第250話 叙勲

「ホラール星に出現したダンジョンの攻略は順調に進んでいます。これもひとえに、地球の冒険者の方々のおかげです。そのお礼を兼ねて、本日は慰労の会を開催することとなりました。そしてその前に、みなさまに勲章を授与させていただきましたが、最後の一人、リョウジ・フルヤ殿に……」




 ホラール星のダンジョンは、古谷良二様によってすべて攻略され、すべて動画で公開されるようになった。

 この情報と、私たち地球の冒険者による指導でレベルアップをはたしたホラール人冒険者たちによるダンジョン攻略は順調に進み、ホラール星の資源とエネルギー需要はあと数年ほどで大半を補えるようになるはず。

 今は不足分を、地球からというか、古谷良二様が輸出している。

 表向きはデナーリス王国が輸出していることになってるけど、すべて古谷良二様が月とアナザーテラのダンジョンで集めたものだ。

 それはホラール人たちも理解していて、だから今日の慰労会と叙勲式の主役は……。


「リョウジ・フルヤ殿に、ホラール特等勲章を授与します!


「「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」


 ホラール人たちが驚くのも無理はない。

 ホラール特等勲章は創設以来、古谷良二様を除くとたった二人しか貰っていないからだ。

 ホラール星の発展に大きく寄与したか、大きな危機を脱するのに貢献した人しか貰えない。

 古谷良二様を以外の二人は、歴史の教科書に記述されるような偉人だと聞いている。

 一度ホラール星が失った資源とエネルギーを、ダンジョン経由とはいえ再び手に入れられるようにした古谷良二様は、過去のホラール星の偉人たちと同等というわけだ。


「(さすがは、古谷良二様……)」


 私は素直に古谷良二様の偉業に感動していたのだけど、人生ってなかなか上手くいかないと思う。


「理奈さんだって、同じくらいの功績をあげているのにな」


「むしろ、ホラール人冒険者たちへの指導は、理奈さんの方がきめ細やかにやってたのに……」


「古谷良二が特等なのに、理奈さんが一等なのが理解できないよ」


「本当、それな」


 私も貢献を認められて、ホラール一等勲章を貰った。

 一等勲章も、過去に16人しか貰っていないもの凄い勲章なんだけど、私を古谷良二様を超える冒険者、インフルエンサーにすべく奮闘しているスタッフたちは、このことに不満がある。

 私にも、ホラール特等勲章が授与されてもおかしくないって話になっているのだけど……。


「(確かに、私の方が多くの冒険者たちに指導をしたけど……)」


 ホラール人冒険者たちに必要な数のミスリル装備を支給したり、ホラール政府の高官たちに地球のダンジョン政策を説明して、ホラール連邦国でも導入させたり。

 なにより、ホラール冒険者たちが独り立ちするまで不足する資源とエネルギーを輸出しているのは古谷利良二様だ。


「(全然功績の凄さが違うのに!)」


 スタッフたちは、私を過大評価しすぎ!

 そもそも私は、古谷良二様を超える冒険者、インフルエンサーになりたいなんて全然思ってなくて……。


「(私は、古谷良二様の奥さんになりたいのよぉーーー!)」


 スタッフにそれを言えればいいのだけど……。


「(恥ずかしくて言えない……)」


 どうにかスタッフたちに私の真意を伝えて、私と古谷良二様との仲を取り持ってほしい……というのは、都合がよすぎるかしら?


「桃瀬さん、明日午後からの打ち合わせなんだけど……さっ、三十分ほど遅れる……遅れないようにします!」


「(はぁ……)」


 せっかく古谷良二様と話すチャンスだったのに、スタッフたちが鋭い視線を向けてしまうから……。


「(私、古谷良二様に勝とうなんて微塵も思ってないから!)」


 でも、それを強く言ってしまうとスタッフたちの士気が落ちてしまうかもしれないし……。


「リョウジさん、ホラール特等勲章の授与、おめでとうございます」


「ありがとう、リーリス。リーリスも二等勲章を貰ったんだって。おめでとう」


 そう、リーリスも古谷良二様を惑星ホラールまで連れて来て、その補佐をよくしているという功績で、ホラール二等勲章をパーティーの前に授与されていた。


「ありがとうございます。私って、歴史上の偉人と一緒に仕事をしているんですね。将来、子供に自慢できます」


「はははっ、大げさだなぁ」


「リョウジさん、ホラール特等勲章はそれだけ特別なんですよ。特典も凄いですし」


「特典なんてあるんだ。公共交通機関の利用が無料とか?」


「それは当然で、生涯特別年金が出ますし、国家反逆罪以外の犯罪を犯しても無罪になります」


「……それは、死ぬまで使わないに越したことはないかな」


「(私もリーリスみたいに、もっと気軽に古谷良二様としたい。あれ?)」


 さっきリーリスが、『子供たちに自慢したい』って、もしかしたら……。

 リーリスが古谷良二様と結婚して子供が生まれたら、パパのことを自慢したいって意味?


「(私も、古谷良二様との間に子供を作って、パパの功績を自慢したいわよぉーーー!)」


 もしかしたら、このままだと私はリーリスに先を超されてしまう?


「(別にそれでもいいけど、私も古谷良二様の奥さんになりたいのよぉーーー!)」


 それなのに、結局スタッフたちが私をガードしてしまうから、パーティーでは古谷良二様と話すことができなかった。

 いったい私は、どうすればいいの?






「フルヤさん、おめでとうございます!」


「「「「「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」」」」」


「ありがとう」



 俺がホラール特等勲章を授与されたパーティーから三日後、今日は地球の冒険者たちが祝ってくれた。

 庶民的なレストランを借り、みんなで乾杯をする。

 全員男性なので、陰キャ気味の俺でも気楽で嬉しかった。


「良二、お前、本当に凄い勲章を貰ったよな。日本でニュースになってたぞ」


「それは知らなかった」


 俺が呼び寄せた剛も大活躍してホラール第二等勲章を貰い、この席に出席していた。

 プロト2は、俺がそんなに興味ないことを知っているから、あえて言わなかったんだろう。

 それで全然問題ないし。


「日本人って、海外で同朋が活躍すると大騒ぎするからな。ましてや良二は、ホラール星で活躍しているんだから」


「俺は、デナーリス人だぜ」


「それを言うと、ここにいる高レベル冒険者の大半がそうなるぞ。日本政府はデナーリス王国を承認していないからな。良二はまだ日本人なのさ」


 いまだ日本は、デナーリス王国を承認していなかった。

 他の国の大半は承認していたので、いい加減承認してはどうかという意見も少なくなかったが、デナーリス王国を正式に承認すると色々と不都合が生じるので、わざと曖昧にしていると田中総理が言っていた。

 実際、日本人からデナーリス王国人になった冒険者たちだが、日本国内の移動は自由だし、特に手続きすることなくずっと住むこともできた。

 承認はしないけど、高レベル冒険者たちに不自由はさせないようにしているという感じだ。

 下手に高レベル冒険者たちを怒らせると、ますます税収が減るからだと思われる。


「とくかくだ。ホラール星での仕事は順調なんだし、今日はパーーーッといきましょう!」


 女性冒険者は女性だけでパーティーを開いていると聞いたので、今日は男子だけだ。

 昔は暑苦しいと思ったが、今は心が落ち着くな。


「そういえば、セントスと桜が付き合っているらしい」


「剛、お前、耳が早いな」


 剛は、地球から来ている冒険者たちの取りまとめもしているからか。

 そういう情報に敏いようだ。

 ちなみに、女性冒険者たちの取りまとめ役は桃瀬さんであり、俺が高レベル冒険者たちのリーダー役にはこの二人が適任だと思ったので、俺がお願いしたのだ。


『俺がか? 面倒だけどしゃあないな』


『お任せください!』


 その時の両者の反応は、まったく正反対だったけど。

 剛と桃瀬さんの性格の差がよく出ていたと思う。

 そんなわけで、地球の冒険者たちがホラール星の冒険者たちに教えていると、次第に友人、恋愛関係に発展する人も出てくるわけで。

 話題は、地球人冒険者とホラール人冒険者との恋愛の話に移っていった。


「セントスはイケメンだからなぁ」


 と、彼と知り合いの地球人冒険者が言うが、確かにホラール人が全般的に美男、美女ばかりなのだ。

 それに加えて、リーリスのような青い髪の人や、赤、緑、紫髪の人も珍しくなかった。


「コスプレをしたら映えるのでござる」


 同志山田がホラール人をそう評していたが、俺も同じ考えだ。

 もっとも、ホラール人は真面目で娯楽が少ないから、コスプレなんて知らなかったけど。


「ホラール人女性は、綺麗な人が多いよなぁ」


「お付き合いしたいぜ」


「「そうか?」」


「……拳さんと古谷さんには、あまり関係ない話ですね」


 剛は奥さん以外の女性に興味がないし、俺もう奥さんの数を増やしたくない。

 確かにホラール人女性が綺麗でも、全然関係なかった。


「古谷さんとよく行動を共にしているリーリスさんは、本当に綺麗な人ですよね」


 彼女を狙っているらしい、独身の地球人冒険者がそう言うが、確かに彼女は綺麗だ。

 それこそ、コスプレイヤーとしてデビーしたら人気が出そうだ。

 ただそんなリーリスだけど、浮いた噂は全然聞かない。


「古谷さんのことが好きとか?」


「それはあるかも」


「そんなわけあるか」


 いつも二人で真面目にダンジョン攻略をしているか、彼女が教えているホラール人冒険者たちへの指導方法で相談を受けるくらい。

 あれだけの美人なので、ホラール人の彼氏でもいるんじゃないかな?


「未婚女性のプライベートを詮索し過ぎるとセクハラだから、聞いたことはないけど」


「古谷さんとリーリスさん、お似合いだと思いますよ」


「また週刊誌が騒ぐぞ」


 一応、そう発言した地球人冒険者に釘を刺しておく。

 実はこのところ、デナーリス王国国籍を持つ冒険者の中に、俺と同じく複数の配偶者を持つ人たちが増えており、それを批判するマスコミや世論の声があったからだ。

 無職が増えたので、余計に権力や財力を持つ人の非倫理的な行動が強く批判されるようになったというか……。

 実際、配偶者がいる地球人冒険者たちの大半が、ホラール星の歓楽街に遊びに行かず、この集まりに参加しているのだから。


 高レベル冒険者ほど、世間から顰蹙を買うような行動を避ける傾向にあり……勿論ゼロじゃないけど……最近では、一般人の方が素行に問題のある人は増えていると思う。

 冒険者の悪事はすぐに報道されるので、イメージでは冒険者の方が悪いことをすると思われているから気をつけているのだ。


「冒険者が不倫したら活動休止にする風潮、やめてほしいですけどね」


「俺もそう思う」


 以前、その穴埋めで大変な目に遭ったからなぁ。

 休まず、仕事はしてくれと思う。

 冒険者は稼ぐし、社会的な地位が上がってるからこそ、品行方正でないと駄目だって思う人が多いってことか。


「同じく、桃瀬さんもそういう噂を聞きませんよね」


「彼女も真面目だから」


 ストイックに冒険者の頂点を目指してるっぽいしな。

 

「もしかしたら、スタッフの誰かとつき合っているかもしれないですね」


「かもしれないけど……」


 そこを深く追求するのは、今の時代、コンプライアンス的な問題がある。

 スタッフたちは俺に対し敵対的だけど、桃瀬さんをしっかりとサポートしているから、このままでいいと思う。

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