死ぬのが怖いと息子が呟いた

死ぬのが怖いと息子が呟いた

作者 恋狸

https://kakuyomu.jp/works/16816700426380997094/episodes/16816700426381083686


 死が怖いといった五歳の息子の幸せを願う父親の物語。



 恋狸の応募作、四作目。

 タイトルは作品内容に触れながら問いであり、だからどうしたのという答えは「読めばわかるよ」となっている。

 小説というより父親の日記みたいな文体。描写はすくない。軽くコント調な雰囲気を感じさせつつ、微笑ましくもあり、無難にまとめている。

 

 主人公が飼っていた黒猫が主人公を庇って死んでしまう絵本をみて「ねえ、お父さん。僕、死ぬのが怖いよ」と五歳の息子がつぶやく。買い与えたのは父親だ。

 子供は三歳から自我がでてきて、好き嫌いがはっきりしてくる。五歳だと、言葉も達者になって力が強くなっている分、反抗的な態度になっていく。

 なので、

「天国、地獄なんて嘘だよ! だって、人は死んだら真っ暗やみに閉じ込められるってYouTubeでやってたもん!!」

 父親がいい感じにまとめようとすると、突然いじわるのようなことを言うのも、五歳児の特徴だ。

 絵本よりもゲームに夢中になるし、You Tubeなんてずっと見っぱなしになる。これで兄姉でもいたら、影響されて真似しているはず。

 五歳の息子は一人っ子なのだろう。あるいは、兄姉も読書家かもしれない。

 父親は息子がYou Tubeの影響を受けていることを知って、「YouTubeのこのやろぉぉぉぉ!! くそっ、だから俺は妻に言ったんだ。まだ、そういうのは早いって。そりゃあ、現代っ子だもんな。気になったものは調べるよなぁ!」と怒りに近い感情を覚えている。

 内心怒ってもいいけれども、「You Tubeはそう言っていたんだ。でもYou Tubeやネットでいっていることは必ずしも正しくないこともある」と伝えつつ、五歳の息子はどう考えているのかを聞くのが、親の仕事であり情操教育ではないのかしらん。

 死ぬのが怖いとつぶやいた息子に父親は素直に「父さんもな死ぬのは怖いぞ」と告げているとこは、いいと思う。

「じゃあ、なんでみんな笑ってるの?」

「死ぬより、生きたい! って思ってるからさ」

 息子に聞かれたらすぐ答えている。

 けれど、息子に「なんでみんな笑ってるとおもう?」と聞いて考えさせてあげたらいいのに、父親はそれをしない。こういう男親ならしそうな行動が、よく書けている。

 父親はまた、息子に「きっと幸せになれるよ」といい、約束までしている。

 きっとこの後、息子に「あのゲーム買ってくれないと幸せにな~れ~な~い~」と駄々をこねられ、難儀していくことになるのだろう。

 安請け合いはしないほうがいいのに男親ときたら……、というとこもよく書けている。


「死んだらどうなるの?」

 という息子の問いに、

「天国か地獄に行くんだよ」と答え、「生きてる間に良いことをした人は死んだあとも幸せな生活ができ」、「逆に悪いことをした人は死んだあとも痛みと苦し」むことになると告げるわけだけれども、この家族の宗教観はどうなっているのだろう。

 正月には神社に詣り、結婚式はキリスト教の教会で挙げ、葬式は仏教に則る。日本人は無宗教と思っている人は多いが、キリスト教やイスラム教などの一神教とは異なり、日本は多神教である八百万の神を祀る「神道」に宗教観があり、すでに生活習慣の一部として存在している。

 そのうえで、仏教の様々な宗派に分かれており、浄土真宗が多いといわれる。浄土真宗は阿弥陀如来を本尊とする宗派で、南無阿弥陀仏を唱えていれば、善人だろうと悪人でさえも死んだら阿弥陀様が極楽浄土へ導いてくれるという。

 この父親の家はどうなのかわからないが、子供から「死んだらどうなるの?」と聞かれたなら、宗教的な話をする絶好の機会であり、彼のいう情操教育の一環ではないのだろうか。

 そういうところの曖昧な感じがまた、現代らしい姿が書かれているともいえる。


 死に関する話題を扱うとき、作者がどれだけ死に対して向き合って考えてきたのかが作品に現れるとおもう。

 父親は死ぬのが怖いのは、「息子の生涯を親として見届けられないこと」だといっている。こう思うのは手のかかる子供のうちだけで、大人になっても家にいたらいたでやっかんでは文句を言い、利がないとなれば憎悪も募るというもの。それでも子供の幸せを願うのは親として、普遍的な願いだろう。


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