第292話 俺の息子たちはモテすぎる

「格好いいなぁ……。アーサー君」


「いいよねぇ、背が高くてイケメンで。肌も白くて綺麗」


「お母さんが貴族だから、本当に王子様だよねぇ」


「付き合っている子、いるのかな?」


「放課後、『一緒にダンジョンに潜りませんか?』って誘いたいなぁ」


「実力に差がありすぎて無理でしょう。アーサー君とパーティを組むために、レベルアップを続けている人たちに怒られるわよ」


「そこまでしても、その人たちはアーサー君とダンジョンに潜れていないわけだしね」


「アーサー君、弟さんたちとしかパーティを組まないから、将来チャンスが残っていると思ってるんだよ」


「それなら私たちも、頑張ってレベル上げをしないと」


 今年の冒険者高校における、特別クラスの首席はアーサー君だ。

 彼はイギリス人とのハーフで、色白で、背が高く、細身ながらも筋肉質で、イケメンでと。

 完全無欠のモテ男子だった。

 その人気はすさまじく、バレンタインにチョコレートをトラック一台分貰ったなんて逸話も。

 今では、彼の下校時を狙って他校や隣に建てられた冒険者中学の子たちまで押しかけるようになり、岩城理事長がアーサー君への過度の接触は避けるようにと、お触れを出したほどだ。

 彼の弟さんたちも同じくらいモテモテで、やっぱり岩城理事長が同じ通達を出していた。

 彼らは個人と兄弟で動画チャンネルもやっていて、それも大人気だ。

 ファンである、冒険者じゃない一般の人たちが毎日冒険者高校前でアーサー君たちの出待ちをするようになってしまい、岩城理事長が警備が厳重にしてしまった。

 彼らだけでなく、冒険者高校、中学校に通う生徒はほぼ全員人気があるから、警備が大変みたい。

 女子も、動画配信をやっている子たちはファンが、そうでなくてもナンパやヒモ目当ての男性多数に狙われて大変なんだけど。

 

「中学生の雄二君、あの桃瀬里菜の息子なだけあって、やっぱりイケメンでモテモテで、年下もいいかもって」


「そんなこと言ってると、中学の子たちに刺されるわよ」


「確かに、それは危険ね」


 雄二君は冒険者中学校で人気者だから、高校生の子たちが手を出すはご法度という空気感がある。 

 とは言いつつ、どうにかして雄二君たちとお近づきになりたいものね。

 そのためにも、まずはちゃんとレベルを上げないと。

 アーサー君たちは冒険者としても凄腕だから、そこに追いつけないとなかなかお近づきになれないのよねぇ……。





「ふう……。今日も私たちを探している女性が多いなぁ……。下駄箱の手紙も増える一方で……。あっ、これは『呪術師』による『チャーム』が仕掛けてあるな。解除しよう」


「アーサー兄さんに呪いなんて効かないのにね。あっ、僕のも解除して。そうしないと捨てられないから」


「ゴミ収集の人たちに迷惑がかかるからね。ハオユーは聖魔闘士なのに、呪いは解けないのか?」


「アーサー兄さんのパラディンとは違って、もう少しレベルを上げないと、解呪はできないみたい」


「このお菓子……。媚薬入りだ。随分と効能の高い媚薬だなぁ。捨てる前に無効化しておかないと。カラスが啄むと大変なことになる」


「文隆兄さんは、よく女子に手作りお菓子を貰うよね。媚薬入りが多いけど。最初はそのまま捨ててたから、大変なことになったよね。カラスの群れが発情しちゃってさ」


「私に媚薬入りのお菓子なんて食べさせてどうするつもりだったんだろう? その時、隣にいなきゃ意味ないのに……」

 

「兄さんたちは大変だね」


「お前も同じくらい深刻だろう」


「この前、もの凄く年上の女性冒険者にストーキングされてただろうが」


「あの時は、警察が出動して大変だったな」


「雄二は、ショタ好きの女性によく狙われるからなぁ」


「僕、彼女は年下がいいんだけど……」


「ロズウェルは、ビルメスト王国貴族令嬢たちのお見合い写真に埋もれ、ウェインはデナーリス王国貴族令嬢たちに追いかけられ」


「日本って落ち着くぅ……」


「このまま一生、日本暮らしでいいような気がしてきた」


「お前たちは将来、ビルメスト王国とデナーリス王国の王様になるんだから駄目だろう」


「「ずっと学生いたい!」」


 このところ私たち兄弟は、ダンジョンに潜らない日は、上野公園特区内にあるカラオケボックスや個室のある飲食店で時間を潰すことが多かった。

 私たちは異母兄弟だけど全員仲が良く、多分その理由の一つに、全員に共通した悩みがあるからというのがある。

 それは、私たちと付き合いたい、なんなら結婚したいと思う女性が多く、ダンジョンに潜っている時と家にいる時以外は、常に注意を払わないといけなかったからだ。

 隙を見せると、彼女たちが押し寄せてくるのだ。

 こう言うと、『モテ自慢かよ!』と他の人たちから怒られそうだけど、好きでもない女子たちに常に迫られ続けるというのは、かなり精神的にくるものがある。

 特に可哀想なのは、里菜さんの長男である雄二だ。

 彼はまだ中学生なのに、多くの年上女性たちに迫られることが多かった。

 警察沙汰になったことも一度や二度ではない。

 彼はいわゆる、ショタ好きな女性に大人気なのだ。

 それゆえ、以前には凄腕女性冒険者グループに誘拐されそうになったり……なんでも自分たちの屋敷に住まわせ、一生面倒を見たかったらしい。

 雄二の通っている冒険者中学校に押しかける年上女性たちも多く、今では兄である私たちが、安全のため放課後迎えに行っているほどなのだから。

 迎えに行くと言っても、冒険者中学は冒険者高校の隣にあるのだけど。


「アーサー兄さん」


「なんだい? 雄二」


「僕たちって、彼女できるのかな?」


「……正直なところわからない」


 私たち兄弟は女性にはモテる……モテすぎるけど、ああも大勢に強引に押しかけられると、逆にその気が失せてしまうというか……。

 だから私たち兄弟は、一緒にいることが多かった。

 私たち兄弟は、同じ悩みを抱える同志というわけだ。


「父さんも、高校生くらいの時はモテたのかな?」


「モテたんじゃないかな」


「なんたって父さんは、世界一の冒険者にしてインフルエンサーだからな」


 事実、父さんの奥さんは七人もいる。

 デナーリス王国は多夫多妻制が認められているし、デナーリス王国ではもっと多くの奥さんと旦那さんがいる人もいるから、特に問題にはなっていない。

 いまだにそれを認めるか認めないかで議論を続けている日本では、父さんのことを批判する人たちが一定数いたけど。

 そのあと必ず、『デナーリス王国の出生率は3を超えているのに、日本はいまだに1.4だ。なにより、デナーリス王国は一夫多妻制ではなく、女性が多くの夫を持つこともできる。日本も見習うべきでは?』という話になり、賛否両論出てなにも変わらないのがいつもの流れだ。


「父さんの普段の言動を見ていると、そんなにモテるのかなって疑問はある」


「時間が空くと、漫画とアニメばかり見ていているからなぁ」


「昔はモテモテに相応しい感じだったんだよ、きっと」


「それなら、俺たちこれからどうすればいいのか、親父に聞いてみようぜ」


「今度の休みに、父上に聞いてみましょう」


「というわけで、私たちはこれからどうすれば、一人の彼女と楽しく過ごす普通の高校生活を送れるのか、父さんに聞いてみようと思う。これで、大勢の女性に狙われる日々は終わりだ」


 さすがに、彼女がいる男性に女性もちょっかいをかけてこないだろう。

 早く父から、解決策を聞きたいものだ。





「……無理だな、それは」


「父さん、無理って……」


「アーアーたちは、自分たちがモテる自覚はあるんだろうけどさ。まだまだ認識が甘いな」


「認識が甘いのですか?」


「甘い! 彼女ができれば、他の女性たちは諦めてくれる? ないない。その彼女を引き摺り下ろそうとするから、彼女ができても隠すのが定番だ」


 週末、久々にアーサーたちが上野公園ダンジョン特区から、デナーリス王国に戻ってきたと思ったら、どうやって一人の彼女といかにも青春といった感じの日々を過ごせるのか、俺に聞いてきた。

 この時点で人選ミスをだと思うのだけど、まさかイザベラたちに聞くわけにも……恥ずかしいだろうからな。


「あっ、アーサー。これね」


「父さん、これは?」


「見合い写真。イギリス貴族から」


「……イギリス貴族って、お見合いで結婚するんですか?」


「俺もよくわからないけど、昔はそうだったはずだ。イギリス貴族としての伝統を守ろうとしているのでは?」


 イギリス貴族も、上手く起業や投資で資産を形成できた者はいいが、中には没落してしまった者たちも多いと聞く。

 そこで、次のグローブナー侯爵……イザベラいわく、ある日突然陞爵したらしい。なんでも、これまでの功績を認められたとか……であるアーサーと結婚、グローブナー侯爵家から援助を貰って家を立て直そうとする貴族たちが見合い写真を送ってきた。

 イギリス貴族たちも仕事がなくて困っている人がいるらしいから、時代遅れと言われてもアーサーとの政略結婚に拘っているのだろう。


「お見合いはいいです」


「だろうな」


 アーサーは結婚したいわけではなく、彼女が欲しいのだから。


「試しに何人かとつき合ってみたらどうだ? 冒険者高校の同級生と、映画に行ったり、食事をしたりしてみるところからスタートだ」


 アーサーたちが誘えば、断る女子なんてほとんどいないはず。


「もしそれが校内に知られると、自分も、自分もと大騒ぎになるので……」


「そうなんだ……」


 アーサーたちは、俺の息子とは思えないモテモテぶりというか、それがデメリットになっている気がするな。


「(特に、雄二なんてな。年上のストーカーたちに追いかけられるなんて、普通の中学生であり得るか? もしかして、ステータスの魅力の部分がバグっているとか?)」


 というよりも、美女揃いで高レベル冒険者である母親たちの高い魅力を引き継ぎ、それがレベルアップでさらに増え続けているから?

 

「(俺が高校生の時、今のアーサーたちよりも高レベルだったのに、イザベラたち以外からモテた記憶が……。これも母親の遺伝なのか?) それならば、こういうアイテムを使ってみるか?」


 俺は、アーサーたちにとあるアクセサリーを渡した。


「父さん、このネックレスは?」


「冒険者の装備品の中には、このネックレスのようにステータスを下げてしまうものがある。このネックレスは装着者の魅力を下げてしまうんだ」


「これを着ければ、今よりも私たちはモテなくなるんですね」


「そうだ。アーサーたちの魅力が下がって女性たちに迫られなくなれば、お前たちから女性に声をかけやすいだろう?」


 俺はイケメンじゃないし、イザベラたちを口説いたことなんてないんだけど、アーサーたちなら元々イケメンなんだから、気になった女の子に声をかければ話くらい聞いてくれるはず。

 

「父さん、いいものをくれてありがとう!」


「どういたしまして」


 それにしても、魅力が下がってモテなくなるアクセサリーをプレゼントして喜ばれるって、我が息子たちながらどれだけモテるんだよ……。

 とはいえ、学生時代くらいは青春を謳歌するがいいさ。

 俺の息子ってだけで、将来は色々と大変なこともあるのだから。


 そう思いながらアーサーたちを送り出し、翌週の週末、魅力を下げるネックレスの効果を聞いてみると……。


「父さん、全然効果がなかった」


「文隆の『姿消し』で逃れようとしたんだけど、『姿消し』を破る高レベル女子がいてさぁ」


「雄二は、また大人の女性冒険者に攫われそうになるし……」


「……効果が不十分なのか?」


 いや、あの魅力を下げるペンダントは、富士の樹海ダンジョンの低階層でドロップしたものだ。

 普通の人がこのネックレスを着けたら、他人から迫害を受けるレベルで魅力が下がるのに、アーサーたちの魅力ってどれだけ高いんだよ!

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