第247話 宇宙へ
「はじめまして。私の名はリーリスと申します。惑星ホラールからやって来ました。リョウジ・フルヤさん。あなたがこの地球で一番優れた冒険者だと、大勢の他の冒険者たちから聞きました。あなたにホラール星に来てほしいのです」
「はぁ……」
世界中で大ニュースになっていた、突如地球に飛来した大型UFO。
世界中のダンジョン上空に出現し、青い髪の美女が降りてきて、冒険者たちに質問をするとニュースでやっていた。
『地球で一番優れた冒険者であるリョウジ・フルヤはどこにいるのでしょうか?』と。
色々と不都合があるので、俺は自分がどこにいるのかをリアルタイムで知っているのは家族しかおらず、それでもアナザーテラにいるのではないかと、彼女に教えた冒険者がいたようだ。
ついに大型UFOが、アナザーテラにある俺の屋敷の上空にも現れた。
地球からわずか数分で、地球からアナザーテラまで移動する。
この宇宙人の科学技術力は、凄いとしか言いようがなかった。
大型UFOの下部ハッチが開き、照射された光と共に噂の青髪の美女が単身降りてくる。
「リョウジ、あれって『飛行』魔法じゃないのね」
「科学技術の産物だから、魔力は感じないのさ」
そうデナーリスに説明する俺。
光を照射された美女は、なんの装置も使うことなくゆっくりとこちらに向かって降りてくるが、魔力は感じない。
多分、大型UFOから照射されている光が重力をコントロールしているのだと思う。
昔見た、UFO映画のワンシーンのようだ。
なんて思っていたら、青い髪の美女は庭で子供たちと遊んでいた俺に声をかけてきた。
あなたが、リョウジ・フルヤかと。
「この方がリョウジさんですし、彼が世界一の冒険者なのは事実ですわ」
俺の代わりに、青い髪の美女の質問に答えるイザベラ。
確かに、今後俺を超える冒険者が出てこない限りはそうなるかな。
それにしても翻訳機が優れているのか。
日本語が流暢だな。
「実は、私たちの故郷であるホラール星に突如ダンジョンか出現し、この惑星と同じ状況になっています。そこで、リョウジ・フルヤさんに助けていただきたいのです」
「うーーーん、突然そう言われても……。即答は難しいかな」
俺はもうゴールした男とかネットでは言われているけど、割とまだ地球のために頑張っている。
そうおいそれと、何光年先にあるのかわからない惑星には行けなかった。
「ホラール星は地球よりもはるかに優れた科学力を持ちますが、残念ながらダンジョンの中では無力でした。最初、多くの軍人たちが戦死してしまったのです」
「アメリカ軍や自衛隊と同じね」
リンダは昔を思い出したようだ。
彼女の祖父はアメリカ大統領だったから、その時はえらく批判されたって言っていたものな。
そして、『ホラール星がそれだけの科学技術を持つのなら、他の惑星の資源やエネルギーを開発すればいいのでは?』という疑問の答えに、俺は衝撃を受けた。
「資源がある無人惑星や小惑星にもダンジョンが?」
「はい。探索で発見されました」
「太陽系と同じか……」
確か先週、月以外の惑星や小惑星にもダンジョンができていることが判明したけど、全宇宙の惑星や衛星、小惑星がそうなのかもしれない。
「そうなると、これはちょっと大変なことになるかもしれないな」
「リョウジ君、どう大変になるの?」
「ホンファ、何年も誰も入らないダンジョンはどうなる?」
「あっ!」
ホンファは気がついたようだ。
資源のある惑星、衛星、小惑星はすべて、ダンジョンが発生してから何年も人が入らなかった場合、消滅の危機を迎えるのだと。
「リョウジ君、今の地球の技術力じゃあ、太陽系の他の惑星にできたダンジョンにアクセスできないよね?」
「無理だな」
探索くらいはできても、冒険者を送り出せない。
月はデナーリス王国がインフラを整備して、デナーリス王国国籍を得た冒険者たちが入るようになったから維持できているけど、地球とアナザーテラ以外の惑星はあと数年でダンジョンが消えてしまうだろう。
「宇宙にダンジョンが広がった結果、維持できずに消滅してしまう惑星が大半なんですね。そしてその結果……」
「綾乃が今、想像しているとおりになる」
その惑星、衛星、小惑星の資源やエネルギーは、ダンジョンが残っている惑星に集まるだろう。
ダンジョンを維持できれば、その惑星は永遠に資源とエネルギーが手に入るようになる。
逆にダンジョンを失うと、その惑星の資源とエネルギーには永遠に期待できなくなるわけだ。
「地球とアナザーテラと月は、人間がダンジョンに挑み続ける限り、永遠に資源とエネルギーに困らなくなるのね。リョウジがいて助かったわ」
「本当ですね」
「やっぱり、デナーリス王国の真の王はリョウジよね」
全宇宙にどれだけの知的生命体が住んでいるかわからないけど、ダンジョンに挑まなくてはいけないという点と、その際に科学技術は無力というのは同じなのか。
「なんにしても、ダンジョンに挑むしかない。ホラール星にもダンジョンに挑む創作物とかあるだろうから、それを参考にしてよ」
「創作物? 地球には、ダンジョンの創作物があるんですか?」
俺たちの話を聞いていたリーリスさんが尋ねてくるが、この手の創作物なんて、どんな知的生命体でも考え付くのでは?
そう思った俺は、現代人がダンジョンに挑む系の漫画を彼女に見せた。
「地球には、このような創作物があるのですね。残念ながら、ホラール星にはありません」
だからホラール星の人たちは、初めて見るダンジョンに苦戦しているのか。
「手の平に浮かんだ謎の文字の解析の結果、モンスターを倒していると定期的に変わる文字が、レベルを現す数字であると、ようやくわかってきたところですから」
数字の種類は少ないから、解析が早く終わったのだろう。
未知の異星人の会話はすくに解析、翻訳できたけど、スキル『戦士』はわからない。
初めて来訪した未知の惑星でしか使われていない言語をすぐに翻訳できる時点で圧倒的に地球よりも進歩しているのに、漢字がよくわからないのは、種類が多すぎるんだろうな。
「残念ですが、私たちホラール人はダンジョンに苦戦しています。このままモタモタしていたら、資源とエネルギーが入ってこなくなって衰退していまいます。是非力を貸してください。報酬は十分にお支払いしますから」
「わかりました。すぐにホラール星に向かいましょう」
「ありがとうございます!」
このところ頑張って冒険者たちのレベルを大幅に上げたし、そろそろ俺がいなくても、ちゃんと地球のエネルギー、資源、モンスターの素材、ドロップアイテム需要を満たしてほしい。
「ゆえに、俺はしばらくホラール星でダンジョン探索の仕方スパルタで教えるから。みんな、しばらく留守番を頼むぞ」
「わかりました、いってらっしゃいませ」
「では、早速参りましょう」
「みんな、お土産を買って帰るから」
どうして俺が、リーリスさんの依頼を受けたのか。
それは、地球を圧倒する科学力を持つホラール人たちに貸しを作ることで、地球とデナーリス王国を守るためであった。
「(それが、イザベラたちや子供たちの安全にも繋がるのだから)ところで、地球からホラール星までどのくらいかかるの?」
「ワープを使って、三日間ってところですね」
「早くて便利だね」
つまりその気になれば、切羽詰まったホラール人が地球征服を狙う可能性もあるってことか。
「出かける前に、ちょっと電話してくる」
そう言って俺は席を立ち、書斎の魔導通信網を利用した通話システムを入れた。
これを使うと現状誰も盗聴や妨害ができないので、日本の首相官邸とアメリカのホワイトハウスに設置されていた。
ディスプレイに田中総理と、ウノ大統領が二分割で映し出される。
彼はブルーストーン大統領の後継者であり、話がわかる人なのでこういう時に奏多ず相談するようにしていた。
『あんなに巨大で、ワープを使えば三日で地球に辿りつけるホラール人が資源とエネルギーの入手に手こずった結果、地球の支配など目論まれても堪らない。頼むよ、古谷君』
『いくらアメリカ軍でも、あんなに巨大なUFOは落とせない。リョウジがホラール星に向かって、どうにか友好関係を結んでほしい』
「わかりました」
なるほど。
実は政治って、こうやって裏で少人数で決まることが多いのか。
『しばらく、リョウジが地球に戻ってこれないことを想定し、各国とも情報を共有してことに当たろう』
『巨大UFOのせいで世界中が大騒ぎなので、ある程度は世間に説明する必要があるな』
『世界中で巨大UFOが目撃された以上、隠すのは難しい。真実を発表した方がいいだろうな』
そんなわけで、俺はホラール星に向かうことになったのだけど、その前にやることがあった。
『ホラール星でもダンジョン出現のせいて、すべての資源とエネルギーが枯渇しました。ホラール人たちがダンジョンに挑めるよう、フルヤさんに協力をお願いしたいのです』
『任せてください。というわけで、俺はこれからホラール星に向かいます。UFOに乗るのって初めてだから楽しみだなぁ』
『どうぞ。この型の宇宙船は、民間でも政府でも一番使用されているタイプです。武装は、宇宙海賊などを想定していますので、政府の許可を得て軍艦に等しいものとなっていますけど』
『乗組員は、リーリスさんだけなんですね』
『ええ、ダンジョンに関する情報を上集めるため、私の他にも五万人以上が宇宙の各地に向けて発進しました。人手不足なので、すべてアンドロイドと人工知能が船を動かし、維持してますよ』
『本物のアンドロイドだ! 人間そっくりなんですね。凄い科学力だ!』
俺の動画で、リーリルさんとのコンタクトから、彼女たちホラール人の目的。
そして俺が、彼女の願いを地球とホラール星との友好のために引き受けることを了承し、地球人で初めて乗り込んだ巨大UFOの船内の様子をレポートする。
その様子が俺の動画チャンネルで流れると、これまでの視聴回数を大幅に更新し、チャンネル登録者も一気に増加した。
なお、これらの会話はすべてプロト1が同志山田に頼んだ脚本どおり演技している。
リーリスさんも協力してくれた。
『ちなみに、ホラール星というのはどこにありますか?』
『ここですね』
宇宙船内での動画が続く。
巨大スクリーンに銀河系全体の宇宙図が映し出され、ホラール星は太陽系と正反対の端にあると、リーリスさんが説明してくれた。
『随分と長い宇宙の旅になりそうですね』
『そうですね。三日もかかりますけど、我慢してくださいね』
『はるか数万光年先の惑星までたったの三日! ホラール人の科学力は凄いですね』
『ダンジョンの前には無力なんですけどね。では、出発しましょう』
こうして俺は、人類で初めて? 宇宙人の宇宙船に乗り込み、彼女の母星を目指す。
ホラール星に出現したダンジョンの攻略方法をホラール人に教えて恩を売り、地球を侵略されないようにする。
意図せず、またも俺は地球のために働くことになったのだ。
『ワープに入ります』
『みんな、いよいよ本物のワープを経験します。どんな感じなのかな?』
三日間の宇宙旅行の様子も撮影、編集され、後日俺の動画チャンネルで流したら大好評だった。
だから俺は、日本政府やアメリカ政府からはビタ1文ギャラは貰っていない。
その代わり、もし失敗しても責任はゼロだから気楽ではあるってことで。
それにしても、宇宙ってのは本当に広いんだな。
「リョウジさん、ここがホラール星です」
「重力、大気組成は地球とほぼ同じか……」
「こちらへどうぞ」
三日間の宇宙旅行ののち、俺はホラール星に到着した。
宇宙船で出てきた食事からある程度想像できたが、ホラール星は地球とほぼ同サイズで環境、文化もほぼ同じようだ。
ただ、科学力はかなり上なので、建物、乗り物、街の様子が近代的で洗練されていた。
巨大UFOのスクリーンで映し出された街ゆく人たちは、全員リーリスさんと同じ全身スーツを着ている。
「このスーツを着ていれば、酷暑でも、極寒でも快適に過ごせます。防弾機能もあって、銃弾や低出力のビーム、レーザーなら防げます。欠点は色くらいしか選べないので、お洒落を楽しみたい人にはダサイと思われることでしょうか? 今の私のように、公の仕事に従事している人は銀色を着ます」
「スーツって、便利そうだ」
ファッションブランドを展開しているのに、あまりファッションに興味がない俺はかなり欲しいかも。
巨大UFOは、いよいよ空港と思われる場所に降り立つ。
リーリスさんと共に巨大UFOから降りると、年配の男女……多分政治家だと思う……数十名が待ち構えていた。
「ホラール連邦国大統領のハーリスです。先にリーリス君から報告を受けておりまして。ようこそダンジョンを極めし宇宙よりの客人よ」
「はじめまして。古谷良二です」
「本当ならば、盛大な歓迎パーティーを開きたいところですが……」
「それは、ある程度状況が落ち着いてからにしましょう。早速ダンジョンの偵察から始めます」
「さすがは、地球一の冒険者だ」
なるべく早く終わらせて家族の元に戻りたいってのもあって、俺は急ぎ惑星ホラールのダンジョンに潜ることにする。
さて、地球のダンジョンと同じなのか、差があるのか。
非常に興味深いところだ。
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