第288話 惑星間戦争(その1)
「リーナイト星は、いまだ汎銀河連合に加盟できておらず、デナーリス王国からダンジョン攻略の支援を貰えていない状況だ。これをなんとかしなければならない!」
「デナーリス王国人冒険者たちは、汎銀河連合のお墨付きがあるからこそ、安心して他の惑星国家で働いている。リーナイト星は、いい加減反政府勢力との内戦をやめるべきだ」
「何度も降伏を呼びかけているが、向こうが応じないのだ!」
「反政府勢力とリーナイト政府は、戦力的に見てほぼ互角ではないですか。降伏などあり得ず、ここは話し合いで統合政府を作るしか……」
「そんなことができるか!」
「しかしながら、現実問題として我々も反政府勢力もダンジョン攻略に苦戦している。聞けば、今では内戦よりも多くの犠牲者を出しているとか。数少ない冒険者たちが無駄に死ぬのを減らすべきだ」
「反政府勢力の連中が、意固地なのが悪いのだ!」
「とにかく内戦が終わらなければ、デナーリス王国だって冒険者を送り込めない。いい加減内戦を終わらせるべきなのだ」
「言うは易く、行うは難しだ! そんなに簡単に内戦が終わるのなら、とっくに終わっているはずだ!」
「……」
クソッ!
また外交交渉に失敗した!
どうにかこのリーナイト星にデナーリス王国の冒険者を迎え入れ、ダンジョン攻略及び、資源とエネルギー確保を進めたかったが、デナーリス王国からは内戦が終わって汎銀河連合に加入するまでは無理だと言われてしまった。
内戦状態では、自国の冒険者の安全が確保できないと。
だが、これまで数十年続いた内戦をそう簡単に終わらせることなどできない。
どうにかならないかと陳情し続けたみたいだが、結局無駄だった。
そんなわけでリーナイト星の内戦は終わらず、ダンジョン攻略は進まず、エネルギーは核融合技術でなんとかなっているが、資源不足が深刻になってきた。
ただそのおかげで、このところ戦闘がほとんど起こっていないのは皮肉というか……。
武器を作るにも資源が必要だからな。
リサイクルでは限界がある。
だが、この十年間資源不足を解決できない政府は強い世論の批判に晒されており、この問題をどう解決するか連日会議が行われているのだが、答えはなかなか出なかった。
内戦を終わらせる。
これしかないのだが、それがすぐにできたら誰も苦労しない。
「間違いなく反政府勢力側も困っているはずだから、これは内戦を終わらせるチャンスなのでは?」
「その考え方は正しくはあるが、一つ大切なことを忘れているぞ」
「政府側と反政府側の戦力はほぼ同じだ。停戦から政府を統合するとして、そうなるとこの中の半分が失業するだろうな」
「副大統領! そのような発言は、政治家としての品格を疑われますぞ!」
「そうだな。品格を疑われるだろうな。だが、それは誤魔化しようのない事実だ。年寄りである私はいつ政治家を引退してもいいが、諸君らはどうなのかな?」
「……」
副大統領からそう聞かれたものの、彼の政治家たちは黙り込んでしまった。
内戦は終わらせたいが、その結果、自分たちが失業したら嫌だからだ。
「反政府勢力側に半分の議席や役職を与えないと、向こうだって政府統合を受け入れないだろう。停戦だけでは汎銀河連合には加盟できないし、デナーリス王国も冒険者を派遣してくれないというのもある」
「統合政府を作るハードルは高いか……」
今頃反政府勢力側も、同じような答えの出ない話し合いを続けているかもしれないな。
「リーナイト軍が独自に育成、ダンジョンに送り込んでいる冒険者たちだが、どうして思ったほどの成果が出ていないのだ?」
「それは、教官役の軍人たちのせいだろうな」
事情を知っている議員の一人が、元軍人である国防大臣を見てから話を始めた。
実はみんな知っていることだが、少しでも成果を増やそうと、軍部が冒険者たちに無茶をさせるから、死亡率が半端なく高いのだ。
せっかくレベルを上げた冒険者が死んでしまえば、これまでの育成が無駄になってしまう。
議員たちは、軍人たちの能力を疑っていたのだ。
「そもそも、どうして冒険者特性もない軍人が、偉そうに冒険者に命令を出すのかね? それで成果が出ていればいいが、こうも冒険者に死なれると……」
「軍人たちは頑張っている!」
軍批判を聞いた、元軍人の国防大臣が激昂しながら反論した。
元々自分が所属していたので、軍人が批判されるのが嫌なのだろう。
「しかしながら、冒険者が死に過ぎではないのかね? 軍人はダンジョンの専門家ではない。冒険者に任せればいいのでは?」
「冒険者たちの大半は戦闘の素人だ! 軍人が指揮してこそ、多くの成果を出しているのだ!」
「成果が出ているとはいっても、この十年、資源の価格は高騰する一方ではないか。冒険者が死にまくる問題もある。私が調べたところによると、他の惑星国家の冒険者たちに比べると、死亡率が二十倍を超えている。軍人が冒険者を指揮することに問題があるのではないか?」
指揮すると言えば聞こえがいいが、現実は退役間近で配属先がない駄目軍人たちが、後ろの安全な場所から冒険者に『突撃!』と命じるだけだったり、まだノルマが稼げていないと言い放ち、冒険者たちに無茶をさせるなんて話もあった。
挙句に自分が指揮した冒険者が死ぬと、『不甲斐ない!』、『役立たず!』と罵るケースもあったとか。
ようは軍部は、駄目な軍人の天下り先として冒険者たちを指揮させているわけだ。
「冒険者自身に指揮させる件だが、冒険者に指導できるデナーリス王国人冒険者たちが来ないのでは難しいだろう。それまでは軍が冒険者たちを指揮した方がいい」
「……」
国防大臣め!
よくも抜け抜けと……。
軍部の魂胆はわかっている。
彼らは、冒険者を指揮できるという利権を手放したくないのだ。
もしデナーリス王国人冒険者たちが、リーナイト人冒険者たちの教官、指揮役になったら、多くの駄目軍人たちの天下り先がなくなってしまう。
内戦が終われば軍人は減らさなければいけないのもあって、軍部も余計に天下り先を手放したくないのだろう。
そのせいで、無能な軍人たちが冒険者に無謀な命令を下し、次々と死んでいく地獄が発生していた。
冒険者が育たずに死んでいくから、ダンジョン攻略など進むわけがないのに、軍部は利権のためにそれを改めない。
国防大臣は軍部の代弁者なので、議員たちの意見を決して受け入れないわけだ。
「せめて、軍人たちに無謀な突撃命令を出すのをやめさせろ! 冒険者は消耗品じゃないんだぞ!」
「無謀ではない! 国家に対する冒険者たちの献身をバカにするのは許さんぞ! 我々軍人が心を鬼にし、冒険者たちに突撃を命じているからそこ、リーナイト星のエネルギー、資源不足は致命傷になっていないのだ! 綺麗事を言うな!」
「資源不足は致命傷になっていないだと? お前たちが冒険者を指揮していなかったら、もっと冒険者たちはレベルアップしていたはずだ! 無駄な犠牲を出しておいて、偉そうに言うな!」
「冒険者はモンスターと戦う。戦いは軍人の領分だ! 軍人が指揮するに相応しいし、有能な軍人が指揮しているから、この程度の犠牲で済んでいるのだ! 軍人をバカにするのか?」
「バカにしていない。無能だから、無能だと言っているのだ」
「衆愚な選挙で選ばれた議員風情が!」
駄目だ。
売り言葉に買い言葉で、議論は平行線のままだ。
軍人が冒険者たちを指揮するようになった原因は、内戦が原因でもあった。
冒険者はダンジョンでモンスターと戦うが、これを個々にやらせると効率が悪いと考えた。
そして、軍人なら戦闘指揮に慣れているはずだ。
などという意見から、なぜか冒険者たちは軍人が育成、指揮することに決まってしまった。
ところが、とにかく冒険者の死亡率が高いのだ。
デナーリス王国人冒険者がいれば、この階層ならこのくらいのレベルが必要だとわかるはずはずだが、軍人たちにはそれがわからない。
そしてプライドが高いので、自分たちのミスを認めないのだ。
冒険者の指揮に回される軍人たちが軍内での評価が低く、どうにかダンジョンと冒険者を使用して、出世コースに戻ろうとするのもよくなかった。
少しでも成果を出して出世に繋げようと、冒険者たちに無茶をさせて死なせてしまう。
実際に彼らの中で、成果は出したが多くの犠牲者を出した軍人が出世してしまったのが致命傷で、後任者も真似するようになってしまった。
冒険者の中にはダンジョンに潜るのを拒否する者たちも出たが、資源不足のため背に腹は代えられないと、政治家たちが冒険者特性の持ち主を徴兵する法案を通してしまった。
ただ最近では、軍人の言うことを聞いていたら死んでしまうため、冒険者たちが命令を拒否して牢屋に入るようになり、こんなバカみたいなことが十年以上も続いていたら、それはリーナイト政府も追い込まれて当然だ。
「とにかく、このままでは資源不足で我が星は詰むぞ」
「他の星からの輸入で凌ぐか?」
「無理だ。他の惑星国家ですら、デナーリス王国冒険者を受け入れて十年経っても、完全自給に至っていないのだからな」
リーナイト政府は、その十年を無駄にしてしまったのが致命傷だ。
だが、時間は元に戻らない。
政治家である我々が、なにかしら手を打たなければならないのだ。
「今はデナーリス王国から資源を輸入しつつ、内戦終結に向けての話し合いをするしかない」
「デナーリス王国は高レベル冒険者が多いから、少しは資源に余裕があるはずだ」
「だが、デナーリス王国は汎銀河連合に加盟している国への輸出しかしていないぞ。その問題をどうする?」
「我々の星の貨幣は受け取ってくれぬだろう。汎銀河連合に加盟していないのだから」
「なにかしら、資源と交換できるものを探すしかあるまい」
「……」
政治家たちは沈黙してしまった。
どう考えても、リーナイト星の資源不足を解決する方法が思いつかない……最適な方法があるにはあるが、これを実行するにはハードルが高かった。
内戦を終わらせる、だからだ。
しばらく沈黙が続くが、ここで国防大臣が手をあげた。
「国防大臣、なにかいい方策があるのかね?」
「実にいい解決策を考えておいたぞ。ありがたく思うのだな」
「それはどのようなものかね?」
「我々の軍勢で、デナーリス王国を占領してしまうことだ」
「「「「「「「「「「はあ?」」」」」」」」」」
そう自信満々に語る国防大臣以外の政治家たちは私も含め、国防大臣の解決策とやらを聞いた瞬間、聞き間違いでもしてしまったのかと思ってしまった。
どうやってデナーリス王国人冒険者を呼び寄せようか相談している時に、戦争をふっかけるなどと言うのだから。
「戦争をするのかね? デナーリス王国と」
「そうだ。デナーリス王国がこちらの欲求を断ったので、大義名分が立つ。デナーリス王国を占領してしまえば、デナーリス王国人冒険者も、資源も、ダンジョンから産出した品も。好きなだけ手に入るではないか」
どうやら我が国の軍人たちは、頭のネジが何本か抜けているらしい。
リーナイト星のダンジョン攻略を進めるため、どうやってデナーリス王国人冒険者たちを迎え入れるか、その方策を検討していたはずなのに、どうしてデナーリス王国を占領する話が出てきたのだ?
「汎銀河連合が黙っていないぞ」
汎銀河連合に加盟した国は戦争をしてはいけないし、もし加盟国同士が戦争になったら、それ以外のすべての加盟国で戦争を阻止する決まりになっている。
デナーリス王国との戦争など、無謀以外の何物でもないというのに。
「汎銀河連合が戦争阻止に動くには、総会での採決が必要だ。デナーリス王国は人口三十万人ほど。あっという間に落とせるから、総会での戦争阻止採決から、戦力の準備が整うまでに、デナーリス王国併合を既成事実化してしまえばいい」
「はぁ……」
自信満々に自分の考えを語る国防大臣だが、汎銀河連合もバカではないので、デナーリス王国がリーナイト軍に占領されたら、連合軍が奪還に動くに決まっているじゃないか。
どうして国防大臣は、汎銀河連合の非難決議前にデナーリス王国を占領してしまえば問題ないと考えたのだ?
「国防大臣、そのような無謀な戦争は認めるわけにいかないし、決議を取ってもデナーリス王国との戦争に賛成する議員はいないぞ」
「確かに、私以外の議員はデナーリス王国との戦争に賛成しないだろうな」
「それなら、もっと実用性のある方策を考えてくれないかね?」
「実用性のある策だと思うがね。デナーリス王国との戦争は。それに、我々軍部は議会での議決などなくても、デナーリス王国に攻め込むのだから」
そう言いながら国防大臣が手をあげた瞬間、議場に武装した兵士たちが雪崩込んできた。
「クーデターか!」
「クーデターではない。実は、反政府勢力側も軍の同志たちも、我々の行動に賛同しているのさ。今頃は、ラワールト議長たちを拘束しているかな。これより、リーナイト星は我々軍部が政権を握り、これにて統一が成ったわけだ」
「それで満足しておいた方がいいぞ。もしかしたら、リーナイト軍事政権を汎銀河連合が認めてくれるかもしれないのだから」
勿論そんなわけはないが、とにかくデナーリス王国への出兵だけは阻止しなければ!
残念ながら、兵士たちに銃を突きつけられた状態では、それも儘ならんか……。
「我々としても、これ以上死人を増やすのは嫌なのでね。大人しくしていてもらおう」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
まさか、軍部にクーデターを起こされてしまうとは……。
しかも、反政府勢力側も同じ状況なのが救えない。
いや、我々も反政府勢力側も共に軍部によってクーデターを起こされて、拘束された身だ。
もしかしたら、このあと顔を合わせたら、停戦と政府統合の交渉が上手くいくかもしれないな。
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