討伐した翌日、フローラは再び宮殿に来ていた。今日は王族に聖女がフローラであることを周知しに来たのだ。


もう国王とノエル様は知っているのだから、今更周知する必要もないのに……。表向きは午餐会に招かれただけなので、断ることもできなかった。


「本日はお招きいただきありがとうございます。フローラ・クレマンと申します」


国王とノエル様、そしてノエルのお母様がいた。ユーゴと婚約した時には、別の女性だったはず。……ユーゴとノエル様は異母兄弟だったのね。王族の情報には疎いから知らなかったわ。


「聖女様、この度の件は大変でしたね。今日は楽しんでくださいね」


笑った顔がノエル様によく似ているわ。強い魔力を感じるし、ノエル様はお母様似なのね。




午餐会は穏やかに過ぎ、そろそろお開きになろうという時、宮殿の外で爆発音が響いた。


「……やはり来たか。ノエル、片づけてきなさい」


国王が残念そうにノエル様に告げると、ノエル様はさっと出て行った。


「一体何が……」


「追放したはずの愚息どもが戻ってきたのですよ。お恥ずかしい。聖女様はここでお待ちください」


「私も行ってきます。私のせいでもありますし」


ミシェルを最後に挑発したのは私だ。宮殿に傷がついたら申し訳ない。




音のした方に向かうと、ノエル様がすでに三人を縛り上げていた。


「ノエル様!」


「フローラ。もう終わりましたよ。やはり魔獣がいなければ大したことはありません」


辺りを見渡すと、あまり被害は無いようだった。良かったわ、宮殿の修繕費なんてバカにならないもの。


「この三人、どうするおつもりですか?」


「普通に追放しただけでは足りないようだから、記憶を適当に改ざんして遠い国に売り飛ばすよ。……フローラが望むならもっと重たい処分でも良いよ。今回の件は、僕に一任されているんだ」


「それで十分ですわ」


三人を見ると、何か言いたげにしているが、口を塞がれて話せないようだ。


「お三方も懲りないですね。最初の処分を受け入れていれば、それなりに楽しく暮らせましたのに……。さすがの私も助けようがありません。聖女として、皆様の国外での活躍をお祈りしておきますわ」


恨めしそうに見つめる三人に好き勝手言うと、皆目を逸らした。指一本動かせないようだから、何かされることもないでしょう。いい気味だわ。




「ノエル様、お怪我はありませんか?」


「大丈夫。心配して見に来てくれたんだろう?ありがとう」


「いえ、私は何も……」


にこにこと笑うノエル様は、先ほど冷酷な判断をした人と同一人物とは思えなかった。


ノエル様は何かを思いついたように、パッとこちらに向き直し、私の肩に両手を置いた。


「ねえフローラ、見ての通り僕はそこそこ強いよ。聖女としての役割も手伝ってあげられる。あいつみたいにバカな情報に振り回されたりしない。だから……僕にしない?」


「何の話です?」


「だからー、僕と結婚しない?ってこと」


結婚?ノエル様と?考えてもみなかったわ。


「今すぐにはお返事出来ないのですが……」


「うん、ゆっくり考えてみて。あ、父上は賛同してくれているからね」


そこまで話をつけているのね……。ゆっくりと言いつつ、周りを固めているなんてさすがね。




「僕はずっと前からフローラのことが好きだったんだよ。あいつと婚約したって聞いたときは、本当に落ち込んだんだから。……次は絶対逃さない」


どうやら第二王子は本気のようです。でも悪くないと思っている時点で、きっと私も彼に惚れているのでしょう。

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聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます 香木あかり @moso_ko

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