第41話 リース支部のギルドマスター
地獄の馬車の旅を終え、ようやくリースへと着いた。朝に出発して、今は昼過ぎだ。
「はぁ……やっと着いた」
「大丈夫、アレン?馬車酔いでもしたの?」
「……」
「フフフッ冗談よ! ほらっ早くいくわよ!」
相変わらず元気そうなアリアに手を引かれ歩いていく。事前に地図は入手していたことでギルドまでの道順は分かっている。
しばらく歩くと、冒険者ギルドが見えてくる。エルドの冒険者ギルドと比べ、リースのギルドは一回り小さかった。やはり、モーリスの言っていたこの国で二番目に大きい冒険者ギルドと言っていただけあってエルドの冒険者ギルドは格が違った。
「エルドの冒険者ギルドの方が大きいわね」
アリアも同じ事を思ったようだ。
「あれ?ギルドに行った事あるの?」
ふと疑問に思った事を聞いてみる。アリアがギルドに行った事があるなんて話は聞いた事がない。そして何故かアリアは待ってました! と言いたげな顔をしてこちらを見ている。
「ジャーン! これなーんだ?」
何かを取り出し、俺の顔目掛けてソレを突き出してくる。ソレはギルドカードだ。
書かれているギルドランクはE級だった。
「え、いつ取ったんだ?」
「フフフッ一週間前よ! ギルドに行ってみたらマスター?ってのが居たのよ。それでアレンのお姉ちゃんよって言ったら、色々あってE級冒険者にしてくれたわ!」
──色々って何があったんだよ。ほんっとリオンのやつは碌なことしないな。まぁ今に限った事じゃないか。そんな事より……
「……依頼は俺一人で受けるからな」
「フフフッ分かってるわ!」
──それは分かってないんだよ!
もうアリアは無視して、ギルドの中に入っていく。そして受付の前に着いた。
「すみませーん!」
案の定背の小さい俺の姿を受付嬢は見つける事ができない。アリアはそんな俺の姿をバカにしたように笑っている。
「アレンは小さいんだから、お姉ちゃんに任せなさい! すみませーん!」
今度はアリアが呼びかけてみる。だが結果は俺と同じであった。それもそうだろう、背はあまり変わらない。アリアが少し高いくらいなのだ。
「むっコッチよ! コッチ!!」
必死にピョンピョン跳ねた事でようやく気づいてもらう事ができた。そしてアリアは満足そうな顔している。
「これがお姉ちゃんの力よ!!」
無い胸を張り、いばるアリア。本人が満足そうなのでこちらからは何も言わない方がいいだろう。
「あら、お嬢さん達どうしたの?」
俺達に気づいた受付嬢のお姉さんが声をかけてくれた。なんというかこの人は行き遅れて必死に結婚相手を探してそうな女性と言えば分かるだろうか。
「あら?そこの坊や失礼なこと考えてない?」
「ハハッそんな事ないよ!」
「まぁいいわ、それより何か用なの?」
「えっと、リオン──エルドのギルドマスターからこのギルドで依頼を受けるように言われて来たんだけど。話きてないかな?」
「えっ貴方達がそうなの?マスターから来たら執務室に通してくれって言われてはいるけど……」
──なーんだ、リオンの奴ちゃんと話してくれてたんだね。
「じゃあ案内するわね。着いてきて」
言われるがままギルドの奥へ向かいギルド長室と書かれた部屋の前へと案内された。
「それじゃ私はここで……」
何故だろうか。彼女が逃げるように去っていってしまったのは……。嫌な予感がする。
「何してんのよアレン。早く入りなさいよ」
そう言って俺の後ろから背中を押してくるアリア。アリアも何か本能で危険を感じているのだろう。それで俺を身代わりに……はぁ、扉の前でずっと立ってても仕方ない。そう思い、覚悟を決め扉を開けた。
「失礼しまーす」
恐る恐る部屋に入ると……老人が叫びながら飛び込んでくる。
「かッーーーー!!」
「うおっ!!」
『神経強化』──それもオーク集落の殲滅以来覚醒したと思われる──で強化された身体能力でさえ、避けるのがギリギリだった。
物凄く速い老人だ。
「何すんだッ!?」
いきなり突っ込んできた老人にそう叫ぶ。
だが、返ってきた返事は予想外のものだった。
「お主が──リオンの弟子かッ!!」
この時点でアリアは俺達から少し離れた場所へと避難していた。興奮しているのか、声を荒げた老人はゼェゼェと息をしている。
「何言ってんだ!? このジジィ!!」
余りにも意味の分からない言葉、そして理不尽に突撃された事、何より馬車の旅でのストレスにより怒りは爆発寸前だった。
「ホッホッホ……その老人を敬わぬ態度!! まさにリオンの弟子じゃ!!」
既に老人の中で答えは出ているらしい。
「ボケてんのかジジィ!! 俺がリオンの弟子な訳ないだろ!! 俺アイツ嫌いだし!!」
必死に、それはもう必死に訴えかける。リオンの弟子であるという不名誉。これはいち早く誤解を解かななければならない。
「アヤツがワシに何をしたか……弟子のお主に教えてやろう……」
「いや……だからッ」
肝心の目の前のジジィは俺の話を聞いていない。恐らく耳がイカれているんだ、いや頭の方かもしれない。
「あれはな……ほんの昔の事じゃ……」
そして俺を無視してジジイは勝手に語り出した。
「アヤツがまだエルドのギルドマスターではないただの冒険者じゃった頃の話。ワシがいつも通り早起きをし、ここギルド長室から見える向かいの女子の部屋を覗いていた時の事じゃ……」
──おい、ちょっと待て。明らかにおかしい始まりだぞ!?
だが、ジジイは止まらない。完全に回想に入った顔をしており、こちらなど見向きもしない。
「朝一で女子の肌を目で見て、感じ、そして愉しむ。そうする事で、老いた身体に潤いを与えておったのだ。しかし、リオン!! アヤツにワシの所業がけったいな魔法で見つかり、バレることとなった。そして、アヤツはワシに話を持ちかけてきた。この事を皆に黙っておる代わりに……」
──なるほどな。それでリオンに金銭を長い間、脅し取られたって感じか……
「アヤツはあろう事か、ワシの朝の習慣に条件をつけおったのだ……それはワシが素っ裸になる事じゃ。これが存外興奮してな、いつもより精力が漲っておった。こんな結果になろうとは、と寧ろ感謝もしていたくらいじゃ。しかし、次第にワシのエナジーが見るだけでは満足出来ぬようになり、見せたいと思うようになってしまったのじゃ。今思えばそれが全ての終わりの始まりだったのじゃ……」
──いや、終わってんのアンタの頭!! もう初めから終わってただろ!! それと、リオンのその条件なんだよ!? 意味わかんねーよ!!
変わらず回想を続けるジジイは握り拳をして、リオンへの恨みを募らせていた。
「ワシは覗く度に、裸で窓の前に立ち様々なポーズをとったのじゃ。見られておるかも知れぬという不安がワシに更なる興奮を与え、もうワシの息子はギンギンじゃった……」
──それって子供の話だよな!? アンタのシワシワの杖の話じゃないよな!?
「ワシは泳がされておったのじゃ……アヤツに! ワシの興奮が最高潮に達するまで待ち、そしてアヤツはワシのその姿を街中に晒して愉しむ算段だったのじゃろう。アヤツの魔法により、ワシが覗いていた女子にワシの存在を知らせ、それを見た女子は叫んだ。変態!! とな。そこからは早かった。普段見上げねば、見えぬこの部屋を道ゆく人々が一斉に見たのじゃ。ワシは素っ裸で息子はギンギン、言い訳もできぬわ」
──出来るわけねーだろ!? 普通に素っ裸じゃなくても出来ねーよ!!
「それからと言うものワシはギルドの中でも変態扱いされ、受付嬢達には距離を取られ、冷たい視線を浴びせられ続けた。まぁそれもまた一興じゃと思った。しかし、そんなワシの評価は変態クソジジイじゃ……」
──何一つ間違ってねーよ!? てか何が一興だよ!! 反省しろ!!
「じゃから、ワシの純情を弄んだあのリオンという男は絶対に許すわけにはいかんのじゃ!!」
──アンタのソレは純情じゃなくて劣情だよ!!
「そして何より、許せんのがアヤツの魔法じゃ!! アヤツはその魔法を使い、誰にもバレずに何処でも覗く事が可能じゃ。空気がある場所全てがアヤツの索敵範囲じゃからな。だが……そんなものは羨まけしからん!!」
──ほぼ逆恨みだろそれ!?
「よってリオンの弟子であるお主に恨みを晴らそうと思い立ったわけじゃ」
──もう俺に至っては八つ当たりだよ。
「言いたい事は沢山あるけど。まず……俺はリオンの弟子じゃないぞ」
「いや、そんな筈はない! リオンがアレンという弟子を向かわせると言っておったわ」
──やっぱりアイツの仕業か! 何が僕の名前を出せばよくしてくれる、だよ!!
おもっきし命取られかけただろ。
恐らくリオンは事前に遠隔通話出来る魔道具で俺の話をしていたのだろう。そして、恨みを俺で晴らさせようとしたと……
「はぁ……爺さんそれ騙されてるよ。前回もそれで酷い目にあったんでしょ?」
──それでって言うか、自業自得だとは思うけど……。早く話進めないと、ずっとゴミを見る目で見てるアリアがこの爺さんの事をいつ殺してしまうか分かんないし……
「むぅ確かにアヤツは信用できんな。ワシはまた騙される所だったのか……すまなかったなアレンよ。後そこのお嬢ちゃんもな」
「ペッ」
──あ、アリアのやつ唾吐きやがった……。まぁ気持ちは分かるけど。
「ホッホッホ、なかなか良い痰じゃな! 将来が楽しみじゃ!! おっと……長いこと時間を食ってしまったな。ほれっ早速依頼について話すとしようかの」
──もうこの爺さんヤダッ!! 一生恨むぞリオン!!
自我転生〜風魔法と雷魔法で最強を目指します〜 たつた @tatsuta9
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