第291話 惑星間戦争(その4)

「ところでフルヤ殿、デナーリス王国は、リーナイト星との戦争はどう終結させるつもりなのですか?」

 

「とりあえずは、このまま静観するしかないですね」


「このまま静観するって……。戦争はなるべく早く終わらせないといけませんよ」


「とはいえ、今のデナーリス王国の戦力を考えてみてくださいよ。陸兵でリーナイト星の首都を占領するのは無理ですから。人口三十万人の国が、人口三十億人の国に負けていないだけ上出来だと思います」


「確かに、デナーリス王国はよく戦っています。しかし、どうにかして戦争を終わらせませんと……」


「なかなか終わらない戦争なんて、過去の歴史を紐解けば珍しくありませんって。リーナイト星の宇宙軍戦力と宇宙軍軍人は一網打尽にしたので、向こうはデナーリス王国を攻めることができない。一方我々デナーリス王国も、リーナイト星の首都を落として降伏させることは陸兵不足で難しい。ゴーレム兵は揃えられますが、指揮官が不足しています。占領地を管理する軍政官なんて、他国に攻め入る前提がない我が国には一人もいませんから。なので、このまま睨み合うしかないのが現状です」


「捕虜をそのままにはできないでしょう」


「とはいえ、捕虜を返すとまた、リーナイト星が攻めてくるかもしれませんから。捕虜は、汎銀河連合の決まりどおり管理していますのでご安心を」


「リーナイト宇宙軍の軍艦はすべて鹵獲したのですから、再び攻めてくる可能性は少ないのでは?」


「リーナイト星では、内戦決着のために大量の軍艦を建造中だとか。訓練された軍人がいれば、それを戦力化してすぐにまた攻めてくる可能性があります。宇宙艦隊再建に失敗したという確実な情報が手に入るか、リーナイト星との終戦条約が締結されるまで、捕虜は返せませんね」


「……正論ゆえに反論しにくい。ですが、汎銀河連合としては、リーナイト星が汎銀河連合に加盟していないため、仲介が難しいのです」


「汎銀河連合がこの件で苦慮しているのは理解できますが、デナーリス王国もこれ以上打つ手がないのですよ。せめてリーナイト星側が、終戦条約締結交渉の席に座ってくれないと。汎銀河連合の大使たちが説得に向かったと聞きますが……」


「門前払いされました。リーナイト星が負けるわけがないのに、どうして我が国が圧倒的に不利になる終戦条約を結ぶ必要があるのだと」


「……じゃあ、このままですね」


 リーナイト宇宙軍艦隊に勝利し、大量の捕虜と鹵獲品を得たデナーリス王国だけど、まだ戦争は終わらなかった。

 リーナイト星では、デナーリス王国と戦争することを決めた政府側と反政府側の軍部が手を組んでクーデターを起こし、今は軍事政権下にあるというのも、終戦交渉を妨げる原因となっている。

 彼らとしては、クーデターまで起こして戦争を始めたのに、負けたまま戦争を終わらせるのが嫌というか、軍人としてのプライドが許せないのだろう。

 敗戦の責任を取らされるのはもっと嫌で、だからなにもできずにリーナイト星に籠もっている。

 今の状態は、少なくとも負けてはいないのだから。


「捕虜と鹵獲した艦隊を返せば、終戦交渉のテーブルに着くと言っています」


「お話になりませんね。艦隊戦に勝利したデナーリス王国が不利な終戦条約を結ばされるくらいなら、ずっとこのまま睨み合いが続いた方がマシってものだ」


 どうせ艦隊と経験豊富な宇宙軍人を多数失ったリーナイト星が捕虜と鹵獲艦を取り戻したら、再び攻めてくることは確実ってのもある。

 それだけリーナイト星の軍事政権は追い詰められているのだから。

 それに、鹵獲された軍艦は間違いなく戦時賠償品としてデナーリス王国のものとなる。

 あまり賠償金を取ると、ますますリーナイト星の政情が混乱するかもしれず、となるとまた余計な戦争をふっかけられないよう、宇宙艦艇を取り上げるというのが現実的な案だ。

 ただ、それを受け入れたら軍事政権は崩壊するだろう。

 だから彼らは、本星絶対防衛を口にして守りを固め、汎銀河連合に所属する惑星国家の呼びかけを無視していた。


「そのうち音を上げるのでは?」


 音をあげるというか、軍事政権が引き摺り下ろされるというのが正解か。

 確かにリーナイト星に籠っていれば戦争には負けないが、まずます資源不足で追い込まれていくのだから。


「だといいのですが……」


 なにより、今のデナーリス王国の陸軍兵力ではリーナイト星を占領なんてできない。

 両国は完全な膠着状態となり、今は様子を見るしかなかった。


「そういうことなので、リーナイト星が宇宙軍を再建しないかを見張りつつ、一時戦争は終わりですね」


「リーナイト星は、宇宙軍を再建するでしょうか?」


「表向きは、戦力の再建どころか強化を口にしそだけど、肝心の資源がないか難しいだろうね。少なくとも、前回以上の艦隊戦力を整えなければ勝てないでしょうし……。でも無茶をする可能性があるから、やはり軍人は返せないか……」


 片道特攻なんてかけられたら迷惑だ。 

 リーナイト星はデナーリス王国人冒険者を受け入れることに失敗し、ダンジョンに潜る冒険者たちを軍人が指揮して大きな犠牲を出しており、成果もあまりあがっていないと聞く。

 惑星の生活を維持しながら、全滅した宇宙艦艇を再建、以前よりも軍備を増強するのは難しいだろう。

 かといって、今さら軍事政権が冒険者たちに自由にダンジョン探索をやらせるとは思わない。

 もしそれを認めたあと、彼らが今よりも成果を出してしまったら、軍人たちの無能さが世間にバレてしまうからだ。


「しかし、このままでは……」


「戦争がなかなか終わらないなんて、よくある話じゃないですか。状況を見て、捕虜は返しますよ」


「おおっ! 捕虜を返してくれるのですね」


 リーナイト星の今の資源採掘量では、宇宙艦隊の再建なんて無理だと確定すれば、なにかと交換で捕虜たちを返しても問題ないはずだ。

 当然、なにかしらと交換することになるけど。


「とにかく、一日でも早く戦争が終わることを祈っていますよ」


「それは、デナーリス王国も思っています」


 さて、リーナイト星は次はどのような手に出るのか。

 しばらく睨み合いが続くが、結局リーナイト星は資源不足が深刻で、宇宙艦隊の再建ができなかった。

 一応宇宙艦艇用の造船ドックに建造中の軍艦はあるらしいが、資源不足で作業が止まっていると、情報部から報告が入っていた。


「建造中の船ねぇ……。こいつと捕虜を交換するか」


 このままだと完成しない軍艦と、経験豊富な軍人たち。

 リーナイト軍事政権がどっちを取るか。

 試しに捕虜と建造中の軍艦との交換を持ちかけると、彼らはそれを受け入れた。


「宇宙艦隊の再建を諦めた? どうして?」


 この話を聞いた、汎銀河連合の大使は首を傾げていた。


「交換してもらった軍艦なんですけど、武装が全部取り外されていまして」


「ああっ!」


 大使も理解してくれたようだ。

 つまり、どうせもう宇宙艦隊の再建はできないから、その武装をリーナイト星各地に配置して、デナーリス王国侵攻に備えるつもりなのだろう。

 捕虜になった軍人たちは、それら地上に設置された軍艦用の兵装を操作するのに必要というわけだ。


「それで、軍人たちを返してしまったんですね」


「再び宇宙艦艇に乗って攻めてこれないでしょうし、捕虜たちが素直に言うことを聞けばいいんですいけどね」


 彼らは最前線で、デナーリス王国軍の実力を肌で感じた。

 本土決戦を主張する軍事政権上層部の言うことを素直に聞くとは思えず、だから俺は彼らを返した。

 そんな俺の予想だが、すぐに的中することとなる。


「もうリーナイト星は戦えない! 軍事政権を倒すんだ!」


 宇宙艦隊の再建が不可能だと判明してから、それらと交換で返還された捕虜たちが、旧政府側と手を組んでカウンタークーデターを起こし、リーナイト星の軍事政権は呆気ない結末を迎えてしまった。

 ただ、リーナイト星がすぐに秩序を取り戻せるわけもなく、一応新政権とデナーリス王国との間で終戦条約は結ばれたものの、政情が安定するまでは冒険者の派遣は難しかった。

 その代わり……。


「リーナイト星からやって来ました! よろしくお願いします!」


「ダンジョンのことなんてなにも知らない軍人たちから、あれこれ命令されないのは素晴らしい! プロにちゃんと教えてもらえるなんて、最高の環境ですよ」  


「軍人は、自分たちはダンジョンに入らないくせに、エリート風吹かしてとんでもない命令を出すし、それに意見すると、『軍人に逆らうと銃殺だ!』って怒るし。ろくでもない連中だったな」


「ようし! ここで色々と学んで、リーナイト星一の冒険者を目指すぞ!」


 それなら、逆にデナーリス王国に留学すればいいという話になり、多くのリーナイト人冒険者たちがデナーリス王国へとやって来るようになった。


「リョウジ君、でもアナザーテラのダンジョンは難易度高くないかな?」


「だから最初は、地球の冒険者特区内のダンジョンからスタートだな」


「いいの?」


「いいんだよ。田中総理も認めてくれたから。世の中、案外緩いものさ」


 と、ホンファに説明する俺。

 いまだ、地球に滞在している宇宙人はホラール人だけということになっているが、そこは上手く俺が田中総理と相談して、リーナイト人にも日本とデナーリス王国の就労ビザが下りるようになった。

 どうせ同じ人間型なので見分けがつかないというものある。


「汎銀河連合に所属する国々は、デナーリス王国人冒険者を呼べるから、わざわざ冒険者を地球に派遣なんてしないけど、リーナイト星には特別な事情があるから」


 カウンタークーデターで誕生した新政権が頑張って惑星統一を進めているが、元々内戦があった星だ。

 いまだ政情が安定しておらず、デナーリス王国人冒険者を派遣できないため、冒険者の育成をデナーリス王国に任せることになったのだ。


「彼らがダンジョンから手に入れたという名目で、資源、ドロップアイテム、モンスターの素材を売ることもできるようになったし」


 これでどうにか国を立て直し、汎銀河連合に加盟してほしいものだ。

 幸い、デナーリス王国との戦争では戦死者が出ておらず、リーナイト人たちはデナーロス王国人に悪感情を持っていない人が大半だった。

 ずっと内戦を続けていたので、むしろ地域対立の方が強いから、統一した政権を作る方が難しいという。

 それでも数年後、苦労のはてにリーナイト星は無事に汎銀河連合加盟することができた。


「そこで、社長のホログラム像をリーナイト共和国の首都に作ったので、その除幕式のお仕事なのだ」


「惑星国家なのに、銅像って……」


「社長、銅像じゃなくて、ホログラム像なのだ。銅像は管理が大変なので、現物のないホログラフの像ってのが最新なのだ」


「俺としては、人類が宇宙に進出しても、そういうものを作るんだなって」


「十分進化したのだ。銅像という物質的なものに拘っていないのだ。これが地球なら、『ホログラムの像だと! ふざけるな! ちゃんと銅像を作れ!』って騒ぐ老人がいるのだ」


「ありそうな話だな。俺は、像なんていらないんだけど……」


「『リーナイト星の内戦終結に貢献し、デナーリス王国で多くのリーナイト人冒険者を育ててくれた社長を讃えないなんてあり得ない!』。リーナイト人たちはそう言っているのだ」


「まあいいけどね」


「これで、リーナイト星との戦争から、復興、その功労者である社長のホログラム像が作られるまてのドキュメント動画が完成するのだ。きっと多くの視聴回数を稼げるのだ」


「もはや、なんでも動画にするんだな」


「こんな面白い題材、動画にしない方がおかしいのだ」


「動画配信者として、それはわかる」


 リーナイト星とデナーリス王国との戦争から、終戦、復興、汎銀河連合への加入、俺のホログラム像の設置と、動画はかなりの長尺となったが、俺の動画チャンネルに更新された途端大反響を呼び、驚異的な視聴回数を記録するのであった。

 さらに……。


「今年度の世界ジャーナリズム大賞は、ダンジョン攻略後チャンネルとなりました! みなさま拍手を!」


「「「「「「「「「「パチ! パチ! パチ! パチ! パチ! パチ! パチ! パチ! パチ!」」」」」」」」」」


「リョウジ・フルヤさんおめでとうございます!」


「はははっ、わざわざこのような名誉ある賞をいただき、まことにありがとうございます(これって、プロト2が賞を貰うべきでは?)」


 いまだ地球では宇宙の話題に飢えており、プロト2が撮影、編集したリーナイト星関連の動画は大きな話題となり、その年の世界ジャーナリズム大賞を受賞してしまった。

 動画を撮影したのはプロト2……がコントロールしているドローン型ゴーレムなので、彼が貰うべきだと思ったのだけど、世界ジャーナリズム大賞は人間しか貰えないそうで、俺が受賞することになってしまった。

 世界ジャーナリズム大賞、意外と狭量だなと思い壇上に立つが、ジャーナリストたちの視線が厳しい。


 プロのジャーリストである自分たちを差し置いて、動画配信者が世界ジャーナリズム大賞を取ったからだろう。

 やはり地球のお爺さんたちの多くは狭量だなと思いつつ、リーナイト星のホログラム像はまだ融通が利いているんだなと思う俺であった。

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