第281話 汎銀河連合

「えっ? 惑星国家? そんなものが実在する?


「地球が人類の生存に適しているように、銀河系の各所にもそういう惑星が存在するのです。あなた方地球人も、そういう惑星を観測しているのでは? 現状、そこに向かう手段は持っていないようですが、我々には短時間で地球に辿り着ける宇宙船とワープ技術が存在しますので。四百九十二の惑星国家が参加する『汎銀河連合』でも、突如ダンジョンが出現し、鉱山、油田、ガス田が枯渇してしまいました。エネルギーは核融合炉があるので足りなくなることはありませんが、資源はダンジョンでしか手に入らなくなり、惑星外の小惑星や隕石採掘事業は一日で破綻してしまいました。ただの岩塊になってしまいましたので」


「資源がないと生活が成り立たないのです。すべてリサイクルというわけにはいかないので。さらに我々も文化成熟が進み、ダンジョン技術由来の品や、未知の生物であるモンスターの食材で楽しみたい欲もある。これらを手に入れるため、まずは地球を確認し、次にアナザーテラを訪れました」


「先に地球にやって来たのに、ファーストコンタクトはデナーリス王国にですか? それはなぜ?」


「地球の通信を傍受した結果、デナーリス王国には多くの優れた冒険者がおり、彼らが世界で一番の冒険者だと称する『フルヤ・リョウジ』がいるからです。さらに、デナーリス王国の女王陛下は、可能な限りダンジョンから産出する品を輸出することを約束してくれましたし、汎銀河連合にも参加してくれました」


「デナーリス王国が、一番に汎銀河連邦にですか?」


「加入の条件も満たしていましたからね」


「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」


 国連の緊急会合において、ホラール人に続き、大勢の惑星国家の大使たちが、自国の状況を各国に説明した。

 宇宙でも大量のダンジョンが出現したが、異星人のはるかに進んだ技術を用いても、ダンジョン内のモンスターは倒せなかった。

 己の力を駆使するか、冒険者特性を持つ冒険者がレベルを上げ、ダンジョンを攻略しないといけないのは地球と同じ。

 多くの冒険者が十分にレベルを上げ、その惑星国家の需要を満たせるようになるには、最低でも数年……もしかしたら、もっとかかるかもしれない。

 だから彼らは、地球にやってきた。

 地球のダンジョンから産出するものを買うために。

 いきなり異星人に地球が侵略されなくてよかったと、多くの為政者たちは胸を撫で下ろしているだろうが、ワイドショーではのん気に、宇宙人とどうやって友好関係を結ぶべきか、またも自称専門家を呼んで特集を組んでいた。

 まだやって来たばかりの異星人の専門家って……この自称専門家は、ホラール星関連の仕事を少しだけしたことがあるらしい。

 『嘘は言っていないか?』くらいのレベルだ。

 ホラール星関連の仕事をやっている優秀な人たちはテレビに出ている暇はないので、その能力はお察しなんだけど。

 

「デナーリス王国が汎銀河連合に加入しただと? 国連にも加盟しないくせに!」


 某国の国連大使が声を荒げると、異星人たちは彼を蔑んだ目で見ていた。

 日本大使である私は、事前に田中総理から情報をレクチャーされているから、そんなヘマをせずに助かった。

 田中総理は、古谷良二とのパイプあるからな。

 このパイプをどの政治家が継承できるか。

 それによって、次の総理大臣が決まるなんて話も……実質デナーリス王国の王である古谷良二なので、ツテがあれば政治家として有利になるに決まっているのだから。


 デナーリス王国はすでに大半の国が承認しているものの、まだ国連には加盟していない。

 大国を自称する某国からすれば、そんな国が数百もの惑星国家が参加する汎銀河連邦……国連をさらに大きくした組織だろう……に、デナーリス王国が先に加盟したのが許せないのだと思う。

 だが、異星人たちからすれば大切な貿易相手である。 

 さらに彼らからすれば、いまだに一つの惑星内に多くの国があり、戦争までしている地球は、野蛮な未開惑星という扱いだ。

 そんな野蛮な地球が、自分たちの汎銀河連合に加入できたデナーリス王国を批判するなんて、片腹痛いどころではないのだろう。


「まあ、今回は小国にしてはよくやった。その功績でデナーリス王国を国連に加入させてやろう」


「……」


 某国は、デナーリス王国の国連加入で恩を売り、自国も汎銀河連邦に加入させてもらう計算か。

 そんなことは無理に決まっているのに……。

 実際異星人たちは、某国の大使に対し再び侮蔑の表情を向けてから、『こいつは駄目だ……』といった表情を浮かべてから話を続けた。


「現在、デナーリス王国から高レベル冒険者たちを派遣してもらい、我々の国の冒険者特性の持ち主たちを鍛えてもらっていますが、ダンジョンから産出したものが足りません。デナーリス王国の女王陛下から、地球の国々からも輸入してはどうかというお話が出たのです」


「それは大変ありがたいことです」


 とは言いつつも、実はホラール星との貿易において色々トラブルがあったり、自国の需要すら満たせておらず、他国からの輸入が必要な地球の国々も多く、あまり輸出量を増やせていなかった。

 ホラール人が高く買い取ってくれるため、ホラール人への販売を優先する冒険者も出てしまい、それで騒ぐ地球優先主義の人たちが出るのはいつもの話として、中には冒険者を襲撃する地球人まで出ていた。

 その人物は無職で、地球人よりもホラール人を優先する冒険者に天誅を加えるべく襲いかかったが、逆襲されて大怪我をしてしまったらしい。

 そうなったらなったで、彼は地球を思って行動したのだから減刑しろと騒ぐ人たちが出たり、被害者の冒険者を過剰防衛で訴えようとしたりと。

 確かに、一つの惑星に一つの国で纏まっている惑星国家の政治家たちから見たら、地球人は野蛮人扱いでも否定しようがないというか……。

 宇宙船でやってきたホラール人や異星人たちの方が地球よりもはるかに技術が進んでいるのに、それを認められない人たちも意外と多かった。

 某国の大使みたいに。


「(大儲けのチャンスはあるが、問題は地球の国々がどれだけのダンジョンからの産出品を輸出できるかだな)」


 デナーリス王国は、なにかしらの方法でダンジョンからの産出量を増やしたのだろう。

 そうでなければ、高レベル冒険者を多数他の惑星国家に教官として送り出せないはずだ。

 ホラール星で教官、指導役として活動していた高レベル冒険者たちもだいぶ地球に戻ってきたらしいが、相手はホラール星数百個分の異星人の惑星だ。

 

「(高レベル冒険者の多くが、デナーリス王国に移住してしまったという現実もある)」


 結局どこの国も、レベルが上がれば上がるほど稼ぎが増え、資産が増える冒険者を目の仇にする人が増えてしまったため、冒険者の国と化したデナーリス王国に移住する人があとを絶たない。

 結果的に、デナーリス王国に移住すると節税になってしまうので、その件でも冒険者は責め立てられるようになっていたのだ。

 冒険者の子供が誘拐されたり、襲撃されることも増えてしまい、今では90パーセントを超える冒険者が、冒険者特区かデナーリス王国に住むようになっていた。

 

「(だから、先にデナーリス王国を訪れたのか……)」


 たとえ、ダンジョン大国である日本やアメリカ、中国、イギリス、フランス、ロシアなどでも、異星人に売れるダンジョンからの産出品はほとんどないと思う。

 結局、自国の反冒険者主義の民衆と、彼らに担ぎ上げられた政治家たちのせいで、高レベル冒険者の多くがデナーリス王国に移住してしまったからだ。


「(一応、地球の国々にも声はかけたという体か……)」


 その後、異星人たちは各国の首脳との会談要請すら断わり、地球を離れてしまった。

 なんでも、デナーリス王国……アナザーテラに貿易拠点を作るため、デナーリス王女に会いに行くそうだ。

 

「宇宙人め! なんと無礼な!」


「我が国を舐めると、あとで後悔するぞ!」


 怒っている国連大使や外交官たちがいたが、異星人たちの地球への印象は、いまだいくつもの国に別れて争っている未開の地方国家扱いだから仕方がない。

 日本は、他国よりはダンジョンから産出する品を輸出できる……ホラール星への輸出で精一杯だから無理か。


「(どのみち輸出は、デナーリス王国経由だからなぁ……)」


 どうやら異星人たちは、あまり地球の国々と関わる気がなさそうだ。

 それに、もし異星人にダンジョンの品を売ってその代金を受け取ったとしても、異星人の通貨を円に交換する方法がない。

 異星人たちは、デナーリス王国の通貨を汎銀河連合に参加している国々の通貨が参加している国際為替市場に参入させた。

 そうしないと、デナーリス王国からダンジョンの品を購入できないからだ。

 その結果、地球圏で唯一国際通貨となったデナーリス王国の通貨と、異星人から見て地方通貨に転落した、地球各国の通貨という構図が完成した。


「(そりゃあ、大国の人たちは怒るよなぁ……。とはいえ、どうにもできないけど)」


 さらに将来、もし地球の国々が異星人たちにダンジョンの品を売るにしても、まずはデナーリス王国に売らなければならないという現実もあった。

 えっ?

 地球の国々がダンジョンの品を異星人に売って彼らの通貨を受け取っても、あとでデナーリス王国の通貨と交換できるじゃないかって?


 残念ながら、それは無理だ。

 だって、科学技術が進んだ異星人たちが、わざわざ現物の通貨なんて持ってくるわけがない。

 彼らの通貨はデータであり、地球の国々では異星人たちのデータマネーが受け取れないからだ。

 汎銀河連合に加入するということは、各国間のデータマネーシステムに参加することも意味するのだから。


「クソッ! どうすればいいんだ!」


「(冒険者を育てるしかないよなぁ……)」


 まだ国のために残っている冒険者たちも多いので、彼らの成長と、冒険者特性を持つ者たちを増やす……深い階層で、子供を出産させる必要があるけど。

 そして、高レベル冒険者たちに格差の責任を押し付け、デナーリス王国に逃げられないようにする、かな。

 現状では、かなり難しいだろうけど。


「国連と汎銀河連合との統合を目指そう!」


「そうすれば、我々も汎銀河連合の加盟国になれるぞ!」


「早速交渉しなければ」


 私も日本大使で、日本の駄目な外交官や外務大臣を沢山見てきたけど、他国も酷いものだな。

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