幼馴染は俺にフラれたことに気付いていないらしい
幼馴染は俺にフラれたことに気付いていないらしい
作者 メルメア
https://kakuyomu.jp/works/16816700426417724062/episodes/16816700426417732685
幼馴染の咲野実乃梨から告白を受けるもハッキリ断れなかった陽向だが、水族館デートして好きになり告白してつきあう物語。
タイトルが問いになっていて、気づいていない幼馴染はどうするのかは「読んでからのお楽しみに」となっている。
よく書けている。
主人公、陽向の一人称。キャラの性格がわかるような地の文や、くどくならない描写といい、伝わりやすい。
実乃梨は「どの年代でも学校一の美少女ともてはやされ」てとある。
恋愛小説に登場する女の子は、「学校一美少女」ですますくらいテンプレになっているとはいえ、どんな美少女なのか、容姿の描写があるとよかった。
校舎の屋上で告白を受けた陽向が返事をしたあと、「告白された男がこういう話をする時は、大概申し出を断る時だ」とある。
彼は過去に告白をされて、断った経験があるのか。幼馴染と「一緒に登下校していると白い目で見られたものだ」とあるので、陽向はモテるようなイケメンではないだろう。きっと、教養として知っているのだ。
ハッキリ断らなければと思いながら、「付き合えない、ごめん」といわず、「これからも、仲良くしていきたいと思ってるんだ」と相手を気遣う言葉を選んでいる。
振るときはハッキリ振ってもらったほうが、切り替えて次に行ける考えもある。言い切らない優柔不断な男は嫌、という人もいるだろう。
実乃梨としては、彼のこんな一面も、好きになった理由にあるかもしれない。
「うん。陽向の気持ちは、伝わったよ」と泣いて、実乃梨は「ごめん」と小さく呟くと屋上から走り去っていくところが、よく書けている。これ以上屋上にいたら、「付き合えない」とハッキリいわれてしまうかもしれないから。トドメを刺されたくない気持ちがよくわかる。
やんわり断ったものの、陽向の心はモヤモヤしている。断るならハッキリ断ったほうがよかったのではないか、と悩んでいるのだ。その結果、スマホに届いたメッセージで水族館に行こうと誘われる。
幼馴染として、これまで買い物などに付き合ってきた経験から、いいよと答えると「やったぁ!! 初デートだねっ!!」とメッセージが届く。
つい数刻前、屋上で告白を断ったのに、どういうことかと戸惑う陽向。
この辺りの、駆け引きが良い。
なぜなら陽向は「これからも、仲良くしていきたいと思ってるんだ」と答えたから。やんわりと告白を断られたかもしれないけれど、「付き合えない」とはいわれていないのだ。仲良く水族館に行こうと誘うのは、何ら問題ない。
ある意味、恋愛の交渉術としては実乃梨の方が上手である。
水族館で陽向は、実乃梨を「異性として意識したことがない」ことを「帰りまで」秘めて、水族館デートを楽しむことに決める。
ということは、帰りには実乃梨に「異性として意識したことがない」ことを伝えることにしたということ。なぜなら、その結果、「最悪な結果になっても責任は取る」と決意しているから。これが彼の性格であり、優しさなのだ。ハッキリと断れなかったから、一度のデートは許すけれど、終わったらハッキリ伝えてけじめをつけようとしたのだ。
実乃梨は「飛び切りの笑顔」をみせ、指を絡ませる恋人繋ぎをし、レストランではスパゲティーをフォークに巻きつけては陽向の口へ運び、「陽向のハンバーグも欲しいなぁ」「あ~んして」とねだってしてもらう。
わざとらしさからくる、微妙なぎこちなさ。
この昼食で、「実乃梨にとってこれはデートで、俺は彼氏」だと陽向は気づく。
実乃梨は振られた翌日、振った相手とデートをしながら、彼女として楽しむ姿を演じているのだ。
やんわり屋上で振られてから今日のデートを考え、誘った彼女は、どういう気持ちでいるのだろう。彼が心変わりをしてくれたらいいなと思っているかもしれない。そうならなくても、大好きな人とデートしたという思い出は一生残る。
実乃梨という女の子は、なんて一途で一所懸命なのだろう。
後半、イルカショーを一緒にみながら、二人は水しぶきをうけて、子供のようにはしゃぐ。
子供が庭先で水遊びをするとき、なにがそんなに楽しいのか無邪気に奇声をあげながらはしゃぐのは、頭であれこれ小難しいことを考えるのではなく感性がほとばしっているからだ。
同様に、実乃梨と一緒に水しぶきをあびたことで陽向は、新鮮な刺激を得て童心に帰り、理性ではなく感性の前向きな気持ちに変化したのだ。
だから、実乃梨におそろいがいいといわれたとき、濡れた服の代わりに「男子高校生には少しかわいすぎるカクレクマノミのTシャツ」を売店で買えたのだ。
おそろいでも、他の柄のTシャツは売っていたはず。にもかかわらず、あえて「男子高校生には少し可愛すぎる」ものを選んでいる。
彼の子供心が目覚めたのだ。「俺は実乃梨が好きだ」と告白したあとで彼自身、「イルカショーの水しぶきが洗い流してくれた」と語っていることからもわかる。
告白された実乃梨が泣きながら、でも笑って振られたことに気づいていたと吐露する。
「でも諦められなくて、絶対好きにさせてやるってデートに誘ったの。でも手を繋いだ時とかお昼の時とか反応良くなくて、もうダメかなと思ってた。そしたら好きって……好きって……」
諦めかけていたところでひっくり返るという展開。ラストは実乃梨が涙ぐんでいるところを描いて、読者を涙に誘っている。
実によくできた作品だ。
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