第272話 デナーリス王国、亜人レポート(後編)

『拙者たち翼人は空を飛べ、高所での作業を得意とする。デナーリス王国は、これから大量の高層建築を建設する予定だそうで、鳶職として急がしいというのが現状かな』


『どろーんでは、まだできない高所作業も多いしね』


『ウミツバメの巣の採取は儲かるよ。地球に輸出しているんだ。高く買ってくれるからね』


『地球には、『ひこうき』という空飛ぶ機械が沢山あるらしいけど、デナーリス王国には少数の竜を模したものが飛んでいだけだ。自由に飛べるというのが素晴らしい』


『我々翼人は、『翼球(よくきゅう)』という競技をこよなく愛している。地球でいうサッカーの三次元版なんだが、その試合を地球で放映したら人気でね。その放映料やら、選手に入る投げ銭やら、CMの仕事なんかもきて、結構稼がせてもらっているよ』


『今度、ホンファさんにウミツバメの巣料理を作ってもらいたくなりました。翼人の方々は、飛べるという長所を生かして、様々な仕事をしているようです』


 翼人取材のレポーター役は綾乃だったが、翼人は高い岩壁を掘って、そこに住むのが好きなので適任だった。

 綾乃なら、魔法で飛べるからだ。

 岩をくり抜いて作った部屋には、現代の生活様式に合わせて電気、ガス、水道、魔導通信も備えられており、快適に暮らせているのがわかる。


『私は高所恐怖症なので、ちょっと遠慮したいですけど……』


 綾乃、それなら翼人の取材、代わってもらえばよかったのに……。






『僕たちは手先が器用だから、電子機器、魔導機器、冒険者用の小物やアイテム類を作っているんだ。よく売れているから急がしいよ』


『わお、このポーチ、キュートね』


『小屋一軒分くらいの品物が入るから便利だよ。地球の量産、品質管理技術を取り入れたら生産数が増えて、不良品も減ったから、以前よりも安く売っているのに、利益率は増えたしね』


 リンダがホビット族の取材をしているが、彼らは手先の器用さを利用してかなり儲けていた。

 特に、冒険者用の装備の装飾、仕上げ、ステータスが上がるアクセサリー類や、魔法の袋の簡易量産版であるポーチやカバンの製造も行っていて、ホラール星にも大量に輸出されている。

 ホラール星では一気に冒険者の数が増え、武器と防具ですら不足しているのに、他の装備やアイテム類を自給できるわけがない。

 地球の冒険者たちですらようやく需要を満たせそうなのに、ホラール星に輸出できる国や会社は少なく、ダーシャが私財まで出して根気よく職人を教育していたビルメスト王国と、イワキ工業、古谷企画、他数社がいいところだった。

 そして、ホラール星にそれらの品を輸出している俺たちが、『金儲けのために、地球の冒険者を殺す売国奴!』だと、テレビや動画で批判されるのはいつものことだ。

 俺たちがそれらの品をホラール星に輸出していることで地球とホラール星の友好関係を維持しているんだが、彼ら自称愛国者はそういう部分は見ない、見たくない。

 彼らの支持者も同じなので、サークルみたいで楽しそうでいいなって思えてしまう。


『メインの武器や防具ではないけど、ホビット族のおかげで、私たち冒険者は安全にダンジョンに潜れるってことね』


 この動画の意図は、地球の人たちに亜人を理解してもらうために作っている。

 リンダに、ホビット族は人間の役に立っているのだということを強調させた。

 

『というわけで、僕たちは大忙しなのさ』


 他にも、ドワーフに頼まれて精密機器の最終組立てなどもしていると聞く。

 種族の長所を活かして、かなり儲けていた。


『やっぱり、家は小さいのね』


『ホビットの利点は、土地代と家の建設費が安いってことだね』


 ホビット族は、デナーリスから与えられた領地に町を作り、そこで穏やかに暮らしていた。

 取材を続けるとリンダが大きく見えるが、彼女が大きくなったわけではなく、ホビット族の町や家が小さいだけだ。

 その分家がお買い得なので、ホビット族の大半が持ち家比率100パーセントだった。

 

『町も道路も、人間からしたら狭いわね』


『人間は大きいから大変だよね。僕たちは、地球でいう省エネ……今はSDGsか。自然とそんな生き方になっているからさ』


 現代ナイズされたホビットたちは、自分たちの生き方は環境に優しいことをアピールしていた。

 なお、その方針を伝授したのはプロト2である。






『重たい防具を装備できない人向けに、軽いのに対物理、魔法防御力に優れた、布を織ったりするのが、妖精族の主な仕事よ』


『この布、まるで存在しないかのように軽いですね』


『翼人と同じく飛べる妖精族は、ホビットよりもさらに軽いから、金属製の装備をつけられないの。自分たちを守る過程で、自然と布の加工に長けたってわけ』


 ダーシャはレポーター役として、森の奥にある大木の樹上に家を作っている、妖精族の村を訪ねていた。

 彼女たちは、ダンジョンや妖精族だから集められる素材を使って布を織り、それを使って織られた服が、多くの冒険者たちに爆発的に売れていた。

 布の服なのに、全身金属鎧よりも防御力が高い。

 そんなものを作れるのは、妖精族だけだ。

 俺も作れるけど少数がせいぜいで、だから地球の量産、品質管理技術を導入し、森の中に作った機織り、縫製工房で作業をしている。

 当然だが、ホラール星でも作れないものなので注文が殺到し、妖精族は大忙しだった。


『デザインも、とてもセンスがいいですね』


『私たちは、エルフやドワーフほど頭が良かったり、技術力はないけど、こういうのは得意なのよ』


『これは、ビルメスト王国の職人や鍛冶師たちにも情報を共有しないといけませんね』


 冒険者用の武器や防具、アクセサリー、アイテムといえは、ダーシャが多数の職人を育てたビルメスト王国であったが、ここに妖精族というライバルが出現した。

 ダーシャはビルメスト王国の女王だから、国民たちを失業させないよう、今から対策をすることを決めたようだ。

 ただ今のところはホラール星需要が多すぎて、どちらも大忙しだったのだけど。



『我らリザードマンは、冒険者としてダンジョンに挑むのみ! ただ、我々は魔法が苦手でな。ゆえに、常に魔法使いの冒険者を募集している』


『割と応募してくれる人間の魔法使いは多くてな』


『なぜか女性が多いが』


 リザードマンは、近接戦闘において人間よりも優れている人が多い。

 彼らは普通に冒険者として働く者が多く、乾燥が苦手なので熱帯のジャングルに居住地を定めていた。

 なお、どうしてリザードマンとパーティーを組む人間女性の魔法使いが多いのかというと、極めてビジネスライクな関係を築きやすいからだ。

 男女でパーティーを組むと、どうしてもその手の問題が発生しやすい。

 仲良くつき合えていたり、順調に夫婦関係が続けばいいが、その関係が破綻するとパーティーにも影響を及ぼす。

 高レベルパーティほど損失額が上がるし、下手をするとそれが原因でパーティが全滅なんてこともあった。


『そういうわけです。リザードマンの高レベル冒険者は優秀な前衛要員で、あなた方も人間の女性に興味なんてないでしょう?』


『ないな。拙者たちリザードマンは人間の女性に欲情などせぬし、逆もまた然りである』


『そうですね』


 リザードマンが美しい思う異性とは当然リザードマンであって、人間の美女を見ても美女とは思わない。

 逆もまた然りで、仕事仲間としては最適なのだ。った 

 唯一の欠点としては、爬虫類嫌いの人はリザードマンと組むのに向いていないということくらいか。

 

『そもそも、リザードマンと人間は繁殖できぬのでな』


『ですよねぇ』


 リザードマンは卵生で、女性が卵を産むと一ヵ所に纏め、女性たちが交代で温めて孵すのだと説明を受けた。

 生まれた子供たちも、纏めて面倒を見る習慣があるのだそうだ。

 つまり、人間とリザードマンの交配は物理的に不可能であった。

 人間の女性は逆立ちをしても、卵は産めない。


『そんなわけで、デナーリス王国でビジネスライクに冒険者をやりたい魔法職の方。人間のパーティで、痴情のもつれによるパーティ崩壊を経験された方。応募をお待ちしています』


『すまぬな、宣伝してくれて。食事を食べていくがいい』


『ありがとうございます』


 リザードマンがなにを食べるのか。

 俺も興味があったので誘いを受けるのだが……。


『刺身、馬刺し、サラダ。生食多め? デザートは果物か』


 リザードマンの族長の屋敷で出された料理は、生魚、生肉、生野菜、果物が多かった。

 やはりトカゲだから、生の方が栄養価的にいいのだろう。

 と思ったら……。


『拙者たちは、加熱した料理も美味しく食べられるが、昔からの習慣で、生の食材が好きなのは確かだ』


『だが、加熱した食事をとり続けた影響か。昔なら問題なかった、少し時間が経って状態が悪い生の食材を食べるとお腹を壊すようになってしまってな』


『情けないことだが、ゆえにニホンを参考に、新鮮な生の食材の入手に拘っておる』


『今は上野公園ダンジョン特区のお店で、冷凍されたものを購入しておるが、飲食店に同朋を修行に出しておってな』


『将来は、アナザーテラで手に入れた生の食材を美味しく提供できるよう、計画しておる』


『ニホンは、生で食材を食べることに拘っておるからの。是非その技術を会得しなければ。我らリザードマンと考えがよく合うのだ』


『長老たちが、『腐った生肉を食べたくらいで腹を壊すなど、惰弱にもほどがある! 最近の若い者たちは!』と言っておるが、まず腐った生肉は不味いからな』


『長老たちも文句は言うが、自分たちもお腹を壊すから、時間の経った生肉は食わないから、若者たちが呆れておったぞ』


『それと、『ていおんちょうり』か。アレも生っぽくて美味いな』


『上野ダンジョン特区の居酒屋の鶏サシ、拙者は出張の度に、食べることを楽しみにしているのだ』


『……というわけで、食に拘りがあるリザードマンたちでした』


 最後、俺がリザードマンの街の撮影を終わり、あとはエンディングの撮影だ。


『無事に亜人たちが、デナーリス王国に移住、仕事を得ることができてよかったです。これからも定期的に、彼らの様子をお伝えしようと思います。それでは!』


 最後に俺がそう締めくくり、動画の撮影は終了となった。


「ふーーーん、私たちは普段どおり生活しているだけなのに、人間はよく見てくれるのね。そんなに珍しいかしら?」


「この世界の人間たちは、妖精族を始めとした亜人たちを見たことがないんです。だから珍しいんですよ」


「空想で、見たことも会ったこともない私たちの容姿や暮らしぶりをかなりの精度で当てているけど、人間って予知能力でもあるの?」


「さすがに、予知能力は持っていないですね。一部、スキルがある人を除いてですけど」


 妖精族の族長は、人間という種族に謎を感じているようだ。

 それはともかく、亜人たちの生活ぶりを伝える動画は人気コンテンツとなり、以後定期的に更新が続くことになるのであった。

 そしてその後は……。


 

『翼人インフルエンサー! ミケルだ。今日は、飛行高度五千メートルを目指しまぁーーーす!』


『ホビット族ポルクルの小物作りの部屋だよ。今日は、お洒落なポーチの作り方を教えるよ』


『大食い妖精族アリシアのB級グルメ探索の時間よ。今日は、デカ盛りラーメンの完食を目指しまぁーーーーす!』


『ソロキャンパー動画配信者、リザードマンのサイマンだ。今日は狩猟で手に入れた鹿肉バーベキューをするぞ』


 動画配信がお金になり、自分たちは全宇宙に多くても数千人しかいない亜人という希少性がある。

 それに気がついた亜人たちが次々と動画配信者デビューをはたし、『亜人系インフルエンサー』としての地位を確立するのであった。

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