第231話 リブランドの塔探索

『ここがリブランドの塔です。早速入れるかどうか試してみましょう。おっと、ちゃんと入れましたね! やはりレベルが足りないと、この塔には入れなかったようです」


『私たちも入れますね』


『これから、レベルいくつ以上なら入れるのか。検証してみたいと思います」



 突如都内に出現したリブランドの塔。

 現場では多数の警察官たちが警戒、中に入ろうとする人たちを阻止しているが、これは塔が出現した直後、塔の中に入ろうとした人たちが多かったからだ。

 冒険者特性を持つ冒険者たちや、冒険者ではないが野次馬精神が豊富な人たち……塔の中の様子を撮影して、視聴回数を稼ごうとする動画配信者たちも多かったけど……が集まってきて、危険と判断されたのだろう。

 だが、リブランドの塔は彼らを受け入れなかった。

 人が入ろうとすると、入り口に透明なバリアーのようなものができて中に入るのを妨害してくるのだ。

 そのせいで誰も塔の中に入れず、じゃあ問題ないかというと、ファンタジー風の塔ができたのだ。

 観光がてら見にくる人たちが多く、周辺で観光公害を引き起こしており、その対策で警察官たちが警備しているという事情もあった。

 今の日本は海外からの観光客も多く、SNSでこの塔の写真をあげる人が多かったから、警察としても警備をしないわけにいさなかったわけだ。

 で、俺たちがリブランドの塔を調査しに来たわけだが、俺たちはすんなりと塔の中に入れた。

 ということは、このリブランドの塔はかなりレベルが高くないと中に入れないようだ。

 まずは、レベルいくつから入れるのか検証を始めよう。


「レベル四万超えのイザベラたちと、レベル三万超えの剛は入れた。ここから推測できることは、レベル五桁以上は塔に入れるかもしれないってことだ」


「じゃあ、私か入ってみますね」


「頼むよ、里奈」


 最近頑張っていて、レベル一万を超えた桃井理奈が塔の入り口を潜る。

 するとバリアーに引っ掛かることなく、無事に入れた。

 なお、彼女もリブランド塔探索に参加しているのは、他の高レベル冒険者たちもそうだが、日本政府の依頼で塔の調査を頼まれたからだ。


「私も一緒に塔の中を探索できますね」


「頼りにしているよ」


「はい!」


 レベルが一万を超えた冒険者は、世界で百人もいないからだ。

 でもその前に……。


「レベルいくつからこの塔の中に入れるのか? これを調べる必要がある。では、次!」


 というわけで俺たちは、まだ塔の外にいる冒険者たちに声をかけた。


「これから、1000刻みでレベルを下げた冒険者に塔の入り口を潜ってもらう。まずは、レベル90000から」


 そう都合良くレベル9000ピッタリの人を探すのは難しいので、細かい桁は違うけど。


「入れました!」


 ということは、レベル9000を超えた人は塔に入れるってことか。


「次!」


「はい」


 次は、レベル8000だ。

 1000刻みで、次々と塔の入り口を潜るレベルを下げていく。


「次! レベル7000! 」


「入れました!」


「次! レベル6000!」


「入れました!」


「次! レベル5000!」


「入れました!」


「次! レベル4000!」


「入れません!」


「レベル4000超えの冒険者は、リブランドの塔のバリアーに阻まれてしまった。ということは、レベル5000未満は、塔に入れない可能性が高いな」


「リブランドの塔は、レベル5000以上ないと中に入れないとみていいだろう。そのうち、レベル4999の人とレベル50000ピッタリの人で試してみればわかるはず……そんな人、なかなかいないし、協力してくれるか不明だけど」


「さて、このリブランドの塔ですが、レベル5000を超えていないと入れないようです」


 この様子は動画で公開する予定なので、今日もドローン型ゴーレムが撮影していた。

 レベル5000以上ないと入れなかったとなると、俺が向こうの世界でこの塔に入れなくて当然か。

 RPGの裏ダンジョンを超える、『とんでもダンジョン』といった感じだ。


「みんな、油断しないでくれ」


 今日は総勢二十名を超えるが、俺も初めてのダンジョンなうえ、レベル5000未満はお呼びじゃないダンジョンだ。

 とてつもなく強力なモンスターが出たり、悪辣な罠があるかもしれない。

 直径50メートルほどのリブランドの塔入り口を潜ると、その中には円形の空間が広がっていた。


「あれ? 迷路はないのか。上の階へとあがれる階段は?」


 剛が目を凝らして確認するが、階段はなかった。

 なんなら、モンスターの姿もない。

 ただなにもない、円形の区間が広がるのみなのだ。


「おかしいな?」


 一番強い俺が先頭になって前に出る。

 円形の空間をもっと詳しく調べようと中心部へと移動すると、突然まばゆい光と共になにかが出現した。


「罠か? いやモンスターだ!  スライムか?」


 突如光の中から出現したモンスターを確認すると、銀色のスライムに見える。

 こんな色のスライムは初めてだ。


「リョウジさん!」


「イザベラ、どうした?」


 そしてイザベラの声がしたので振り返ると、真後ろにいたはずの冒険者たち全員が、一瞬で入り口付近まで移動していた。

 さらに……。


「良二! 大丈夫か? クソッ!  俺たちも閉じ込めらてるじゃないか!」


 入り口付近にいた冒険者たちは透明なバリアーに閉じ込められ、俺と合流できない状態に陥っていた。

 塔の外に出ることもできないようで、つまり俺とこのスライムが戦って決着をつけなければ、剛たちはバリアーの中から出られないってことか。


「どうやら、一対一で戦わないと駄目みたいだな」


 だからイザベラたちは、入り口付近で透明なドーム状のバリアーに閉じ込められてしまった。


「リョウジ君!」


「良二様!」


「リョウジ!」


「リョウジさん!」


「リョウジ!」


 妻たちが心配のあまり声をあげるが、塔のバリアーは彼女たちの力を持ってしても破壊できなかった。


「段々と掴めてきたぞ!」


 リブランドの塔はレベル5000以上ないと入れず、中に入ってもなにもなく、先着一名がエリアの中心に近づくと、一匹だけモンスターが出現する。

 他の人たちは一対一の戦いを妨害することがないよう、入り口付近に飛ばされ、閉じ込められてしまう。


「そして両者の決着がつかなければバリアーは解除されないだろう。どちらかが勝つまで」


「つまり、良二が負けてもってことか?」


「剛、もしそうなったら、イザベラたちを連れて逃げろよ」


 そう言うや否や、俺は銀色のスライムに斬りかかった。

 ところが……。


「硬い!」


 このところ一撃で倒せるモンスターばかりだったのに、銀色のスライムはとても硬く、致命傷を与えられなかった。

 それどころか、倒しきれなかったスライムの反撃を食らってしまう。


「がはっ!」


 その強烈な体当たりを食らい、俺はかつてない大ダメージを食らった。


「(レベル十五万超えでも、一階層のスライムに苦戦するのか……)」


 一階層に一匹しか出現せず、銀色なのでボスモンスターなのだろうが、それにしても強すぎだろう。


「(俺じゃなきゃ、一撃で即死だったな)」


 俺が先頭でよかった。


「どのみち倒さなければ、俺はここで終わりだ!」


 俺は、銀色のスライムに対し攻撃を続ける。

 一撃入れると反撃がきて膨大なダメージが蓄積されていくが、その度に治癒魔法で治しながら攻撃を続けた。

 結局、俺が十五回攻撃したところでスライムは死に、その直後、エリアの真ん中に階段が出現した。


「宝箱も出た!」


 倒されたスライムの横にも宝箱が出現して、これで一階層はクリアということか。


「ふう……。これはつらい」


 久々に、HPが半分以下になった感覚を覚えた。

 まるで、俺が異世界のダンジョンで初めてスライムと戦った時のような感覚だ。

 すぐに銀色のスライムの粘液を回収し、宝箱箱を開けると中には銀色のナイフが入っていた。

 早速『鑑定』で探ってみると……。


「なになに……。『スライムナイフ』か……。性能は……ええっーーー!」


「リョウジさん、なにをそんなに驚かれているのです?」


 バリアーが解除されたので駆け寄ってきたイザベラに、俺が驚いた理由を訪ねかれた。


「このスライムナイフ、ゴッドスレイヤーよりも攻撃力が高いから」


「……この小さなナイフがですか?」


 イザベラは、スライムナイフを驚きの表情で見つめていた。


「向こうの世界で、魔王を倒した良二様でも入れなかった塔にいるモンスターが落とした武器です。ゴッドスレイヤーより高性能でもおかしくないと思います」


「そう言われてみるとそうかな」


 世の中、上には上がいるってことか。 

 この塔のモンスターたちからすれば、魔王なんて雑魚に等しいと。


「リョウジさんが銀色のスライムを倒したら、二階層に続く階段らしきものが出ましましたが、上に行きますか?」


「ブルストーン、それは無理だろう」


「そうですね。リョウジさんが一階層ボスモンスターでここまで苦戦したのです。なんも準備もなく二階層に上がれば、死あるのみでしょう。なにより、今の私たちでは銀色のスライムにも瞬殺されてしまいますから」


「リョウジ、銀色のスライムの体液の分析もあるから、今日はこれで撤退しましょう」


「そうだな。というわけで、一階層のスライムでもこの強さです。これは想定外で、俺も死んでかもしれない。対策を立てるまで、このダンジョンは危険なので入らないようにしましょう。レベル5000あれは入れますけど、ほぼ確実に銀色のスライムの体当たり一回で死にます」


 俺はデナーリスの忠告を受け入れ、こうして俺たちによる第一回目のリブランドの塔探索は、一階層クリアのみで終了したのであった。





「この銀色のスライムの体液、液体金属らしいな。そしてスライムナイフには、この体液が使われている」


「へえ、じゃあこの銀色のスライムの体液で『スライムナイフ』や他の武器や防具が作れるんだね」


「成分の解析やら、製造方法の模索で時間はかかるけど」


 自宅に戻った俺は、急ぎ併設された工房で銀色のスライムの体液を解析してみた。

 高性能な液体金属で、スライムナイフの材料にもなることはわかったけど、加工方法はこれから研究する必要があるだろう。


「でもさあ、リョウジ君。この銀色のスライムって……」


「ホンファ、それ以上はいけない!」


 俺も、某有名RPGのあのスライムに似てるなって思ったけど……。

 もしかして、リブランドの塔が、この世界の情報を参考に……それはないか。

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