小説的世界における拳銃

小説的世界における拳銃

作者 しがない

https://kakuyomu.jp/works/16816452220813986066/episodes/16816452220813991835


 銃を手にした男によるチェーホフの銃を題材にした四千字制限の物語。



 寸劇じみた戯曲、コントのセリフ台本みたいな作品。

 前半は「僕」の劇的独白。

 後半は警察官二人の会話劇。

 そして、メタ的。


 作品全体の雰囲気はいい。タイトルは、作品そのものをよく表している。

「カクヨム甲子園」のショートストーリー部門の応募規定は四千文字以下。本作は、総文字数四千文字きっかりにつくられている。ということは、はじめからラストのオチを決めて作られた作品という意欲作。そのなかで、チェーホフの銃を題材に書こうとした発想は素直に褒めるところ。

 四千字でまとめて終わらせるために、少し遠回しでくどさを感じる。また、同じ文字がつづく箇所もあるので、推敲をしていないのかもしれない。音読し、推敲と添削して、最小限の描写を加えるなどすれば字数を調整できるとおもう。


 劇的独白により、「僕」のあふれる感情、話し手の意図や欲求などが伝わり、物語を進めているところは効果的。読み手を物語へ誘っていく。

 行替えをして、読みやすくしようとしている。


 冒頭、「チェーホフはこう言ったらしい」と、チェーホフの銃の言葉からはじまる。でも、引用をつかうなら「らしい」を削っていい切ったほうがいい。作品の根幹になっているから。

 曖昧な表現をつかいたいなら、使うなりの理由があればいいとおもう。らしいにする必要を感じない。置かれている状況に戸惑っているのかとおもうと、饒舌的だし、水槽の脳や胡蝶の夢など、やたら知識が豊富だ。

 あとで「アントン・チェーホフが何を書いてどれくらいすごい人なのかは一切知らないが、僕程度の人間でも知っている人の言葉である以上従うべきだろう」といっているので、チェーホフが言っていたことは知っているはず。

 どんな場所に銃は落ちていて、どういう経緯で拾うことになったのか。拾ったなら捨てる選択もあるのにそれを選んでいない。はじめから銃を拾ったら撃つしかない、という方向で話が進んでいる。他の選択肢を早めに潰しておいてもよかったかもしれない。

 拾った銃がどのような銃なのか、手にしたときにある程度しらべている描写がほしかった。描写していないので、光線銃なのか、爆弾のスイッチか、手品の小道具か、と疑問を抱かれても読者にはわからない。

「マガジンを取り出してみると」とある。

 ハンドガンにもライフルにもマガジン(弾倉)は必須。なので、ここでも銃の形状はわからない。グロック製のマガジンなのかも見当がつかない。

 もちろん、男が銃にくわしくないならいいけれども、その場合「マガジンを取り外す」のはむずかしい。

 モデルガンを触ったことがある人なら、外し方も想像つくかもしれない。けれど、銃によって外し方が違うので、それなりに経験が必要だ。

「所持品は拳銃一丁のみ」というところで、ハンドガンなんだとわかる。

 作者の意志(?)により、男は自分に銃を突きつけるとこでは「回転式拳銃じゃないんだ」といっているので、リボルバーでないことがわかる。

 三回、作者の意志のようなもので銃を突きつけられる場面がある。

 舞台劇ならおもしろいとおもったけど、セリフだけではなにが起きているのかわかりにくい。むしろ三回くり返すことで、自分の意志とは関係なく動かされていることが伝わる。このへんのやり取りは、おもしろい。

 自分がなにかに操られているという表現に、操り人形師や人工知能が人類の知能を超える転換点をもちいているところはよかった。


 その後、登場人物と場面がかわり、警察官二人とおもわれる会話文がはじまる。

 セリフでなんとなく警察官だと説明している。二人が話している場所もわからない。交番と想像する人もいるだろうし、警察署と思う人もいるかもしれない。あるいはどこかの道端という可能性もある。

 銃を拾った男は、自分自身に撃ったことが二人の会話からわかり、「精神的なアレなヤツだったらしい」といわれている。それが正しいか否かはわからない。

 男が口にしていた「アントン・チェーホフ」からチェーホフの銃が話題となり、警察官だから銃を持っている。「もし、物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない」と、銃を自分のこめかみに当てて引き金をとなったときに「残念、字数制限だ」というオチで終わる。

 このオチのために冒頭、チェーホフの言葉からはじまってきたのだと、計算して組み立てられてきた。そういう作品だとわかれば、よくできているとおもえる。


 最後の、「残念、字数制限だ」はだれのセリフだろう。

 引き金を引こうとした警察官なら、残念と言うだろうか。いや、そもそも字数制限といわない。

 これを言ったのは、この物語の作者だ。


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