第287話 良二の子供たち

「これからダンジョンに入るけど、油断しては駄目だぞ」


「「「「「「「はーーーい!」」」」」」」


「まずは、装備の確認だ。ちゃんと装着してあるな? 留め金が壊れていたりしたら報告してくれ」


「大丈夫だよ、父さん」


「じゃあ、入るぞ」


「周囲の警戒を怠るなよ!」




 俺の子供たちの中で、年長者たちが中学生、高校生になった。

 俺も剛も三十代半ばを超え、いいオジサン……というほど老けてはいない。

 これも、レベルアップと魔法薬のおかげだろう。

 冒険者はよく怪我をするから魔法薬を使うことが多く、そのおかげで肌が綺麗だった。

 肌にシミとシワが出るのが、極端に遅くなるのだ。

 そのため若く見えるし、魔法薬と同じ成分の化粧品、美容液、入浴剤などを定期的に使っているから、それをずっと保持できた。


「アーサー、油断してはいけませんよ


「ハオユーもだよ」


「文隆、常に冷静でいることが大切ですよ」


「ケビン、若気の至りには注意ね」


「いよいよロズウェルも、ビルメスト王国の騎士として初陣を迎えるのですね」


「ウェイン、気張りすぎないでね」


「わっ、私が緊張してきました! 雄二、お兄さんたちの言うことをよく聞くんですよ」


「健一、まあ頑張れや」


「親父らしい言い方だな」


 俺の奥さんたちが、初めてダンジョンに潜る子供たちを心配……剛はそうでもないか。

 とはいえ、俺と剛と母親たちがついて行くのは今回だけの予定だ。

 人口が少ないデナーリス王国では、中学生になったらダンジョンに潜れるようになるが、アナザーテラのダンジョンは一階層から強いモンスターが出る。

 そこで、王都に設置されたゲートから上野公園ダンジョンなどの地球にあるダンジョン特区及び宇宙各所の惑星にあるダンジョンへと移動し、難易度の低いダンジョンに初探索、レベルアップをすることが決まっていた。

 なぜなら、レベル1の子供がいきなりアナザーテラのダンジョンに挑んだら、確実に死んでしまうからだ。


 もう一つ、今や世界一富裕な国……惑星国家となったデナーリス王国は、地球の国々や人々から妬まれることが多くなった。

 この十年ほどでますます人間の仕事がなくなり、ベーシックインカムで暮らす人が増えたからってものあるのか。

 多くの労働をロボット、ゴーレム、AIが担い、それを生産、整備、管理できたり、所有する個人や企業に富が集まっていく。

 これらの所有に税金がかかるようになり、その税収がベーシックインカムに回るようになったが、資本家となった冒険者を憎む人たちは一定数いて、だからこそデナーリス王国の子供たちは地球の冒険者特区内にある冒険者中学校、冒険者高校に通いながら、レベルを上げるようになったという事情もあった。

 彼らのダンジョンでの成果を学生生活を送っている国に売却、貢献させてイメージをよくする作戦だ。


 そんなわけで、俺と剛の子供たちは、父親、母親同伴で、初ダンジョン探索を行っていた。

 新品のフルミスリル装備に身を包み、七人、イザベラたちが最初に産んだ子たちが上野公園ダンジョン第一層へと入っていく。

 俺たちは後ろからついて行って、彼らの様子を伺っていた。


「しかし、過保護すぎないか? いきなり装備がミスリル製だし」


「まあいいじゃないか」


 剛が、今日ダンジョンに初めて潜る子供たちにミスリル装備を渡したことを甘えではないかと尋ねてきたが、子供たちにはダンジョンに潜る前に厳しい鍛錬を課し、無事に合格したのでそのお祝いだ。

 レベルを上げる前の鍛錬は重要だけど、大半の冒険者はこれを避けるというか、俺も含めて冒険者はみんな、ダンジョンの外で鍛錬なんてしない人が大半だった。

 レベルアップすれば強くなるので必要ないという意見が多かったけど、よくよく考えてみたら、レベル1の時にしっかりと筋力や足の速さを鍛えておけば、なにもしていなかった人よりもレベルアップ時にステータスが上がりやすくなるのは当たり前というか。

 たとえば、筋力5のレベル1が、トレーニングのみで筋力10にしてからレベルアップすると、倍成長する……ほど甘くはなかったが、レベル1000くらいになると10パーセントくらい差がつくことが判明したからだ。

 俺が冒険者大学で研究して実証したわけだが、これを動画で解説したら、『レベル1に戻りたい!』と、冒険者たちが大騒ぎになったのを思い出す。

 なので俺とイザベラたちは、ダンジョンに潜る前の子供たちを大いに鍛えた。


『冒険者にならないなら、この鍛錬はしなくていいけど、どうかな?』


 鍛錬を始める前に子供たちにそう尋ねたのだけど、全員が冒険者志望だった。

 俺の子供たちは全員、冒険者特性持ちだからというのもあるのか。


『まずは冒険者になるよ。そのあと、父さんみたいに他の仕事をしてもいいんだし、デナーリス王国で仕事が一つなんて人は少ないじゃん。強くて損することもないから』


『それもそうだな』


 イザベラの長男で、子供たちのリーダー役でもあるアーサーが自分の考えを堂々と述べ語り、俺もそのとおりだと思った。

 しかし、イザベラ似のイケメンが堂々と語ると格好いいものだ。

 イザベラによると、アーサーは女の子にモテるらしく、羨ましい限りだ。

 そんなわけで、俺はダンジョンに潜る前の子供たちを鍛えたわけだ。

 これも子供たちがダンジョンで死なないための、親の愛情だと思ってほしい。

 俺の合格を貰えないとダンジョンに潜れないことにしたから、アーサーたちは大いに苦労している。

 他のデナーリス王国の子供たちよりもダンジョンに潜るのが遅くなってしまったが、断言しよう。

 そのくらいの遅れは、簡単に取り戻せると。

 むしろ、俺たちのように事前の鍛錬をしないでダンジョンに潜り、レベルアップを始めてしまった子供たちよ。

 あとで後悔するがいい。 

 そんなわけで、ミスリル装備は合格祝いってやつだ。

 それに、今のデナーリス王国人冒険者からすれば、ミスリル装備が最低限だってのもあった。


「スライ厶だ!」


「やるぞ!」


 子供たちは、発見したスライムを次々と倒していく。

 そして、その粘液と魔石を俺が教えたとおりに回収していた。


「冒険者は、スライムに始まり、スライムで終わるだな」


 俺ももっと年を取ったら、こうやって孫やひ孫たちにスライム狩りを教える老後になるかもしれないな。


「そう言われると、確かにそうだな。俺の子も順調なようだ」


「剛の子供だからな。父親そっくりだ」


 中学三年生とは思えない巨体と、やはり冒険者特性は父親の特性を継いで『法皇』である健一は、特性のミスリルハンマーをスライムに振り下ろし、次々と倒していた。


「健一! お前は後衛だろうが!」


「健一がハンマーを振り下ろして倒したスライムって、粘液が飛び散って回収が面倒」


「粘液の品質も落ちますしね」


「せめて、魔法で凍らせるとかできないかな?」


「健一はいざという時に備えて、後衛で待機し続けないと」


「健一、これも役割分担だ」


「……俺の出番はなさそうだな」


 たとえレベル1でも……もうレベルアップしているか。

 事前に英才教育をしたから、スライムが次々と虐殺されていく。

 後衛で回復役の健一は暇そうだ。

 それでも警戒を怠ると、父親である剛の雷が落ちるので真面目に警戒を続けている。

 そういうところは母親に似たのかもしれない。


「スライムは湧きが少ないから、次は第二層のゴブリンを倒しまくれ! その前に、第一層のマッピングと、宝箱の回収を忘れるなよ」


「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」


 マッピングなんて本当は必要ないんだけど、これもダンジョンに慣れるための特訓の一つだ。

 もしかしたら、魔力を使ったダンジョンナビが壊れたり、突然スマホで俺の動画を見られなくなるかもしれないのだから。

 なお、ダンジョンナビとは、俺が開発したダンジョンで使えるカーナビみたいなのものだ。

 今では大半の冒険者が持っていて、宇宙シェアを古谷企画とイワキ工業がほぼ独占していた。

 俺と岩城理事長が、ほぼ同時に試作に成功してしたからだ。


「ゴブリン……生で見ると、醜悪なツラしてるよなぁ……」  


「なんかちょっと臭い」


「ゴブリンが風呂に入るとは思えないしな」


「ダンジョンに風呂なんてないだろう」


 アーサーはゴブリンを見て顔をしかめていたが、すぐに気持ちを切り替えたようで、ゴブリンたちに斬りかかった。

 他の子供たちも、それぞれのスキルを生かした攻撃で効率よくゴブリンたちを狩っていく。


「またレベルアップしたよ」


「僕はまだた。やっぱり魔法使い系のスキル持ちはレベルアップが遅いね」


「沢山倒せばいいのさ」


 俺の子供たちは順調にゴブリンたちを駆逐していき、死骸と装備、ダンジョン内にある宝箱の回収、マッピングをしてナビと見比べて間違いがないかの確認を怠らない。


「みんな、私たち母親のスキルを受け継いでいますけど、慎重なところはお父さんそっくりですわね」


 子供たちが戦うところを見ながら、イザベラが感想を述べた。


「そうかな? 俺が初めてダンジョンに潜った時は、ここまで慎重じゃなかった気もするけど……」


「最初は動揺してたけど、すぐにリョウジは慎重になっていたわよ」


 デナーリスは、俺が初めてダンジョンに潜った時に指導役だったから、俺がどんな感じだったのかを覚えていたのか。


「若者は時に無謀な行動を起こすけど、それがないことは悪いことじゃないと思うわよ」


「ダンジョンでのミスは、若気の至りでは済まされないこともあるからなぁ」


 一回のミスが致命傷になることもあるし、それは動画で何度も強調して説明していた。

 他の仕事みたいに、『このくらいのミスなら、元気があってよろしい!』とは言いにくいのだ。

 他の仕事で若者がミスをしても損害が出るくらいだが、ダンジョンでのミスは死に直結するのだから。

 世間では、デナーリス王国の冒険者の子弟だからそう簡単に死なないと思われているようだが、実は死亡率は1パーセントを超えている。

 みんな、幼少の頃からエリート教育を受けているのに、それでも油断があるのか、無茶をして死んでしまう新人冒険者は多かった。


「アーサーたちは大丈夫そうですね」


「そうみたいだな」


 親の付き添いは今回だけなので、あとは油断しないでレベルを上げ、多くのダンジョンを攻略してダンジョンコアを手に入れてほしいものだ。


「しかし、過剰戦力感はあるかもだけど」


 イザベラの息子であるアーサーのスキルは、パラディン。

 ホンファの息子であるハオユーのスキルは、聖魔闘士。

 綾乃の息子である文隆のスキルは、大賢者。

 リンダの息子であるケビンのスキルは、魔銃騎士。

 里菜の息子である雄二のスキルは、スーパーインフルエンサー。

 スキルの名称がますます細分化しており、初めて聞くスキル名があるけど、類似スキルは多いから判別はそう難しくない。

 みんな上級スキルで、下の息子や娘たちも母親の特技に準じたスキル名だ。

 だから、ダーシャとデナーリスの息子であるロズウェルとウェインのスキルは、『王子』だったりするのだけど。

 まだダンジョンに潜っていない、下の子供たちも母親のスキルに類似すうものであった。


「良二さんの『勇者』を継ぐ子供は、いつか生まれるのでしょうか?」


「どうだろう?」


 生まれるかもしれないし、もしかしたらこの世界には魔王がいないので……元魔王は、リブランドの塔の管理神になってしまったので、もう魔王じゃない……生まれてこないかもと、俺は考えていた。

 そもそも俺はスキルが表示されない人間だから、実は勇者じゃないかもしれない。

 多数のスキルを持つ男かもしれないのだ。


「勇者は魔王と対の関係だから、リョウジのスキルは表示されなくても勇者よ」


 デナーリスは、俺のスキルが勇者だと断言した。


「となると、やはり魔王がいないと、いくら俺の子でも『勇者』は出てこないのかなね? それも仮説にしか過ぎず、今後生まれてくるかもしれないし、俺の子供だって保証もないかもしれないけど」


 今のデナーリス王国には、地球から移住してきた多くの高レベル冒険者たちが住んでおり、地球の多くの国が少子化で困っているなか、空前のベビーブームとなっていた。

 みんなお金があって育休を取りやすいし、ゴーレムとAIが家事、育児を完璧にサポートしてくれるから、子供を生みやすいというのが大きいのだろう。

 しかも、産まれくる子供は全員が冒険者なので、そのうち『勇者』が出現するかもしれないのか。


「『勇者』が出たら、魔王も出現したりして」


「そうでないことを祈るわ」


 俺もデナーリスも、向こうの世界で魔王に苦労させられた。

 二度と会いたくないものだ。


「もしかしたら、『魔王』スキルを持つ子供が生まれるかも」


 もしそんな子供が生まれたら、この世界を破滅させる存在でないことを祈る。


「アーサーたちは心配ないようだな」


「上野公園ダンジョン特区で学生生活を楽しんでいるようですし、私たちは帰りましょうか」


「そうだな。でもその前に、なにか食べて帰ろうよ」


「いいね、ボクはリョウジの意見に賛成!」


「下の子供たちだけでお留守番はできるはずですからね。たまには夫婦水入らずもいいと思います」


「下の子たちも、あと数年で上野公園ダンジョン特区暮らしかぁ」


「肩の荷が下りたとも言えますし、寂しくもありますね」


「また新しい子供ができたりして。私はいつでも大歓迎よ」


「私もです」


「リナもそう思うわよね」


 俺にはすでに二十三人の子供たちがいるんだが、子供は可愛いものだし、デナーリスは国を安定させるために俺の子供が多ければ多いほどいいと言っているから、もう少し頑張ってみようかな。 

 ただ、アーサーたちの結婚も早そうだから、数年でお祖父さんになってしまうかもしれないけど。

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