第230話 不動産投資とリブランドの塔
「暴走した加山都知事に破壊された東京の街やビル群ですけど、見事に復活。それどころか、再開発でさらなる賑わいを見せるようになりましたね」
「ええ、多数のゴーレムたちを動かして建設させているので、早く、安く、それでいて安全に頑丈に完成するんですよ。建設資材もトレント王国から安く手に入りましたから」
「その代わり、この再開発地区の持ち主は古谷企画とイワキ工業ですけどね」
「加山都政時代に東京の地価が大分下がっていて、底値で買い集めていたみたいです。機を見るに敏ですな」
「しかしその頃は、加山都政が終わるかどうかわからなかったじゃないですか。よく大金を出しましたね」
「古谷企画もイワキ工業も金を持っていますし、結局暴走した加山都知事を止めたのは古谷良二です。これを出来レースだと怒る人もいますけど、彼がいなければ加山都知事に日本全土が破壊されていたかもしれず。どうしようもありませんな」
「確かに。しかしこの辺の土地と、ダンジョン技術を使った最新の高層ビル、タワーマンション、インフラ設備の価値はとんでもない金額でしょうね」
「日本どころか、世界の美味しい不動産のかなりの持ち主が、冒険者資本の所有になっていますよ」
「世界の権力者が入れ替わったんですね」
ダンジョン大国にして、上野公園ダンジョン特区を抱え込む東京の地価は、加山都知事騒動、獅童政権時の大幅下落を乗り越え、今では世界一となっていた。
それは、固定資産税を得る東京都や日本政府としてはいいことなのかもしれないが、地価の急激な高騰により都内の築四十年のワンルームマンションの家賃が一ヵ月五十万円に急騰するなどの弊害も生み出していた。
ダンジョンを抱える他の国の都市部でも似たような状態らしいが……。
田中総理は高騰する地価への対策をすると言っているが、そもそも地価は需要と供給で決まる。
世界中の富裕層が東京の不動産を欲し、実際に購入している現在、地価を下げるのは難しいと思う。
特に東京の地価は、加山都知事と獅童総理のせいで一時急落したので、余計に高騰したと感じてしまうのだ。
生粋の都民でも固定資産税の負担に耐えられず、先祖代々の土地を売って神奈川、千葉、埼玉などに引っ越す人が増えたくらい、東京の地価の高騰は激しかった。
東京以外の首都圏の地価も高騰しており、他にも冒険者特区の周辺の地価の高騰が著しい。
ダンジョンは富を生み出すので冒険者特区の地価も急騰し続けているが、冒険者特区の土地は冒険者以外が購入するのはとても難しい。
なので、その周辺の地価が上がっているというのが専門家の意見だった。
加山都知事都政時、獅童政権時の大幅下落を狙って世界中の冒険者資本が日本全国の土地を買い占め、再開発し、今我が世の春を迎えていた。
下落時に、我慢しきれず土地を手放してしまった所有者たちも悪いのだけど、世論は旧来の大企業と共に冒険者を批判することが多かった。
「田中総理は、冒険者やトレント王国人の土地の所有を制限するとは言わないか」
「言えるわけがない。もしそれをしたら、日本に土地を持つ外国人も、土地の所有を制限しないといけないからな。国防上、問題がある土地以外は無理だな」
冒険者たちは賢いので、そんな土地を手に入れて世間に批判されるような愚は犯さないだろう。
そもそも、自衛隊の基地がある土地なんて大した金額ではない。
運用しても利益など出ないのだ。
「日本政府は税収が上がったので、懸案事項になっていた離島などを国で買い上げ、ゴーレムで管理できるようになったから、悪い話じゃないけど」
そもそも誰が土地を持っていようと、税金は払わないといけない。
それに多くの土地が、トレント王国籍も持つ日本人冒険者たちで、その中でも古谷企画とイワキ工業が一番多くの土地を持っていた。
彼らは高い固定資産税を支払ってくれるので、獅童総理のせいで日本人冒険者が支払う税収が減った日本政府としてはありがたい存在なのだから。
「買った土地に建てた高層ビルやタワーマンションを貸して、悠々自適の家賃生活か。羨ましいな」
「建築資材も最先端で、建てた高層ビルやタワーマンションかなり長持ちすると聞くしな」
経年劣化や災害にも強く、耐用年数が百年を超えるそうで、さらに定期補修もゴーレムにやらせると大幅に修繕費も減らせるらしい。
「おかげで日本は好景気らしいが、失業率が下がらないのは問題だな」
「だが、国民に支給するベーシックインカムは上がると聞くぞ」
「還元はしているのね……」
その上がったベーシックインカムは、すでに貯蓄は無意味だと気がついた多くの国民が使い切り、また世間に流れてもっと資本家や冒険者たちを儲けさせるのだけど、税収も上がるので特に問題視されていない。
これが悪いことなのか、私にはわからなくなってきた。
犯罪や貧困が減ったので、悪いことではないんだよな。
その代わり、自分はなんのために生まれてきたのか悩む無職の人たちが増え、人間の幸せはお金や物質だけではないのだなと、あらためて思うのであった。
「〇〇区の再開発も順調だな。というか、俺が現地に視察に来る理由は?」
「一応形だけは、ってやつなのだ」
「それもそうか。最新型のコンクリートや特殊金属の鉄骨、鉄筋、その他建設資材はよく売れるな」
「頑丈で安いから、売れて当然なのだ」
「その代わり、多くの建設資材を作る会社が潰れたけど」
地価が下落していた時に購入した土地で再開発を進め、その様子をプロト1と視察する俺。
勿論動画も撮影している。
土地の整地や建物の建設、建築資材の運搬は既存の企業に任せていたけど、ダンジョン技術を利用した新型の建築資材は、アナザーテラの無人工場で作らせたものだ。
頑丈で長持ちするし、日本は地震大国なので備えあれば憂いなしであろう。
「新型の建築資材を使う建設会社が増えたな」
「これで建物を作れば百年以上大丈夫で、ちゃんと定期修繕すれば、二百年綺麗に使えるから売れて当然なのだ」
そのため、アナザーテラの建築資材用の無人工場は24時間、365日、フルで稼働していた。
好景気のおかげで、日本政府はインフラなどの修繕、耐震強化工事を早めており、それは世界各国も同じで需要が増えていた。
建築作業をするレンタル用ゴーレムも、かなりの数、追加生産している。
「今後は、新型建築資材で作った建物やインフラの定期修繕が、建築会社の主な仕事になるのだ」
「それでいいのかな?」
「短い期間で建て直すとエコじゃないのだ。そういう風に宣伝しているのだ」
一度作って定期修繕すれば、二百年使えます。
エコです!
と、俺が動画で宣伝したから知っているさ。
「ゴーレムもうちとイワキ工業が貸しているし、日本の建設会社が建設技術を失わないといいけど……」
「技術開発と継承はちゃんと続けているのだ。昔のSFであったような結末にはならないのだ」
なんでもAIとロボットに任せていたら人間がすべての技術を失ってしまい、緊急事態でAIとロボットからダータが消失したら、人間はなにもできなくて滅んでしまった。
そんなSF作品があったような気がしたけど、それはないと断言するプロト1。
「そのために、多くの企業では少数精鋭ながら人を雇っているのだ」
たとえば建設会社だと、人間だけで建設工事をするグループを雇っているそうだ。
彼らは軍隊でいうところの、教育連隊のような存在だ。
「新しい建設技術を試し、ゴーレムたちが作業できるように習得して、データ化する。当然スペシャリストな人ばかりなのだ」
ようするに、いまだに建設会社に作業員や監督現場として雇われているような
人たちは、スペシャルな頭脳と技術の持ち主というわけだ。
誰にでもできる仕事は人件費削減のため、すべてゴーレムにやらせる時代なのだから。
「今後、ますます人間の仕事が減るんだな」
「優秀な人は大丈夫なのだ」
世の中には、そんなに優秀な人がいない……と口にするのもどうかと思ったので、黙り込んでしまう俺。
実際、少数の人間と多数のゴーレムで建設した方が早く作れて、安いし、頑丈で綺麗だから仕方がないんだけど。
「しかし、あのタワーマンションは何階なんだ?」
「百二十階あるのだ。これまで、日本で一番高かったタワーマンションの倍なのだ」
「高っ! 大丈夫なのか?」
もし倒れでもしたら大惨事だと思うけど……。
「ダンジョン技術と合わせた最先端の建築技術と、建設資材で建てられているから大丈夫なのだ」
「ならいいけど……」
「で、売れるものなの?」
「売らないのだ。全部賃貸でだけど、もう全部屋埋まっているのだ」
「そうなんだ……」
ダンジョン出現以前から、タワーマンションは人気があったからなぁ。
需要があるんだろう。
「ちなみに、最上階の家賃は6LDKで一億円なのだ」
「誰が借りているんだ?」
「社長の同業者なのだ」
「まあ、冒険者なら出せるよな」
なにより冒険者は、もしタワーマンションが崩壊しても死ににくい。
案外、タワーマンションに住むのに向いているのかもしれないな。
「ちなみに社長は、タワーマンションに興味ないのか?」
「別にないけど」
多くのタワーマンションを所有していても、住むことには興味がない俺。
プロト1が不動産投資をするって言うから、ただ許可を出しているだけだしね。
「奥さんたちが欲しがるかもしれないのだ」
「どうなんだろう?」
セレブといえばタワーマンション……というのは、庶民の考えなのかも。
視察を終えた俺が屋敷に戻ると、イザベラたちに聞いてみることにした。
「タワーマンションですか? 私は投資用に所持していますが、自分で住もうとは思いません」
「ボクもかな。家は二~三階くらいまでがよくない?」
「そうですね。高いところでの生活に慣れていませんから」
「私、高い階層のマンションに住んだことあるけど、エレベーターが混んで嫌!」
「そうですね。私も勧められてタワーマンションを持っていますけど、自分では住もうと思いません。足元が落ち着かないじゃないですか」
イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダ、ダーシャの全員が、タワーマンションは住むところではなく投資用だと割り切っていた。
需要はあるから、世界中で増え続けているのだろうけど。
「でもさぁ、地球の人たちって不思議ね。よく『リブランドの塔』みたいなところに住みたいって思うわよね」
「デナーリスさん、リブランドの塔って?」
「向こうの世界で、たった一つだけ塔型のダンジョンがあるのよ。でも、封印されていてねぇ。リョウジでも入れなかったわ」
あの塔型ダンジョンは、不思議な代物だったな。
誰も入れないし、魔王が破壊しようとしても傷一つつかないで。
中には入れないけど、モンスターの気配、それも強いモンスターが蠢ているのは感じることができた。
「他のダンジョンみたいに地球に移転してこなかったし、向こうの世界と一緒に滅んだのかも」
「そうかもしれない」
イザベラたちも、タワーマンションを経営はするけど、自分で住む気はないのか。
上の階層から下々を見下ろすなんて趣味もないし……。
あっ、でも。
タワーマンションって、人気があるのは確かななんだよなぁ。
だって実際、新型タワーマンションを建設し、経営している古谷企画とイワキ工業の不動産部門は儲かっているから。
「なんじゃこりゃぁーーー!」
「あれ? 昨日までなにもなかった場所に、どうしてファンタジー風世界の塔が立っているんだ?」
「しかも、なんだこの塔は? はるか上空まで伸びていて、最上階が見えねぇ……」
「これはダンジョンなのか?」
加山都知事が破壊した高層ビルの解体が終わって、ようやく新しい高層ビルを建てようとしたのに、朝になったら変な塔が立っていた。
しかもこれ、造りがバベルの塔みたいで、もしかしたらダンジョンなのではないかと。
いくら古谷企画とイワキ工業が最先端の建設技術を持っているとはいえ、一晩でこんな塔をわけがない。
「警察と自衛隊を呼ぶか……」
まさか、塔型のダンジョンが出現するとはな。
古谷良二なら知っているのかな?
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