第233話 悪なる管理神
『これより、リブランドの塔の二階層に挑みます!』
「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」
「古谷良二は覚悟を決めたか」
「二階層にはどんなボスモンスターが出現するんだろうな」
「ブックメーカーが賭けをしていたな。俺はゴブリン系のモンスターだと思っている」
「それだと倍率がショボイだろう。俺は鳥系のモンスターに賭けたぜ」
「俺はオーク系!」
可能な限りレベルを上げた俺は、ついに覚悟を決めてリブランドの塔、二階層のボスモンスターに挑む。
『リョウジさん!』
『リョウジ君!』
『良二様……』
『リョウジ』
『リョウジさん!』
『リョウジ、死なないで』
妻たちも二階層に同行して、俺の勝ちを願う。
もし俺が二階層のボスモンスターに敗れたら、次に戦うのはイザベラたちであるし、俺とのレベル差を考えたら勝ち目はない。
ほぼ確実に殺されてしまうというのに、彼女たちは俺に同行することをやめなかった。
『私はリョウジさんの妻ですから』
『古風だと言われても、夫と妻は一蓮托生だよね』
『夫婦は運命共同体ですから』
『私はリョウジを信じてるから』
『リョウジさんのおかげで今がある私は、ここで共に死んでも後悔はありません』
『リョウジ、ぶっとばせーーー!』
妻たちの声援を受けながら、俺は二階層の中心部に移動する。
「リア充死ね!」
「お前は死んでもいいけど、ダンジョンの女神たちまで巻き込むな! ボケ!」
一部に酷いコメントがあるけど気にしない……うるせえ!
クソコメントは削除だぁーーー!
一階層の銀色のスライム準備がてら瞬殺し、階段から二階層へと上がると、一階層の時と同じくイザベラたちは入り口付近でバリアーに覆われ、二階層のボスモンスター『ジェネラルゴブリン』が姿を現した。
俺は、スライムナイフとスライムシールドを構えて対峙する。
他にも、俺が製造に成功したスライムアーマー、スライムヘルム、スライムブーツも装備しているのだが……。
「ウンコヘルムだ」
「スライム装備クソダサイ」
「いくら性能よくても、見た目が恥ずかしい」
「もう少しデザイン、なんとかならなかっのか?」
人が苦労して、銀色のスライムの体液から高性能な武器を作れるようになったのに、無責任なことばかり言いやがって!
銀色のスライムの体液を固形化するのに、俺がどれだけ試作を重ねたと思っているんだ。
しかも、銀色のスライムの体液は加工に失敗すると腐り落ちる謎仕様だってのに……。
安定した整形も難しくて、今の形状が一番成功率が高いから仕方がないんだよ。
試作を繰り返すため、銀色のスライムを大量に狩り続けた俺の苦労も理解してほしい。
そして、もはやレベル=戦闘力な俺と、ジェネラルゴブリンとの戦いが始まる。
『クケ!』
『おっと!』
やはり、銀色のスライムなんて比じゃない力だ。
ジェネラルゴブリンが振り下ろした一撃を盾で防ぐが、その攻撃の重たさは銀色のスライムなんて目じゃなかった。
『ふん!』
『グゲェーーー!』
だが、反撃でジェネラルゴブリンの脇腹を剣で切り裂くことに成功し、ジェネラルゴブリンは悲鳴のような声をあげた。
『グゲゲーーー!』
『怒ったか? かかってこいよ!』
激昂したジェネラルゴブリンの攻撃をシールドで防ぎ、それでもダメージを受けるので回復も忘れない。
そしてやはり、スライムナイフだとリーチが短い分、深い傷をつけられず、何度も攻撃をする羽目になってしまった。
それでも攻撃を繰り返し、ついに十五撃目。
一度攻撃して傷をつけた脇腹を再度攻撃すると、ついにジェネラルゴブリンは倒れ伏した。
『ふう……。やっと倒せたぁ……』
『リョウジさん! やりましたね!』
『ああっ、イザベラたちが応援してくれたおかげさ』
こうして俺は、無事リブランドの塔の二階層を突破することに成功した。
次の三階層には、どのようなボスモンスターが出現するのか。
これからも、古谷良二の試練は続くのだ。
「うわぁ、ヤラセっぽーーーい!」
「ルナマリア様、これは演出でヤラセじゃないから」
「私が二階層のボスモンスターを探ってあげたんじゃない。それを、命がけで未知のボスモンスターと戦うなんて銘打っちゃてさぁ」
「ボスモンスターとの戦いは常に命がけだから」
「他のスライム装備はともかく、無理にスライムナイフを使わなくてもいいじゃない。多少攻撃力が落ちても、ゴッドスレイヤーの方がリーチが長い分有利だし」
「その方が、動画が映えるから」
「ルナマリア様、スライムナイフで接戦を演じた方が、視聴回数が増えるのだ」
「プロト1が一番リアリストな件」
リブランドの塔の二階層には、どんなボスモンスターがいるのか。
実際に戦ってみればすぐにわかるけど、もし負ければ死んでしまう。
無理はできず、それなのに世間は『古谷良二がリブランドの塔の二階層に挑まないのは卑怯だ!』などと騒ぎ始める人たちが増えてきた。
無職が増えた分、暇な無職が仕事をしている人の粗を探し、強く批判するようになったのだ。
クレーマーも増えて、人間に対応させると精神を病むので、クレーマー対応をAIとゴーレムに任せるようになり……また人間の就業者は減ったけど。
そんな世相だから仕方がないとはいえ、腹が立ったので無視しようと思ったら、そういえばルナマリア様かいたよなと思い出し、神殿をトレント王国に移した彼女に聞いてみた。
『あーーー、お供え物のシャインマスカット大福うまぁーーー』
信者に加護を与える以外は、基本食っちゃ寝しているルナマリア様にリブランドの塔について聞いてみたところ。
『私、今のダンジョンの神様だから、塔のことはわからなぁーーーい』
という、大変腹の立つ返答をいただいたのだけど、すぐに言葉を繋げた。
『ようは、リブランドの塔の各階層にいるボスモンスターの強さを知りたいんでしょう? 本当に管轄外だから、見るのに力がいるのよ。攻略は月に一回にしてほしいわね』
俺はルナマリア様から、二階層のボスモンスターはジェネラルゴブリンだと教わり、その強さも教えてもらったので、安全にこれに挑み勝利した。
ただ、二階層のボスモンスターがなんなのかわからないうちから、古谷良二がボスモンスターに挑まないのは卑怯なんて物言いをする連中がいたので、こうやって視聴回数が稼げる動画を作り、露骨に視聴回数を稼いでいたというわけだ。
「夫婦愛を強調した演出にしました。人間はこういうのが好きなのだ」
「プロト1って、本当に人間臭いわねぇ」
ルナマリア様をして、プロト1はかなりの特殊例みたいだ。
「良二、ジェネラルゴブリンを倒すとなにが手に入るんだ?」
「ゴブリンソード、ゴブリンシールド、ゴブリンアーマー、ゴブリンヘルム、ゴブリンブーツだ」
いくらジェネラルでも、ゴブリンの死体に価値などない……いい肥料にはなるけど……ので、オリハルコンやミスリルなどの鉱石と装備していた武器と防具、高品質の魔石が主な成果であった。
「良二、ゴブリンシリーズの武器と防具ってどうなんだ?」
「もの凄く性能はいい。なんなら、俺が苦労して作ったスライムシリーズよりも上だ」
「それは凄いな! 俺も是非!」
「あっでも、手に入れたこいつのサイズ調整をして剛が装備できるようになるには、かなりの時間がかかりそう」
剛がジェネラルゴブリンを倒していれば、ゴブリンシリーズの武器と防具は、剛にピッタリなサイズとなっていたはず。
ところが、俺が手に入れたゴブリンシリーズは一個だけで、俺が手に入れたから俺ピッタリのサイズになっており、剛だとサイズを調整し直さないと装備できない。
そしてこの調整も、しくじると使い物にならなくなってしまう。
とっくに人間の領域を離脱しつつある俺だけど、未知の武器と防具の調整は難易度が高かった。
「残念だけど、俺がゴブリンシリーズの改良ができるようになるまで待ってくれ」
「そのうち新しい武器も出そうだからいいか。なにより、このゴブリンシリーズなんだけど、現時点では最強でも装備するのに抵抗あるな……」
「ああ……」
スライムシリーズは、見た目がダサイ、ヘルムメットがウンコ型など。
動画でもコメントで笑われ、ツッコまれていたけど、ゴブリンシリーズの見た目は……。
『ボロい』、『臭そう』、『こんなの着けていたら、犯罪者と間違われる』などなと。
性能はピカ一なのに、見た目がボロボロで汚く、スライムシリーズよりも人気がかなった。
「ルナマリア様、三階層のボスモンスターがわかるのはいつですか?」
「一ヶ月後くらいね。あの塔、中が見にくいのよ。向こうの世界にある時は私の管轄だったんだけど、誰も入れないから全然見てなくて知識ゼロ!」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
『それは、唯一神としてどうなんだろう?』って、俺たちは思ってしまった。
管理対象が多すぎるから、仕方がなかった面もあるのだけど。
「そもそも、リブランドの塔って誰が管理しているんです?」
「さあ? この世界って神様が多いから、誰だかわからないのよ。今度、神様の集まりがあった時に聞いてみるわ」
「神様の集まりなんてあるんだ」
「神無月に、出雲に集まるのでしょうか?」
「そう! それ! リョウちゃん、お土産買ってくるからね」
「ありがとうごさいます……」
さすがは綾乃。
日本古来の伝承に詳しかった。
そして本当に、十月には出雲に大勢の神様が集まるんだ。
神様から旅行のお土産を貰える俺って凄いような気がするけど、それよりもリブランドの塔を管理している神様が誰だなのか知りたいところだな。
「ぼっ、僕が、あの古谷良二よりも強くなれるんですか?」
「ああ、新たに世界で神となった俺が、お前を最強にしてやろう。だが古谷良二を殺さなければ、お前はその力を失う。どうだ? 古谷良二を殺せるか?」
「僕に人殺しなんて……」
「無理強いはしない。他に引き受ける人間など、いくらでもいるからな。俺は殺人鬼になれとは言っていない。この世界のバランスを崩す存在である古谷良二だけを排除してほしいと言っているのだ」
「古谷良二だけを……ですか?」
「そうだ。奴が冒険者として活動しているだけで、多くの人間が間接的にだが多数死んでいるのだ。ゆえに、古谷良二を殺すことは、神も認めた善行なんだが……。断られたら仕方がない……」
「やります! 古谷良二を殺します!」
「そうか! 頼むぞ!」
人間とは面白い。
頑なに同朋殺しを拒むかと思えば、ちょっと大義名分をチラつかせると、簡単に人殺しを容認する。
その大義名分が正しいという保証もないのに。
そしてこの男は一見、大人しく善良に見えるが、古谷良二に取って代われるかもと思えば、途端にゲスな本性を現す。
「古谷良二は世界一レベルが高いが、俺が手助けをすればすぐにそれを抜ける。その力を失いたくなかったら、確実に古谷良二を殺すんだ」
「わかりました」
古谷良二、よくも別世界の魔王であった俺を殺してくれたな。
運良くこの世界で塔を預かる神様に転生できたが、まだまだ力が足りない。
まずはお前を殺して、俺がお前に奪われた力を取り戻してやる!
神が人を殺していいのかって?
俺が直接殺すわけではないし、この世界は神の数が多すぎて管理がいい加減だ。
今は力を蓄え、かつてルナマリアを抑え込めた頃の力を取り戻し、この世界で世界征服を開始しようではないか。
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