第240話 召喚獣を増やす
『このところ、召喚獣のペットが増え続けてます。この子は精霊ドラゴンの子供で、この子はウィングホースという召喚獣……みなさんにはユニコーンといった方がいいかもしれません。で、この子が三頭犬……ケルベロスでいいかな? 召喚獣の世界のケルベロスは、見た目が全然怖くないですけど』
大幅なレベルアップのおかげで、俺は多くの召喚獣を常にこの世界に維持できるようになった。
生き物を飼うということは子供の情操教育にいいと聞くので、屋敷の隣にペットの飼育スペースを作り、そこに数十頭の召喚獣を放し飼いにしていた。
召喚獣の中には見た目が怖くて子供向けじゃない種類も多いので、可愛いのを厳選している。
モフモフのホワイトミュフは動画チャネルで人気があり、食費どころか、動画のインセンティブ、宣伝広告、グッズ、投げ銭、コラボカフェの開催など。
プロト1がプロデュースして大儲けしており、今は召喚する数を増やしていた。
精霊ドラゴンは、大人は巨大で精悍な顔つきだが、子供は全長五十センチほどしかなく、さらにデフォルメされたヌイグルミのように可愛いくて、すぐに人気者となった。
子供たちが、楽しそうに抱っこしている。
三頭犬も顔が三つある柴犬みたいな見た目なので、こちらも大人気となり、やはりプロト1が上手くプロデュースして荒稼ぎしていた。
そしてウィングホースも、俺を乗せて空を飛んでくれ、飛行シーンと馬動画の内容に寄せた動画を流したらバズって人気者となった。
コラボ企画でイザベラたちを乗せて飛んでいる動画も視聴回数を稼げたし、動画には流さないが、子供たちを乗せると大喜びなのだ。
なお、ウィングホースはユニコーンのように『処女』の前にしか姿を見せないなんてことはなかった。
ただ召喚獣は、自分よりも弱い人を露骨にバカにし、最悪殺されてしまうので、俺が召喚しないと可愛く接してくれない。
俺が圧倒的に強いからこそ、屋敷の隣で飼えたりするわけだ。
その点においては、召喚獣はよく人を見ているとも言える。
「よしよし、みんな可愛いなぁ」
しかも、自分の食い扶持は自分で稼ぐしっかり者でもあった。
「(それどころか、利益までもたらしてくれるという)」
このところ、徐々に召喚獣を動画に出す冒険者が増えていたけど、レベルが足りていないのに長時間この世界に召喚獣を留めた結果、コントロールが甘くなって召喚獣が暴れ出すケースが増えていた。
なのでたまに、俺は動画で警告を発している。
召喚獣はモンスターを倒す武器でもあり、長時間この世界に留めるには圧倒的な強さ(レベル)と魔力が必要だと。
『召喚獣を長時間出し続けることで疲弊し、そのせいで召喚獣のコントロールが甘くなったなんて言い訳は通用しません。そのせいで本人がどうなろうと自業自得ですけど、他の人に迷惑をかけた場合その責任は重いです。こうやって召喚獣を飼いたかったら、ひたすらレベルを上げるしかないですね。あとは、『召喚師の』のスキルを持持つことです』
そんなわけで、しばらくは召喚獣ジャンルの動画で俺を抜く人は出てこないはずだ。
「次は、美しい戦闘妖精でも呼び出そうかな?」
「良二様、戦闘妖精は動画で流せませんよ。なぜなら……」
「だったよなぁ……」
戦闘妖精は、召喚すると強力な魔法を放ってくれる召喚獣だが、常に裸なので動画配信サイトだと規制に引っ掛かってしまうのだ。
「服を着せようかな?」
駄目だ。
戦闘妖精は服を着るのを嫌がるって、向こうの世界で教わったのを思い出した。
向こうの世界で使役していた時も、『戦闘妖精に服を着せるなんてあり得ない』って教わったから、一度も試していないしな。
「……成人限定のメンバーシップで?」
「良二様、そこまでして戦闘妖精の動画を公開したいのですか?」
「視聴回数は取れそう」
「そうでしょうか?」
綾乃は半信半疑だったけど、試しにメンバー限定、さらに成人限定で戦闘妖精を動画に出したら、視聴回数がとんでもないことになった。
ただ、すぐに裸の召喚獣を動画で流すのは如何なものかというクレームが増えたため、公開を中止することに。
さらに……。
「この服、可愛い」
「私、この服ね」
「あれ? 嫌がらない」
以前よりもレベルが上がった影響か?
戦闘妖精たちは俺が作った服を気に入ってくれたようで、この世界にいる時は服を着てくれるように。
そのため、安心して動画で公開することができた。
「……リョウジ君、器用だね」
「任せてくれ」
ホンファが人形サイズで、しかも女性用の服を器用に作る俺に感心していたけど、なにしろ俺は、自分のファッションブランドを持っているくらいだからなぁ。
「でもさぁ、ナース服とか、メイド服とか、セーラー服とか、水着とか。人気アニメのヒロインのコスプレとか。リョウジ君の趣味が思いっきり出てるよね?」
それは否定しないけど、最新の流行とか俺はよくわからないし。
「そうかな? でもホンファ、安心してくれ。みんなの分も作ったから」
「好きだよねぇ、夜に着てあげるけど」
「それは楽しみだ。アニメヒロインのやつは、同志山田から詳細な設定資料を取り寄せて、それを参考に作ったから、超リアルだぜ」
「……ボクたちは、ちょっとくらいなら違ってもわからないと思うけどね。リョウジ君、器用すぎ!」
今のところ、戦闘妖精を長時間この世界に安全に召喚できるのは俺だけだし、服を着せることができるのも俺だけ。
それもあって、毎回違う衣装で動画に出てくる戦闘妖精たちは、全員美形でスタイル抜群なこともあって大人気となった。
「これ、美味しい」
「初めて見る食べ物だけど、これももの凄く美味しい」
戦闘妖精はなんでも食べられるので、彼女たちには動画チャンネルのファンから大量の贈り物が届き、それを美味しそうに食べるようになった。
「本当、美味しいわね」
「ルナマリア様、戦闘妖精がファンから貰ったお菓子を勝手に食べないでください」
なぜか多くの信者たちから大量のお供え物を貰っているルナマリア様まで一緒に食べているけど、そんなに食べてよく太ったり糖尿病にならないものだ。
「(召喚獣の動画は、まだまだ伸び代があるな)」
さすがにダンジョン配信動画も頭打ちなので、他のジャンルを頑張って開拓していかないと。
別に動画関連の収入が下がっても全然困らないんだけど、これは俺が貧乏性なのかもしれない。
「編集長、ようやく集計が纏まりました」
「どれどれ……。こうして見ると、日本及び、世界長者番付は、ここ数年で随分と入れ替わったな」
「ええ、冒険者が上位を占めることが当たり前になりましたね」
うちの雑誌は、毎年日本と世界の長者番付を発表しているが、今となっては上位を多くの冒険者が占めるようになった。
これまでの長者番付常連者たちが資産を減らしたわけでなく、むしろロボット、ゴーレム、AIのおかげで順調に資産を増やしていたが、それ以上に冒険者が資産を増やしているだけのことだ。
冒険者というよりも、『冒険者資本家』か。
冒険者業だけでなく、起業や投資をしている人はそう呼ばれることが多かった。
古谷良二などは、『自分は冒険者だ!』と強く動画で主張し続ていていたけど。ジ
高レベル冒険者が頑張れば、数十億~数百億円の資産を築くことはそう難しくない。
だが、数千億円の資産を築くには起業や投資が必要だ。
向き不向きがあるが、冒険者の中にはイワキ工業創設者のように起業全振りの人も一定数いて、古谷良二のようにオールマイティーに活躍できる人もいる。
そもそも、ゴーレムやAIに任せれば少人数や、なんなら一人でも会社を経営できる。
なので、お金がある冒険者は効率的に資産を増やしていた。
「これまでの資本家も資産を増やしているが、勢いがあるのは冒険者だな」
「冒険者の時代なんでしょうね」
今の世界は、冒険者がダンジョンから持ち帰る資源とエネルギーがないと生きていけない。
ゆえに、それを自分で手に入れられる冒険者の方が商売をしても有利なのは当然だ。
なにより、新たに起業したおかげで人を雇わずに済む。
既存の企業や金持ちたちは、法律の関係で不要な社員を切るのが難しい。
いまだ日本では全就業可能者の半分近くが働いているが、その四分の一は社内ニートをクビにできないから抱え込んでいるだけ、という衝撃のデータがあるほどだ。
そんな事情があり、企業や役場はなんとか必要ない人をクビにしようとするのだけど、このところ裁判所で解雇無効の判決を乱発されていた。
『企業の業績が悪くなったわけでもなく、企業側は配置転換などの努力をすべき』と。
企業や雇用者からすれば涙目の判決だが、裁判官たちがこういった判決を出すのには理由があった。
実は、公務員も人員削減が進んでいたからだ。
人を減らしても、以前よりきめ細やかで迅速な仕事ができるようになり、社会保障制度がベーシックインカムのおかげで簡素化されたため、税金の無駄遣いが嫌われるようになった。
減税は必要ないが、ベーシックインカムに回すため、税金の無駄遣いはやめろという世論が強まったのだ。
どうせ次はなく、政治家を引退する田中総理は躊躇なく不必要な公務員を削減し、削った分をベーシックインカムに回して支持率を上げた。
裁判所も、ロボット、ゴーレム、AIの普及が進んでいたので裁判の迅速化が進み、裁判官の数も減っている。
『裁判官のみなさんは、弁護士に戻ればいいのです』
田中総理の言い分は世論から支持されたが、公務員なので極論働かなくても給料が出る裁判官が、弁護士になっても上手くいくケースは少なかった。
今の弁護士には、ロボット、ゴーレム、AIを効率よく使って安く弁護を受ける必要があり、それには商売の才能も必要となる。
裁判官を辞めて弁護士になった人たちの中でそれができる人は少なく、ベーシックインカムを貰う実質無職が多くいた。
弁護士にも失業状態の人は珍しくないので、弁護士資格を取ったから勝ち組とは言えなくなったということだ。
そんな裁判官たちが、企業の解雇を無効だという判決を出す。
明日は我が身だと考えれば不思議ではないのか。
そんな事情があって、同じ商売をしていても、既存の資本家や企業よりも冒険者資本の方が圧倒的に有利だった。
冒険者でなくても新しく起業した方が有利で、それは人を雇う必要がないか、最低限の人数で済むからだ。
そんな事情もあって、既存の資本家や起業家は資産の伸びが少なくて、ランキングから順位を落とす人が多かった。
数少ない例外は、主に海外で躊躇なく人のクビを切れる人だったという。
「世界ランキングの半分、日本ランキングの三分の二が冒険者ですね」
「日本は冒険者大国で、日本在住の外国人冒険者もランキングに入れるから余計にそうだろうな」
「日本でも、世界でも。古谷良二と岩城会長がワンツーフィニッシュですか」
「ここ数年、変動はないな」
「あとは、古谷良二の奥さんたちも全員トップ10に入っている。ビルメスト王国のダーシャ女王はビルメスト王国一の金持ちで、デナーリス王国の女王陛下は集計できなかったが……」
ダーシャ女王は普段、上野公園特区かデナーリス王国で暮らしているが、夫の『テレポーテーション』でビルメスト王国にも頻繁に顔を出しており、さらにビルメスト王国の主力産業である、冒険者装備製造業以上に納税していた。
決して先進国ではないビルメスト王国でベーシックインカム制度が早期に導入されたのは、ダーシャ女王が海外で稼いで納税しているからなのだ。
そのため、彼女はビルメスト王国の民たちに絶大な人気があった。
民主主義だあったはずの前政権が汚職だらけで人気がなく、今の立憲君主国家の方が汚職も少なく人気があるから、民主主義大好きなマスコミはあまり報道しないけど。
そしてデナーリス女王だが、多分彼女が世界一の資産家なのではないかと言われている。
地球型の惑星を一つ所有しており、結局月の権利は全世界のものという建前はあるものの、ダンジョンとその周辺の土地は実質古谷良二のものになっていた。
彼は、自分が月のダンジョンを持つと軋轢が大きいと言ってデナーリス王国に譲渡してしまったから、デナーリス王国の女王である彼女が実質世界一の資産家である事実に疑いはないだろう。
彼女の下にはもう一つの地球の土地とダンジョンを持つ貴族(すべて若い女性)が多数いて、彼女たちも資産家なのを考えると、世界資産家ランキングも精度には問題があると思う。
もっとも、デナーリス王国が我々の雑記の世界資産家ランキングに協力などしてくれないはずだ。
「デナーリス女王が世界一の資産家だって予測だが、俺は疑問に思ってる」
「編集長?」
先輩と話をしていたら、そこに編集長が加わってきた。
「編集長は、誰が世界一の資産家だと思っているのです?」
「そりゃあ、古谷良二だろう。うちの雑誌で予測した資産額が少なすぎる」
「そうでしょうか?」
推定資産額八十五兆円でも、少なく見積りすぎって……。
さすがにそれはないでは?
「彼だけでなく、『アイテムボックス』持ちの冒険者全員はもっと資産があるはずた」
「そう言われると確かに……」
冒険者がダンジョンで得たものを『アイテムボックス』に入れておけば、資産を隠せる。
『アイテムボックス』持ちの冒険者の数は少ないとはいえ、古谷良二なら大量に仕舞えるはずなのだから。
「とはいえ、本人以外誰も『アイテムボックス』内を見れませんからね」
さすがの国税庁も、冒険者の『アイテムボックス』の中までは覗けなかった。
ただ、『アイテムボックス』も万能でない。
大きな弱点があり、それは『アイテムボックス』を持つ冒険者が死ぬと『アイテムボックス』に入れていたものが消滅してしまうことだ。
実際には、またダンジョンで手に入るようになるらしい……古谷良二が動画で解説していたけど。
「とはいえ、古谷良二は多額の納税をしている……彼がデナーリス王国人になったら大分減ったが、それでも彼がちゃんと納税をしなかったら、日本のベーシックインカム制度は一気に予算不足に陥るだろう」
「(それを考えると、獅童総理って罪深いよな)」
そりゃあ、憲政史上最悪の総理大臣だと批判されるわけだ。
彼のせいで、日本人が貰うベーシックインカムが推定で月換算で二万円ほど減ったと試算され、それがテレビや新聞で報道されると遺族が嫌がらせをされ、警察が彼らの警備を強化したくらいなのだから。
学者としての獅童総理は非常に優秀で、日本の電気代が三分の一まで減ったのは、彼が開発した常温核融合技術のおかげなのだが、それを評価する人は少ない。
他が悪すぎたからだろうし、常温核融合技術は彼の学者としての功績だからだ。
「とはいえ、古谷良二の本当の資産額なんて、我々には一生掴めないんだろうな」
「そうですね」
それでも、世界一の資産家は古谷良二である事実に変わりはなさそうだ。
毎年こんなランキングを発表する意味があるのかと問われると困るが、人はこういうランキングに興味を持つ生き物であり、需要がある以上記事は書かれるわけで。
なにより今の時代は仕事が少ないから、需要があればそれに応えなければすぐに失業してしまう。
他の本当に伝えたい記事のため、ここは我慢しなければ。
「(まあこの編集部も、人間は俺と先輩と編集長だけだけどね)」
ロボット、ゴーレム、AIのおかげで残業もなく、紙の雑誌は廃止されて電子書籍になってしまったけど、採算は取れているからこの雑誌を続けられるのだけど。
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