第220話 カリスマ師

『ケンジ様ぁーーー! 愛してるわぁーーー!』


『みんな、応援ありかとう! 今日は楽しいかい?』


『『『『『楽しい!』』』』』


『まだまだ僕のコンサートは終わらないから、最後まで楽しんでいってね。一年ぶりのコンサートだから、僕も楽しいよ』


『ケンジぃーーー!』


『最高!』


「うわぁ、人気あるんだねぇ」


 今日は久しぶりに他人の動画を見て、次の企画を練っていた。

 普段はプロト1の分析に任せるけど、たまには自分で考えてみようと思ってのことだ。

 そして片っ端から人気のある動画配信者を……冒険者が多いけど、その中になぜか冒険者で動画配信者なのに、コンサートをやってる人がいた。

 有名なホールを借りており、客席は見事に満席なんだけど、俺はどうして彼に人気があるのかわからなかった。

 そこまでイケメンでもないし、歌も決して上手ではなかったからだ。

 だけど観客は彼のコンサートに夢中で、とにかく不思議なのだ。


「リョウジさん、それはそうでしょう。だって彼は、『カリスマ師』のスキル持ちですから」


「それは知らなんだ」


 冒険者のレベルやスキルは、俺の『人物鑑定』があれば一発でわかるのだが、唯一の弱点は映像を人物鑑定してもレベルやスキルがわからないことだ。

 当たり前と言われればそれまでだけど。 


「最近、新しい冒険者の情報をちゃんと頭に入れてなかったな。しかし、下手な歌なのに人気だな。さすがは、『カリスマ師』。このまま冒険者をしながら、アイドルモドキをやっていれば害もないかな」


「リョウジさん、それはどういう?」


「『カリスマ師』は向こうの世界にもいたけど、かなりの割合で悲惨な結末を迎えるのさ。魅力という、戦闘力とはかけ離れた能力に全振りのスキルだし、『カリスマ師』は目立つから、変な連中に目をつけられやすい」


 主にそのスキルを利用しようとする悪党たちに踊らされ、自滅するパターンが大半だった。

 

「なんとなく、わかる気がします」


 『カリスマ師』スキルは、レベルを上げれば上げるほど人気者になるので人が寄ってくるけど、その質は選べない。

 元々魅力というステータスがどういう成果を出せるのかは、集まった人たち次第なのだ。

 その点が、他の冒険者特性持ちと大きく違う点だろう。

 その代わりこうやって、さほど歌が上手くなくても、コンサートを開けば多くの客が詰めかけるわけだ。

 だが人気がありすぎるのも考えもので、その分自分に害がある人たちも寄ってきやすい。

 とはいえ俺にできることなどなく、彼が破滅しないことを祈るのみであった。


「その魅力に寄って来る人次第なんだね。もの凄く運次第じゃない?」


「そうなるかな」


 たとえば、とある殺人鬼が『カリスマ師』に魅かれ、彼のためだと思って殺人を重ねるとか。

 その殺人鬼からすれば、自分が慕う『カリスマ師』のため、害となる人を殺していただけなのに、なんてことが起こるから怖いのだ。


「うへぇ、それは怖いね」


「だから、俺くらいコミュ障で友達少ない奴の方が安全なんだよ」


 ちょっと言ってて空しくなったけど。


「リョウジ君の交友関係が、特別狭いとは思わないけどね。変な人を事前に排除しているだけじゃん。ボクたちって家柄の関係で知人やその類は多いけど、やっぱり変な人たちが寄って来やすいから、つき合う人の見極めには苦労しているよ」


「セレブって大変なんだな」


「今はリョウジ君の方がセレブなんだけどなぁ……。動画の『カリスマ師』の人、スキルのせいで交友関係の整理ができないから、確かに大変かもね」


 だから俺は、『カリスマ師』のスキルを持ってなくてよかったと思っていた。

 そもそもそんなに大勢の人に好かれても、相手をするだけで疲れてしまうだろう。

 だから彼は、今くらいが丁度いいのかもしれない。

 それ以上になろうとすると、俺が向こうの世界で幾度も見てきた、カリスマだけの冒険者の末路が再現されるだろうから。


 




「相良健児さん、我々はあなたこそが、次の古谷良二だと思っているです」


「相良さんは、古谷良二と違って人気者ですしね。多くの人を魅きつけるカリスマがありますから」


「古谷良二なんてもうダメダメですよ。あいつは人でなしですから」


「田中総理は古谷良二と懇意にしていますけど、あのジジイと同じくオワコンですしね」


「さあ、一杯どうぞ」


「今日は綺麗どころも揃えましたから」


「本物の相良さんだ」


「お酌しますね」


「相良さん、今度どこかにデートに連れて行ってくださいね」


「相良さんはモテモテですね」


 僕のスキルは『カリスマ師』であり、これはとてもレアなスキルだった。

 レベルを挙上げても戦闘力はあまり上がらないが、とにかく人気者になれる。

 だから簡単に、無料で、高レベル冒険者とレベリングをしてもらえて、僕は強くなった。

 いくら戦闘力の上がりが微妙なスキルでも、レベルが5000を超えれば、僕に勝てる冒険者など少ない。

 なにより、いくら強い冒険者でも僕を嫌うわけがないので、敵対することもなかったし、なんなら好かれて利益になることの方が多かった。

 だから僕の装備は、考えられる限りで一番優れているものだ。

 手に入れた高レベル冒険者たちが、僕に無料で譲ってくれたのだ。

 そんな『カリスマ師』である僕はある意味最強であり、そんな僕に媚びる権力者たちがいても不思議ではない。

 そんな僕のスキルが、あの古谷良二に通用するか不明だが、僕のカリスマは多少のレベル差なら問題なく発動するはず。


「(僕はまだトレント王国……今はデナーリス王国か……に辿り着いたことはないが、一度入ってしまえば、カリスマで支配することも可能なはずだ)」


 そして、それに気がついた日本のみならず、世界中の政治家、官僚、財界人、冒険者たち……みんな、現状に不満を持つ者たちばかりだが、僕にすり寄ってきた。

 彼らが、僕になにをさせたいのかは明白だ。

 デナーリス王国、つまりアナザーテラを実質的に支配したいのだ。

 僕がアナザーテラに辿り着きさえすれば、もう一つの地球の支配はなったようなもの。

 なので戦闘力に不安のある僕を冒険者たちに補佐させ、富士の樹海ダンジョン二千階層を突破させる計画を立てていた。


「(あくまでもアナザーテラの真の支配者は僕だが、手駒として便利なら使ってやらんこともない)」


 どいつもこいつも欲深さだけはひと一倍あるくせに、表立って田中総理や古谷良二には逆らえぬ臆病者ばかり

 もし使い潰したところで罪悪感もないが、アナザーテラ全体の支配には手間がかかる。

 せいぜい僕のために働いてくれよ。





『本日、『カリスマ師』のスキルを持つ相良健児さん他、大勢の冒険者たちが富士の樹海ダンジョンで消息を絶ってから七十二時間が過ぎました。彼らは二千階層のクリアを目指していたそうですが、集まった冒険者たちのレベルでは富士の樹海ダンジョン攻略は無理だという、高レベル冒険者たちの忠告を無視した結果、最悪の遭難事故となってしまったようです。すでに遺体の回収は不可能となっており、遺族が捜索を求め続けていますが、引き受ける冒険者がいない状態です。次のニュース』


「やはり……」


「良二様の予想が当たってしまいましたね」


「当たらなければよかったんだけど……」


 例の『カリスマ師』だが、富士の樹海ダンジョンで大勢の冒険者たちと一緒に行方不明になったとニュースでやっている。

 冒険者がダンジョンで殉職することは以前よりも減っているが、定期的に発生するのでニュースになることは少ないのだけど、今回は人数が問題だ。


「二百名近くでダンジョンに潜るなんて、かえって危険なのに……」


 ダンジョンに詳しくない素人は、パーティの人数が多ければ多いほど安全だと考えがちだけど、そんなことはない。

 人数が多ければ、スペースに限りがあるダンジョン内での行動が制限され、戦闘力が大幅に落ちてしまうからだ。

 なによりそんなに人数がいたって、仲間の危機に対応できるのは近くにいる数名だ。

 だからパーティの最適人数は、四~六名と言われているのだから。


「リョウジ、スマホが鳴ってるわよ」


「本当だ。あっ、田中総理からだ」


 当然、地球からアナザーテラまで普通のスマホは通じないので、別の次元を経由して通信する魔導通信技術を用いたものを田中総理は使っていた。

 デナーリス王国ではこの魔導通信が普及……むしろ異世界の国だったので、科学技術を用いた通信システムが構築できなかった……しており、両国間の通信が困難だったので、俺が日本政府に何台か貸与している。

 日本とデナーリス王国は正式に国交は結んでいないが、経済的な交流と冒険者の出入りが盛んだったので、ホットラインが必要だったからだ。


「どうかしましたか? 田中総理」


『古谷さんは、 相良健児を知っているかね?』


「ええ、動画で彼の下手な歌を聞いたので」


『……彼がどうして死んだのか。知っているかね?』


「富士の樹海ダンジョンにレベルの低い冒険者を多数連れて入り、モンスターに殺されたのでしょう?」


『どうして相良健児がそんなことをしたと思う?』


「目立ちたかったからですか?」


「社長って、バカだなぁ」


「うるさいよ! プロト1」


 あんな下手な歌でコンサートをするような男だぞ。

 承認欲求を満たすため、富士の樹海ダンジョンに潜ってもおかしくないじゃないか。


『彼をそそのかした連中がいてね。『カリスマ師』を持つ相良健児がトレント王国……じゃなかった。デナーリス王国に辿り着けば、その支配者になれるとね』


「ああ、そういう」


 『カリスマ師』は簡単に人気者になれるので、そう誤解する人がいても不思議ではない。

 誰もが、必ず従ってくれると。

 だが彼のカリスマも、高レベル冒険者には通用しなかった。

 

「冒険者特性がなかったり、彼よりもレベルが低いと、簡単に魅了されてしまいますけど」


『だから、彼と一緒に富士の樹海ダンジョンに潜ったのはレベルの低い冒険者たちばかりだったのか。もし私や政府高官たちが、彼に魅了されていたら危なかったな。いや、今の日本を支配するよりも、アナザーテラにあるデナーリス王国を支配した方がいいと思ったのだろうな』


「もし日本がおかしなことになると、最悪他国が介入してきますからね」


 それは面倒なので、遠い他の惑星にあるデナーリス王国を支配した方が他国も手を出せないと感じ、黒幕に唆された相良健児は、自分に協力してくれる冒険者たちのレベルの低さを補うため、多くの冒険者を集めたのか。


「レベル100が200人いるから、レベル20000に匹敵する。なんて簡単な計算じゃないんだけどなぁ……」 

  

『だから全滅したのだろう。黒幕だが、私に批判的な与党非主流派の政治家、官僚、財界人、知識人などだ。相良健児に対し、デナーリス王国に辿り着けば支配したも同然だと言って唆したらしい』


「……。また『カリスマ師』が、悲惨な末路を迎えたな」


 人気があるのはいいことなのだけど、『カリスマ師』は人気の高さが最大の武器となるスキルであり、だからこそ支持者たちに釣られて悲惨な末路を迎えることが多い。

 

「冒険者は戦闘力もないと」


 『カリスマ師』も滅多に出ないレアスキルだけど、それでなにかを成し遂げたというケースは非常に少ない。

 少なくとも、俺は大成功した『カリスマ師』を見たことがなかった。


「しばらく『カリスマ師』が出ないことを祈ります」


『人的魅力だけだと、早死にする者が多い。色々と考えさせられるよ。相良健児を唆し、多くの冒険者を死なせた報い。必ずくれてやる!』


「いいんですか? そんなことをしてしまって」


『また他の冒険者に変なちょっかいをかけられても困るので、ここは心を鬼にするしかあるまい』


「怖っ!」


『そうでなければ、総理大臣なんて務まらぬさ』


 さすがに田中総理も、相良健児を唆した黒幕たちを殺しはしなかったものの、別の不祥事が大々的に報道されて国民たちに責められ、それが原因辞職。

 どこにも受け入れてもらえず、自宅で寂しい老後を過ごすことになってしまったのであった。

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