第252話 結婚式
「桃瀬さん、突然の話で申し訳ないんだけど、明後日って予定は空いてるかな?」
「はい! 明後日はお休みですし、ホラール星にはいます!」
今日もホラール人冒険者たちにダンジョンで指導をした帰り、ホラール連邦国政府が借り上げてくれた官舎へ戻ろうとした途中で、古谷良二様と鉢合わせすることができた。
ラッキー!
最近、古谷良二様は忙しくてなかなか顔を合わせられなかったし、官舎に戻ると私のスタッフたちがいるから、なかなか会話できなかった。
スタッフたちは、私を世界一の冒険者、インフルエンサーにしようとしているから古谷良二様を敵視していて、私もその空気感に逆らえないというか……。
だから、この官舎までのほんの数分だけでも、古谷良二様と二人でお話できるのは貴重な時間なの。
さらに、彼とよく一緒にいるリーリスさんがいないのも幸運だった。
「(二週間ぶりの二人キリ……そう考えたら、緊張してきたぁーーー! って、このチャンスを逃してどうするのよ?!)」
とにかく、この時間を一秒でも無駄にはできない……今、無駄にしてるじゃないの!
私のバカぁーーー!
「明後日に、なにかあるのですか?」
もかしたら、私をデートに?
だとしたら、本当は明後日スタッフたちと打ち合わせがあるんだけど、これは短めに済ませないと。
「リーリスが結婚するから、突然で申し訳ないんだけど、結婚式に出席してほしいんだ。桃瀬さんは、ホラール星に滞在している地球人冒険者の大物だからね」
「……はい……」
リーリスさんが結婚!
しかも突然?
まさか彼女が結婚するなんて……。
いえ、まさかじゃないわね……。
「(こんなにも突然なのは、もしかして!)」
リーリスさんが妊娠したからとか?
そしてその相手は……。
「(ガーーーン!)」
「会場は市内の有名な結婚式場なんだけど、官舎までバスで迎えに来てくれるから、朝八時に官舎前に集合ってことで。本当に突然ゴメン」
「いえ……全然問題ないです 」
問題ないことはないけど、古谷良二様とリーリスさんが………。
「(よく二人で一緒にいるし、リーリスさんは綺麗だからなぁ……)」
彼女は地球人冒険者たちにも大人気で。
ただ綺麗なだけじゃなくて優しいし、ホラール人冒険者の中でトップクラスの実力を持っている。
「(もしかしたら私って、リーリスさんの下位互換? はぁ……)」
だとしても、私も古谷良二様と結婚したい。
結局リーリスさんに先を越されてしまったけど、古谷良二様なら何人奥さんがいても問題ないのだから、私にだってチャンスがあるはず!
その前に、スタッフたちに私の本当の気持ちを……恥ずかしいから、古谷良二様との結婚報告はリーリスさんと同じく、これは突然でいいわね。
明日の結婚式でおめかしをして、古谷良二様の気を引くのよ!
桃瀬里奈!
あなたの戦いは、まだこれからなのだから。
「リーリス、結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
「フルヤさん、ありがとうございます。リーリスの夫になるクーリスです。突然の結婚式への招待になってしまって申し訳ありません」
「リーリスとの結婚は、宇宙船で地球に向かう前から決まっていたと聞きました。クーリスさんも、あと一年ほどは仕事で他の大陸で仕事をしなければいけないとか。そんな事情があるなら仕方ないですよ」
「フルヤさん、私のこともクーリスと呼び捨てでいいですよ」
「じゃあ、俺のこともリョウジで」
「俺はタケシでいいぜ。いやあ、なんにしてもめでたいな」
「突然の話だったけど、地球の人たちにも大勢参加してもらってよかった
「……あれ?」
古谷良二様とリーリスさんが結婚すると思っていたのに、いざバスで結婚式の会場に向かうと、リーリスさんは青い髪のイケメンと結婚式を挙げていた。
「(……リーリスさんの結婚式……ああっーーー!)」
古谷良二様とリーリスさんの結婚式ではなく、彼女と、彼女の婚約者で地球に宇宙船で来訪する前から結婚することが決まっていたクーリスさんとの結婚式だったのかぁ……。
というか、リーリスさんって婚約者がいうたんだ!
全然知らなかった!
「(よかったぁ……)リーリスさん、おめでとうございます」
ちょっと嫌な子かもしれないけど、私は心からリーリスさんの結婚を祝えた。
「ありがとうございます、リナさん」
「いつもリーリスがお世話になっています。リョウジとリナさんがダンジョンてリーリスを守ってくれるので、安心してお任せできます。私は冒険者特性がないので……」
「クーリスは材料工学の有名な研究者で、ホラール星で、冒険者用の武器と防具の試作、生産に関わっているって、リーリスから聞いている。それも大切な仕事だよ」
「そうだな。これから増え続けるホラール人冒険者の数を考えると、武器と防具を自前で生産できるようになることは大切だ」
拳さんの言うとおりで、ホラール星にはこれまてミスリルやオリハルコンなどなかったから、これを精製、加工する技術の確立は絶対に必要だった。
技術力は地球よりホラール星の方が上なんだけど、地球にはイワキ工業創設者である、イワキ会長がいる。
彼も古谷良二様と同じく、異世界でダンジョン技術を極めた人だから。
「そんなわけで、またあと一年ほど単身赴任になってしまうんだ。ホラール星における金属加工のメッカは隣のヲストテント大陸で優秀な技術者と職人も多い。試作は現地でやらなければいけないから」
「それは大変だな」
リーリスさんに男性の気配がなかったのは、婚約者が忙しいかったからなのね。
リーリスさんほどの美人にお相手がいないなんて不自然だと思ったけど、単身赴任をしていたら、わからなくて当然か。
「おとうさん」
「おおっ! 無事、ホラール星に到着できたんだな。よかったぁ……」
会場に姿を見せたのは、小さい子供たちだった。
服装で地球人だとすぐにわかったけど、子供がどうやってホラール星に?
と思っていたら、続けて姿を見せたのは……。
「(イザベラさんたちだ!)」
古谷良二様の奥さんたちも姿を見せた。
ということは、子供たちは彼女たちの……つまり、古谷良二様の子供たちなのね。
古谷良二様は自分の子供たちを動画に出さないから始めて見たけど。
「(可愛いーーー! あの子たちのお母さんになりたい)」
私も、古谷良二様の子供を産みたいなぁ。
「リョウジさん、宇宙の旅は快適でしたわ。子供たちも大喜びで」
「それはよかった」
古谷良二様はホラール人から宇宙船を購入したので、資源や魔石の輸送と性能試験がてら、奥さんと子供たちも宇宙旅行目的で同乗し、ホラール星に到着したみたい。
最初、ホラール星への輸出は古谷良二様の『アイテムボックス』頼りだったけど、デナーリス王国としては宇宙船を使った貿易の経験を積みたいみたいで、アナザーテラとホラール星を往復する宇宙船便の運航を始めていた。
「みんな、宇宙は楽しかったか?
「おもしろかった」
「うちゅう、おおきい」
「それはよかった」
「おとうさん、だっこ」
「宇宙を経験して大人になったからか、みんな重たくなったなぁ。いいことだ」
大勢の子供たちにせがまれて、順番に抱っこしてあげる古谷良二様は、いいお父さんで尊い……。
「あなた、私も早く子供が欲しいです」
「すまない、リーリス。一年待ってくれ。そうすれば、ミスリルやオリハルコン加工の研究が一段落するし、単身赴任も終わってここに戻って来れるから」
「一年後を楽しみにしています」
多くのホラール人と地球人にお祝いされたリーリスさんの結婚式は、とても楽しかった。
リーリスさんと古谷良二様が男女の関係でなかったこともわかって、私にも希望が出てきた?
「(リーリスさんと古谷良二様が男女の仲であろうとなかろうと、それはどちらでもよくて! 私が、古谷良二様から妻にしたい女性だと見られないと駄目じゃない!)」
「おねえちゃんは、おとうさんのおともだち?」
「そうだよぉ、お父さんの大切なお友達さ」
「(ガーーーン! お友達って……)」
仕事相手だと言われないだけよかったけど、友達同士が結婚できるわけがなく、私はいったいどうすれば古谷良二様と結婚できるのか。
悩みの袋小路に迷い込んでしまった。
せっかく、メイクも衣装も気合を入れてきたのに……。
「リナさん、今日もバッチリ似合ってますよ」
リーリスさんの結婚式は動画の撮影許可が下りていたので、私のスタッフたちも撮影をしていた。
地球の動画投稿サイトにホラール星での様子を投稿して、地球人にホラール人を理解してもらう。
地球では、国力と技術力に優れたホラール人が地球を侵略するかもしれないという主張を展開する人が増えてきたけど、肝心のホラール人は資源とエネルギー不足なのでそれどころではない。
なにより……。
『ホラール連邦国が地球に侵略ですか? ホラール星やその周辺の惑星からダンジョンがすべて消滅すればその選択肢もあるでしょうが、そうならないために、リョウジ・フルヤたちに仕事を頼んでいるのです。それに……』
『それになんですか?』
『地球人であるモモセには言いにくいけど、一個の惑星の中にあんなの多くの国があって、激しく争っている国同士もある惑星だからね。統治コストを考えたら占領したくないよ』
統一した政府があり、安定しているホラール人からすれば、いまだ多くの国があって、戦争までしている地球を占領する旨味がないってことね。
遠回しに地球は野蛮だって言われているのだけど、事実だから仕方がない。
ホラール連邦国政府が、私たち地球人によるホラール星での動画撮影を許可しているのは、自分たちをよく知ってもらい、過剰に恐れている地球人を減らすため。
地球のそういう人たちが思っている以上に、ホラール人は理性的なのよね。
「里奈さん、この動画を更新すれば、今回こそ古谷良二のチャンネルを抜くことができますよ。今日の里奈さんの美しさに、視聴者も釘付けですよ」
「……そうね」
私は無理にそうならなくてもいいのに、スタッフが気合を入れて撮影しているから反論できない……。
結局、古谷良二様は子供たちがいる結婚式会場での撮影をせず、ホラール星の名所案内の動画をあげていたけど、視聴回数で勝てるわけもなく。
そんなことよりも、どうにかして古谷良二様と結婚する方法を考えないと。
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