第232話 悩む良二

『はははっ、どうやら古谷良二は怖じけずいたようだな。ならば、このレベル6934のハワード・ストーンが、二階層より上を攻略してやるぜ!』


『下手にナンバーワン冒険者になると、それを後生大事に守ろうとするからみっともないな。所詮、古谷良二もそういう男だったということだ。ならば、このレベル10000超え冒険者、三好吉次が二階層より上の階層の動画を撮影してこよう』


『リブランドの塔を完全制覇して、俺様が次の世界ナンバーワン冒険者になってやるぜ!』




「といった感じで、すでに貴重なレベル5000超えの冒険者が八名、リブランドの塔で銀色のスライムに殺されました。見た目に反して、あの銀色のスライムは恐ろしい強さですね」


「だから動画で忠告したのに……。大体、俺が苦戦している様子も動画で流れていたはずで……」


「彼らはやらせだと思ったみたいですよ。あなたが苦戦しているシーンがあると、意外性で視聴回数が増えると」


「そんなわけあるか」


「とにかく、レベル5000超えの冒険者の損失は痛いです。ですが、我々には彼らの挑戦を止める権限も力もなく……」


「それはそうでしょうね。この辺は本当に自己責任になってしまうんですよ」


 俺たちによる、リブランドの塔攻略動画であったが、これまで誰も入れなかった塔の内部の様子が判明したので視聴回数を稼ぐことができた。

 ところが、俺たちが一階層しか攻略していないことに批判的な意見が多いらしい。

 『冒険者なんだから、時には命を賭けて挑戦しろよ!』と。

 言うだけならいくらでも言えるだろうけど、実際に無謀な挑戦をして死ぬのは俺たち冒険者だ。

 冒険者でもない一般人の無責任な意見には従えない。

 俺が死ぬと子供たちのこともあるし、一階層のスライムにも苦戦したのに、二階層に挑戦するのは無謀でしかない。

 幸いにしてこのあと、同じ階層を何度もチャレンジできることが判明したので、俺は銀色のスライムを倒し続け、今では大幅にレベルが上がって一撃で倒せるようになったけど……このレベルの上がり方! やはり、〇〇ルスライム?……果たしてこのまま二階層のボスに挑戦していいものなのか疑問だ。

 もし二階層のモンスターがとてつもなく強かった場合、俺は死んでしまうのだから。

 無理に二階層のボスモンスターを倒さなければならない理由もないので、今は銀色のスライムを倒し続けてレベル上げていた。

 イザベラたちや剛では、銀色のスライムにすら挑戦できない状態だ。

 そんななか、何人かの高レベル冒険者たちが銀色のスライムに挑戦して、呆気なく殺されてしまったとニュースで報じられていた。

 彼らよりもはるかにレベルが高いイザベラたちでも無理だとわかるのに、彼らはどうしてそんな無謀なことをしたのか?

 それは彼らは動画配信者でもあり、俺が尻込みしたモンスターを自分が倒せば、冒険者としても動画配信者としても名を売れるはずだと思ったらしい。

 冷静に考えたら不可能なんだけど、承認欲求の高さが彼らを無謀な行動に駆り立ててしまったのだろう。


「レベル5000~レベル10000超えの優秀な高レベル冒険者たち八名も亡くなり、大打撃ですよ……」


 日本政府のお偉いさんは肩を落としていたけど、まさか無理やり止めるわけにもいかず。

 というかできず、これだけの高レベル冒険者を失ったダメージは少なくなかった。


「そもそも、レベル5000までレベルが上がる人は少ないですからね」


 同じ冒険者特性持ちでも、限界レベルには大きな差があった。

 大半がレベル500~1000で、限界レベルに達したらハーネスを使って一度だけ限界レベルを上げることができる。

 それでも、大半がレベル1000~2000だ。

 その前に限界レベルまでレベルを上げきれない冒険者も多く、というか大半だ。

 限界レベルが5000を超える人は、冒険者特性を持つ人の百人に一人。

 レベル10000を超える人は五百人に一人といえば、彼らの貴重さはわかってもらえると思う。

 俺にレベリングを頼む時点で、冒険者としてはトップエリートというわけだ。


 そんな高レベル冒険者たちが八人も死んだ。

 それも、俺が動画であれだけ忠告したのに、レベル不足で銀色のスライムに挑んでだ。

 レベルが上がれば知力も上がる……決して全員ではないけど、大半は賢くなるはずなのに、日本政府の人も色々と言いたいことがあるのだろう。

 彼らが稼いでいた魔石やモンスターの素材、資源をどうしようと。


「すみません、今度高レベル冒険者たちのレベリングを手伝っていただけまけんか?」


「やるしかないですね」


 高レベル冒険者が減ると、今の社会の維持が難しくなる。

 冒険者が世界を支えている以上、義務としてこういうこともやらなければならなかった。

 ただ彼らを高レベルにした結果、変な自信がついて、また無謀な挑戦をするかもしれないけど。


「そして、また俺は文句は言われるわけだ」


「『また、冒険者ばかりが美味しい思いをして!』ですか。気にしないことです」


 そういう批判をする人たちは、自分たちの生活を誰が支えているのか、理解できていない。

 つまりバカだからか。

 恩を売る気はないけど、根拠のない批判はやめてほしいと思う。

 それだけで、冒険者たちはかなり楽になるから。


「彼らは冒険者たちに文句を言いながら、ベーシックインカムは受け取っていますけどね。こんな人たちでも普通に暮らせる世の中って素晴らしいですけど、たまに処分したくなります。おっと、危ない。そういう考え方が世の中を窮屈にしますからね。頭の中で思うだけにしましょう」


「そうですね(危ねえなぁ……。この人)」


 この人も、人間が大幅に減った公務員の中で生き残っているから優秀な人なんだろうけど、公務員は常に叩かれるものだから大変そうだな。

 もし俺が冒険者特性を持っていなかったら、ベーシックインカムを貰って、毎日アニメ、漫画、ゲームの日々だろう。

 それはそれで楽しそうだけどね。






「銀色のスライムを倒し続けて千匹で、レベル二百万超えかぁ……。本当に○〇ルスライムみたいだ」


「リョウジさん、それ以上は色々と引っ掛かりませんか?」


「大丈夫なはずだよ」


「それよりも、まさかこんな方法でリブランドの塔でもレベリング可能だったなんてね。驚きの新事実だね」


「むむむっ……、俺にはできない方法だ」


「タケシも、リョウジ君と結婚する?」


「それは嫌だ」


「だよねぇ……」


 リブランドの塔では、一階層に一匹だけボスモンスターが登場して、最初にエリアの中央部に接近した人と一対一で戦う。

 他の冒険者たちは強制的に入り口近くまで飛ばされ、勝負が終わるまでドーム型の透明なバリアーに閉じ込められてしまう。

 そして冒険者が勝利すると、ボスモンスターの経験値はすべて倒したプレイヤーのものになるらしい。

 銀色のスライムの経験値はとてつもなく多く、最近ではなかなかレベルが上がらなかった俺でも一気にレベルが上がったけど、戦わなかった冒険者たちのレベルは一つも上がらなかった。

 つまり、一緒にリブランドの塔に挑んでも、自分がボスモンスターを倒さないと経験値が入らないのだ。

 これでは、俺以外の冒険者が銀色のスライムに挑むことができなくなってしまう……自力でレベル十五万くらいまで上げれば可能だけど、いったい何十年かかるのやら。

 そんな中で、唯一の例外がイザベラたちだった。

 なんとイザベラたちだけは例外で、レベリングが可能だったのだ。

 それがわかったので、俺が銀色のスライムを倒し続けている間、常に一緒にいてレベリングをしており、今ではレベルが百万を超えていた。


「こうなってくると、レベルじゃなくて戦闘力だな」


「最終形態で、レベル一億を目指すかな?」


「あと変身を三段階残してるんだな」


「残してないけどさ」


 とにかく、イザベラたちのレベリングが終わったので、今彼女たちは実際に銀色のスライムと戦ってレベルを上げていた。

 レベル二十万を超えていると、そんなに苦戦しないようだ。

 イザベラたちは順番に、銀色のスライムを倒していく。

 銀色のスライムの体液が溜まったから、研究を始めようかな。


「グローブナーが銀色のスライムを倒すと、良二とはレベリングできるんだな」


「みたいだな」


 俺は妻たち全員とレベリングできるけど、妻たちは俺としかレベリングできない。

 それにしても、結婚しているかしていないかでレベリング可能だとは……。


「これは隠さないとな」


「ですわね」


 もしこの事実が知れたら、俺はリブランドの塔を攻略する女性冒険者たち全員と結婚しろ、なんて言われかねないからだ。


「ボクたちだって、形式だけでいいからリブランドの塔に挑む男性冒険者と結婚してくれって言われたら嫌だもの」


「一兆歩譲って引き受けたにしても、レベリングが終わったあと素直に離婚に応じない場合、困ってしまいます」


「そんな理由で結婚したいなんて言う奴はロクデナシに決まってるわ」


「私は形式だけでも、リョウジさん以外の男性と結婚するなんて嫌です」


「私だって嫌よ。私はデナーリス王国の女王、そんな要求は絶対に拒絶するわ。もしかしたら他の条件でもレベリング可能かもしれないわ。そうでなきゃ、こんなクソムズイ塔なんて攻略できないわよ。ようやく入れるようになったと思ったら、クソ仕様なのね


 デナーリスは女王なのでクソクソ言うのはどうかと思うけど、確かにこの塔はクソだと思う。


「なにが怖いって、二階層のボスモンスターの種類や強さがわからないってことよ」


「銀色のスライムを簡単に倒せるようになったから大丈夫だろうと、勇んで二階層に上がってみたら、とんでもない強さのボスモンスターに瞬殺される危険がありますからね」


 ダーシャの懸念が一番強い。

 他のダンジョンのモンスターは、勝てないとわかった時点で逃走することも可能だ。

 だが、リブランドの塔でボスモンスターとの戦闘で負けるということは、ぼぼ死を意味するからなぁ。

 実際、銀色のスライムに挑んで死んだ高レベル冒険者たちは、死にそうになって逃げ出そうとしても、入り口付近にバリアーが張られているから不可能だった。

 そしてもう一つ、世間の人たちを驚愕させたのは、一緒に階層エリアに入ってしまった人たちだ。

 先にボスモンスターに挑んでいた仲間が死ぬと、バリアーに閉じ込められて戦闘に参加できなかった人が次に戦わされる。

 つまり、もしあの時俺が銀色のスライムに負けていたら、イザベラたちを含む二十名以上の高レベル冒険者たちが死んでいたのだ。


「やはり、安易に所見のダンジョンや塔を探するのは危険だな」


 俺はレベルが高かったから油断していたけど、やっぱり冒険者って危険な仕事だよなぁ。

 これがゲームならやり直しがきくけど、俺たちは死ねば終わりだ。

 特にリブランドの塔でボスモンスターと戦う場合、必ず一対一なので蘇生魔法も使いようがなかった。

 バリアーに閉じ込められた人は、戦っている仲間を助けられない。

 オート蘇生の魔法とアイテムもあるけど一回しか使えないし、一度蘇ったところで、圧倒的に強い銀色のスライムには勝てないから、二度殺されて終わりという。


「勢いよく二階層に上がるって選択肢は取りにくいわね」


「だよなぁ」


 今後、リブランドの塔をどうやって攻略していくか。

 もしくは、攻略しないという手もある。

 一階層の銀色のスライムの強さを考えると、家族がいる俺は躊躇してしまうのだ。


「とにかく、銀色のスライムを倒すのに必要なレベルだって、そう簡単には上がらないんだ。物理的に無理……やれるとしたら良二たちだけど、無理強いはできないだろうな。俺だって嫌だぜ」

 

 残念ながら、リブランドの塔攻略はしばらく進みそうにないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る