第267話 筒
『結婚したので、今日は二人でダンジョンに潜ります!』
『お互い、死なない程度に頑張ろう』
『はい』
無事に里奈と結婚式を終えたので、俺たちは二人でダンジョンを攻略する様子を撮影し、自分たちのチャンネルにあげた。
実は、夫婦ダンジョン攻略は割とポピュラーな企画で、すでに多くの冒険者夫婦がやっており、視聴回数を稼ぎやすいので人気だった。
プロト2がプロト1だった時に、『安定して視聴回数を稼げるから』と提案し、俺たちはそれを受け入れたわけだ。
前からイザベラたちとも同じことをやっており、里奈だけやらないのは不公平になる。
お互いの動画チャンネルの登録者数と視聴回数を増やせるので、やらない手はないという。
夫婦コラボは成功しやすい、の法則というわけだ。
その代わり、離婚すると視聴回数もチャンネル登録者数も減るもろ刃の剣だけど。
『今日はこんなものかな? 里奈、夕食にしよう』
『はい』
自然豊かなアナザーテラのダンジョンを出た俺たちは、近くの草原で夕食を作り始めた。
アナザーテラは飲食店が少ないし、キャンプ飯、キャンプ系の動画は視聴回数を稼ぎやすいってプロト2が言っていたので、二人キャンプという体でやっている。
『大型テントを出すよ』
『凄い! 一瞬で!』
『アイテムボックス』とダンジョン技術を用いた住居で、普段は小さな筒に入れて持ち運べた。
某有名漫画のカプセルに似てるというか、ほぼ同じだが、現実世界だと色々と制約があってようやく発売することができたのだ。
『便利なのに、制約なんてあるんですか?』
『あるんだな、これが』
どんなに大きな物でも小さな筒の中に入れられるので、犯罪に使われる可能性が高いと警察からクレームが入り、なかなか発売できなかったのだ。
魔法の袋も、同じ理由でいまだに使用制限がかかっている。
『盗品を隠したり、密輸やテロに使われるかもしれないからって話だよ』
『そう言われると、規制がかかっても仕方がないですね』
『他にも、筒の中に入っているものを狭い場所で出してしまえば大惨事になる。そこで、違法な品を筒に入れるとセンサーで探知して所有者が警察に通報されるようにした。筒には個々にGPSもついているから、違法な品は入れられないんだ。死体を隠す奴とか出そうだから。他にも、狭い場所では筒から中身を取り出せない安全装置を開発して取り付けたりと、かなり手間がかかったよ』
おかげで新しい収納筒は安全に使えると評判だし、とてつもなく難しく、俺と岩城理事長以外は作れない安全装置のおかがで、今のところライバルは不在だったけど。
筒を作れる冒険者はボチボチ出始めたけど、安全装置の難易度が高すぎて、古谷企画かイワキ工業から安全装置を買うしかなかった。
安全装置ナシの筒を売ると捕まるし、あとで筒から安全装置を外そうとすると筒が使えなくなるという仕様もあって、規制のおかげで俺と岩城理事長は最近筒の製造の多くを彼らに任せ、安全装置ばかり作っていた。
早速、筒に違法薬物を収納して日本に入国しようとしたヤクザが税関で捕まっていており、世間からも悪用は難しいんだなと理解されつつある。
『自分でテントを張る手間が省けますし、持ち運びも便利ですね』
キャンプ用品を筒に入れておけば、手ぶらでキャンプに行ける。
俺と里奈が実際に動画内で使って、新商品の宣伝も兼ねているというわけだ。
ちゃんと動画には、『古谷企画とイワキ工業の新商品の宣伝です』とテロップを張って、違法にならないようにもしていた。
ステマ広告規制があるからだ。
『筒があると、生活が一変しますね』
『便利だよなぁ。重たい荷物を持たないで済むし。そんなわけで、ダンジョンでも使える新製品のキャンプ用品と、なんでも出し入れ可能な筒や魔法の袋をよろしくね!』
その後は、俺と里奈が仲良く料理を作り、テントで泊まる動画は人気となり、コラボは大成功だった。
新しいキャンプ用品と筒も順調に売れて俺たちは儲かったけど、その分割を食う人が出てクレームを入れられてしまったのは、ちょっと想定外だったけど。
「あんなものを売ってくれて、こっちは商売あがったりだ!」
「我々を破産させるつもりか?」
「今すぐに、筒を売るのはやめろぉーーー!」
「(東条さん、彼らは?)」
「(地主で、駐車場を経営している人たちだよ)」
「(ああっーーー、そういうことですか)」
古谷企画とイワキ工業が発売した筒は、大ヒットとなった。
どんなに大きなものでも小さな筒一つに収納でき、自在に出し入れできるからだ。
たまにその筒になにを入れたか忘れてしまう人もいたが、筒は安全と防犯のためにすべて登録、GPSで位置もわかるようになっていて、中になにが入っているかすべて警察に把握されている。
それにケチをつける人たちも一定数いたが、そういう人に限って口では『プライバシー権の侵害だ!』などと騒いでいるが、その実、筒で違法を違法な商品の取り引きに使おうとするような連中だった。
大半の人たちは、筒に入れたものを他人に知られても問題なかったので、便利な筒はよく売れている。
生産が間に合わないくらいだが、そのせいで割りを食う人も出てくるのが世の中であり、まずは筒で車を収納し、これまで借りていた駐車場を解約するする人たちが多数現れた。
筒は高いけど、駐車料金数年分くらいなので、すぐに元は取れる。
田舎の安い土地の駐車場は別として、都市部や郊外の駐車場がガラガラになってしまい、地主たちがクレームを入れてきたのだ。
「(そもそも駐車場なんてそんなに儲からないんだから、他の建物を……なんて簡単にはいかないか)」
仕事がない人が増えており、彼らは土地と家屋が安い地方に移住するようになり、都市部でもスマートシティー化が進んでいたからだ。
駐車場をマンションや商業ビルに建て直したところで、必ず儲かる保証もなかった。
銀座にでも土地を持っていれば、多少世の中が変わったところで問題ないから安泰なんだろうけど。
「筒の販売を中止しろ!」
「そんな無茶な……」
これを販売するまで、どれだけ手間と時間がかかったか。
技術的には完璧なのに、規制が多くて本当に苦労したのだから。
古谷さんは、『先に海外で販売しようか?』って言ってきたけど、もしそれをしたらおかしな連中が大騒ぎするに決まってる。
あいつら、いつも日本を優先しないと売国奴扱いだけど、先に国内で売るための規制緩和には微塵も協力してくれない。
そこに気がついている人たちは頭がいいから、頑固で既得権益を死守しようとする役人と争うような無駄はせず、そんなことをしなくても生活に困っていないから協力してくれないし……。
「筒の販売は正式に認められたのもですし、そもそも車を所有している人自体が大幅に減っているじゃないですか。筒のせいだけで駐車場を契約する人が減ったわけではないですよ」
仕事がなくなった人たちはコストがかかる車を手放し、町中で借りられる、自動運転機能つきの車を必要に応じて借りるようになっており、それも駐車場の利用者が減った原因でもあった。
「町中の移動なら、魔力で動く小型スクーター、軽量化した電動自転車、キックボードが便利ですし、公共交通機関もあります。運賃もかなり下がりましたしね」
電気の安さと、公共交通機関の無人化が進んだおかげで、運賃はかなり下がっていた。
線路を維持するのが困難な場所でも、自動運転のバスやタクシーがあるので、困ることは少ない。
駐車場の利用率が下がった原因は複合的なもので、筒のせいだけではないというのが事実だが、彼らはそれを認められないだろうな。
「うるさい! とにかく筒の販売を中止するんだ!」
「無理ですよ(西条さん、黒幕は誰なんだ? 自動車メーカーかな?)」
「(いや、自動車メーカーはとっくに、自動運転車を使ったスマートシティーの運営に商売の舵を切ってますから)」
さらに言えば、筒があれば駐車場を持っていなくても車を所有できるよう、規制が緩和されている。
なので自動車メーカーが、うちを目の敵にする理由がないというのもあった。
「(黒幕は調べるとして、このあとどう出るかな?)」
新しいことをしようとすると、必ず既得権益を持つ人たちと衝突する。
彼らに気を使えば進歩はないので、たとえ結果的に叩き潰すことになっても、この流れを止めるわけにはいかない。
東条さんと私は、そのために古谷さんから雇われているのだから。
『筒は、危ないんですよ。筒を使っている人たち、周りも見ないで勝手に筒の中身を取り出すから、この前危うくぶつかりそうになったし……』
『筒をポケットに入れていたり、バッグに入れている時に、故障して中身が出てきたら大怪我か最悪死ぬじゃない。筒なんて危険よ』
『筒は危ないという有権者の声を聞き入れ、我が党は筒の使用を禁止する法案を提出します!』
『筒は日本の経済を破壊する! 即刻使用を中止するんだ!』
やはりこうなったか。
筒自体は、古谷さんと岩城会長が早期に実用化、量産化の技術を確立していたので、数年前には販売することが可能だった。
ところが、安全性の問題だの、もし犯罪に利用されたら困るという話になり、他にも色々と規制が多くて手続きに苦労した。
先に海外で販売する意見もあったのだが、今の古谷さんがそれをやると、国内からの批判が大きくなる。
古谷さんと家族の安全もあるので、筒の販売には時間がかかったというわけだ。
そこまで用心に用心を重ねても、批判の声が出るのはこの世の常であったが。
『筒の普及で、困る人たちもいるのです!』
いるのは確かだ。
たとえば、先に声をあげた地主たち。
筒の普及で駐車場を借りる人が減ってしまうので、収入が減ってしまう。
とはいえ、都市部の中心地などいい場所にある駐車場の地主は、マンションやビルを、建てればいいからそこまで困らないはず。
騒いでいるのは、郊外の余った土地を駐車場にしている地主たちだ。
人口減の日本において、そこにアパートやビルを建てても借りてくれる人はおらず、安くても駐車場として借りてくれるから固定資産税も支払える。
そんな地主たちの騒ぎっぷりを見た、以前は駐車場を借りていた人たちはそれを白い目で見ていた。
郊外や地方で駐車場を借りていた人たちからすれば、筒は高いので数年なら駐車場を借りた方が安いはず。
それでも筒に移行したのは、筒なら簡単に持ち歩けるし、中身が盗まれる心配が減り……筒ごと盗まれる可能性もあるが、そこまで言い出したらキリがないだろう。
なにより、筒の中では時間が経たないので、使わないものを筒に入れておくと経年劣化せず、長く使えるという利点もあった。
海沿いに住んでいる人たちがこぞって筒を購入したのは、外に置いている車が潮風に長時間晒されず、長持ちするからだ。
美術品や古い書籍や資料の保存に使うため、購入する人も多かった。
そんなわけで、どんなに便利なものでも新たに普及させようとすると、既得権益を持つ者たちが反発する。
不思議なのは、普段はその手の勢力を嫌う野党が彼らと組んで筒を廃止させようとしてきることだろう。
「彼らもジリ貧ですからね。支持者が増えると思えば、過去の敵とも手を組みますよ」
東条さんは冷めた言い方をするが、ここで大半の人たちが便利だと支持している筒を目の敵にしても、野党の勢力拡大にはならないと思うのだが……。
「田中政権は安泰で、選挙をする度に議席が減っている野党からすれば、確実に自分たちを支持する支持者が欲しいでしょうしね」
「……本当に、筒に反対するだけで支持なんてしてくれるのか?」
そんなに簡単に支持してくれるのなら、選挙の度に議席を減らしていないと思うが……。
「とにかく筒を禁止にするなんてできませんよ。だってもう、世界中で普及しているんですから」
安全で便利な筒は世界中どころか、ホラール星にも輸出されており、今さら禁止にしても意味がないだろう。
実際、筒を廃止する議論は一週間と経たずになくなってしまい、多くの人たちが筒を購入して使うようになった。
まあ、世の中なんてこんなものだよな。
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