第246話 ファーストコンタクト

 それは、突然のことだった。





「リック! 空を見てみろ!」


「ええっ! UFOなのか? アレは?」


「俺はUFOにしか見えないけどな。お前は違うのか?」


「いや、UFOにしか見えない」


「ダンジョンが出現したり、たまにモンスターが町中に出現したり、太陽を挟んだ裏側にもう一つ地球がある世の中だ。UFOくらい出現しても不思議じゃないさ」


「それもそうか……」





 アラスカのアンカレッジ郊外にあるダンジョンで、パーティメンバーたちと今日もひと稼ぎした。

 ダンジョンの外は今日も極寒だったが、このあとは暖房の効いたバーで冷たいビールでも一杯……と思っていたところ、なんと夜空に巨大な飛行物体が……。

 その形からして、どう見ても UFOにしか見えなかった。

 当然だが、アンカレッジの町は突然現れた巨大なUFOのせいで大騒ぎのようだ。

 

「もしや、宇宙人の侵略か?」


「それにしては、なにもしてこないな」


 巨大UFOは、ただ上空に浮かんでいるだけだ……と思ったら、巨大UFOの下部からなにか小さな物体が……いや、人がゆっくりとこちらに降りてくるのが確認できた。


「これはいわゆる、重力を利用乗降装置じゃないのか? すげえ」


 パーティメンバーの一人で魔法使いであるバータトンは、UFO、宇宙人、未知の生物、幽霊、その他オカルト的なことが大好きだった。

 そんな彼は、このダンジョンが出現した世界を心から楽しんでいる。

 ダンジョンに潜ってる時は冷静そのもので、知力の高い彼のアドバイスに助けられたことも多いから、フリーの時間にビックフットを探しに行ったり、心霊屋敷の調査に出かけても、俺たちは気にしないけど。


「なあ、こっちに降りてきてないか?」


「確かに……」


 巨大UFOから照射された光に包まれながら、ゆっくりと地上に降りてくる人物は、今俺たちがいる、ダンジョンの入り口付近に降りてくるようだ。

 徐々にその詳細な姿が確認できたが、昔UFO映画で見たような、銀色の全身スーツに身を包んでいた。

 こういう時は、レベルアップで視力がよくてよかったなと思う。

 さらに……。


「髪の色が青いな」


「まさに宇宙人だ」


「でも綺麗な人だな」


「ああ……」


 全身スーツの胸の部分の膨らみからして、女性なのは確実だろう。

 見た感じ我々人間との差は、地球の人間なら染めないとあり得ない青色の髪だけだと思う。

 そんなことを考えている間に、俺たちの目の前に宇宙人は降りてきた。

 宇宙人とのファーストコンタクトが俺たちとは……バータトンが引くほど喜んでいるなぁ……。

 地球人類が全員バータトンみたいだと思われると、ちょっと恥ずかしい。


「あなた方は、この星の住民でしょうか?」


「はい。我々の言葉を理解できるのですね」


「翻訳機が上手くマッチしてくれたようです。私の名はリーリスと申します。この惑星よりはるか遠くにある、ホラール星よりやって来ました」


「それは遠くから大変でしたね」


 一応、襲われるかもしれないと思って警戒していたのだが、彼女にそのつもりはないようだ。

 それにしても、近くで見るともの凄い美人だな。

 ホラール星の女性は、全員が美しいのだろうか?


「あのぅ、リーリスさんはどのようなご用件で地球に?」


「この惑星は地球というのですね。私はホラール星から全宇宙に向けて調査に赴いた調査団の一員です」


「調査ですか?」


「宇宙人だぁーーー! 凄い! 初めて本物に会ったぁーーー!」


「……すみません、こいつちょっと嬉しすぎたようで……」


 普段は冷静沈着なんだが、今日のバータトンは役に立ちそうにないな。


「宇宙人……。私たちのことですね。私たちからすれば、あたた方も宇宙人ですけど」


「ですよねぇ。で、あなた方の調査の目的は?」


 自然のこのパーティのリーダーである私が、彼女と話をすることが多くなってきたな。

 宇宙人との初コンタクトでテンションが上がりすぎいているバータトンでは、彼女におかしな質問をしかねないからだ。


「実は、ホラール星に突如ダンジョンが出現しまして。さらに、惑星ホラールから鉱山や油田、ガス田などが消滅してしまったのです」


「……地球と同じですね」


「やはり、この惑星もそうなんですね。宇宙船からこの惑星とその衛星にダンジョンを確認したので、この宇宙船で降りてきたのです。この惑星の人たちは、どうやってダンジョンに対処しているのかを知りたくてです。惑星ホラールにダンジョンが出現した直後、ホラールの警察や軍隊がダンジョンに入ったのですが……」


「ダンジョンの中では、科学を用いた武器が通用しなかった?」


「……この惑星もそうだったんですね。ダンジョンのモンスターには、惑星ホラールの技術力が通用しない。そんななか、ホラール人のごく一部に、モンスター倒すとレベルが上がる人が出現しました」


「デジャブを感じ……」


 ホラール人の中にも、地球人と同じように冒険者特性を持つ人が現れたのか。 


「それからは、おっかなビックリダンジョンに挑んでいますが、なかなか必要な量の新しいエネルギー源である魔石が手に入りません。そこで、ホラール星以外にダンジョンがある有人惑星で、ダンジョンに関する知識や、攻略技術を得られないものかと。そんな理由で、大勢の同胞たちが全宇宙に散ったのです」


 ホラール人たちは宇宙船を作れるほど科学技術が発展しているのに、モンスターには通用しなかったのか。 


「それは大変でしたね。ただ、一つ疑問があります」


「疑問ですか? なんでしょう?」


「あなた方は、これだけの巨大な宇宙船に乗って地球まで来れる技術があるのですから、近くの衛星や惑星の資源なりエネルギーを採掘すればいいのでは?」


 今の地球が宇宙で、資源やエネルギーを商業ベースで集めるのは不可能だが、ホラール人なら十分に可能なはず。

 無理に他の宇宙人から、ダンジョンに関する知識と技術を教わる必要はないと思うのだ。


「その答えは明白です。当然、ホラール政府は近隣の小惑星、衛星、惑星の資源調査をしました。ですが……」


「ですが?」


「残念ながら、資源やエネルギーがありそうなところにはすべて、ダンジョンが出現していました」


 つまりホラール人たちも、ダンジョンから資源とエネルギーを集めねいといけないのか。

 だからダンジョンに詳しく、ホラール人が効率よくモンスターを倒し、資源とエネルギーを集められるよう、知識や技術を伝授してくれる異星人を探しているのか。


「あなたたちは、手の平に数字が表示されている者たちですか?」


「そうだけど……」


 俺は、『戦士レベル247』の表示をリーリスさんに見せる。

 世界のトップ冒険者たちには全然敵わないが、これでもアンカレッジダンジョンではトップクラスの成績を出していた。


「レベル247! 私が惑星ホラールを出る前、〇〇レベル7の人が一番だったのに! 凄いですね。それと、レベルの文字も読めるんですね」


「地球の数字が読めるのですか?」


「いえ、コンピュターの解読によってわかっただけです。レベルの数字以外は、なにが書いてあるのかサッパリですけど……」


「数字は、十種類しかありませんからね」


「はい」


 手の平のスキルの表示はなぜか日本語なんだが、レベル100を超えればすぐに日本語がペラペラになるくらい知力が上がる。

 語学の教科書や辞書、動画での日本語講座をすぐに理解、実践できるからだ。

 現に俺たちも、日本には一度も行ったことがないけど、日本語はペラペラだしな。

 英語の字幕はあるが、やはりダンジョン探索チャンネルは日本語で見た方が間違いが少ないのだから。

 そんなわけで、このところセレブの間でダンジョン出産が流行していた。

 子供に冒険者特性が出て、レベル100以上あれば、すぐに何か国語も話せるようになるし、難関校にも簡単に合格できるからだ。 

 だがその法則は、他の惑星に住んでいる人には通用しなかった。

 多分、言語の系統が全然違ってコンピューターで解析してもわからないのだろう。

 宇宙人に漢字を理解しろってのは難しいか。


「あの! それだけのレベルがあるのなら、これから一緒に惑星ホラールまで来ていただけませんか? 私たちにダンジョンの攻略方法を教えてほしいのです」


「俺たちがですか? 無理無理!」


 レベル247なんて、世界基準でいえば平均がいいところだ。

 昔はそれだけあればかなり上位の冒険者だったけど、それだけ古谷良二の動画による解説や、彼が今も実施しているレベリングの効果が大きいってことだ。

 俺たちだって、もう少しお金を貯めたら彼のレベリングに参加する予定なのだから。


「俺たちなんて、冒険者の中では中の中ってところなので、惑星ホラールの冒険者たちを指導するなんて無理ですよ」


「そうだな。リョウジ・フルヤなんて、推定でレベル100万を超えているんじゃないかって話もあるからな」


「教えを乞うなら、リョウジ・フルヤが一番だと思う」


「レベル100万! そんなに凄い冒険者がいるのですね」


 リーリスさんは、リョウジ・フルヤのレベルに驚いていた。

 彼の手の平の表示はレベル1のままなので、あくまでも推定だけど、その実績と強さを考えたらレベル100万でも不思議はない。


「地球の誰に聞いても、地球で一番の冒険者が誰かと問われたら、ほぼ全員がリョウジ・フルヤって言うだろうな」


「そうですか……。色々と教えていただき、ありがとうございました。リョウジ・フルヤさんを探してみます」


 そう言った直後、上級にある巨大UFO下部ハッチが開き、その中から光が照射されてリーリスさんを包み込んだ。

 彼女はそのままゆっくと上空へと上がっていき、巨大UFOに収容されていく。

 

「凄い! まさに超科学の力だ!」


 バータトンが感動しながらスマホで動画を撮影しているが、地球を凌駕する科学力なのは確かだ。

 そしてリーリスさんを収容した巨大UFOは、アンカレッジ上空から別の場所へと飛んで行ってしまった。


「俺たち、公式には初めて宇宙人と遭遇した人類ってことになるのか」


「アンカレッジの住民で、巨大UFOを見ていない奴は一人もいないだろう。アメリカ政府も隠蔽は難しいだろう」


「そうだな」


 その後、巨大UFOは世界中にある大きなダンジュン上空に出現。

 青い髪の美女リーリスさんが下りて来て、リョウジ・フルヤの居場所を冒険者たちに尋ねるようになったとニュースで報道された。

 ただ、普段彼がどこにいるのかわかる冒険者は非常に限られているはずで、アメリカ大統領やジャパンの首相ですらわからないだろう。

 リーリスさんはどうするのだろう?

 俺たちが心配していると、突如巨大UFOは大気圏を離脱して地球を離れてしまった。

 テレビのニュースで、『巨大UFO、突如地球を離れる!』と大騒ぎになっていた。

 リーリスさんは美しかったので、テレビ映えがするとかでマスコミ関係者に大人気だったからなぁ。


「リョウジ・フルヤは、アナザーテラか」


「デナーリス王国だな」


 地球にいないとなれば、彼が国籍を取得したデナーリス王国にいるはずだ。

 今の地球の科学力ではアナザーテラに辿り着くのは難しいが、巨大UFOなら簡単に辿り着けるだろう。


「俺たちも、早くレベルを上げてデナーリス王国の住民になりたいな」


「今日も頑張らないとな」


 そんな俺たちよりも大変な、リーリルさんの故郷であるホラール星が、リョウジ・フルヤによって救われることを祈るのみだ。

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