第282話 叙勲、名誉職
『今、ブルワ星のダンジョンを探索していまーーーす』
『ダンジョン帰りに、ブルワ星の街を探索していますが、ちょっと独特な形状をした建物が多い街並みですね』
『ブルワ星の有名なレストランでこれから夕食です。味付けは和食に似てますね。魚がメインか……。旨味の強い白身で美味しいです』
多くの異世人たちとコンタクトした結果、俺は仕事でアチコチの惑星に仕事で出かけることが多くなった。
地球とデナーリス王国でのダンジョン探索は、剛をはじめとする他の高レベル冒険者たちに任せている。
なぜなら、とても手が回らないからだ。
事前に多くの冒険者たちのレベリングをしておいてよかったのと、一部ダンジョンの低階層にゴーレム軍団を投入し、魔石、資源、ドロップアイテム、モンスターの素材を効率よく集めるシステムもスタートさせた。
フルヤ島ダンジョンで試験運用していたものが実用化され、アナザーテラと月にあるダンジョンの低階層、地球で冒険者不足で探索が進まないダンジョンで、質はともかく、量を稼ぐことに成功している。
異星人たちも、最初は低階層の成果で満足するはずだ。
他にも、世界中の冒険者特区で低レベル冒険者のレベリングを促進させ、少しでもダンジョンで成果をあげられるようにするなど、プロト2が責任者になって頑張っていた。
とはいえ、突然数百の惑星国家が、エネルギーや資源をダンジョンから得なければいけなくなったのだ。
足りないなんてレベルを超えており、俺はデナーリス王国の高レベル冒険者を異星人たちの惑星に派遣し、現地の冒険者たちのレベリング、冒険者としての基礎知識やダンジョンの攻略仕方の詰め込み……俺の動画が参考資料なんだけど……不足する資源の緊急輸出などで、俺は忙しい日々を送っていた。
その合間に、仕事で来訪した惑星国家のダンジョンや現地の街並み、食事などの様子を動画で撮影……すでに、随伴しているゴーレム型、ドローン型カメラが勝手に撮影していた……したものがプロト2に転送され、編集したものが更新されるようになっていた。
その際も、ダンジョン内での通信に使う魔導通信技術ならば、何億光年離れていてもタイムラグがないので、現在デナーリス王国と汎銀河連邦の参加国との間で通信網が整備されている最中だ。
地球の科学技術力は異星人よりも低かったが、ダンジョン技術ならば先行している分、惑星国家を凌駕するものもある。
これがわかったのは朗報で、デナーリス王国ではダンジョン技術のさらなる開発を促進さることになった。
『学者』、『研究者』、『開発者』などのスキルを持つ冒険者たちをレベルリングで強化しつつ、研究費を沢山出して研究を進めさせていた。
『リョウジ・フルヤ。貴殿は、突然ダンジョンが出現したこの世界において、汎銀河連合を救った英雄である! よって、汎銀河一等勲章を授与することとする』
そんな中で、汎銀河連合の総会に呼び出された俺は、そこでまた勲章を貰った。
向こうの世界やホラール星の時と同じパターンだけど、俺は勲章のありがたみがイマイチわからない男だ。
念のため、連合議会に許可を取って勲章が授与されるところを動画で撮影してみたけど、使い道があるのかどうか。
「元庶民……今は一応デナーリス王国の爵位を持っている……の俺にはさっぱりわからないよなぁ」
「この影響はとても大きいと思いますよ」
「そうなんだ。でも、イギリスの伯爵様にそう言われると、なんか納得」
屋敷に戻りってイザベラたちに勲章を見せると、彼女はそう断言する。
俺はやっと纏まった休暇を取れることになり、『テレポーテーション』……苦労して宇宙船ですべての惑星国家を回ってよかった。これからは、一瞬で移動できるからだ……で自宅の屋敷に戻っていたのだ。
「ボクたちも、色々な肩書とか勲章が増えたもの」
「なるべくお断りしているのですが、どうしても断れないものもありますから」
「それはあるわね。私は、グランパのお願いで名前だけ貸してるわ」
「ビルメスト王国内の頼みは断れないので、自分でもよくわからないものが沢山。ヘギドとザーンがチェックして、変なものは弾いていますが、国内は多いですね」
「有名人の知名度を利用する詐欺師が多いものね。私は、デナーリス王国の女王だからそこまでではないわ」
なんだかんだ批判されつつ、冒険者が社会的に重要な存在になった証拠だろう。
俺もプロト2が精査しているが、名誉的な肩書が増えていた。
「これ以上は勘弁してほしいけど。多すぎて、よくわからないし」
その辺は、プロト2がちゃんとやってくれると思うけど、ダンジョンのことならともかく、どこかの団体の名誉顧問(無報酬)とか、特別親善大使(無報酬)とか、義務はないけど、これ以上よくわからない肩書が増えてもなぁ……。
忘れてしまう……悲しいかな、レベルアップの影響で忘れないから、『不謹慎だ!』、『やる気がない!』などと批判され、クビになるというケースがないという悲しさ。
だが、俺はまだ甘く見ていた。
この世界には、地球とデナーリス王国、ホラール星のみならず、数多の惑星国家が存在することを。
彼らが低階層のみながら、比較的短期間でダンジョンから安定した成果を得られるようになったことで、俺を功労者扱いしていることを。
「……五万七百六十五だと!」
「はい。古谷良二は、ホラール星やこの度世界中に知られるようになった数百の惑星国家において、ダンジョン攻略の手伝いをしましたから。彼を英雄だと称え、多くの勲章が贈られ、彼には多くの名誉的な肩書が与えられています。数が多いのですが、リストを見ますか?」
「いや、いい……」
日本において、デナーリス王国承認問題は深刻だ。
色々と都合があって……というか、これも獅童政権の負の遺産だろう。
彼が冒険者を目の仇にしたため、多くの優秀な日本人及び、日本国内で活動していた高レベル冒険者たちが、アナザーテラへと移住。
このもう一つの惑星に、古谷良二が勇者として戦った異世界の女王陛下と美しき女性貴族たちが、デナーリス王国を建国してしまった。
そして、この国に多くの高レベル冒険者たちが移住してしまい、日本は多くの利益を喪失した。
そんな経緯もあり、今でも日本だけがデナーリス王国を承認していない。
デナーリス国籍を取った冒険者たちが、日本とデナーリス王国の二拠点生活を送るケースが増えたが、日本政府はこれに掣肘を加えていない。
減ったとはいえ、彼らの納税や消費が日本の経済に必要だからだ。
もし厳密に法律を運用して彼らの行動を制限すれば、彼らはデナーリス王国に逃げてしまうのだから。
それなら、日本政府はデナーリス王国を正式に承認すればいいって?
それができたら、誰も苦労しない。
日本では、『デナーリス王国国籍を取って、納税を逃れている悪の冒険者』というイメージが強く、彼らの支持を得た政治家たちがデナーリス王国の承認を阻止していた。
『デナーリス王国は日本なのだから、自衛隊を使って占領すべし!』なんて意見もあって、とてもそんな話はできる状態ではなかったのだ。
政治はそんな感じだが、経済はちゃんと折り合っているのが救いか。
「ということは、古谷良二に勲章なり、名誉的な肩書きや職を与えて懐柔することは難しいのか」
「今は、その手のものは断っていますよ。さすがに多すぎるってことで」
他にも、危険な人なり団体が古谷良二を誘うケースも多く、チェックが厳しいという事情もあった。
彼のようなインフルエンサーがそういう連中とつき合っていると世間に思われたら、損しかしないのだから。
「古谷良二さんを名誉顧問にして、怪しげな商売を始めたり、出資を募ったりしようとする輩が多いそうでして、当然の結果といいますか……」
「むむむっ。どうにかして、日本を汎銀河連合に加入させられないものか」
これまで、宇宙人はいる、いないと。
長年人類は論争を繰り広げてきたが、ホラール人の登場で、宇宙人はいることが判明した。
彼らだけでなく、宇宙には数百もの惑星国家が存在し、彼らは戦争を防ぐべく、『汎銀河連合』なる組織を作っているという。
規模の大きい国連みたいな組織らしいが、当然地球の国家、特に先進国や自国が大国だと思っている国は、汎銀河連合に加入したい。
ところが、汎銀河連合には惑星国家しか加入できないそうだ。
異星人たちと古谷良二が動画で解説していた。
汎銀河連合は、惑星国家となった国が他の惑星国家と星間戦争にならないようにするための組織であり、いまだ一つの惑星内で百を超える国を作って争っている地球の国々には加盟資格がないと。
ホラール星ですら、長い年月をかけて惑星国家になり、安定したことが認められて最近加入したばかりだそうだから、地球が惑星国家になって汎銀河連合に加入するには相当な時間がかかるはず……加入できないかもしれないな。
「それで、古谷良二ですか?」
「彼は日本人だからな」
今、古谷良二を日本人だと思っている人は少ないだろう。
今となっては、デナーリス王国は惑星国家という扱いなのだから。
「(多いよなぁ……。そう思ってる、日本の政治家って)」
古谷良二たちをデナーリス王国に追いやった獅童総理を批判しつつ、彼らがデナーリス王国人であることを頑なに認めようとしない。
こんなに酷い話はないと思うのだが……。
それに、汎銀河連合への加入といっても、いまだ地球の国々は惑星国家群の政府関係者と独自のホットラインすら設置できていない。
ようやく、冒険者特区内でたまにホラール人を見かけるようになった程度であり、それで汎銀河連合に加入などできるわけがないのだ。
だがこの人もそうだが、日本の政治家は、古谷良二が日本の汎銀河連合加入に手を貸してくれると信じている人が少くなかった。
「汎銀河連合への加入条件は、惑星国家のみです。日本では条件を満たしませんよ」
「古谷良二は汎銀河連合の功労者なんだろう? 融通を利かせてくれるはずだ」
「……」
なかなか理解してくれないなぁ……。
すでに世界ではデナーリス王国人である古谷良二が、日本の汎銀河連合加入で忖度なんてするわけがない。
なにより、汎銀河連合に加入できるのは安定した惑星国家だけだ。
古谷良二によると、地球はまだ多くの国があり、度々争っている後進地方惑星だから、汎銀河連合には加入できないという結末だったのに……。
アメリカすら加入できないし、それなら世界を一つの国にする……というもの難しい。
汎銀河連合加入を目指す。
そんな流れは出るのかもしれないけど、相当な年月がかかるだろう。
少なくとも、私たちが生きている間は難しいはずだ。
「顧問職を沢山与えて、その報酬で買収しようと思ったのに……」
「……」
今や古谷良二は世界一の金持ちで、買収なんてするだけ無駄だ。
「勲章はどうかな? 叙勲ならば……」
すでに古谷良二は、イギリスのナイトの称号他、いくつも爵位や勲章を持っている。
すでに日本人の枠を外れた彼が日本で叙勲すると言われたところで、喜ぶとも思えない。
というか、いまだに冒険者がまったく叙勲されていない日本って、逆に凄いと思う。
「とにかく、日本を汎銀河連合に加入させる! 次の選挙はこれで戦うぞ!」
選挙の公約がそれ?
そもそもあんたは野党の政治家で、そんな権限ないと思うが、それで当選してしまったらこの世の終わりというか、日本が平和な証拠かもしれない。
『リョウジ・フルヤ。あなたに、シザール星特別勲章を授与します』
『ありかたき幸せ(次は、惑星ヘルテンで勲章貰って……スケジュールの叙勲割合が……)』
沢山の惑星国家から勲章を貰うことになり、俺のスケジュールが厳しい。
その様子を動画で流すと視聴回数を増やせるから、プロト2に断るなと言われる言われ、俺は『テレポーテーション』で銀河系中を飛び回っていた。
もっとダンジョンに潜った方がいいと思うのだけど、どんなに文明が進んでも、人間ってこんなものなのかもしれない。
それと、貰った大量の勲章、屋敷のどこに仕舞おうかな。
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