第248話 ホラール星にて

「ホラール星のダンジョンでも、第一層ではスライムが出現するんですね……って! 足が生えた!」


「フルヤさん、地球ではダンジョンに出現する生物をモンスターというのですね。この生物は冒険者が接近すると、足を伸ばして威嚇してくるんです」


「火星人みたい」


「火星……。フルヤさんたちが住む太陽系にある惑星ですね。あそこにも、ダンジョンが沢山あったのを、宇宙船から確認しました。ですが、知的生命体はいなかったはず……」


「昔の地球の創作物で、こういう姿をした火星人が登場したことがあったんだ。勿論空想上の火星人だけど……」


「そのお話、面白そうですね」


「今度、本を貸すよ」


「ありがとうございます」




 ホラール星の首都ベンリン郊外にあるダンジョンの第一層に俺とリーリスさんとで入った。

 事前に、ホラール人の冒険者でも第三層までは辿り着けていると聞いていたので、あまり強いモンスターはいないんだろうなと思ったら、やはり第一層はスライムだったか。

 まさか、脚が生えてくるとは思わなかったけど……。

 リ-リスさんも同行しているが、俺がいれば第一層までなら問題ないと思ったからなんだけど、なんと彼女、実は冒険者特性持ちであり、俺が育成を担当することに。

 ファーストコンタクトが衝撃すぎて確認していなかったけど、リーリスさんはレベル1ながら、スキルは賢者なので期待できそうだ。


 なお、脚が伸びるスライムは見た目の衝撃こそあったけど、強さは普通のスライムの二割増しってところなので、今のところは問題ないのか?

 ただ、問題がないのは今のところだけかもしれない。

 深い階層にいる強いモンスターの強さも二割増しな場合、ホラール人の冒険者は後々大変なことになる可能性が高いからだ。

 地球よりも二割増し強いドラゴンって、かなりの脅威だからだ。


「お手本を見せます!」


 俺は、『火星人スライム』……クラゲや某有名RPGに出てくる○イミスライムみたいなスライムを、基本的な動作で倒した。


「凄い!」


「さあ、リーリスさんもやってみましょう」


「わかりました」


 リーリスさんは、俺が貸したミスリル装備に身を包み、火星人スライムを俺が教えたとおり一撃で倒した。


「次は、リーリスさんのスキルは賢者なので、魔法で倒してみましょう」


「はい!」


 まずはお手本として、俺が『ファイヤーボール』を放ち、火星人スライムを一撃で倒した。


「頭の中に火の玉をイメージして」


「はい! こうですか?」


 イメージがまだあやふやなので威力はイマイチだが、相手はスライムなので一撃で倒すことができた。

 他の魔法も練習しながら、リーリスさんは次々と火星人スライムを倒していく。


「おっと、倒したスライムの体液はちゃんと回収しましょう」


「色々と使い道があると、フルヤさんの動画で見ました」


 火星人スライムの場合、伸ばした脚の部分も使い道があるのだろうか?

 これは、あとで調べてみないと。


「ここはちょっと、事前に貰った地図と違いますね。マッピングミスだろうけど」


 ダンジョンの地図が間違っていると最悪冒険者が死んでしまうので、動画で注意するのも忘れない。

 ホラール星の冒険者たちは、まだ余裕が全然ない状態なのだろう。


「(明日は、リーリスさんを同行させずに、可能な限りダンジョンを攻略しつつ、地図を作るか……)次は、第二層を攻略します」


 その日は第三層までの攻略に成功し、俺は一日目にして、レコード記録を持つ冒険者たちに並んでしまった。

 しかも、リーリスさんとレベリングや冒険者の基本を教えながらだ。


「リーリスさん、お疲れ様」


「フルヤさんのおかげで、一日でレベル8になれました。これは、ホラール星人のレコードだそうです」


「それはよかった」


「私を除くと、現在レベル5戦士の人がレコードだそうです」


「ちょっと効率悪いかも……(この星の人たちって、本当にダンジョンに関する知識がないんだな)」


 地球では、漫画、ゲーム、アニメなどでダンジョン関連のものが沢山あって、ダンジョンに早く馴染めたけど、この星って科学力あるのに、なぜか娯楽が非常に少ない気がするのだ。

 逆にいうと、娯楽がないから科学技術が発展しているとか?


「本日はお疲れ様でした。それにしても、さすがですね。リーリス君に教えながら、わずか一日でレコード記録と並ぶなんて」


「最初、スライムの形状が地球とは違って面食らいましたけど」


 ハーリス大統領も俺を褒めてくれるが、今日はこの星に到着したばかりなので、本当に軽くやったって感じだ。

 ドローン型ゴーレムによる撮影チェックなどもあったしな。


「このあとですが、ささやかながら晩餐会の用意ができております。リーリス君も一緒に」


「私もですか?」


「リーリス君は大任を果たしたし、現在ホラール人冒険者で一番レベルが高いから当然だよ。ささっ、どうぞ。フルヤさん」


「ご馳走になります」


 そのあとは、政府主催の晩餐会が開かれた。

 ちなみにホラール星の料理だけど、同じ人間が作るものもなので、割と地球と似通っていた。


「(薄味だけど、その分出汁を取って旨味を重視しているのか……)」


 和食に近くて、これはこれでなかなか美味しい。


「どうですか? ホラール星の食事は」


「味付けが、私の国の料理に似てますね」


 俺が和食の説明をすると、ホラール政府の要人たちは、確かに似ていると納得してくれた。


「一日も早く、資源とエネルギーの安定供給ができるようになってくれたら……」


「そのためには、冒険者を育てるしかないですね」


 晩餐会のあと、俺は政府とこの仕事に関する契約を結ぶことになった。

 ただこの場合、専門知識のあるブロト2に任せた方がいいという話になったのだけど……。


「往復一週間は時間が勿体ない」


 ホラール星としては、一日も早く俺に仕事をしてほしいだろう。

 だけど、契約を結ばないで仕事を始めるわけにもいかず。

 ハーリス大統領も悩んでいたので、俺はそれを解決できるかもしれない方法を試してみることを提案した。


「『テレポーテーション』で地球とこの星を行き来する、ですか? 魔法でそんなことも可能なのですね」


「理論上は大丈夫なはずです」


 『テレポーテーション』は一度行った場所なら瞬時に移動できるのだが、問題は地球とホラール星との距離が恐ろしい開いている点だ。

 ワープを繰り返しても、三日間もかかってしまう。

 魔法は科学的な常識を無視できるとはいえ、これだけ距離があると『テレポーテーション』できるかどうか。


「駄目元で試してみますよ」


 『テーションテーション』失敗のペナルティーは、魔力の消耗だけだ。

 途中の宇宙空間に放り出されることもないので、俺は地球に戻れるか試してみることにした。


「では!」


 早速俺が、「テレポーテーション」を使ってみると……。


「リョウジさん? 随分とお早いお帰りで」


「あっ、地球じゃなくて、アナザーテラの屋敷に戻ってしまったか」


 どちらでも同じことか。


「……魔力がほぼ空だけど、これで自宅から通勤できそうだな」


 やはり、銀河系の端から端を『テレポーテーション』で移動すると、かなり魔力を食うな。

 それでも、片道三日間の移動時間を節約できるのは素晴らしい。


「あっ、社長なのだ」


「プロト2、これはホラール星のダンジョン内を撮影したものね」


「すぐに編集して、動画チャンネルであげるのだ」


「頼むよ。それと、俺について来てくれ」


「向こうの政府と契約を結ぶのか?」


「そういうこと。その前に魔力を回復させないと」


 『テレポテーション』で、地球とホラール星を行き来できることがわかったので、これで仕事がだいぶ楽になる……と思ったら、とんだ落とし穴があった。


「……私の『テレポテーション』では、ホラール星まで届きませんでした。全魔力を消耗して気絶しただけです」


「私もです」


 少数ながら、地球の冒険者の中にも『テレポテーション』使いが出始めていたが、レベルと魔力が低すぎて、今のところ俺しか二つの惑星を行き来できないことが判明し、急ぎの用事の時に俺がタクシー代わりで使われることとなってしまった。


 こうなったら、レベリングをさらに進めていくしかないか。






『今のところ、ホラール星で一番階層が深いと思われる、ドット山脈にあるダンジョン百五十六階層からです。リーリスも、だいぶダンジョンに慣れてきたようだ』


『一日も早く、このドット山脈ダンジョンをクリアしたいです』


『焦らずにやれば、必ずクリアできるさ。ところで、今日はリーリスがお弁当を作ってきてくれまして。ホラール星の料理などを紹介しようと思います。おっ! 美味しそうだ!』


『どうぞ、リョウジさん』





「……」


「リナさん? あのぅ……」


 有名な冒険者にして、インフルエンサーでもある桃瀬里奈さんのマネージャーになってまだ一年ほどだが、彼女が著しく不機嫌なのがわかった。

 普段の彼女は新人マネージャーである私にも優しいのだが、ここ最近、彼女の機嫌が悪くなる最大の原因、それは古谷良二の動画を見た時だ。


 世界レベルの人気者で、冒険者としても世界のトップ10に入っている彼女だが、やはり古谷良二という壁が存在する。

 優しいがストイックでもある彼女は、古谷良二に対し、ライバル心を燃やしているのであろう。

 他の冒険者やインフルエンサーの大半が、『古谷良二には勝てない』と諦めているなか、今も彼の動画を見ながら、彼に勝つ対策を懸命に考えているのだから。


「(桃瀬さん! あなたが古谷良二に勝てるよう、我々スタッフも頑張りますから!)」


 その道は険しいと思うが、我々スタッフの士気は高い。

 桃瀬さんが次にどんな手を打つと宣言しても、すぐそれに対応できるようにしないと。







「(……まさか、宇宙人に先を越されるなんて……)」


 冒険者としてもっと高みに登りたい。

 古谷良二様にそう訴え、動画の企画として彼に指導を受ける。

 彼とさらに仲良くなり、そのまま彼のお嫁さんにシフトチェンジする計画だったのに、宇宙人のせいで大きく計画が変わってしまった。


 古谷良二様はホラール星のダンジョンを攻略、撮影しながら、ホラール人冒険者たちにも積極的に冒険者としての基礎を教え、レベリングも進めていく。

 政府とも正式に契約を結んだそうで、ホラール星の冒険者たちは、古谷良二様が提供したミスリル装備を着け、恐ろしい早さでダンジョンを攻略していった。

 早期に資源とエネルギーの確保ができそうな空気となっており、ホラール星では古谷良二様を英雄と見なす空気が広がっている。

 さらに彼は、地球のベテラン冒険者たちをホラール星に呼び寄せ、多くの冒険者たちの指導とレベリングを任せて、さらに成果をあげている。

 それはとても素晴らしいことだけど、私には大きな不満があった。


「(古谷良二様、どうして私を呼んでくれないのですか?)」


 そうしてくれれば、ホラール星にいる地球人の数は少なく、 私と古谷良二様の距離が一気に縮まるはずだったのに!

  そしてもっと気に入らないのは……。


「(古谷良二様! そんなに、ホラール人の女がいいのですか?)」


 古谷良二様がホラール星の動画を更新し始めてから、奥さんたち以外では毎日のように一緒にいるリーリスという女。

 地球人類ではあり得ない青い髪と、私よりもメリハリのあるボディー。

 冒険者特性を持つ彼女は、古谷良二様とホラール連邦政府との連絡役も兼ねているそうで、毎日彼から手取り足取り指導を受けていて、なんて羨ましい!

 今すぐにでも、私と代わってほしいくらいよ!

 なにより許せないのは、あの女!

 最初は『フルヤさん』って呼んでいたくせに、シレッと『リョウジさん』と呼び方を変えているし!

 古谷良二様も、『リーリスさん』から『リーリス』と名前を呼び捨てにするように……。


「(なんて羨ましい!)」


 このままでは、宇宙人に先を越されてしまうかもしれず、それだけは絶対に嫌なので、私は決意した!


「私はしばらく、惑星ホラールで活動します!」


 待ち続けるだけじゃ駄目!

 自ら動いて、古谷良二様のお嫁さんを目指さないと!


「(お弁当なら、私だって上手に作れるから)」


 ホラール星には地球人が少ないから、きっと古谷良二様と接触できる機会が増える。

 インフルエンサーとしての仕事は減ってしまうかもしれないけど、私がこれまでに稼いだ資産があれば、このあとスタッフと共に死ぬまで無職になっても使い切れないほどある。


「動画も惑星ホラールものになるので、更新頻度は落ちると思います。新しい案件も受けられなくなるので、それはご了承ください」


 古谷良二様、私は必ずあなたのお嫁さんになりますから!






「(これだけの成功を収めたのに、まだ上を目指すのか……)」


 もうダンジョンに潜らなくても、インフルエンサーとしての仕事をこなし、ダンジョンと関係ない動画を更新するだけでセレブ生活を送れるのに、まだ古谷良二を越えようとするなんて……。


「(桃瀬さんってすげえ!)」


 我々スタッフは、あなたの味方です。

 あなたが古谷良二を越える冒険者になれるよう、全力でサポートしますから。


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