第226話 アナザーテラレポート

『トレント王国改め、デナーリス王国の首都トレントランドは、現在大規模に開発中です』



 デナーリス王国の王都で、大規模な開発が進んでいる様子を撮影し、動画を流した。

 こういう動画も視聴回数を稼げるのでドローン型ゴーレムに撮影させ、ゴーレムが編集して動画を更新している。

 これまでアナザーテラに入れたマスコミはゼロなので、世界中の人たちが興味を持っており、それが高視聴回数に繋がっているのだと思う。

 デナーリス王国も大分落ちついてきた。

 現在も首都の開発が続いているけど、デナーリス王国に在住している人は一万人ほどでしかない。

 今は人が利用する予定の土地だけ整地、災害に備えて強化しているだけであった。

 そのうち冒険者人口が増え、宅地や商業地として売られていくのだろうが、早速世界中から『土地を買いたい』、『家を建てて住みたい』という問い合わせが殺到していた。

 大半が金持ち……セレブと呼ばれている人たちからだそうだが、残念ながら冒険者特性を持たない人に土地は売らなかった。

 元々入国できないのだから仕方がない。

 デナーリス王国は冒険者の国で、お金で上流階級の人たちを受け入れない。

 だからこそ、表面上は世界各国も文句を言ってこないのだから。

 ただ領地を寄こせとか、余った国民を移民させろって言ってくる国はゼロじゃないけど。


「土地で投機をされてもな。で、このトレントランドの土地っていくらするんだ?」


「今は、中心部で平均坪五億。端でも平均坪一億だな」


「高っ!」


 資産家になっても根は庶民のままである剛は、デナーリス王国の地価に驚きを隠せないようだ。

 ただし剛は、極めて初期の段階で屋敷を建てているし、その価格はとんでもないことになっていたけど。

 剛は初期にアナザーテラに到着しているので、土地がデナーリスから無料で貰っており、地価の高騰を知らなかったから驚いているのだと思う。

 ただアナザーテラはあまりに広大で、地価すらついてないところも多く、地価の差は恐ろしく偏っていた。


「なにもない無人の土地に、いきなりとんでもない価値がつく。とんでもない話だ」


「その価値がつくようになるには、色々と苦労があったんだけど……」


 アナザーテラが発見され、そこに辿りつくまでに、俺たちは相応の苦労をしているのだから。

 富士に樹海ダンジョン二千階層を最初に突破していたら、土地は無料で貰えたって話すと、大半が諦めの表情を浮かべた。

 稀に『お前たちが恵まれているのだから、俺たちにも土地を寄こせ』って騒ぐ某毛者特性を持たない人も多いけど。


「しかし、冒険者特性がない人を弾き続けると、人口が増えにくくないか?」


「別に、無理に増やす必要ないだろう」


 俺は剛に、無理に人口を増やす必要はないと言い切った。 

 現にデナーリス王国は、人口一万人でもちゃんと回っているのだから。


「むしろ下手に人口が多いと、食わせるのが大変だろう」


 急激に人口が増えると、どうやって食べさせるかが問題になる。

 しかも今は、半分以上の人が無職なのだから。

 そしてなにより、AI、ロボット、ゴーレムを合わせば、デナーリス王国の人口は百万人を超えている。

 そのおかえげで経済発展しているのだから、無理に人を移民させる必要がなかった。


「ゴーレムとAIも人口に加えるのか?」


「加える!」


 ゴーレムたちだって、デナーリス王国の経済に貢献しているのだから。

 人口が少なすぎるってのもあるけど。


「これに加えて、首都、副都、各地で土地の管理を任されている貴族たちも町や施設を作っている。剛も知っていると思うが、建設って国のGDPを大幅に伸ばすから」


「でもさぁ、そのせいでゴ-ストタウンなんて作られた日にはよぉ」


「そんなことはしないよ」


 わざわざそんなことをしなくても、デナーリス王国の経済は順調に成長しているのだから。

 とにかく最初はなにもなかったから、デナーリス王国の建設需要はすさまじい。

 その代わり、大半の建設作業は、なんなら建設資材なども生産も、すべてゴーレムたちにやらせており、人間は現場監督くらいだ。

 スキルで土木系のものを持っている人は、高額の報酬でデナーリス王国内の建設作業に従事していた。

 大半がゴーレムなので、デナーリス王国で建設業に従事している人間は極小だけど。


「地球の国々は、デナーリス王国で開発特需が起こっていることにすら気がつかなかったしな」


「仕事を頼んでいないし、デナーリス王国では建設資材や重機も自前だから」


 地球から建設資材を運ぶのが面倒……という名目で、デナーリス王国の内需を拡大させているからだ。

 材料はアナザーテラのあちこちにあるし、加工もゴーレムに任せていた。


「近代的なビルはないな。いかにも、西洋ファンタジー風な建物ばかりだ」


「特色が必要だからさ」


 そんな事情で作られた西洋ファンタジー風の建物だけど、俺が提供した最新の魔導工学を駆使しているので、耐震性も居住性もバッチリだった。

 勿論環境にも配慮してるし、土地は余ってるから、ハザードマップで危ないと指摘されている場所に家なんて建てずに済む。


「冒険者はみんな金持ってるから、別荘を南の島に建てるのが流行してるしな」


「夢の別荘イコールハワイって感じか。俺も剛もハワイに別荘を持っているけど」


 アナザーテラのハワイに相当する島に、数百棟の豪華な別荘が点在しており、さらにそれ以上の数が建設中であった。

 多数のゴーレムたちが建設作業に従事しているので、その建築速度はとても速かった。

 人間と違って、ゴーレムは簡単なメンテナンスの時間以外はずっと働けるからだ。


「現場監督ができる人間以外は、建設業に人手がいらなくなってしまう」


「そしてまた、冒険者が悪く言われるんだろうな」


 他にも、農業、介護、運送などなど。

 多くの仕事がゴーレムに切り替えられ、失業率が大幅に上がっていた。

 その元凶である冒険者は嫌われても仕方がないというか、だから冒険者特区とデナーリス王国は必要なのだけど。

 すでに冒険者特性を持っている人で、デナーリス王国と冒険者特区内以外に住んでいる人はほとんどいなかった。

 なぜなら、本人やその家族が犯罪の標的にされる事案が増えていたからだ。


 職の恨みは恐ろしい。


「ゆえに、デナーリス王国に安易に人を入れても意味がないんだ」


 単純労働は手が足りているので、他国から受け入れても意味がないし、もし無秩序に移民を入れて仕事がないのを恨み、冒険者に危害を加えられると困るからだ。

 

「すげえ話だ」


 剛とそんな話をした翌日、またも二人でアナザーテラの動画撮影を始めた。




『ここが、地球では関東平野に類する場所ですね。地球の関東平野は埋め立てをしているので、大分様子が違いますけど』


『湿地が多いんだな』




 アナザーテラの様子を撮影して、動画で配信する。

 剛と二人で、魔力駆動の新型竜機甲……竜に模した飛行機械だ……に搭乗して上空から撮影していた。

 アナザーテラは地球とそっくりだけど、人の手が入ってないので違う場所もある。

 デナーリス王国が関東に王都を置かなかったのは、アナザーテラの海寄りの関東平野には湿地が多かったからだ。

 河川改修もされておらず、水害も多い。

 環境面への配慮もあり、無理に埋め立てるのもどうかと思い、デナーリス王国の王都は富士の樹海ダンジョンの近くになった。

 富士山の噴火というリスクはあるけど、俺は『予言』スキルを持っているし、他の『予言』スキル持ちのレベリングもしている。

 万が一に備えて、副都も複数建設中なので大丈夫だろう。


『デナーリス王国は、極力環境に配慮しながら開発を進めています』


 念のために言っておく。

 最近では、そういうことを気にする人が増えていたからだ。

 同時に環境的な理由でも、地球から冒険者特性持ち以外の移民は認めないという意味でもあった。

 最近、アメリカでノーベル経済学賞を受賞した経済学者が、デナーリス王国の経済動向というレポートを発表した。

 それによると、推定GDPは世界十位、国民一人あたりのGDPではぶっちぎりの世界一位だそうで、デナーリスのサポートをしている高性能ゴーレムも、そのレポートにはほぼ間違いがないと認めていた。

 そんなお金持ちの国なら自分も住んでみたい、と騒ぐ人たちが増えており、その対策のための動画というわけだ。


『貴重な自然は極力弄らないですし、デナーリス王国での移動は、魔力を使ったものだけとなります』


『竜機甲は速いけど、冒険者特性があってレベルが上がる人じゃないと乗るのが辛いから、この国に住むのは大変かもな』


『なにより、冒険者特性がない人には仕事がないんです。安易な移民はお勧めしません』


 アナザーテラにもあった華厳の滝を背景に、俺と剛が語る。


『さらに言うと、デナーリス王国には社会保障がないからなぁ……』


 正確にはあるけど、それは働いている冒険者とその家族のためのものだ。

 デナーリス王国では、ほぼすべての冒険者特性持ちがダンジョンに潜って働いているので、冒険者特性がない住民はその家族しかおらず、人数も少なかった。

 いきなり冒険者特性がない無職が、デナーリス王国に移住しようと思っても無理なのだ。


『デナーリス王国には、ベーシックインカムもないしね』


『そのまま自分の国で暮らした方がいいと思うな』


 その後も、アナザーテラの景色を背景に説明をする俺と剛。

 その動画はバズり、多くの人たちがデナーリス王国について知るいい機会となったのであった。




『おっと! これは本マグロだ!』


『良二、慎重にリールを巻け!』


『任せろって!』


 アナザーテラの自然紹介の他に、竜機甲で海面スレスレを走らせながらルアーをトローリング。

 本マグロを食いつかせて釣る動画も撮影し、これもかなりの視聴回数を増やすことができた。

 ドローン型ゴーレムが撮影した、本マグロがルアーに食いつくシーン、かかった本マグロとの死闘は迫力満点で、やっぱり釣り動画は鉄板だよなと思う俺と剛だった。


『釣った本マグロは適切な下処理ののち、ゼロ度で三日間寝かせました。これを解体する! このミスリル製大包丁で!』


『ミスリル製の大包丁、すげえよく斬れるぜ。油断すると骨もスパっていくな』


『マナ板も切れちゃうから、市販するのが難しいんだよ。よく斬れるけど』


 本マグロは無事、俺の『料理人』スキルのおかげもあって綺麗に解体され、その日は本マグロ三昧だった。

 今度はクジラを釣ってみようかな。

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