第290話 惑星間戦争(その3)
「リーナイト星という、汎銀河連合に加入できていない惑星国家が、デナーリス王国の占領を目指して大艦隊を発進させたって?」
「はい。情報部からの報告です。外務省からも、同じ報告が入っています」
「どうしてリーナイト星とやらは、デナーリス王国を占領しようとしていんるだ?」
「リーナイト星は、長年続く内戦のせいで汎銀河連合に加入できず、ダンジョンの攻略が上手くいっていません。内戦状態のため、デナーリス王国人冒険者の招聘も断られていますから」
「内戦をやっているところに、貴重な高レベル冒険者たちを送れないよな」
「はい。そこで彼らは、デナーリス王国を手に入れて豊富にあるダンジョンの産品を手に入れつつ、高レベル冒険者のリーナイト星派遣を可能にしたいのだと思います」
「そんな理由でかよ!」
「さあ、陛下! いざ戦場へと向かいましょう!」
「なんで俺?」
「陛下は、実質的なデナーリス王国の王ではありませんか。まさか、女王陛下を前線に出せと?」
「それはできないから、俺が行くしかないか」
俺は古風な男なので、デナーリスを戦場に立たせるくらいなら俺が行くさ。
「さすがは陛下、それでは参りましょう」
「なんか誘導された感はあるが……急ごうか」
デナーリス王国がリーナイト人たちに占領されると困るので、俺も軍人たちと一緒に艦隊で出撃した。
「問題は、うちの艦隊でリーナイト軍の艦隊に勝てるかだな」
デナーリス王国軍艦隊は、中古艦艇ばかりなので最新鋭とは言えない。
ただ、リーナイト星は長年内戦を続けていたせいで、人口三十億人の割には宇宙軍が充実していなかった。
内戦で常に消耗する、陸、海、空軍の補充が最優先だからだ。
「なのですが、軍艦の数は我が軍の三倍以上だそうです。他の惑星国家が教えてくれました。無人偵察機でも確認しています」
「陛下、我々は勝てるのでしょうか?」
「勝てるけど、問題はあるな」
「問題ですか?」
「そうだ」
まずは、これまで頑張って整えた戦力に大きな損害が出てしまう。
もし貴重な人間の軍人が戦死でもしたら、大損害なんてもんじゃない。
とはいえ、戦わないわけにいかないのだが。
もう一つの問題は、リーナイト軍に多くの戦死者が出ることだ。
たとえ先に侵略してきたリーナイト星が悪いにしても、多くの戦死者を出すと、リーナイト人がデナーリス王国人を恨むようになるだろう。
地球の無責任な人たちが、デナーリス王国を悪し様に批判し始めるというのもあった。
「これをどうにかしないとな」
「陛下、どう考えても戦況は我々の不利なのに、戦死者を出さずに勝つなんて無理ですよ」
「デナーリス王国の軍事技術は、リーナイト星に大きく劣ってしますからね」
「伊達に長年内戦をやっていないか……。だが、我々にはダンジョン技術がある!」
純粋な科学力ではリーナイト人に勝てないから、デナーリス王国軍の艦隊はダンジョン技術を用いて改良してあった。
なのでそこまで性能に差はない。
「ダンジョン技術を駆使して、まずはリーナイト軍艦隊を無力化しよう。作戦を伝授する」
「リーナイト人たちはダンジョン技術に慣れていませんから、効果は高いかもしれません」
かなり邪道な手だが、向こうが攻めてくるから悪いのだ。
なるべく人死を出さないようにもしたいから、この作戦でいくとしよう。
「前方に、デナーリス王国軍艦隊と思われる宇宙艦艇の反応があります。向こうは、こちらに気がついていないようです」
「ふふふっ、やはりデナーリス王国の探知技術は旧式のようだな。惑星国家共も、最新鋭の探知装置は売らないだろうからな」
短期間で、デナーリス王国を占領する。
そのために、リーナイト軍に所属するすべて軍艦を出撃させたが、その効果はあったみたいだ。
デナーリス王国軍艦隊も全力出撃したと思われ、これなら目の前の敵艦隊を撃破、降伏させれば、残りは戦力ゼロのデナーリス星のみとなる。
地上軍は残っているだろうが、宇宙艦艇による衛星軌道上からの攻撃には無力なので、降伏させることは容易い。
降伏しなければ、ビームとレールガンで地上を焼き払うと脅せばいいのだ。
「デナーリス王国軍艦隊の隻数は、我々の三分の一程度ですね」
「我々の勝利は確定したな」
情報部が、これまでに惑星国家共がデナーリス王国に売却した軍艦の数を調べており、その数にほぼ一致する。
珍しくちゃんと仕事をしたようだ。
「中古艦艇ばかりで、数も少ない。油断しなければ勝てる! 全艦、砲撃準備!」
向こうは探知機器が古いので、まだこちらに気がついていないようだ。
リーナイト軍の探知妨害装置の性能も、デナーリス王国軍をはるかに上回っていることが確認できた。
内戦の影響で、汎銀河連合に加盟している惑星国家の科学技術力には劣るが、デナーリス王国に負けるわけがないというものあるか。
「ビーム砲、レールガン、ミサイルの性能もこちらの方が圧倒的に上だ。我々に気が付かないまま、一方的に撃たれるとは可哀想だが、これもリーナイト星のためだ」
リーナイト星はデナーリス王国を手に入れ、豊富なダンジョンからの産品で力をつけ、汎銀河連合に加入、その中で大きな力を持つ。
この艦隊戦での勝利は、その目的を達成するための第一歩なのだから。
「(……たとえ無謀な戦争でも、我々軍人は政治家の命令に逆らえないのが辛いところだがな)全艦、攻撃開始!」
艦隊司令及び、デナーリス王国解放軍総司令官……解放とは片腹痛いが、たとえ嘘でもそう名乗らなければいけないのが大人の世界というものだ……である私の命令で、全艦が一斉にビーム、レールガン、ミサイルを敵艦隊に向けて発射した。
このところ、地上戦がメインの内戦の影響で訓練が不足していたとはいえ、こちらに気がついていない敵艦隊相手なので、命令率はよかった。
敵艦隊に次々と、多数のビーム、レールガン、ミサイルが突き刺さり大爆発する。
艦内に歓声が響き渡った。
本当は軍規違反だが、初の実戦なのでしかたがないか。
たとえ内戦中でも、軍艦を喪失すると他の星に付け込まれるかもしれないので、宇宙軍は暗黙の了承で戦闘禁止となり、戦闘をした経験がなかった。
そのおかげで、反乱勢力側の艦隊と合わせてデナーリス王国軍艦隊を圧倒しているのだが、連携は望めないし、機動に制限があるのが唯一の欠点か。
「攻撃したので、もうこちらの存在が向こうに知られてしまったが、敵艦隊はボロボロだろう。降伏勧告を……」
「総司令! 新たな敵艦隊が後方から出現しました!」
「なんだと!」
急ぎ戦闘艦橋前面にある巨大なスクリーンで確認すると、確かに今撃破した敵艦隊と同規模の艦隊が確認できた。
「これはどういうことだ?」
まさか情報部が、デナーリス王国軍の艦艇数を間違えたのか?
「いや、敵の艦隊はモロすぎた。今撃破したのは、輸送船などを改良した囮艦隊だろう」
「なるほど、デナーリス王国軍も考えますね」
「無駄な足掻きさ。後方から出現した艦隊に対し攻撃を続けろ!」
脆い囮艦隊などあったところで、負けるのが少し遅くなるだけのことだ。
私は、新たに出現した敵艦隊への砲撃を続けさせた。
「ほら見ろ!」
さすがに、本命の敵艦隊はそこまで脆くなかったか。
こちらの攻撃をバリヤーで弾き返してしまった。
「バリヤーを破るためには、少し距離を詰める必要があるな。全軍、前進しつつ攻撃の手を緩めるな!」
味方艦隊は、ジリジリと距離を詰めながらデナーリス王国軍艦隊を攻撃し続ける。
すると、一隻、一隻と敵艦にビーム、レールガン、ミサイルか突き刺さり、爆発、撃沈、脱落していった。
「やはり、さっきの艦隊は囮だな。向こうが降伏するまで、攻撃の手を緩めるな!」
囮艦隊などあってもなくても、我々の勝利は固かったか。
などと思いながら、戦況を巨大スクリーン越しに確認していると、突然艦橋内に警報音が鳴り響いた。
「後方至近に、多数のミサイル反応!」
「なぜ気がつかなかった?」
「突然、出現したんです!」
「アンチミサイル散弾を撃て!」
「間に合いません!」
「被弾に備えろ!」
とはいっても、衝撃に備えて椅子に座るか、その場で踏ん張るかしかできないが。
それからすぐに、艦内が大きく揺れ……なかった。
衝突時に発生したと思われる小さな揺れのみで、正直拍子抜けしてしまった。
「不発か? 」
惑星国家共に、不良在庫のミサイルでも押しつけられたか?
「さすがに、全弾不発ということはあり得ませんよ」
「それもそうか……。いや! ミサイルが命中した全艦、すべての隔壁を閉じろ! 排気システムを全力で動かせ!」
「総司令? ああっ!」
「きっとミサイルには、毒ガスが詰まっているのだろう」
「なんと卑怯な! 毒ガスは汎銀河連合で禁止されているというのに、これだから辺境の野蛮人は!」
「それだけ切羽詰まってる証拠だな。だが、文明人のやり方ではない。やはりデナーリス王国は、リーナイト国が統治するのが正しいのだ」
デナーリス王国人は遅れているから、宇宙艦艇には対科学、毒ガス、放射能兵器能力があることを知らないらしい。
ミサイルに詰め込んだ、これら兵器を軍艦に撃ち込んだとて、すぐに命中した区画は隔離され、宇宙の外に排出されてしまうのだから。
「どんな手で、ミサイルを命中直前まで隠し仰せたのかは知らないが、これで切り札は終わりだろう。あとは、敵艦隊と距離を詰めて……あれ?」
突然、抗い難い眠気に襲われた。
周囲を見ると他の者たちも同じようで、すでに完全に眠ってしまっている者たちまでいる。
突然どうしたというのだ?
「催眠ガスか?」
いや、それも毒ガスなどと同じく、すぐに他の区画に漏れないよう隔離され、艦外へと排出される仕組みなので、それは絶対にない。
「となると……魔法か……」
それこそ、まさかだ。
冒険者については、軍だってリーナイト人冒険者への聞き取りや調査を行って、ある程度の全容を掴んでいる。
魔法の効果範囲が、軍艦一隻全体まで広がるわけがない。
せいぜい、魔法が使える冒険者の視界の範囲内が精一杯なのだから。
ましてや、我々の艦に命中したのはミサイルのだ。
ミサイルの中に、魔法を詰めるなんてできるわけが……。
「デナーリス王国では、ミサイルに眠りの魔法が詰めることができるのか?」
魔法によっては物理的な壁をすり抜けてしまうので、私たちを眠らせることが可能だが、どうやってミサイルに魔法を仕込んだのだ?
とにかく謎が多いが、残念ながら私はもう意識を保てないようだ。
このまま、なにもわからないまま戦死してしまえば、私が敗戦の責任を取らされずに済む……それも悪くないかもしれないな。
バカな軍上層部の命令に逆らえず、デナーリス王国を占領してしまうよりは。
「半日は目が覚めないのはいえ、もしかしたら『眠り』をレジストした冒険者特性持ちがいるかもしれない。急ぎ、敵兵士たちを捕縛し、艦隊のコントロール権を奪います」
「頼む」
「とはいえ、全部ゴーレムたちにやらせますけど」
「デナーリス王国軍は人間が少ないからな。リーナイト軍はどうなんだ?」
「ダンジョン攻略に苦慮している状態なので、ゴーレムの試作すらできていないでしょうね。ロボット兵はいるようですが、指示を出す人間の軍人が眠っているので、組織的な抵抗はしてこないものと思われます。ゴーレ厶に対処させます」
デナーリス王国軍艦隊は、リーナイト軍艦隊に完勝した。
こちらはリーナイト軍艦隊の三分の一なのに、一隻の損失も、一人の戦死者も出ておらず、これは完勝といっていいだろう。
普通に考えたら、デナーリス王国軍艦隊が一方的に蹂躙されても不思議はなかった戦力比だったけど、リーナイト星の科学力に張り合わず、ダンジョン技術を用いたおかげだ。
最初、リーナイト軍艦隊が撃破したデナーリス王国軍艦隊は、すべて幻術だった。
ただの幻術ならバレるリスクがあったが、ちゃんと軍艦が砲撃やミサイルを食らって損傷、爆沈する幻術にタイミングよく切り替えるなど工夫をしていたから、彼らはこれを囮艦隊だと思ってくれた。
実は、次に後方から現れた艦隊も幻術なのだが、今度は少しずつ損害を出して負ける幻術を流したので、リーナイト軍艦隊は最後までそれが幻だと気がつかなかった。
では、本物のデナーリス王国軍艦隊はどこにいたのかというと、リーナイト軍艦隊が幻術に気を取られている間に、その後ろに回り込んだ。
敵に探知されなかったのは、魔法で姿も反応も消していたからだ。
彼らは真後ろから迫る俺たちに気がつかず、至近距離から『眠り』魔法入りのミサイルを食らい、艦内に広がった魔法でぐっすりというわけだ。
魔法の効果範囲を広げるにはレベルと才能が必要だが、俺がミサイルに仕込んだ『眠り』の魔法陣としっかりと効果を発揮した。
リーナイト軍の軍人たちは、毒ガスと科学兵器へと対処は完璧だったが、魔法相手ではとうにもならず、全員眠ってしまったというわけだ。
「陛下は、敵兵の捕縛と敵艦隊の鹵獲が終わるまでお待ちください」
「待つしかないから待つけどね」
味方のゴーレムたちにより、リーナイト軍艦隊は全艦鹵獲され、総司令官以下すべての将兵が捕虜となった。
怪我人と戦死者が一人も出なかったのは幸いだろう。
捕虜になった軍人たちのキャリアは終わったかもしれないけど。
そして、これら一連の宇宙艦隊決戦の様子は撮影されており、それらは順次編集され、俺の動画チャンネルで更新された。
『すげえ! 本物の宇宙艦隊決戦だ』
『敵艦隊の斉射は大迫力だな』
『この動画、バズってるよな』
『映画なら、すげえ大金をかけないと作れないような映像だからな。それを無料で見られるんだ。悪くないだろう』
『確かに、悪くないな。それどころか、下手なSF映画より楽しいのに無料で見れて大満足だぜ』
もはやダンジョンとは関係ないけど、視聴回数を稼げるので、デナーリス王国軍宇宙艦隊の演習は定期的に動画をあげていこう。
「イメージ戦略にもなるしね」
「……我々は、いったいなんのために戦ったのだ……」
「軍人は、政府の命令に逆らえなくて大変……いや、軍部はクーデターを起こしたんだっけ? いきたり宇宙軍すべてを失ったけど大丈夫?」
「大丈夫ではないだろうが、私は捕虜の身だ。なにもできないさ」
デナーリス王国とリーナイト国との戦争は、初手でリーナイト宇宙軍が一隻残らず鹵獲され、デナーリス王国を攻撃する手段を失ってしまったのであった。
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