第289話 惑星間戦争(その2)
「デナーリス王国軍! 総員集合!」
「いつ見ても少ないよな」
「少数精鋭なのだ」
「みんなが精鋭なのはわかるし、デアーリス王国にしては大規模な軍だと思うけど、こうも人間の軍人が少ないと、なんとなく不安になるような……」
「陛下、これでもそのデナーリス王国軍はそこまで人手不足じゃないんですよ。ゴーレム、ロボット、AIが大量にいますから」
「だから俺は陛下じゃないって」
「まあそこはお気になさらず。ニックネームみたいなものですから」
デナーリス王国には、当然だけど軍がある。
国防総軍の下に、陸軍、空軍、海軍、海兵隊、諜報軍、宇宙軍があって、その戦力はアメリカをも凌駕しているけど、人間の軍人は合計百五名しかいなかった。
人口の少ないデナーリス王国では、多くの人間を軍人にできないので、彼らは真に少数精鋭というわけだ。
それに加えて、もし人間の軍人の数が戦死、戦傷で十分の一になっても、大量のロボット、ゴーレム、AI、人工人格のおかげで、なんら支障なく活動できるようになっていた。
一応予備役もいるけど、普段は冒険者をしているので顔を合わせることがないという。
「社長、じゃあ早速宇宙軍の演習を見学するのだ」
「その様子を撮影して、俺の動画チャンネルで流すんだよな」
「デナーリス女王の動画チャンネルでも流すのだ。今の軍隊はネットやSNSでの宣伝も必要なのだ」
「みたいだな」
俺とプロト2は、宇宙艦隊の旗艦である巨大戦艦に搭乗し、宇宙へとあがった。
まるで、某宇宙戦艦が発船するかのような……。
なお、Gはない。
地球よりもはるかに科学技術が進んだ惑星国家では、どんな乗り物や兵器にもGキャンセラーが装備されているからだ。
これがないと、乗り物や兵器の速度を上げられないからだ。
人間の体が耐えられるGには限界があるからな。
なお、このGキャンセラーは、惑星国家では陳腐化した技術であり、デナーリス王国も製造に成功したので、地球の国々……売り先は限定して販売していた。
その利益も、デナーリス王国軍の強化に使われているというわけだ。
「こうして大金をかけて整備した戦力だけど、使われずに済むに越したことはないな」
大半の人間は戦争なんて嫌いだが、いざという時に備えて戦力を整備するというのが普通の考え方だろう。
このことで、『侵略国家を目指すデナーリス王国』と批判する地球の人たちが出現するのはいつものこととして。
「軍事演習で、実際に艦隊を組んで演習をすると絵になりますけどね」
「SF映画感あるよなぁ」
「ええ、私はこの光景が好きで宇宙軍を選びましたからね」
宇宙軍のトップである高良大将は、今年で五十歳。
『将軍』スキル持ちの優れた冒険者だったが、もう年も年……高レベル冒険者は五十歳でもほとんど体は衰えないので、その気になれば現役を続けられるのだけど……なので、第二の人生として軍人になったそうだ。
元海上自衛隊員で、経験アリというのも大きかった。
デナーリス王国軍人の大半は、元軍人の冒険者特性持ちで、年配の人が第二の人生としてその道を選ぶってパターンが多い。
すでに冒険者として十分に稼いでおり、そのお金で資産運用をしているからお金に困っておらず、デナーリス王国に貢献したいって人が多かった。
「演習の様子は動画で公開されるので頑張りますよ」
デナーリス王国軍の演習の様子は、今度デナーリスや俺の動画で公開され、多くの視聴回数を稼ぐはずだ。
早速実弾を使った演習が始まるが、標的に向けて放たれて命中し、破壊と大爆発を起こすレールガンとビームによる攻撃は圧巻だな。
戦争だと人が死んでしまうが、演習なら格好いいと思えてしまうのは、男子の性なのだと思う。
「次はミサイルの試射をします」
「ミサイルって、高くないの?」
「まあ、予算内ですよ。ご安心ください、陛下」
そんな軽口を叩きながら、俺が軍の演習を見学できているのは、俺がデナーリス王国の実質的な王だからだ。
表向きはデナーリス女王の方が世間からのウケがいいし、日本政府は俺がデナーリス王国人だとは認めていない。
俺が正式に王を名乗ると、『デナーリス王国は日本の属国だ!』などと言い始める人たちが出てくるかもしれないため、公式な国のトップはデナーリスの方が都合がいいというわけだ。
元々俺自身が王様なんて性に合わないのと、デナーリスがそれをわかってくれたってのもあった。
向こうの世界からの長いつき合いだからな。
「次は、無人攻撃機による発艦、攻撃訓練です」
「無人機かぁ。パイロットは育成しないの?」
「我が軍にパイロットは三名しかおらず、なかなかそんな余裕が……。募集してもなかなか集まりませんし、彼らも自分の訓練と、無人機隊のコントロールで忙しいですよ」
デナーリス王国人は大半が冒険者のため、公務員や軍人の確保が難しかった。
待遇を大幅に上げたり、兼業を許可して人を集めている状態だ。
そのおかげか、デナーリス王国の公務員と軍人は世界一高い給料を貰っていると、ネットで話題になったことがあるのだけど、それでもダンジョンに潜った方が圧倒的に稼げるから、彼らは本当に頭が下がる思いだ。
人間の軍人の代わりに、ゴーレム、ロボット、AIも軍人の数としてカウントしており、なるべく彼らの負担を減らそうと大量に導入している。
デナーリス王国軍に即発されたのか、地球の国々も人間の軍人を減らす傾向にあった。
その分、少数精鋭でスキルの高い軍人を残して待遇を大幅に向上させ、彼らに大量のゴーレム、ロボット、AIを指揮させる。
もはや、食い詰め者の最後の砦であった軍隊ですら、役に立たない人間はいらないというわけだ。
今の時代使い捨ての兵隊を使うと批判されるし、弾避けなら死なないロボットとゴーレムで十分だと。
軍ですら人を雇わなくなり、仕事がなくなる多くの人たちから不満が……少なくとも先進国ではあまりそういう話は出なかった。
ロボットやゴーレムが代わりに戦ってくれるのなら、人が死なないので大歓迎だと好意的に見る人たちが多かったのだ。
「艦隊もほぼ無人だけど、特に問題ないからいいのか」
「なかなか人が集まらないからゴーレムを導入したとはいえ、人間の軍人がいらないわけではないのですが、一定以上の能力は必要ですよ。猫の手はいらないのです」
「それはそうだ」
スキル『将軍』持ちの高良大将と話をしている間に、無人機の編隊は、他の惑星国家が廃艦にした宇宙艦艇を標的としてミサイル攻撃を開始。
見事その撃沈に成功した。
続けて、ほぼ無人艦隊が砲撃を開始。
次々と標的を沈めていく。
「なかなかの迫力だし、素人目で見ても練度に問題はなさそうだ」
「訓練や演習はいいのですが、正直なところ我が国の軍には実戦経験がないので、いざ実際に戦争になった場合、どうなるかという不安はあります。シミュレーションを走らせてみたところ、デナーリス王国の防衛は可能だという回答は出ていますけど」
「意図して実戦経験を積むのは難しいので、訓練を続けるしかない。まさか戦地に傭兵扱いで送り込むわけには……」
「汎銀河連合で、軍人を送り込めるような戦地はないですね。非加盟国にはあるそうですが、貴重な軍人を送り込んで戦死でもされると困りますから。かといって、宇宙海賊狩りをするわけにもいきませんし……」
「海賊なんだ。宙賊じゃなくて」
「惑星国家は、海賊って呼んでますね。宇宙に進出する前に名残りなんでしょうね」
汎銀河連合に所属している惑星国家の中には、海賊に悩まされているところも多いらしい。
そのため、宇宙軍は対海賊戦で実戦経験を積んでいるそうだ。
銀河の果てにあり、近くに惑星国家のない地球とアナザーテラには縁がない話だけど。
「今のところは戦争の危険もないとはいえ、なにかいい案を考えるとするか」
「結局汎銀河連合に加盟している国の大半が、結局は海賊の取り締まり以外で実戦経験なんてないですけどね」
汎銀河連合に所属する惑星国家は、加盟国同士の戦争は禁止という決まりがあるのでデナーリス王国に攻めてくることはない。
汎銀河連合に所属する惑星国家は、もう数十年も戦争をしていないそうだ。
次の仮想敵国である地球の国々は、そもそもアナザーテラに艦隊を送り込めないから、戦争になりようがない。
「今のところはこれで良しとして、今後も軍備を手を抜かないってことでいいのかな?」
「はい。今は他国から中古宇宙艦艇を購入、改良して使ってますけど、将来は独自建造を目指しています。アナザーテラの衛星軌道上に宇宙船建造用のドックを建設中でです」
そのための軍事技術は、ダンジョンの産品を売って惑星国家から手に入れているし、ダンジョン技術を用いて兵器類を強化しているので、他の惑星国家と比べて極端に戦力が低いということはないはずだ。
「短期間で戦力を整えられたのは、毎日ダンジョンを攻略する冒険者のおかげだな。演習を続けよう」
「はい」
艦隊は決められた数の攻撃を行い、標的の廃艦をすべて破壊した。
その様子は俺たちが撮影しており、後日編集されてから俺のチャンネルに投稿された。
『すげえ、本物の宇宙艦隊だ!』
『SF映画みたい!』
『デナーリス王国って、凄い戦力を持っているんだな』
『人口が少ないのに、よくあんな戦力を……。ロボットやゴーレムの兵士か。超未来って感じだな』
動画は計算どおりにバズった。
俺がデナーリス王国軍の軍事演習の様子を動画サイトに流したのは、実は水面下でデナーリス王国の占領を目指す地球の国々があったからだ。
「圧倒的な戦力を見せつけて、敵の心を折るってわけさ」
「アメリカ軍でも、今のデナーリス王国軍には勝てないでしょうからねぇ」
リンダがそう言うのなら、間違いないだろう。
惑星国家の軍はわからないけど、いまだちゃんとした宇宙軍を配備できていない地球の国々には負けないはずだ。
「(頼むから、無謀な戦争を仕掛けるのはやめてくれよ)」
心の中でそう願う俺だったが、まさかこの直後、デナーリス王国軍が初めての戦争を体験することになるなんて、現時点では予想だにしなかったのであった。
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