ずっと前から両思い

ずっと前から両思い

作者 山形 さい

https://kakuyomu.jp/works/16816700426407988725/episodes/16816700426410287284


 卒業式に告白しようとする片思いのサクラとユウスケを、風に飛んだ卒業リボンが結んだ物語。


 二人の関係が伺えるタイトル。両思いだからどうなんだ、という問いの答えが「読んでみてからのお楽しみに」となっている。

 心情を吐露するような文体。描写は簡素に書かれている。

「また明日」と言えない卒業式になって、主人公のサクラは、これまでの関係が崩れてもいいから未練を残さないためにユウスケに告白しようとする。

 そこに髪がサラッとなびく程度の風が吹いたかとおもえば、「私は髪を手で抑える」ほどに風が強くなり、「胸ポケットにつけていた卒業リボンが外れ」て風に飛ばされていく。しかも「空高くへと舞い上が」るのだ。

 飛ばされた卒業リボンをユウスケが取ってくれて、そこから二人きりになって互いに告白して結ばれる流れだ。


 リボンという小道具がいい。片思いで実は両思いだった二人を結ばせ、物語も綺麗にまとめて終わらせるには最適だ。


 ただ一点、都合よく卒業リボンが風に飛ぶのか?


 そういう演出なんだから細かいことはいいんだよ、といってしまえばそのとおりなのだけれど、モヤッとしてしまった。

 飛んでいた卒業リボンを「ジャンプしてキャッチした」ユウスケは、「私の胸ポケットに卒業リボンを、安全ピンを外して刺した」とあるので、最初どうやって卒業リボンは彼女の胸についていたのか気になる。

 安全ピンがついているなら、外れないようにピンでとめていたはず。外れたということは、ピンで止めていなかったのだ。たまに、両面テープがついているものもあるので、制服に穴をあけたくなくて、彼女はシールで胸に留めていたのだろうと推測する。

 取れやすい状態だったなら、外れてもうなずける。

 あとは風。

 外れて落ちることはあるだろし、突風で飛ばされることもままある。でもその場合は地面に転がる感じで風に流されていく。

 だけど、卒業リボンは空高く舞い上がっている。

 紙片が舞い上がるのは、風速5.5~7.9m/s。そのときには砂埃もたっている。

 紙片の重さは、A4 サイズ一枚はおよそ四グラム。

 卒業リボンがそのくらいの重さなら、なんとか舞い上がってくれるけど、もっと重いはず。

 この卒業リボンがただのリボン、あるいは赤い羽根の共同募金の赤い羽根程度の重さであるなら舞い上がっても自然で、人混みをかき分け追い掛け、途中で転んでも「途中地面に落ちることなく、ずっと風に流されて」いっても違和感がないのだけれど。


 二人の友人たちに視点を変えてみる。

 サクラとユウスケが出会ったあと、サクラの友達が四人ほどが「見守っている」とある。

 また、ユウスケにも男友達がいて、告白がうまく言ったときにはサクラの友達たち集まってきて、『成功したんだな!?』『うまくいったんだね!!』と喜んでいる。


 二人の友人たちは、サクラとユウスケが互いに好きなことを知っていたのだ。

 なかなか告白しない二人をヤキモキしながら高校生活を過ごしてきた彼女彼らは、卒業式にこそ告白させようと計画したのだ。なぜなら、サクラの友人チヨは「がんばれ!! サクラ!!」と背中を押している。

 チヨはサクラの卒業リボンを取れやすくし、テグスをつける。風が吹いたタイミングでユウスケの友人が操縦する小型ドローンでひっぱってもらい、ユウスケのところまで誘導するというお膳立てがされていたのだ。

 ひょっとすると、強い風も、友人たちがこっそりサーキュレーターでも仕込んでいたのかもしれない。

 友人たちのサポートもあって二人はめでたく結ばれ、自分たちの苦労がむくわれたから『成功したんだな!?』『うまくいったんだね!!』と喜んだのだろう。

 そんな邪推をしつつ穿った読み方をすると、二人はなんていい友達をもったのだろうと、しみじみおもってしまった。

 

 

 

 


 

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